切歌と調は色々な屋台を巡りながら周囲に溶け込むように楽しそうにしながら本来の目的である装者の捜索及び弱みを見つける事、もしくは聖遺物の奪取をするために辺りを見渡す。
だが、ガンヴォルトという男とその時付近に浮遊していた
「切ちゃん…あいつら全然見つかんないね」
「デス?…あ、ああ!そうデスね!全然見つからないデス!あのガンヴォルトとかいう男と一緒にいた
まるで目的を忘れていましたとばかりに、切歌がそう答える。
「切ちゃん」
調は忘れていたかのように慌てる切歌に頬を膨らませて問いただす。
「本当は楽しくて忘れてたなんて事ないよね?」
「そ、そんな事ないデスよ」
完全に目が泳ぎ、忘れてたような仕草。
「切ちゃん」
「忘れてなんかいないデス!これも敵情に紛れ込む為の作戦デスよ!」
慌てる切歌であったが、本当に目的を忘れていないのか先程までと打って変わって真面目に言う。
「私達に課せられた使命はやり遂げなければならないデス。例えそれが私達以外に理解されなくとも。マリアと調とマムと誓ったあの事だけは絶対に忘れる事なんて絶対に」
「うん。それならいいの」
切歌の真っ直ぐに答えた事で調も安心する。やらなければならない。みんなで誓った事を。切歌の言うように誰からも理解されなくとも自分達がやっている事は正しかったと思われるよう。例えその行いにアッシュボルトという外道と手を取り合ってでも。
だが、それが終われば次はアッシュボルトは何をするのであろうか?
調と切歌は分からない。もしかしたらマリアとナスターシャですらも。だからこそ本当にアッシュボルトとウェルとの協力は本当にしなければならないのであろうか?
調はアッシュボルトは好きになれない。大好きなマリアに、切歌に銃を向け怖い思いをさせてきたアッシュボルトを。
「調?何か難しそうに考え込んでどうしたデスか?いや、さっき言ったのは本当に思っている事デス!忘れちゃいないデス!」
切歌は勘違いだが、忘れていない事をもうプッシュする。考えている事は違うが、切歌の慌てる姿を見て少し先ほどの事を深く考えすぎて酷く心配させていた事を知り、表情を緩めて大丈夫と伝える。
だが、調はまたアッシュボルトが家族に手を上げたりしたらどんな手を使ってもアッシュボルトを止めると決める。完全適合した装者とも渡り合い、最も警戒している敵戦力であるガンヴォルトとも互角に渡り合うアッシュボルトには敵わない、手が出ないだろう。でも…それでもアッシュボルトを止めなければ大切な家族が傷付くのであれば、どんな事をしてでもアッシュボルトを倒そうと誓う。何れ牙を剥き出したその時には。
「調なんか物騒な事考えているんじゃないデスよね?まさか、忘れてた事そんなに怒っているデスか?」
「…違うよ、切ちゃん。というか、忘れてたって事さっきと言ってた事と違うんだけど?」
先程の考えを胸に仕舞い、今度は自爆した切歌へと頬を膨らませて近付いていく。
「しまったデス!というか調ずるいデス!そうやって誘導尋問するなんて!?」
「切ちゃんの方が悪いんでしょ?というか、さっきのは誘導尋問じゃなくて自爆って言うんだよ?」
切歌は慌てて調に抗議するが、そんな事は気にせずに切歌になんで忘れてたの?と詰め寄る。
切歌は言い訳を並べるが、急に行き交う人が騒ぎ始め、一斉に一方へと向かい始めた。
「何かあったのかな?」
「そ、そうデス!この慌てっぷりはなんか面白そうな…いや、怪しい感じがするデス!」
そう言って切歌は走って行ってしまう。
「切ちゃん!話は終わってないよ!」
調も文句を言いながらもそちらが気になり、調も切歌の後を追って行く。
そして切歌と共に辿り着いたのはリディアンの講堂であり、中に入るとそこには探していた人物である奏と翼、二人の装者を見つける。
「見つけたデス!あいつらこんな所にいたんデスね!通りで見つからないわけデス!」
「でも切ちゃん…どうする?こんなに人がいる中で動くとなるとまずいと思う」
「むむむ…ならこうなれば隙を見せるのまで様子見するデス!」
そして切歌と調は席に着くと隙を窺い始める。
それと同時に始まった敵の装者である奏と翼の歌が始まる。まるでマリアが歌っている時の様な綺麗な二人の姿。そしてその姿に気持ちが昂った様な周りの観客達も応える様に声援を上げる。
その感情は切歌と調も分かっている。マリアが自分達をステージに招待してくれた時にも感じた事のある心が騒めき立つ気持ち。
「…敵なのに…分かり合う事のない奴なのに…なんデスか…この気持ちは…」
「敵なのに…なんでこんなにも…」
マリア同様に歌う姿が、この場にいる全員を沸かせる心地のいい歌が。二人の気持ちを昂らせる。
「…綺麗だね、切ちゃん…」
「そうデスね、調。マリアには敵わないデスけど…こればかりは幾ら敵と言えどこの歌を否定する事は出来ないデス」
周りの観客達の気持ち同様に今目の前にあるステージで歌う二人の姿に、嘘はつけない。そんな事をすれば目の前の二人同様に歌うマリアの姿も否定してしまうと思ってしまったから。マリアと同じアーティスト。敵であるが今だけは、この瞬間だけは切歌も調も敵だという事を考えずにただ二人の紡ぐ歌を聞く。
そしてその時間はあっという間に過ぎてしまい、二人はまだ聞きたいと感じながらも名残惜し無用に二人へと拍手を送る。
そしてステージに立つ奏と翼は確実にガンヴォルトと思う人物の事を聞かれて曖昧な答えでステージを去っていく。
そしてその心地よい歌声を耳に残した二人はその後に出てきた挑戦者達の歌に耳を傾けていく。変な歌もあったが、それはそれで楽しく、面白くもあり、二人は束の間のひと時を楽しむ。
そして再び、今度は赤いシンフォギアを纏うクリスが歌う姿を見る。
その表情、そして力強い歌声。最初の二人の装者に負けも劣らぬ感謝という感情を曝け出した歌は切歌と調の心に響く歌でもあり、その綺麗な歌声に耳を傾ける。そして先程の奏と翼同様にガンヴォルトに対しての感謝の言葉を述べる。
どこまでも真っ直ぐな歌。その歌も切歌と調の感情を揺さぶり、昂らせる。
そして次に登場したのも装者である響。そして狙っている
「この歌って、ガンヴォルトに向けての歌デスね…」
「うん…私達がマリアを慕う様に、あの人達もガンヴォルトっていうあの男を凄く思っているんだね」
だがそれ以上の感情を抱いているのは装者の姿を見ていて一目瞭然であった。そして、少し羨ましくも思う。ガンヴォルトという男がどんな人物か二人はアッシュボルトやナスターシャとマリアから聞いている事しか知らない。
戦ったからこそ、二人もその事を理解している。マリア、切歌、調。他の装者、翼のバックアップもあったとしても三人を相手取りながらもアッシュボルトの時に出していた本気の力を見せていなかった事を。だが、二人にとってそんな事はどうでもよかった。ただ、マリアの様に暖かな場所の中心にいるその男が羨ましかった。
こちらにはマリアという陽だまりがあるが、その陽だまりに翳りを見せさせる男、アッシュボルトの存在があるからだ。あの男と協力関係になった事により、マリアとナスターシャからは少しずつ、そしてどこか悲しそうな表情をする事が多くなった。
二人の暖かな場所を奪い蝕む害悪なる存在。何故自分達にはあの様な男と協力しなければならないのか。目的のためとはいえ、あの外道と。
だからこそ、敵の装者が羨ましく感じ、そして憎くもなる。自分達が何をしでかしたかも分からずに楽しそうに笑っている事が。
だが、ここで何かしでかしたところでこの場にガンヴォルトがおり、装者が揃い踏みになっている場で下手に動けば捕まりかねない。
そのためにもどかしい感情を二人はただ拳を握り、耐える。
「羨ましい…でもそれ以上に許せない」
「自分達がしでかした事を理解せずにのうのうと笑っているあいつらが…」
二人は羨望以上に怒りの感情が沸沸と湧き上がる。
何故自分達が正しい行いをしているのに評価されていないのか。分かっている。自分達が行う事が悪の道である事を。だが、その先にある正義を誰も理解してくれない。表面上はあちらが正しいと思われるだろう。だが、その先の事を考えておらず、来るべき終末を迎える事を知らない事に腹が立つ。
もう後戻り出来ない。この身に課せられた呪縛の様に二人はただ進むしかないと言い聞かせる。
そして二人は決める。この場であろうとなかろうと、敵である装者。そしてガンヴォルトと決着をつけなくてはならないと。正しいのが自分達であると。正義の為に悪を貫こうとしているマリアとナスターシャの為にも。
歌が終わると同時に二人は立ち上がる。
ここまで来て何もせずに帰るのも癪であり、あの様な歌を聞かされて負かされたような気分で帰る事を。だからこそ今はシンフォギアで語るのではなく、今の怒りをぶつけるように歌で対抗しようと。
そして司会が、この場の挑戦者を募った瞬間に二人はその場から共にステージへと向かった。
◇◇◇◇◇◇
未来とシアンは歌が終わると同時にバルコニー席へと急いで戻った。司会の子に何か言われたが受け答えは流れるように答え、素早くステージから舞台袖に戻り、ガンヴォルトの元へ急いでいた。
未来もシアンもガンヴォルトに歌の感想を聞きたくて、そして褒めてもらいたくて。
「GV!どうだった!?」
「ガンヴォルトさん!驚きましたか!?」
バルコニー席に入り、すぐにそう声を掛けるが、返答はなく、バルコニー席にはガンヴォルトの姿が見当たらない。
「未来もシアンちゃんも急ぎ過ぎだよ。ガンヴォルトさんなら待っててくれるのに…ってあれ?ガンヴォルトさんがいない?」
後から入ってきた響もそう言って戻ってきたが、その場にはガンヴォルトがいない事に疑問符を浮かべていた。
「ガンヴォルトは少し席を外してるわ。貴方達の歌に感動してね」
何処か複雑な表情を浮かべ、翼がそう言った。
シアンも未来も感動してくれたのは良いのだが、いない事が残念で肩を落とす。だが、それ以上に何故奏、翼、クリスは複雑な表情を浮かべているのだろうか。シアンと未来、響の歌で感動。それなら穏やかにしていてもおかしくないはずなのに。
未来は自分がシアンの歌を酷くしたのかと不安になる。
「大丈夫だよ、未来。ガンヴォルトは本当に感動していたからさ。ただ…な」
奏が、そう言って経緯を教えてくれた。
「そうなんですね…」
感動してくれた。そこは嬉しかったのだが、それは自分と響の歌でなく、シアンが再び歌う事が出来た事に対してで自身の歌声を評価したものではなかった事。
未来はガンヴォルトの為に歌ったはずなのに自分を見てくれていないのかと少し悲しくなった。
「あいつもお前の歌、というよりこの馬鹿も合わして聞いた歌で感動したって言ってたんだからそこまで気を病むなよ」
そんな未来にクリスがフォローを入れる。
「クリス…ありがとう」
「もう、その当の本人からその言葉を聞かないと意味ないよ、クリスちゃん!」
「この馬鹿!私が慰めてるのに追い討ちを掛けるような真似するな!気にすんなって!すぐにあいつも戻ってきて感想言ってくれるからよ!それに…あんたの歌声、シアンにも負けず綺麗だったぞ」
クリスがそう言って未来は少しだけ気分が晴れる。だが、その言葉は本当に言ってもらいたい人から貰わないとどうしても気が晴れなかった。
「本当にありがとう、クリス」
「ば、馬鹿!そんな顔してたらほっとけないだろ!?」
クリスは素直な未来の礼を顔を赤くしながら受け取る。
「全くGVも感動してくれたのは嬉しいけど!早く戻って感想が欲しいわ!奏と翼!それにクリスばっかりずるいじゃない!私と響も未来も頑張ってGVの為に歌ったんだから早く戻って言ってもらわないと!」
シアンもこの場にいないガンヴォルトに対して苦言を漏らす。
だが、その時。シアンはステージを見て驚きの声を上げた。
「ちょっと!ステージに上がってるあの子達って!」
その瞬間に全員がステージへと視線を向ける。
そして、そこには現在敵対していて行方を追っていたはずの敵対組織であるフィーネに所属している装者の姿があった。