戦姫絶唱シンフォギアAB   作:株式会社の平社員

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後日、弦十郎により召集をかけられたボク、翼、奏はとある部屋へと通された。そこは大きなモニターの設置された部屋で、モニターには現在の月の様子が映し出されていた。

 

「よく来てくれた」

 

「前置きはいいよ。それよりもボクが眠っていた間の事、何か分かった事を教えてくれないか?」

 

ボクは開口一番に弦十郎へと問いただす。アシモフはどうなったのか、シアンはどうなったのか、何故この三人だけなのか。

 

「…まず、俺もお前に聞きたい事がある。アッシュボルト…いや、アシモフについてだ。あの男は間違いなく、お前の元の世界の仲間であった男で、シアン君をあんな姿にした張本人である事は間違いないか?」

 

「…間違いないよ。あれはアシモフだ」

 

そしてその事実を再確認すると共に再びシアンを奪われた事を悔いて拳を強く握る。

 

「何故、ガンヴォルト同様にアシモフがこの世界にいるかは謎だ。そしてアシモフの目的。あちらの世界の事は俺達は何も分からない。だが、奴がこの世界でやろうとしている事は多分…」

 

「ガンヴォルトの元いた世界の延長に過ぎない…つまりはこの世界を壊そうとしていると考えてもいいだろう」

 

弦十郎はそう語る。その言葉通りだとボクも推測して頷く。だがそれ以上に元の世界がもうボクの知る世界ではないかもしれない。アシモフに野望によって作り替えられた事を思うとやるせ無い気持ちになる。それもかつての仲間であったモニカを、そしてそれ以外のフェザーに属していた無能力者すらも殺したとなるからであり、ボクの目指した能力者と無能力者の共存が無くなってしまったからだ。

 

「…旦那…つまりはウェル博士が言っていた月の落下による破滅からの人類の救済…あれも嘘だっていう事なのか?」

 

「そうであれば、F.I.S.も、ウェル博士もアシモフに利用されているという事なのですか?」

 

「…それは俺も分からない」

 

奏と翼も弦十郎へと聞くが、未だ推測の域でしかない事である為にはっきりと答えが出せない。

 

「アシモフの事だ…結局はウェル博士も他の協力者も利用して自身の目的が果たされれば、どうなるかなんてもう分かりきっている」

 

だがボクはアシモフの目的を知っているからこそそう言った。アシモフは変わっていない。ボクがここに来る前からの目的は何ら変わっていない。だが、分からない事が幾つもある。今までにこちらで再会してからボクに対して紛い物だと。それに何故あそこまでボクへと今までに向けた事の無い憎むような視線、言葉。何故あそこまで変わったのか分からなかった。

 

「だけどアシモフは何でボクを紛い物だと言っているのか…アシモフはあの後に何をしたのか…」

 

「紛い物…偽物だっていう事か…ガンヴォルトお前が何故そう言われる?アシモフは一体何を持ってお前をそう言うんだ?」

 

「分からない…何の事かさっぱりだよ」

 

一体何を知っているのか。何故そのように言うのかボク自身も全く理解出来ない。

 

「でも、止めなきゃならない。取り戻さないといけない。シアンを。アシモフが…フィーネ達が何を為そうとしているのかを」

 

「そうだ。何を知っているか分からない。ガンヴォルトの事を何故そこまで言うのか分からない。だがそれでも奴等がやろうとしている事は止めなきゃならない」

 

そしてボクが眠っている間にアシモフが、フィーネがやろうとしている事を話し始めた。

 

それはかつて了子が、本物のフィーネが月に向けて放ったカ・ディンギルによって軌道がズレた事による地球への衝突。そしてそれを生き残る為に行う全人類の選別。

 

明かされた事実。そしてかつて起こったあの出来事を、それを止められなかった事にボクはやるせない気持ちになる。

 

だが、それを後悔しても遅い事なんて分かっている。もう既に始まっているのならばそれを止める為に動くしかない。幸いにもこちらには装者がいる。ボクも何とか出来るかもしれない。そしてシアンを取り戻す。まだ何とか出来るかもしれない。

 

だが、弦十郎からボクにとってシアンを奪われた時と同様の絶望をまたボクは味わう事になる。

 

「…響君の事だが…響君はもう戦う事は出来ない…いや、これ以上響君にシンフォギアを纏わせるわけにはいかない」

 

「何でだよ、旦那!響も仲間だろ!それにもうあんなに元気になってるじゃねぇか!」

 

「そうです!こんな大変な時に立花を戦わせないなんて!」

 

奏も翼も弦十郎に向けて訴える。ボクはその理由を弦十郎に聞く。

 

「…響君は先の戦闘でネフィリムにより片腕、片足を損傷、いや欠損させられた」

 

「ッ!?そんな!?でも響は今五体満足だ!嘘じゃないのか!?」

 

ボクはその事実を知り声を上げる。だが、奏も翼もその事が本当とばかりに俯いている。

 

「…なら何で響は無事なんだ?欠損させられた腕と足をなんとか繋げたとしてもたった二日であそこまで回復するはずもない。それにあの時の響にその様子も無かった。一体何で…」

 

「俺達も詳しい事は分からん…だが、俺の予想であれば響君の体内に残るガングニールが作用していると思う」

 

そう言って弦十郎はシャーレに入れられた何かの欠片を見せてくる。ボクはそれを受け取るが何の事か全く分からない。だが、それと同時にモニターを切り替えて、ある画像をボクに見せる。

 

「ッ!?これが響!?」

 

そこに映し出されたのは運び込まれているであろう響の画像。だが、そこに映し出されている響はとても見てられない姿であった。

 

胸から突き破るように出ている謎の鉱石のような物。そして先程受け取った物がその一部だと把握し、そしてそれが何なのかも理解する。

 

「ガングニール…これがガングニールだって言うのか?」

 

「そうだ。響君の胸に宿るガングニールだ」

 

「何でこんな事になったんだ!どうして!」

 

あまりの酷い有様にボクは弦十郎へと叫ぶ。

 

「原因は恐らくアシモフとネフィリム。響君の腕と足の欠損、そして奪われたシアン君…そしてガンヴォルトの状態を知ってからであろう。かつての暴走時の事を考えるに響君が一定の負の感情、絶望が引き金となってガングニールがその絶望に呼応して響君の身体を侵食し、欠損した部位を復元させた」

 

その事を聞いて、更にボクは悔いてしまう。

 

シアンを奪うだけでなく、響にも行われた仕打ちに対して。そしてその引き金となったアシモフに。そして力及ばず、あそこで死にかけてしまった事に対して。

 

「…その影響で響君の身体は既にガングニールによって侵食されている。そしてその侵食が進めば進む程響君の身体はガングニールへと蝕まれていく。それがこの画像がそれを理解させてくれるだろう。そしてこれ以上シンフォギアを纏う事になるとガングニールは響君の身体を…」

 

弦十郎がそこで言葉を詰まらせる。既にこの場の誰もが理解している。それは響自身がガングニールとなってしまう。侵食しても響は無事なのかも知れない。だが、その保証はどこにも無い。だから弦十郎はこれ以上響に戦わせる事を拒んでいる事を知る。これ以上響の身体をガングニールへと侵食をさせない為に、人間として生きてもらう為に。

 

「そして響君の侵食を早め、暴走状態の響君により再起不能にさせられたネフィリムについてだが…あれはまだ完全に無くなっていない」

 

「ッ!?」

 

その言葉にボク以外、奏と翼が驚き、そして身体を震わせ、ボクのスーツの袖を握る。

 

突然の事で何故ここまで怯えるかが理解出来なかったので弦十郎へと問う。

 

「ネフィリムには完全聖遺物という点以外にも更に厄介な能力が判明している。それはお前が最も理解していて、予想し得ない能力だ」

 

そして映し出される五種類のネフィリム。そしてそこに映し出されたネフィリムの姿にボクは驚く。

 

そこに映し出されたネフィリムにはかつて戦い、倒したはずの能力者達の第七波動(セブンス)を操るネフィリムの姿が映し出されていたからだ。

 

亜空孔(ワームホール)残光(ライトスピード)爆炎(エクスプロージョン)生命輪廻(アンリミテッドアムニス)翅蟲(ザ・フライ)。かつて死闘を繰り広げた能力者達の第七波動(セブンス)を操るネフィリムの姿。

 

「…第七波動(セブンス)…ネフィリムは第七波動(セブンス)を操るというのか!?でも…」

 

だが、敵にアシモフがいる以上、あり得ない話でも無いと察する。だが、第七波動(セブンス)は特殊な力。それを複数操り、戦闘出来る事は可能であるのか?いや、可能だ。かつて戦ったアキュラのように。科学でそれを成した少年もいる。

 

「…ネフィリムは聖遺物を喰らう特性がある事はウェル博士によって語られた」

 

「何処で手に入れたかは知らないけど、アシモフは七宝剣の因子を持つ宝剣を喰らわせていた。そしてそれが今のネフィリム…」

 

語られた事はあまりにもこちらへと不利に追い込む事実。

 

「だが、ネフィリムは既に響が倒した」

 

「響が?」

 

だが、その不利な状況を響が何とかしてくれたようだ。そして映し出される白くなり、形状を変えたネフィリムの姿。それは二課内部の画像であり、既に回収された事を意味している。

 

安堵するとともにその影響で響にとてつもない負担を、彼女をつけてしまった事に悔いる。

 

「だが、ネフィリムはまだ生きている。これは響君が倒した後爆発して響君を守るように白くなったネフィリムの残骸だが、こちらには全くと言っていいほど聖遺物特有のアウフヴァッヘン波形が検出されなかった」

 

だが、絶望は終わらない。ネフィリムが無くなっておらず、未だ生きている。それがどれだけ厄介であるかは戦った事はないが、同様に力を使う少年と対峙したからこそ理解している。

 

「まだ不利な状況は変わらない。そして今以上にお前達に負担を強いる事になる」

 

響という戦力がない状態でフィーネ、そしてアシモフ。それと戦わなければならない状況。だが、それでもやらなければならない。

 

「分かっているよ。それにボクは元より何があろうと戦い続ける。アシモフを倒す為に、シアンを取り戻す為に。そして更なる悲劇を生まない為に」

 

ボクは自身の覚悟を口にする。元より帰る為の鍵はアシモフが持っている。そしてシアンを。どんな世界に変わってしまったとしても、ボクはあの場所に戻らなければならない。その過程の順序が変わってしまっただけだ。

 

そしてもう迷わない。今まで抱いた迷いを捨て去らねばならない。もう話など出来るような男ではない。アシモフはもう止まらないだろう。だからこそ、前の戦いで抱いた少しでも説得出来ると考えていた事を捨て去る。

 

「未だネフィリム、そしてソロモンの杖。装者。未だ敵戦力は健在だ。こちらが不利だからという事など構わずに襲いくるだろう」

 

負けられない。負けて仕舞えばもう次は無い。もう誰も犠牲を出させない為に。もうアシモフの野望を成就させない為にも。

 

背水の陣を敷かされた以上、もうどうする事も出来ない。

 

だが、シアンを失った今、本当にボクはアシモフに敵うのであろうか?今の蒼き雷霆(アームドブルー)で本当に戦えるのであろうか?

 

不安は残る。今まではアシモフの電磁結界(カゲロウ)はシアンによる強化で突破出来た。だがシアンを奪われた以上、出来るが分からない。

 

考え事をしている間にも、弦十郎は次々と奏と翼へと指示をして、次に備えていく。

 

「報告は以上だ。奏と翼はここまででいい。後はガンヴォルトに話す事がある。二人は席を外してくれ」

 

そう言われて反論しようとする二人だが、弦十郎の表情を見てそれは変わらないと悟ると、部屋を出て行った。

 

「どうして二人だけ?」

 

「二人に聞かせられる内容では無いからな。この話は二人には聞かせたく無い」

 

そう言うと弦十郎はボクへと向けて言った。

 

「ガンヴォルト…もう分かっていると思うが、事態は既に深刻だ。もうこれ以上被害を出さない為には勝つ以外方法はない」

 

その事は既に理解している。だからこそ、確認する為に弦十郎は言っている。

 

「ガンヴォルト…お前にはもうあれ以来…紫電以降、させたく無かったが…事態がここまで酷くなってしまった、ここまで来た以上構ってられないんだ…国も…そして諸外国からもお達しが来た」

 

どこか重い雰囲気を纏う弦十郎。どうして二人を出したのか、この雰囲気でボクは察した。

 

「…分かっているよ」

 

「帰る手段が無くなるかもしれない…それでもアシモフを止めるにはそれしか無いんだ…」

 

「分かっているよ…でも、そうするしか方法はないんだ…ボクはそれでも構わない…もうこれ以上この世界を脅かされるくらいなら…帰る手段はまた別に考える」

 

そしてボクは弦十郎が二人を外した理由などを言わなくても理解しているからこそ、口にした。

 

「アシモフは必ずボクが殺す。もう話し合いや捕らえるなんて言ってこれ以上被害を出さない為にも」

 

出来るか分からない。帰る方法がまた遠ざかるかもしれない。だが、それ以上に響の様に装者達を、未来を、二課のみんなを、そしてこの世界の人達を。アシモフのせいで失うのが辛い。

 

だが、それ以外の方法はあまりにも難易度が上がる。シンプルに考えるならそれしか無い。

 

「…すまない…お前には重いものを背負わせてしまう…」

 

「…いいや、奏や翼、クリスに響にはそんな事させられないよ。それにボクの手はもう汚れている…それに元からボクはそんな役回りには慣れてるよ」

 

そう言ってボクは自身の手を見る。手は汚れていない。だが、ボクの視界に映る手には血により濡れて赤く染まって見える。

 

「シアンを取り戻せるならもう構わない…それにもうアシモフを許せないから…」

 

その血により赤く濡れた手を握り、ボクは弦十郎に誓った。

 

「…本当にすまない…」

 

そして弦十郎はボクへと向けて申し訳なさそうに、そして悔しそうに言った。

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