戦姫絶唱シンフォギアAB   作:株式会社の平社員

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39GVOLT

とある一室に集まる四人の姿があった。

 

装者である奏、翼、クリス。そして未来の姿が。カ・ディンギルより回収したガンヴォルト、そしてネフィリムの戦闘の際に暴走して止まったと共に胸から謎の物質が生えた響の手術があるために全員は心配で一室に集められていた。

 

未来もこの場にいるのは響がこんな状態になった事、そしてガンヴォルトがこんな状態になった事をクリスが伝えた為、いても経ってもいられずにこの場に来たのであった。

 

「響…ガンヴォルトさん…」

 

未来はただ二人の名前を口にして祈り続ける。

 

「…大丈夫だ…あの二人は絶対に大丈夫だ、小日向…」

 

翼が祈る未来にそう言う。だが、翼のその言葉は自身にも言うように、二人は無事であると、必ず目を覚ますと言い聞かせる様にも見える。

 

「…クソッ!アッシュボルト!いや、アシモフの野郎!あいつを!それにあの馬鹿まであんなにまでしやがって!」

 

クリスはガンヴォルトをそして響をこんな目に合わせた元凶の名を口にする。

 

アッシュボルト、いやアシモフ。ガンヴォルトとシアンがこの世界に来た元凶。何故アシモフがこの場所にいるか三人は分からないが、それを代弁するかの様に奏が言った。

 

「響にあんな事をしたネフィリムを操っていたウェルもそうだが、それ以上にアシモフ!私はあいつが許せない…ガンヴォルトを…ガンヴォルトをあんな状態にしやがったあいつを!」

 

奏は拳を強く握り、怒りを堪えながら叫んだ。ガンヴォルトが死に絶えそうな瞬間、いや死んだ姿を見たからこそ、奏はこの中の誰よりもアシモフが許せないと感じている。そして唯一未来は二人の存在を知りはしないが、大切な友人を、大切な恩人をここまでしたその二人を許せないと感じる。

 

そしてまた静寂の時間が続く。そして、その静寂を破るかの様に小さな音を立てて扉が開く。

 

四人は扉へと視線を向けると弦十郎が入ってくる。

 

「旦那!響は!?ガンヴォルトは!?」

 

奏が入ってきた弦十郎へと二人の安否を確認するために叫ぶ。

 

そして心配する四人へと向けて弦十郎は口を開いた。

 

「まず、響君の状態だ。胸から飛び出た何かを除去し終えて容体は安定している。今は手術の疲れと麻酔で深い眠りについている」

 

その言葉で響が無事である事に安堵するが、それでもまだ四人は不安が拭い去る事が出来ない。まだガンヴォルトがどうなったか聞いていない。四人はただ弦十郎の次の言葉を待つ。

 

「ガンヴォルトの事だが…」

 

弦十郎が躊躇いながらも重い口を開く。

 

「まだあいつの手術は続いている。胸に空いた傷を塞ぐ事が難しい事もあるが、他にも身体は人間の生きていられる様な傷ではなかった。穴が空いた胸から見えた心臓は何ともないらしいが、その周りの臓器は砕けた骨が至る所に刺さっていて、骨の除去が難航し、今もまだあいつは生死を彷徨っている」

 

その言葉を聞いた四人は口を手で覆う。

 

「嘘だ…嘘だろ!おっさん!あいつが!あいつが死ぬなんて事ないよな!?」

 

クリスが弦十郎を掴み掛かり、どこか懇願する様に叫ぶ。だが、弦十郎はクリスを、みんなを安心させる様には決してしなかった。

 

「分からない…あいつは以前にも死に掛けているがそれでも、意識があり、自身の力を使い何とかしていた…だが今回はガンヴォルトの意識はない…」

 

辛いのは四人だけではない。その言葉を手術をしている医師から直に聞いた弦十郎も辛く、ガンヴォルトが、仲間が死ぬかもしれない事を見てきた弦十郎も辛いのだ。

 

「…嘘ですよね?ガンヴォルトさんが…ガンヴォルトさんが死ぬかもしれないなんて…」

 

未来も手で口を覆い隠すのをやめてあり得ない、そんな事は信じたくないとばかりに弦十郎へと言う。

 

「嘘じゃない…未来君…」

 

包み隠さずに未来へと弦十郎は伝えた。それを聞いた未来は目に涙を浮かべ崩れ落ちる。

 

「叔父様…シアンなら…シアンならガンヴォルトを…」

 

「いいや…いつもガンヴォルトと一緒にいるシアン君だが、ガンヴォルトがこんなになっても出でこない事を見るにアシモフの言葉は正しく、シアン君は既に敵の手に奪われてしまったと考えていいだろう…」

 

奪われた仲間、そして、失うかもしれない大切な人。あまりの事に誰もが最悪の事を考えてしまう。

 

「そんな…そんな…ガンヴォルト」

 

その言葉に弦十郎以外が完全に崩れ落ちてゆく。

 

助かるか分からない。それが四人にとって絶望なのは弦十郎は理解している。この中の全員が一度はガンヴォルトに助けられており、ガンヴォルトに好意を寄せている事を知っているから。

 

弦十郎はその四人の姿を見てどうしても耐えられなくなり、一度部屋から出ると扉が閉まった瞬間に自身の拳を壁に打ち付ける。

 

弦十郎も四人と同様に同じ気持ちなのだ。ガンヴォルトに何度も窮地を救ってもらった。翼や奏を笑顔にしてくれた。そして敵であったクリスを救ってくれた。

 

ガンヴォルトが齎した事が今の二課を作り上げたからだ。なのにそれなのにこんな事になってしまった事を悔やむ。悔しいと、何故すぐに自身も出なかったと。ガンヴォルトを助けてやれなかったと。

 

「クソッ!アシモフ!お前だけは!お前だけは!」

 

歳が離れていたが、弦十郎にとってガンヴォルトは部下であり、共に国を、世界を守ると同じ志を持ち戦ってくれた大切な仲間であるからこそ、怒り、悔しさ、悲しみが弦十郎の心を揺さぶる。

 

だからこそ、ガンヴォルトをここまで追い込み、一度殺したアシモフが許せない。

 

何故ここに居るかなどは関係ない。一度ならず二度もガンヴォルトをここまでしたアシモフという存在がどれほども憎かった。

 

だが、その感情に飲まれてはならない。私情を持ち込むわけにはいかない。自分はこんな状況でも冷静でなくてはならない立場なのだから。それに今傷付いているのは自分だけではないのだから。

 

「司令…」

 

不意にその声に弦十郎は視線を向けると同じくらい沈んで、表情に影がさす慎次の姿が見える。

 

「…どうした?」

 

「友里さんと藤尭君の方で回収したネフィリムの残骸を調べて頂いてある事が分かりました」

 

あおいも朔也もガンヴォルトの事を聞き酷く落ち込んでいたはず。それでもガンヴォルトがいない今を必死になって色々と動いてくれていたと思うと頭が上がらなくなる。

 

「…」

 

だが、慎次は少し躊躇う様に黙っていたが、意を消して、そして更なる絶望へと全員を誘う言葉を告げた。

 

「ネフィリムは亡くなってなどいませんでした…ネフィリムが響さんを守る様に作った物に聖遺物が出すアウフヴァッヘン波は検出されませんでした。無くなったからだと考える事も出来ますが、あれほどの強大な完全聖遺物、そして第七波動(セブンス)を使っていた物が何の痕跡も残さずに消えるのなんてあり得ません」

 

その言葉に弦十郎は拳を強く握る。こちらは戦力を大きく削られた。そしてまだ敵にはアシモフ、それにソロモンの杖、そして装者三人と未だ健在。

 

「クソッ!」

 

弦十郎は吐き捨てる様に言う。そしてまだ絶望は終わらない。

 

「そして、響さんの事ですが…胸から突き出たあの結晶の様な物…あれは響さんの体内、心臓部に残っていた聖遺物、ガングニールが肥大化した物という結果が出ました。そして響さんの胸に残るガングニールは響さんの内で広がり始めていて、これ以上使い続けると…」

 

慎次の言葉に弦十郎は言葉を失う。響が無事な事は嬉しい事であった。だが、それ以上に響がこれ以上ガングニールを使い続けると。その言葉だけを聞いて先など言わなくても理解している。聖遺物適合者という枠組みであるがその中で響は異質な適合者であり、ガングニールという聖遺物を宿した結果、融合という形で装者になった特殊な事例。だからこそ、今響の置かれた状況は弦十郎からすれば直ぐに察する事が出来た。

 

「融合…いや、響君の身体がガングニールへと侵食されていく…そういう事だな…」

 

弦十郎は怒りを堪え、慎次に向けて言った。慎次も躊躇いもなく頷く。

 

響がガングニールをこれ以上使う事となると響は人間ではなくなってしまうかもしれない。

 

突きつけられた現実。そしてまだ終わらぬフィーネとの戦い。そしてそれはこちらが不利になる事ばかり起こっている。

 

「…」

 

だからこそ、弦十郎は願う。ガンヴォルトの無事を。

 

目を覚ましてくれる事を。

 

ただそれがガンヴォルトにとって大切な人を奪われた事。響がもうガングニールを纏えないという事を知り、絶望してしまうかも知れない。ガンヴォルトにとって守ってきた者が奪われている現実に壊れてしまうかも知れない。

 

だが、それでも。それでもガンヴォルトには目を覚ましてほしいと願うばかりであった。どんな絶望の中でもガンヴォルトだけは抜け出す術を知っているから。ガンヴォルトだけが装者達や未来を安定させてくれる存在なのだから。

 

弦十郎はただ、何も出来ない自分を悔いながらも、ガンヴォルトが無事また立ち上がる事をただ願うばかりであった。

 

◇◇◇◇◇◇

 

暗い。ただ何もない真っ暗闇の空間にボクはポツンと佇んでいた。だが、何故ここにいるのかははっきりと理解出来た。

 

ボクはアビスの底でアシモフによって、あのアキュラの銃に装填された弾、強欲なる簒奪者(グリードスナッチャー)を心臓に受けて生き絶えた。

 

それだけははっきりと覚えている。その事実がボクがあの時と変わらず、何も出来なかった。強くなっていたと思い込んでいた。それなのにボクはまた何も出来なかったと憤りを覚える。だが、その憤りも何の意味などあらず、死んでこんな事を思っていても何も変わらない。

 

「何で…何でボクは…躊躇ったんだ…何でアシモフを最初から全力で戦わなかったんだ…」

 

そして思い返す、自分の行動を。心の何処かでアシモフを信じていた。信じていたからこそ、生まれた隙。最初から殺すつもりで行けば変えられたかも知れない運命。だが、それももう何の意味を持たない。

 

「ボクのせいで…ボクのせいで…シアンが…みんなが…」

 

死んでなお、感じたシアンがボクの身体から居なくなる瞬間。その感触が未だにボクを苦しめる。だが、それももう遅い。この苦しみを永遠に味わいながらボクはこのまま過ごすのであろう。

 

悔しい。辛い。悲しい。負の感情がボクの中をグルグルと駆け巡る。

 

あの頃のようにはいかない。そう意気込んだはずなのに結局はあの頃と同じ、何も変わっていなかった。

 

シアンを殺された。そして今度はシアンを奪われた。もうどうでもいい。ボクはこの空間で永遠にその苦しみを味わうのだろう。

 

だが、それも全て自分が招いた結果だ。だが、それでも…それでもアシモフだけは許せない。

 

ボクが死んだせいでアシモフの思い通りになる。アシモフがこの世界で何をするかは分からない。だが、それは悪い事であると分かる。だから、やるせない気持ちにもなる。

 

「ボクのせいでみんなが…みんなが…」

 

ボクがアシモフを倒す事が出来なかったせいで。

 

アシモフを許せない。それ以上に止める事が出来なかった自分を。何も変えられなかった自分を。

 

だが今思った所で何も変わる事はない。死んだボクはもう何も出来ない。感じる事も出来ない。見る事も出来ない。

 

「クソッ…」

 

何も出来ない、何も出来なかった。帰られる事が出来なかった事を後悔する。

 

遅過ぎる後悔。遅過ぎた判断。だが、それももう無意味。

 

死んだ人間などに何も出来やしない。もうどんな結末かも知る事は出来ない。例え悲惨な結末だろうと。みんながアシモフを倒し、救われた結末だろうとボクは永遠に知る事は出来ないだろう。

 

悲しみに打ち拉がれながらただ永遠を繰り返すのだろうと思っていた。

 

そんな時、何処からか歌が聞こえる。悲しみ、そして何処か祈るような声で歌われる歌。

 

「シアン!」

 

だが、そこにシアンの姿はない。だが、歌の聞こえる方から一匹の蝶がこちらへと飛んできており、ボクの胸へと近付く。

 

そしてボクの胸へと飛んで来た蝶はボクの胸へと着くと共に光となってボクの身体へと溶け込んで行く。

 

「GV…貴方を死なせない…」

 

微かに聞こえるシアンの声。だがそれ以上はもう何も聞こえない。

 

だが、その声が聞こえてからボクの胸を渦巻く感情は無くなった。それと共に身体が熱を帯びていく。ボクの中の蒼き雷霆(アームドブルー)が再び雷撃を迸らせていく。

 

「シアン…」

 

大切な人の名前を口にする。奪われてしまった。それでも最後の力を振り絞るようにボクを助けようとしてくれた。

 

「待っていてくれ…絶対に…絶対にボクが君を取り戻して見せる」

 

その言葉と共に暗闇が蒼い雷撃で照らし出され、世界が崩壊していくと共にボクの意識は戻るように身体を透かしていき、世界から完全に姿を消した。

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