14VOLT
ライブ会場の裏、奏と翼の二人はライブが始まるまでの時間を待っていた。二人は対照的で奏は早く始まらんとばかりに待ち遠しそうにして、翼は緊張して不安そうな顔をしている。
「開演するまでの間が持たないって言うか、やっぱりこの時間は退屈で苦手なんだよね。早くステージで暴れたいのになー、翼」
「…そうだね」
やはり翼は緊張して会話をするが返答がこの調子だ。そんな翼にデコピンをかました奏。
「せっかくの晴れ舞台だからって誘ったガンヴォルトが任務で来られなくなったから不貞腐れちゃって、私の相棒なのに焼けちゃうね」
「そ、そんなんじゃないわよ!確かにガンヴォルトが来れないのは少し寂しいけど、あの人も重要な任務が入ったから仕方ないじゃない!」
奏の言葉に翼は顔を赤くして慌てるように反論する。そんな翼を見て奏の嗜虐心がくすぐられる。
「そんなに慌てちゃってー。任務だから行けないってあいつに言われた時、拗ねてしばらく部屋出てこなくなったのはどこの誰かな?」
「そっ、それは…」
翼がばつが悪そうに呟く。
このライブの準備の時、翼はガンヴォルトをライブに誘ったのだが彼には既に要人護送の任務が入っていたため断られてしまった。その時の翼の表情はとても暗くなり、絶望に満ちていた。慎次や任務をガンヴォルトに頼んだ弦十郎はそんな翼を見て、とても申し訳なさそうにしていたが、もし要人護送中にノイズが発生していた場合、対処出来るのがガンヴォルトしかいないため、どうする事も出来なかったと小言を漏らしていた。
「あいつだって私らの晴れ姿を見たかったって言ってたんだからせっかくの晴れ舞台に悲しい顔は厳禁だぞ」
「そういう奏もガンヴォルトが来れないって聞いた時に少し寂しそうだったじゃない!私が知らないうちにいつの間にか名前呼ぶようになって!」
「なっ!わ、私はあいつが自分で貫けって言っていた意思を貫いてるのに全くその事に無関心なあいつがだな!」
奏は慌てながら弁明する。
「和気藹々と楽しそうじゃないか」
そんな奏と翼に声を掛けてきたのは真っ赤なスーツを着込んだ弦十郎だった。
「弦十郎の旦那!翼に言ってやってくれよ!ガンヴォルトが来れないからって私まで巻き込もうと!」
「司令も奏に言ってあげて下さい!ガンヴォルトの事で拗ねてるのはまるで私だけみたいな言い方を!」
「俺からしてみれば二人とも似たようなもんだがな」
弦十郎の言葉に二人は顔を赤くして黙ってしまう。そんな二人を見て弦十郎は微笑ましく思う。奏は昔のように恨みや怒りで苛まれていた頃に比べてよく笑い、明るくなった。それに翼もそんな奏といて以前と比べ物にならないくらい明るくなっていた。
「全く、あいつには感謝しないとな…」
そう二人に聞こえないくらいの声で呟いた。だが直ぐに顔を引き締める。
「二人とも和気藹々とする分は構わないが、今日は…」
「大丈夫だって、今日が大事な日って事は私も翼も理解してるから。旦那も心配性だな」
先程の顔の赤みは引いていないが本来の目的は忘れておらず、そう言った。
「分かってるならよし。今日のライブの結果が人類の明るい未来を照らし出す希望の光となるんだからな」
そう言った瞬間、弦十郎の通信端末が鳴る。
「どうしたんだ、了子君?」
『私の恋愛センサーの反応がその周辺を指してたから近くにいそうな弦十郎ちゃんに電話を』
「用がないなら切らせてもらうぞ」
『ちょっと待ってよ弦十郎ちゃん!ちょっとしたジョークじゃない!みんなの緊張を少しでも解そうとした櫻井ジョークよ!そんな本気にしないでよ!あっ、でもそっちでなんか甘酸っぱい感じがしたの』
弦十郎は何も言わずに通信端末を切った。会話の内容が分からない二人はポカンとしていた。再び弦十郎の通信端末が鳴る。
『まいど、櫻井了子です。さっきの話の続きじゃないから切らないでね!』
仕切り直しと言った感じで何事もなかったように通信を入れる了子。弦十郎に念押しした了子はこほんと一度咳払いをして話し始める。
『こっちの準備も完了したからそろそろ戻ってきて欲しいって連絡よ。せっかちな男はモテ』
弦十郎は話を最後まで聞かずに通信端末を切った。いちいち余計な事を言わなければとても良い人物なのだがと弦十郎は溜め息を吐く。
「な、何かあったの?」
奏と翼がこちらを心配そうに見てくる。
「いつもの了子君の戯言だ。全く、報告の度に何度も言ってくれるから困ったもんだ。だが、向こうは準備が出来たみたいだから俺はあちらに向かう」
「ステージの上は私と翼に任せてくれ!確実に成功させてやる!」
「頼んだぞ、二人とも」
そう言ってステージ裏から姿を消した。そしてまもなくライブの開始時間が迫っていた。
「さてと、難しい事は旦那や了子さんに任せてさあ、私達はパァと暴れるか!」
奏の言葉に返答がない。翼の方を見ると最初と同じように暗い表情をしている。そんな翼を奏が抱きしめる。
「真面目が過ぎるぞ、翼。あんたがそんなガチガチだと、私一人じゃ上手く飛べなくなっちゃう。私達は二人で両翼の揃ったツヴァイウィングなんだ。片翼の調子が悪かったらもう一方の私まで調子が悪くなっちまう」
「…奏。そうだよね、私達が楽しくしないと今日来てもらってる皆が楽しめないもんね。奏と一緒なら行ける気がする。行こう、奏」
その言葉を受けた翼の表情が次第に明るくなる。
「分かってるじゃん。なら私達のやる事は決まってる。私達両翼揃ったツヴァイウィングは歌でみんなを楽しませてやるんだ。それと翼、私と一緒なら行ける気がするじゃないだろ?」
その言葉を聞いた翼は口を綻ばせる。
「そうね。私と奏なら行ける!」
「そうさ。だったら始めるか!私達の歌を響かせに」
そしてライブが始まった。
しかし、ライブが始まって観客のみんながライブ特有の興奮状態に達した時、悲劇の引き金が引かれる。
会場の爆発、そしてノイズの出現。ライブ会場は一瞬のうちに地獄絵図と化した。出現する巨大ノイズより召喚された小型のノイズが次々と人々を襲い炭化させていく。ライブ会場で聞こえてくるものは歓声から悲鳴へと変わる。
「急ぐぞ翼!今この場に槍と剣を携えているのは私達だけだ!」
「でも司令からは何も…いえ、そんな事言ってる場合じゃない」
二人は頷いて歌を歌う。人類の希望たる武器を携える戦姫の聖詠。
「Croitzal ronzell Gungnir zizzl」
「Imyteus amenohabakiri tron」
そして二人の戦姫。シンフォギアを纏った翼と奏。ノイズを殲滅するがため、奏は槍を翼は剣を携えてノイズに向けて駆け出す。
攻め来るノイズを殲滅するため、奏は槍を。翼は剣を振るう。
奏は周囲のノイズをガングニールで切り裂き、炭化させ辺りからノイズが消えると飛び上がり、ガングニールを投擲。投擲したと同時に複数の槍が空中に出現して、ノイズに向けて降り注ぐ。
槍に貫かれたノイズ達は炭化し、周辺にいたノイズは貫かれた槍の破片と衝撃波によって同じく炭化する事となる。
翼も奏に合わせ討ち漏らされたノイズを切り裂き、炭化させ、千ノ落涙でノイズを殲滅していく。しかし、巨大なノイズを倒す事が出来ていないため、限りなく湧き続けるノイズ達。
それでも2人は諦める事などしない。己の携えた武器でしかノイズを倒せないのだから。
奏はさらにノイズを倒すために大技である、LAST∞METEORを放つ。ノイズに向けて振るわれる撃槍の強烈な一撃。ノイズ達を吹き飛ばし、巨大なノイズを旋風が貫き炭化させる。
だが、その一撃を放った槍からは電池が切れたように光が失われる。
「っち!ここまでかよ!」
先程までの力が失われ、どっと疲労感が身体を蝕み、肩で息をする。そんな奏に狙いをつけたノイズ達は襲いか掛かる。奏はノイズを捌いていくが、数も多く、疲れた身体では手数が出せず押され、重い一撃を逸らす事は出来たが後ろへ吹き飛ばされる。その時、爆発でも起きたのか、観客席が崩れる。その崩れゆく観客席から1人の少女が落ちていくのが見える。
ノイズがその少女に気付き、数体のノイズが少女に向かい始める。奏は直ぐにその少女に向かうノイズの元に向かいガングニールで斬り伏せる。
「今すぐ出口へ駆け出せ!」
ノイズに襲われようとしたショックで動けない少女に喝を入れ、逃げるように促す。だが、ノイズ達は逃すまいと奏と少女の方に向けて攻撃をしてくる。巨大なノイズから吐き出される液体。それはシンフォギアを纏っていない少女にとって必殺の一撃だろう。奏は少女を守るため槍を高速で回して防ぐ。だが、さらに追加とばかりにもう一体いた巨大なノイズが液体を奏に向けて吐き出した。
あまりの猛勢に槍の隙間から吐き出される液体が奏の身体を、シンフォギアにダメージを与えていく。そして奏の身に纏うガングニールが猛勢に耐えきれずに壊れる。
その壊されたシンフォギアの破片はショットガンの弾丸のように周囲へと飛散する。運悪くその破片が少女の胸へと突き刺さった。
ノイズの猛勢が一旦止んだ事に安堵する奏だがその後ろの少女が破壊されたガングニールの破片によって重症になってしまった事を知る。ボロボロになった体で武器である槍を捨てて駆け寄る。
「おい死ぬな!目を開けてくれ!」
奏は必死に重症の少女を呼びかける。
「生きるのを諦めるな!」
その言葉を言った時、少女の目が僅かに開く。そのに安堵するが、この状態では治療をしなければ少女の命が危ない。奏は覚悟を決める。
「いつか、心と身体を空っぽにして思いっきり歌いたかったんだよな。今は目の前にこんなにも沢山の奴が聞いてくれてるんだ。だから私も出し惜しみなしでいく」
そう言葉を紡いだ時、ガンヴォルトの顔が浮かぶ。最初は全く信用しなかった奴、だがあいつは何処までも真っ直ぐで納得いかなければ自分の信念を貫いていた。そんなガンヴォルトが憎かったが、そんな彼の信念を貫く姿に憧れた。
「そういえばあいつに私の歌を一回もしっかりと聞いてもらってなかったな…」
不意に思った事。奏は少し悲しそうな表情をした。今までひどい事をしてきたのに謝りもしない自分に少し後悔した。
「だけど、こんなところで迷ってたらまたガンヴォルトから小言をもらっちまうな。聞かせてやるよ、私の絶唱を」
奏は呟くと槍を掲げる。だが、その言葉が翼の耳に入ったようで奏に向けて叫ぶ。
「奏!その歌は…その歌は唄っては駄目!」
だが、覚悟を決めた奏はガンヴォルトのように安心させるように笑みを浮かべる。だが、その両目からは一筋の涙が零れ落ちていた。
「後は頼んだぞ、翼」
そう言うと奏は歌う。
「Gatrandis babel ziggurat edenal
Emustolronzen fine el baral zizzl
Gatrandis babel ziggurat edenal
Emustolronzen fine el zizzl」
そのどこか儚いが、とても力強い響を持った歌声。その歌を歌い切った奏は口から血を吹き出した。ボロボロの身体で放つ絶唱は自身すらをも蝕む諸刃の剣。
「かはっ!」
だが、絶唱は発動する事なく奏は喉を抑えて倒れる。
「なんで…なんで絶唱すら出来ないんだよ…」
奏は薄れゆく意識の中、呟く。捨て身の覚悟で放った絶唱ですら不発に終わり、奏は無残にも散りそうになる。そして倒れた重症の少女、戦意をも削がれた奏に向けてトドメとばかりにノイズが襲い掛かる。
「…私は誰も救えないのかよ…」
襲いくるノイズ。しかし、力が入らない身体ではノイズに太刀打ちする事など出来はしない。翼もそんな奏を助けようとするが、他のノイズに奏までの道を防がれ、向かう事すら許されない。
「奏!奏!」
翼の呼ぶ声。しかし、そんな奏には無情にもトドメの一撃とばかりと複数のノイズが覆い被さろうとする。
「閃く雷光は反逆の導、轟く雷光は血潮の証、貫く雷撃こそは万物の理」
そんな中、突如空中から聞こえてくる男性の声。その声は二人がよく知っていて頼もしい力を持つ。
「迸れ!
紡がれた言葉と共に現れる大量の鎖。その鎖は奏を守るように盾となり、ノイズを倒すための槍となる。奏を守る鎖以外はノイズ達を貫き、絡め取る。そして、雷撃が流れると会場に出現していたノイズ全てを殲滅する。
そして奏の見えにくくなった視界に映ったものは空から蒼き雷撃を纏い、苦痛を受けたように顔を歪めていたガンヴォルトの姿だった。