奏と翼の歌うかつてボクが行く事の出来なかったライブでの歌。『逆光のフリューゲル』は会場を熱気で包んでいく。サプライズの登場での事であったがみんなそんな事は忘れたかの様にツヴァイウィングの歌に魅了されていく。
「わはー!やっぱり奏さんと翼さんは凄い!凄いよ!未来!シアンちゃん!ガンヴォルトさん!」
「うん。やっぱり二人とも凄いね。でも、なんか奏さんの方はあんな事言ったのにその言われた当の本人は…」
そう言って未来はボクの方をジトーと見てくる。
「未来、あれだけの事言われても気付かないのはもう今に始まった事じゃないし、気付かない方が全然良いじゃない」
「そうだけど…気付かないは気付かないでなんか不服って思うし」
「その辺りは一番私が分かっているから…」
シアンもその事を分かってボクの方を向くと未来と共に溜息を吐く。一体何について二人は話しているんだろうか。
そんな事を気にするよりも奏と翼の歌へと集中する。ボク自身も忙しい事もあり、二人のこういったステージで歌うのをしっかりと聞くのはあまりなかった為、こうして二人がまた並んで歌を披露するところを見て少しだけしんみりとした気持ちになる。
「…本当に良かったよ、奏、翼。また君達がこうやってツヴァイウィングとしてまたステージに立つ事が出来て」
ボクは二人の楽しそうに歌う姿を見てそう思うのであった。
だが、そんな感動の時間は長くは続かず、歌が終わる。
「突然のサプライズだけど歌わせてもらってありがとう!それに翼も悪いな、私の提案に乗ってくれて」
「全然いいわ。またこうして貴方と歌う事が出来たんだから。それに私もこうして奏とまた歌う事を可能にしてくれた大切な人。同じ大切な人にお礼を言いたい。本当にありがとう!」
そう言ってボクへと視線を向ける奏と翼だが、ボクもこうして真正面、しかも向けられている視線の先がバレていないといえ、衆目の面前でお礼を言われるとどこかむず痒い気持ちになるが、二人がこうして面と向かってお礼を言っているので手を挙げて返しておく。
しかし、会場はその人物を探すのに躍起になっている様で暗い中、視線があちらこちらへと向いている。確かに、奏と翼が特別に席を用意していなければ見つかったかもしれないなと考える。
「いいなーガンヴォルトさん。奏さんと翼さんにこんな面前でお礼を言われるなんて。でも一番奏さんと翼さんに近かったガンヴォルトさんですから仕方ないですけど」
二人のファンである響は名指しでないにしろ、その人物がボクであると分かっているため、拗ねた様に言う。
「とってもありがたい事だけど、名指しじゃないにしろ目立つ様な事はしたくないんだけど」
「それはそれで無理な気がしますけど…」
「GVは目立つのが嫌でも目立つ人だからね」
未来もシアンもボクにそう言うが、それでも目立つのは任務にも差し支える様な気がするのであまりしたくないと答える。
「流石ツヴァイウィングのお二方!講堂を一瞬にしてライブ会場へと変貌させる良さを復帰前にこの場で起こしてくれるなんて!本当に感謝の言葉以外見当たりません!しかし、私としましてはそのお二方が大切な人と言う方が気になるところ!もし差し支えなければその方の事を聞きたいところです!」
司会の子の言葉に同調する様に会場が沸き立つ。
「そんなに気になる?」
奏がマイクでそう呼び掛けると会場も司会の子も気になるとコールが返ってくる。ボクはまさか奏が本当に言うんではないかと冷や冷やするが、流石に奏自身もボクという存在を言う事はないと思いたいのだが、歌って気持ちが昂った状態であるためにもしかしてと焦る。
「ちょっと奏!流石に言うのは!?」
奏が言うのかと思い、焦りながらも翼が止めに入る。
「まあ翼の言う通り、個人的な事とその人自身があんまり目立つのが好きじゃないから言わないけどな」
そう言うと会場はえー、と声を合わせて残念そうに言う。
「そういう事なので私達の出番は以上です!奏、行くよ!」
そう言って奏と翼がステージから舞台袖へと姿を消していく。観客達は以前として奏の落とした疑問に対してその人物を探しているのか辺りを見渡している。
「ちょっと奏には言っとかないとな…」
ボクはバルコニー席で頭を抱える。しかし、そんなボクに向けてシアンも響も未来もジトーっと何か言いたげな視線を向けてくる。
「あれだけ言わせといて奏さんになんか言うなんて男としてどうかと思いますよ…ガンヴォルトさん」
「意味が伝わらないのは私達にとって良い事かもしれないけど、もう少し女心を知ったらどうなんですか?ガンヴォルトさん」
「奏があんな爆弾発言して正直奏に対して怒っているけど、GVもGVだよ」
何故ボクだけがそこまで?と思うが聞くとさらに事がややこしくなりそうなのでそれ以上の追求はしない。ボク自身も悪いところがあるのならば、それを解決した方が今まで言われていた悪い点というのも改善出来ると考える。
そして気を取り直したボクだが、未だ三人のジトーとした視線は消えない。同時にコンテストも進行されていき、旧学園で会った三人の子達が奇抜な衣装を身に纏いステージへと現れる。
「GV!あれ見て!電光刑事バンだよ!」
「…よく分からないな。シアンは知ってるの?」
「GVあの名作を知らないの!?」
そう言うと電光刑事バンの良いところと言ってシアンが語り始める。何故かすごい勢いで解説し始めるシアンの事がよく分からなくなる。何故そこまで熱く語れるのか?そんなに面白いものかと。
「私も暇な時に見てたんだけどあれは傑作だったよ!絶対GVも見た方がいいよ!」
熱烈にアピールするシアンの勢いにボクは時間があったらと答える。何故シアンがここまで押すのだろうか?いや、前にも確かジーノが置いていったちょっと頭の…恥ずかしい内容のゲームにもハマっていた事もあるし…感性は人それぞれだし否定するのはどうかと思うので一度はボクも見るくらいはしてもいいかもしれない。だが、あの恥ずかしい内容のゲームだけはもうシアンにはやらせない。絶対にシアンの教育には悪い気がする。
そう考えながら、三人の子達の歌を聞く。シアンもその子達同様に鼻歌を奏でる。正直、歌の方はしっかりと抑揚もあり良かったと思うのだが、司会の子や審査の結果は散々であり、三人は落ち込んだ様子で舞台袖に姿を消していく。
「GV絶対おかしいよ!さっきの子達原作に忠実に歌っていたのにあんな点数なんて!私だったら満点をあげたい!」
「私もなんの歌かは知らないけど友達があんな元気よく歌って乗ってたから私からも満点をあげるよシアンちゃん!」
「響!分かってくれるのね!?だったら今度私と一緒に電光刑事バンを語り合いましょう!」
「えぇ!?」
「シアンちゃんもほどほどにね」
シアンが響に詰め寄って電光刑事バンの事を語り出そうとするが、ボクがそれを今はやめてねと注意する。未来も響が聞く事を前提にシアンから飛び火した火種を回避する。
「なんか楽しそうに話してるな」
「何を話しているの?」
「シアンの少し興味のある事だったからその事をね。二人ともお疲れ様。二人の歌をこういった形でもしっかり聞けてとても良かったよ。態々こんな形で舞台を作ってもらってありがとう。二人とも綺麗だったよ」
バルコニー席へと入ってきた二人へ労いと感謝を述べる。それと同時に二人は顔を赤くする。
それと同時にシアンと未来からの視線が痛くなるのを感じる。
「お、おう!約束だったからな!」
「そ、そうね!でも今回はちゃんと約束守ってくれて本当に良かった!」
「ごめんね、二人とも。何度も破ってばっかりで」
「気にすんなって!ガンヴォルトが忙しい事もあったし、今回は守ってくれたんだから!」
「そうよ!ちゃんと約束守ってくれたんだから!」
二人にも今までの謝罪を含めて謝るが、二人は気にしないでと言ってくれる。
「ありがとう。二人とも」
そう言うと奏も翼も笑ってくれる。それを見たボクも安心する。響も何故か感動しているようで目にハンカチを当てていた。
「…シアンちゃん…やっぱり二人ってずるいよ…」
「…そうね…ずるいわ。私だって元々あの二人と同じアーティストなのに…でも、あんな事を言われるのは今日までよ…今度は私達がGVに言われる番なんだから」
「えっ?あれって本当に私も参加するの?」
「当たり前でしょ。私一人じゃ無理なんだから協力してよ」
何やらシアンが未来のスマホを通して話し合っている。一体何を話しているのか気になるが、ボクの端末の方がバイブレーションで震えているのに気付いて席を一旦外す。
「どうしたんだい、クリス?」
相手はクリスであり、確かもう直ぐ出番であったので何かあったのかと心配する。
『いや…あんたが本当に来てるか心配になって…』
「大丈夫。ちゃんと来てるよ。奏と翼の歌も聞いたし、クリスの歌も楽しみにしてるよ」
『そ、そうか』
端末の先のクリスの声がどことなく嬉しそうに聞こえる。奏と翼の歌を聞いて帰ったと思ったのだろうか、とても心配していたのだろう。
「ちゃんと聞くって言ったんだから。クリスの歌をしっかり聞くよ。君の歌う歌は君が思う以上に誰かの心を動かす歌なんだからね」
『なっ!?よくそんな小っ恥ずかしい事平気で言えるな!?』
「クリスの歌はそうなんだから恥ずかしがる必要なんてないだろ?それに心配ならバルコニー席で見てるから不安だったら確認してくれてもいいよ。クリスの歌をしっかりと聞いてるから」
『本当だな!?』
「勿論。だからクリスの歌をボクだけじゃなくて、みんなに聞かせてあげて」
◇◇◇◇◇◇
「ッ!?私は一番はあんたに聞いてもらいたいんだからな!」
『大丈夫だよ、クリスの歌はちゃんとバルコニー席で聞いてるからさ』
聞いて欲しいがそういう事じゃないと思うが、その言葉を飲み込んで絶対に聞いておけよと言って電話を切る。
クリスは通話が切ると少し不安であったのだが、今直ぐにでもステージへと向かう勇気をもらえた。
「雪音さん、彼氏?」
「まさか、奏さんが言ってた通り、その人が来るから意気込んでたの?」
「雪音さんをそこまでにさせる男性…気になるな」
振り返るとそこにはクリスをステージに上げようとした三人がニヤニヤしながら見ていた。
「い、いたのかよ!?っていうか、悪いかよ!私だってこんな事したくないけどあいつが聞きに来るって言うし、聞きたいって言うからどうしてもだな!」
顔を赤くして言うがそれは三人にとっては逆効果で、ニヤニヤした表情は消えない。
「ほう…雪音さんをこんなに可愛くさせる程の男性がいるなんてね」
「でもその男性が雪音さんの歌を聞きたがる気持ちも分かるよ」
「うん!雪音さんとっても楽しそうに歌うんだもん!」
「そ、そんな奴じゃ!?大体、あいつは私の気持ちなんて答えられるほど鋭いわけじゃねぇし…」
クリスはクラスメイトの三人に言われて恥ずかしそうに俯く。何故ガンヴォルトと同様にクラスメイトまでもそう言うのだろうか。というかその三人は今何故か小動物を抱きしめたいような衝動を我慢するような感じなのであろうか?
私の歌はそんなものではない。そう否定する。だが、それでも先程の小動物を抱きしめたい感情を抑えたクラスメイトの三人は大丈夫だよと言う風にクリスの手を握る。
「大丈夫だよ。不安かもしれないけど、雪音さんの歌はとても綺麗だから」
「そうだよ。雪音さんの歌にはそんな魅力があるんだから心配しなくてもみんな感動してくれる」
「だから私達だけじゃなくみんなにも聞かせてあげてよ」
「…」
どこかクリスの戸惑わせる言葉。だが、それは少し前の自分では感じた事のない気持ち。だが、どこか懐かしく、暖かな気持ちにしてくれる。
「…本当にそうなんだな?」
「勿論!」
三人はそう笑顔で肯定する。そして司会の子からクリスの番を告げる声が響く。
「さあ!次の挑戦者はこの人だ!」
「出番みたいだね。いってらっしゃい、雪音さん」
「あんたの歌、みんなにも聞かせてあげてよ」
「絶対みんな感動してくれるから」
「…分かったよ!だったらあんたらもしっかりと私の歌を聞いてくれよ!」
クラスメイト達はクリスへと向けてそう言う。その言葉は緊張を解し、ステージへと向かう勇気をくれた。
「ガンヴォルト…あんたもしっかり聞いとけよ…私の歌を」
そう呟いてクリスはマイクを強く握ってステージへと歩み始めた。