「クソッ!ネフィリムが!重要な
アシモフはネフィリムによる
そして切歌、調は突如として現れたアシモフとウェルに驚きつつも、その怒りの矛先が以前の様に自分達に向かない様にそそくさと部屋の中から退散していく。
「
握るギアペンダントの力が増す。
「ああ、本当に憎たらしいぞ…機動二課、そしてそれに協力する装者共…二人だけは生かして置いてやると思っていたが…ここまで計画を狂わせた報いだ…全員この手で殺してやろう…惨たらしく…絶望へと叩き落としてな…」
アシモフは怨みを、怒りを露わにして今までに見せた事のない様な声で言った。
「ア、アッシュ!まだだ!まだネフィリムは無くなったわけじゃない!」
そんなアシモフにウェルが叫んだ。
その言葉にアシモフはウェルへと怒りの矛先を向けようとするが、何かまだ可能性があると思い、ウェルの言葉を待つ。
「ネフィリムの肉体はあの立花響に破壊された可能性があるかもしれない!僕も最後まで見てないから分からないけど、それでもネフィリムの肉体は無くなってもまだネフィリムは残されている!」
「ほう…それは本当なんだろうな?その言葉が嘘であるのならば例え友だとしても私はDr.ウェルを殺める可能性もあるんだぞ?」
ウェルもアシモフのこれまでにない怒りの矛先を向けられて、怯んでしまうが、ウェルはそれでもアシモフに向けて言った。
「ね、ネフィリムの本体はあの身体を失ってもまだ残っている可能性はある。ネフィリムの本体は元より心臓。あれは肉体よりもさらに強固なんだ。アッシュが喰らわせた聖遺物、あれがネフィリムを成長させるていたんだ。そして取り込んだ聖遺物に比例して上がる力、それに伴ってそれに耐えうるために心臓はかなりな強度を誇っているはずなんだ。例え、あの立花響だろうと、本体である心臓を壊す事は不可能なんだ。だから例え身体が無くなろうともまだネフィリムの心臓が残っているはずだよ。僕達の目的はまだ完全に終わったわけじゃない」
アシモフよりも聖遺物に詳しいウェルの言葉には信用している。だが、それでもその言葉が嘘があるのならば…
アシモフはその考えをウェルには隠して怒りを収めてウェルに向けて言った。
「そうか…まだネフィリムは完全に滅んでいないという事だな、Dr.ウェル」
「そうさ!まだ僕達の計画は終わっていない!ガンヴォルトは死んで、
アシモフの怒りが収まるのを感じたウェルは怯えて逃げた事などすっかり忘れた様に高々く、宣言する。
「そうか…まだ終わっていないか…」
それだけ呟く様に言うと、アシモフはその場から出て行く。ウェルを残した部屋から出るアシモフはただ自身の目的に必要なものが失っていない事を安堵しながらも、何故最後にネフィリムがあの様な行動を取ったのかを考え始める。
「ネフィリムは私が完全に調教したはずだ…なのに何故最後にあの様な真似を…私の行動をしたのは何故だ…」
アシモフは輸送機に用意されている自身の装備などを格納する短い道を歩きながら考える。
「何故だ…何故ネフィリムが…」
あまりの突拍子のないネフィリムの行動に頭を悩ませる。だが、ネフィリムが自身で行動したのでは無く、もし、あの少女を取り込んでおり、自身の目的の重要な
何故、あの状態で自身の
「…セレナ・カデンツァヴナ・イヴ…まさか、ネフィリムが追い込まれた事により、貴様は目を覚ましたのか…六年前にネフィリムに取り込まれた貴様が…まあいい…いずれは目を覚まさせなければない必要な
アシモフはネフィリムの中に存在するもう一つの存在の名前を出す。
六年前にネフィリムに食われ、死亡したはずの存在。セレナ・カデンツァヴナ・イヴ。非公式であり、F.I.S.でしか分からない事。だが、アシモフはセレナが何故生きていると言うのか。
それはその言葉を吐くアシモフだけが知る事実。だが、アシモフはそれ以上何も言わなかった。
その言葉を最後に落ち着きを取り戻し、アシモフは辿り着いた自身の部屋へと入り込んだ。その呟きを誰かに聞かれているかも知らずに。
◇◇◇◇◇◇
切歌と調がアッシュボルトとウェルが帰った事を慌てて知らせてきたのでマリアは切歌と調に危害を加えない様にアッシュボルト、もしくはウェルへと告げに操縦室から向かっていた。
だが、ぶつぶつと何か言う何者かを見つけ、すぐに身を隠した。何者かは分からなかったが切歌と調が言っていた部屋から出てきた事、そして聞いた事のある口調であったためアッシュボルトだと気付き、何か言おうとした。だが、それよりも先にアッシュボルトから出てきた驚くべき名前にマリアは身を出す事すら出来ず、身を隠したまま、口を塞ぐ。
そしてアシモフは自室へと入り、扉が閉まると共にそのまま機内の壁をずり落ちながら床へと腰を落とした。
「なんで…なんで貴方があの子の名前を知っているのよ…」
アッシュボルトが語ったセレナの名。アッシュボルトが何故故人の名を呼んだのか。だが、そんな事よりも、アッシュボルトが語った大切な妹の名前。
目の前でネフィリムに食われて死んでしまったと思っていたはずのセレナ。だが、アッシュボルトは目が覚めたと言っていた。それは実はまだセレナが死んでいないという事を仄めかす、微かな希望であった。
問いただしたい、だが、アッシュボルトのあの言葉が本当であると言う事実は、確信はまだ得ていない。死んだと思っていた大切な妹が、セレナが生きているかもしれない。しかし、それと同時にアッシュボルトがもしあの言葉をこちらが聞いていると知っていて漏らして、実際は嘘である可能性もある。
だが、それでも。死んだと思っていたセレナが生きている可能性があると知り、マリアは涙を流す。
「セレナ…」
大切な妹。マリアはただ、自身の大切な存在がまだ生きている可能性があるという事実を知り、涙を流した。
◇◇◇◇◇
アビスの底。奏と弦十郎が辿り着き目にしたのは中央で身体のあちこちから血を流し、血溜まりを作り、倒れるガンヴォルトの姿。
倒れた亡骸の様な状態のガンヴォルトを見て奏は絶望してガンヴォルトの元へ駆け寄った。
「ガンヴォルト!しっかりしろ!ガンヴォルト!」
奏は倒れたガンヴォルトへと近づいて名前を連呼する。奏はこの状態でもガンヴォルトは死んでいない。死ぬはずがないと信じて叫んだ。
弦十郎も倒れているガンヴォルトの元へ急ぐ。
「しっかりしろ!死ぬな!ガンヴォルト!死ぬんじゃない!」
だが、奏の言葉にも弦十郎の言葉にも一切反応を見せないガンヴォルト。
気を失っている。そう思いたかったが、ガンヴォルトの胸に開いた穴。そこから溢れ出した血。そして垂れて出来上がった血溜まり、そしてどんどん冷えていくガンヴォルトの身体と鼓動がない心臓ががそうじゃないと訴えてくる。
「死ぬな!死ぬなよ!ガンヴォルト!生きるのを諦めないでくれ!」
奏がこんな現実を受け入れないとばかりにガンヴォルトへと叫ぶ。
「シアン!いるんだろ!?助けてくれ!ガンヴォルトがこのままじゃ死ぬ!だから!」
奏は縋る様にシアンの名を叫ぶ。だが、いつもガンヴォルトと共にいたシアンの気配は、現れる気配は一切しない。
「なんで出てきてくれないんだよ!シアン!シアンがいないとこのままじゃガンヴォルトが!」
「やめろ…奏…」
「シアン!出てきてくれよ!」
「やめるんだ!奏!」
弦十郎は狼狽える奏に向かって叫ぶ。その言葉に弦十郎へと怒りの矛先を向けようとする奏。しかし、奏は弦十郎の表情を見て何も言えなくなる。
弦十郎もガンヴォルトの姿を見て、そして失われゆく体温と鼓動がしない心臓を知り、もうガンヴォルトが生きていないと知って涙を流していた。
「馬鹿野郎…なんで…なんでこんな事になってるんだ…」
弦十郎が悔しそうに呟く。
シアンが奪われた事により、もう歌の奇跡を使えなくなった。そして、アシモフがトドメを刺してから時間が経ち過ぎている。生存は絶望、いやもう心臓が動いていない時点で、事切れた姿を見て生存などしていない。
深い眠りについたガンヴォルトを見てただ涙を流す。
共に戦った仲間。そして信頼して、この場を任せたはずのガンヴォルトをこの様な姿に変えた事を弦十郎は悔しがる。
「すまない…ガンヴォルト…」
その言葉に奏は涙を流し、泣き叫んだ。
救ってくれた恩人。信頼、それ以上に向けていた好意。何も伝える事が出来ず、そしてもう起き上がる事のない大切な仲間を。好きな人がもう二度と優しい声を掛けてくれる事がなくなった事に絶望と悲しみによりただ、信じたくないとばかりに倒れたガンヴォルトに縋り、泣き叫ぶ。
弦十郎もその喪失感に涙を流す。
悲しみに明け暮れる二人。
「嫌だ…嫌だよ…ガンヴォルト…ガンヴォルトがいなくなったら嫌なんだ…私だけじゃない…翼だって…クリスだって…響に未来も…あんたとシアンが無事に帰って来てくれるのを信じてたのに…こんなの嫌だよ…」
泣きじゃくる奏はガンヴォルトの冷たくなった手を握る。動かなくなった手はもう奏の手を握り返す事もない。
「起きてくれよ…ガンヴォルト」
奏は消えそうな声でガンヴォルトの名を呼ぶが、いつものように、優しい声は帰ってこない。
そして伝う涙が、奏の頬を伝い、ギアペンダントへと落ちた。
その瞬間、奏のギアペンダントから僅かな蒼い雷撃が迸る。
それと共にギアペンダントから現れる、綺麗な蒼の羽を持つ蝶。
奏も弦十郎も突然現れたその存在に驚く。
そして蝶は奏のギアペンダントから飛び立つと、ガンヴォルトの穴の空いた胸へと降り立つと同時に小さくだが、何処か暖かな
「これは!?」
弦十郎はその目の当たりにする現象に再び驚き、声を上げる。
「ッ!?もしかしてシアンなのか!?」
奏が蝶に向けて問うが何も答えない。そして暖かな光が失われると同時に現れた蝶はガンヴォルトの中に溶ける様に消えていくと、ガンヴォルトの動いていなかった心臓が、再び鼓動を打ち始め、冷たくなった体温が僅かだが上がるのを感じる。それと共に呼吸を浅くだが始めたのか上下に僅かに動き出す。
「ッ!?旦那!」
「分かっている!」
弦十郎はガンヴォルトを抱えて立ち上がる。
心臓は動き出し、再び息を始めた。シアンがいないのに何故?何が起こったか分からない。だが、ガンヴォルトはまだ生きている。いや生き返った。それでも胸の傷は塞がっているわけでもなく、今も血がとめどなく流れ続けており、危険な状態にある事は変わりない。
奏と弦十郎は直ぐ様アビスから抜け出そうとする。ガンヴォルトを助けるために。
「絶対助けてやる!絶対だ!」
「絶対死なせはしない!だからもう少しだけ我慢してくれ!」
そして二人は息を吹き返したガンヴォルトと共にアビスから脱出を果たした。