ネフィリムを蹴り飛ばした弦十郎はそのまま着地して構えを取る。ネフィリムも吹き飛ばされながら体勢を整えて地面を滑りながら戦闘態勢を崩さない。
「あれだけおっさんの規格外の攻撃を受けたのに立ってられるのかよ!」
「クリス!ネフィリムは完全聖遺物だ!旦那の一撃がいくら規格外だろうとそんな通用しない!」
「だが、司令の攻撃を受けて確実にダメージを受けている!これならネフィリムを倒す事は可能だ!」
三人が弦十郎の側に並び立ち、勝機を見出し、響を助けられる事、ガンヴォルトの元へもう直ぐ行ける事を感じて武器を構える。
「馬鹿な!何故だ!?何故なんですか!?完全聖遺物であるネフィリムが!
ウェルも傷付いたネフィリムをあり得ないとばかりに喚くが、ネフィリムが追い詰められている事は覆る事のない事実。
「これが人間であり、大人の真の姿だ。お前達のような外道の到達する事が出来ない人間の姿だ!」
「ふざけるな!そんな事の出来る人間がいるわけがない!
ウェルは現実を受け止めようとせず、ただ喚き散らす。その姿は誰から見ても哀れとしか映らなかった。
「御託はいい加減飽きた。これで終わりにしよう」
そう言って弦十郎は拳を構えた状態で地面を蹴り出すと一気にネフィリムへと駆け出す。
ネフィリムは弦十郎を迎撃するために口を開けて爆炎を放つ。そしてウェルもネフィリムを守るようにノイズを召喚していく。
だが、ノイズは銃撃でクリスが、斬撃で翼が、奏が投げた槍で炭へと変わる。
「はぁ!」
弦十郎は拳圧でネフィリムが吐いた爆炎を吹き飛ばして、そのままネフィリムへと拳を叩き込もうとした。
だが、弦十郎の拳は何者かによって受け止められる。
目の前にいるネフィリムは、既に次の攻撃をしようとしていたのだが、受け止めるほど余裕はない。そして受け止められた男を見て、弦十郎はその男の名を叫んだ。
「貴様は…アッシュボルト…いや、アシモフ!?」
今までバイザーで顔が見えなかった相手だが、今は素顔を晒している男。初めて見る顔だが、その身につける装備、そして身に纏う雷撃には見覚えがある。
そして、それに答えるようにアシモフは口を開く。
「
「アシモフ!貴様!ガンヴォルトは!シアン君はどうした!?」
弦十郎が拳を引いてさらに連打しながらアシモフへと問う。
「奴は私がこの手で殺した。そして
アシモフは弦十郎の拳を受け流しながら答える。
「そんな…」
「嘘だ…嘘に決まっている…あいつが…」
「ガンヴォルトが…シアンが…」
三人がその言葉を聞いて絶望した表情を浮かべる。信じたくない。だが、アシモフがこうして地上に出てきているという事はその通りとしか言えなくなる。
「貴様ぁ!よくもガンヴォルトを!シアン君を!」
弦十郎も怒り、拳をアシモフに向けて振るう。そして弦十郎は目の前の男だけは、アシモフだけは今この場で倒さなければならないと決める。
だが、アシモフは弦十郎の拳を全て受け流しながら、流しきれないものは
「無駄だ、無能力者。対
「いいや!俺がこの場で貴様を倒す!絶対にだ!」
そう叫んだ弦十郎はアシモフへと向けてさらに拳を振るう。だが、アシモフには全く当たらず、怯みすらしない。
「不可能なのだよ!無能力者如きが!私を倒そうなど!装者も同様だ!もう貴様達に勝機などはありはしない!
アシモフもようやく雷撃を腕に纏い、弦十郎に向けて拳を振るう。弦十郎もその拳を至近距離から躱しては拳を振るう。だが、アシモフには決して届かない。
「だからって諦めるわけにはいかないんだよ!俺達は!貴様達の好きになんかさせないためにも!全員を救うためにも!」
「ははは!私に攻撃すら掠りもしない貴様に何が出来る!肉体しか武器のない貴様に!」
そう言ってアシモフは雷撃鱗を展開して弦十郎を引かせると共に銃を取り出すと弦十郎へと向けて発砲する。
弦十郎は銃の射線から身体を逸らして躱しながら、地面を足で踏み鳴らし、石を浮かせるとそれをアシモフの銃に向けて殴り飛ばしていく。
だが、その全てはアシモフの展開する雷撃鱗に阻まれて、消し炭になる。だがそれでも弦十郎は銃弾を避けながらも攻撃をやめない。
「だから!無駄だと言っている!」
そう叫ぶアシモフはさらに弾倉を新しい物へ変えると更に弦十郎へと向けて放とうとする。
だが、それを阻むように何かが、アシモフの雷撃鱗へと突っ込んで突破するとアシモフに攻撃を当てた。
吹き飛ばされるアシモフ。そしてその吹き飛ばした相手を見る。
「何が…?」
だが、そんな事をする前にアシモフへと何かが、更に拳を叩き込もうとする。
「くっ!?」
アシモフは
「ガァァ!」
その何かは怒りを吐き出すかのように咆哮を上げる。
「何故…何故こんな事が」
ウェルが雄叫びをあげる何かを見て狼狽えるように呟く。
「なんで貴方は立ち上がっているのですか!立花響!」
何か、それは以前にもあった黒く染まり、全身から禍々しいオーラを放つ、腕と足が元に戻った響の姿であった。
◇◇◇◇◇◇
響は自身の無くなった腕を押さえながら呻く。足もどうにかしたいのだが、抑える腕はもう無く、ただ痛みを堪えて呻く事しか出来ない。
腕と足がなくなる事による喪失が響を蝕んでいく。未来と約束したはずなのに。無事で帰ると約束したはずなのに。もう失った片腕では大好きな親友を抱きしめる事は出来ない。大好きな親友の元へ自分の足で立って歩み寄る事も出来ない。
そんな絶望が響を蝕んでいく。
そして弦十郎が、自身の師が助けに来てくれたのに自分はその隣に立つ事すら、他の三人と共に戦う事すら出来ない事が響の心を更なる絶望へと落とし込んでいく。
そして更に絶望を与えるようにアシモフが現れる。そしてアシモフは弦十郎と戦いながら叫ぶ。
「奴は私がこの手で殺した。そして
その言葉に響は心が壊れる程の更なる絶望に叩き落とされた。
ガンヴォルトが死んだ。自身の恩人が。守ってくれた大切な人が。そして親友の思っていた人が。
そして、シアンが奪われた。まだ出会ってそこまで経っていないが、響にとっては何度も起きた窮地を救ってくれた綺麗な歌声を持つ大切な友達が。
響が大切にしていた人が、友達が、あの男により全てを奪われた。
そして響は絶望の中、ドス黒い感情に蝕まれていく。
陽だまりをさらに明るくしてくれた大切な人を。一緒にいて楽しかった思い出を共有した大切な友人を奪ったアシモフへと憎悪の感情が、胸に宿るガングニールがそれに呼応するように響を覆っていく。
許せない。大切な場所を壊そうとするあの男が。そこに必要である人の命を奪い、大切な友人を奪っていったアシモフが。
そしてガングニールから溢れ出るドス黒い憎悪の感情が溢れ出し、響を完全に覆い尽くした。
「よくも…ヨクモ…」
そして響は飲まれていく。
「オマエダケハ…オマエダケハァ!」
それとともに響は意識が飛んでいく。だが、意識が飛んでも身体は、このドス黒い憎悪だけは止まらない。
響を覆うそのドス黒い憎悪の感情が溢れ出し、無くなった腕を足を形作る。それと同時に獣が如く跳躍でアシモフの元へ飛び掛かる。
だが、アシモフはこちらを見ていない。というよりも気付いていない。だからこそ、拳を握り、ガンヴォルト同様の雷撃鱗へと飛び掛かる。膜に当たった瞬間に弾かれそうになる。だが、そんな事も関係なく、響は握った拳が雷撃鱗を貫いて、その中心にいるアシモフを殴りつけた。
そして吹き飛んだアシモフに更に追撃する様に響はアシモフへと拳を握り、そのまま拳を叩き込んで聳え立つカ・ディンギルへと殴り飛ばすと雄叫びを上げた。
「ガァァ!」
◇◇◇◇◇◇
「
アシモフはあまりの出来事に動揺を隠せないでいた。
そしてカ・ディンギルから身体を出して自身を殴った何か、響の存在を睨み付ける。だが、雄叫びを上げる響の拳を見て理解する。
「ちっ!
そう、響の拳にはガンヴォルトがシアンと協力していた時のように、
アシモフは知らないが、それはかつて翼とガンヴォルトが予想していた事。響が
響へと何度も干渉する事によってガングニールに残ったシアンの
「
アシモフは直ぐに分析をして響を完全に今抹殺しなければ後に脅威となると判断してここで殺すと判断する。
「貴様はここで殺さねばならん。奴と同じように、私に対抗出来る貴様という存在を今ここで!」
雷撃を纏い、飛び出して響の前に降り立つアシモフは直ぐにウェルへと指示を出す。
「Dr.ウェル!こいつは私とネフィリムがこの場で確実に殺す!貴様は邪魔をさせぬようにソロモンの杖を使って他の装者とその男の足止めをしろ!」
その言葉とともにネフィリムがアシモフの側へと並び立ち、ウェルはアシモフ、響へと近付けさせないよう、大量のノイズを装者達、そして弦十郎の元へと召喚していく。
「ガァァ!」
「グォァァ!」
響が雄叫びを上げると同時にネフィリムも雄叫びを上げる。
「獣に堕ちたか、だが関係などない。邪魔をする者は今ここで排除する!」
そしてアシモフはネフィリムへと指示を飛ばして孔を出させる。
孔にアシモフは入っていくと響の背後に一瞬で姿を現し、銃弾を叩き込む。
だが、アシモフが放った弾丸は響は振り向く事などせず、響の背後に出現した
だが、最初の一撃で既にアシモフの存在に気付いていた響は直ぐ様アシモフへと向けて
そしてぶつかり合う雷撃の拳と
「ガァァ!」
「喚くんじゃない!獣風情が!」
アシモフが雷撃を更に強くして拮抗する拳を押し切ろうとする。だが、
だがアシモフは拳をそのまま押されるように受け流し、そのまま響の腕に足を絡ませると同時に腕をへし折ろうとする。
「腕はもらった!」
アシモフはそう叫ぶと同時に響の腕をそのままへし折っていく。
「ガァァ!?」
痛みに耐えきれなかったのか響が叫びを上げる。そしてそれと同時にアシモフは離れる。
響は腕を押さえて蹌踉めくがその瞬間に響が吹き飛ばされる。
それは発光して一瞬で距離を詰めたネフィリムの一撃。防御もする暇もなく、与えた一撃がネフィリムが引き摺りながら、響を吹き飛ばして土煙を上げる。
そして吹き飛ばされた響へと向けてアシモフは言葉を紡ぐ。
「瞬くは雷纏し聖剣、無慈悲なる蒼雷よ、敵を穿て!迸れ!
雷撃が巨大な剣を象ると共に柄を握ったアシモフは響へと向けて素早く向かい、巨大な剣を振るう。
だが、土煙越しに振われるスパークカリバーは何かに衝突して放電していく。
「グォァァ!」
上がる獣の如き咆哮。だがその瞬間にアシモフは叫んだ。
「貴様!ネフィリムを盾に使うか!」
土煙が晴れていくと共にネフィリムをいつの間にか戻る折れていた腕でネフィリムの胸を貫いて、そのままネフィリムを盾にスパークカリバーを受けている響の姿。
「ガァァ!」
そしてスパークカリバーを貫いたネフィリムを使い弾いて響は貫いたネフィリムを蹴飛ばして腕を引き抜くと共にアシモフへと向けてネフィリムを襲わせる。
「ちぃ!」
アシモフはスパークカリバーでネフィリムを弾き飛ばす。だが、弾き飛ばした影から既に響が接近しており、アシモフへと向けて拳を叩き込もうと
「ガァァ!」
そしてアシモフへと叩き込まれる拳。腹へとねじ込み、深く突き刺さる拳はアシモフをの身体を貫いた。
だが、その瞬間にアシモフの身体は青く発光して雷撃へと変わると、姿を消す。
「アァ!?」
響は叩き込んだはずの人物が、突如として消えた事に戸惑いを隠せないでいた。
「天体が如く蹌踉めけ雷、阻む全てを打ち払え!」
突如、響の背後から響くアシモフの言葉。
「迸れ!
そして現れる三つの雷球が響を襲う。
「ガァァ!?」
まともに喰らう響は叫び声をあげて雷撃に全身に浴び、雷球により吹き飛ばされた。
「はぁ…はぁ…クソッ!」
だが、攻撃を受けた響よりもアシモフの方がかなり消耗している。だが、その身に纏う雷撃はどんどんと強くなっていく。
「流石に
そう呟くと共にアシモフはアキュラの銃、
そして吹き飛んで行った響へと照準を定め、トリガーに指を掛ける。
しかし、その瞬間にアシモフの身体は凄まじいエネルギーを持つ雷撃が迸り、辺りへと放電していく。
「クソ、クソォ!今来るか!
アシモフは苦痛に顔を歪めながら叫ぶ。
「ネフィリム!Dr.ウェル!撤退だ!奴を殺せなかったが、目的の物を手に入れた!」
そう叫ぶと共にネフィリムがアシモフとウェルの元へと孔を開け、退路を作る。
「逃すか!」
弦十郎は奏が構えた槍に飛び乗ると奏は弦十郎の意図を理解してウェルの元へと弦十郎を投げ飛ばす。だが、完全聖遺物を圧倒する弦十郎の存在が高速で飛び出した事により、ウェルは腰を抜かしながらもネフィリムの開けた孔に素早く潜り込んでいくとそのまま孔と共に消えていく。
「運が良かったな…貴様等…」
そう呟くように言うアシモフは何処からかバイザーではなく、サングラスのような物を取り出すとそれを掛けてそのまま孔の中へと向かう。
「だが、機動二課…貴様等は許しはしない…必ず、貴様等は惨たらしい最後にしてみせる」
そう言って孔へとアシモフも消えようとする。だが、いつの間にか吹き飛ばされた響がアシモフに拳を構えて振るおうとしていた。
だが孔の中へと消えゆくアシモフは当たらないと感じており、不敵に笑っていたのだが、突如として現れたネフィリムに驚きの声を上げた。
「ネフィリム!何をやっている!」
焦りを見せるアシモフ。だが、その言葉を最後に孔が閉じてアシモフの姿が完全に消えてしまった。
そしてその後に響の拳がネフィリムの身体を貫いた。
「ガァァ!」
そして貫くと共に、響が怒りのままにネフィリムをそのまま殴りつける。ボロボロになるネフィリム。だが、ネフィリムはボロボロになりながらも響の頭へと手を伸ばす。
「もう止めて…そんな事したら貴方が死んでしまう」
ネフィリムの獣の様な声などではなく、脳へと響く、優しい女性の声。その言葉で響の動きが止まると共に、ネフィリムの身体が膨張していき、響を巻き込みながらも爆発していった。
「響君!」
弦十郎が響の名を叫ぶ。三人も響の名を叫ぶが、爆炎で無事なのかすら分からない。
そして、爆炎が収まると共に何か、白いものに覆われて、元の制服姿の響が倒れていた。
四人は倒れる響の元へと駆け寄った。
倒れる響は何故か喪失したはずの腕と足が復元されており、五体満足であるのは喜ばしいのだが、それよりも、響の制服が膨れ上がり、所々からは何か金属のような物が突き出している。
「クリス君!翼!響君を今すぐ本部へと向かわせろ!直ぐに手当てをしなければならない!」
「分かっている!」
「奏と司令は!」
「俺達はアビスへと直ぐに向かい、ガンヴォルトを回収する!アシモフの言葉を信じてたまるか!あいつは必ず生きている!こんなところで死なせてたまるか!」
そう言って奏と弦十郎はガンヴォルトの元へ向かうべく、カ・ディンギルの内部へと潜入してアビスへと向かおうと駆け出した。