戦姫絶唱シンフォギアAB   作:株式会社の平社員

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戦闘の後、ボクは先に装者と弦十郎を本部に戻る様にお願いしてアシモフとの戦闘があった現場に残っていた。

 

初めは誰もが何故ボクだけが残る事に疑問する声を上げていたが、アシモフがまだ近くにいる可能性があるという事を告げ、もしもの時の保険で残ると言って現状残っている。

 

現在は既に二課所属エージェント、そして調査員、一課の災害派遣チームがこの場に溢れており、この場での戦闘の余波による負傷者の有無、アシモフや敵装者、切歌と調と呼ばれる少女、ウェルが何か残していないかの確認をしている。

 

だが、そんな中、ボクはもしもの時には直ぐに対応出来る距離、そして、誰もいないビルの内部で拳を強く握り、先程の戦闘を振り返り、苦い顔を浮かべていた。

 

(シアンを取り戻す…そう誓ったはずなのに…結局一人じゃ手も足も出ず、アシモフにトドメをさせなかった…

ボクが弱い所為で装者達にも殺しを覚悟させてしまった…そんな事させたく無かったのに…)

 

生まれるのは後悔。

 

自身の力がアシモフに及ばないばかりに、シアンを取り戻す事もアシモフを殺す事も出来なかった。たった一人ではアシモフの電磁結界(カゲロウ)を越す事も出来ず、手も足も出なかった。

 

クリスや奏や翼、そして弦十郎に慎次が作ってくれたチャンスを物にする事も出来ず、深傷を負わす事すら叶わなかった。

 

倒すと誓ったのに、殺すと誓ったのに、装者達に重しを背負わせないと決めたのに。

 

結局何一つ為す事が出来なかった。

 

それに状況は今よりも更に悪くなるばかり。

 

響がどうなるか分からない。何故かシアンの力、電子の謡精(サイバーディーヴァ)の力を僅かながら使用出来た事により狙われている翼にクリス。そしてアシモフが持つ、第七波動(セブンス)を操る事の出来る聖遺物、ネフィリムの心臓。アシモフが率いるフィーネが起こそうとしている選別と称した虐殺が本格化しようとしている現状。

 

全てがアシモフの思うように進んでいる。こちら側にとって戦闘していく度疲弊するだけに対して打撃を与えられない。まさに負のスパイラル。

 

(もっとボクがしっかりとしていれば…響に付いて警戒していれば!何も出来なきゃ意味がないじゃないか!)

 

込み上げた怒りのまま、ボクはビルの壁に拳を打ち付けた。

 

自分に全てが足りないせいで、何も出来ていない。まるでシアンを失った時の様に。

 

警戒心が足りない。アシモフを殺す為の力も皆を守る為の力も。これ以上先手を取られない為の想像力も。

 

何もかもがボクには足りていない。

 

殺意も。怒りも。憎しみも。

 

「駄目だ…そう考えるな…そんなのアシモフや紫電やアキュラと変わらない…もう何もアシモフから奪われない為にも…そんな事を思っちゃ駄目だ…」

 

振り払う様に繰り返して呟く。だが、アシモフにやられ続けている事によりその不安が消える事は無かった。

 

消し去る為にはアシモフをこの手で倒すしかない。殺すしかない。その自身に課した使命の様なものがボクの頭を支配していく。

 

そんな事に囚われては駄目だ。気付かぬ内に足元を掬われる。アシモフはその隙を突いてくる。ボク自身が自分の意思で。自分の覚悟で成し遂げなければならない。

 

そうなれば守ろうとした者がどうなるか分かっているからこそ、こびりついた思想を上塗りしていく様に対策を考える。

 

アシモフに勝つイメージを。アシモフの目的を止め、F.I.S.のやろうとしている事を止める為にも。そしてその子に起こりうる消滅を回避する為にも。

 

だが、最初の考えがボクの心を砕く様に、先へ進ませない様に阻む。

 

アシモフの存在が全てを堰き止める。

 

アシモフの持つ蒼き雷霆(アームドブルー)。そして付随する最強の防御結界、電磁結界(カゲロウ)。更に第七波動(セブンス)を操るネフィリムの心臓。それに対しては既に戦った事のある戦闘方法だからこそ対処は出来る。だが電磁結界(カゲロウ)、あれを突破しなくては話にならない。今のままではどうにもならない。装者達に罪を押し付けない為にもどうにかしてでも電磁結界(カゲロウ)を突破しなくてはならない。そして更に電磁結界(カゲロウ)の先にあるアシモフがボクにも隠し続けていた(スキル)電影招雷(シャドウストライク)。あれが何なのか分からない以上、アシモフとの戦闘はボクの不利な状況に追いやられる。

 

もう負けられない。負けてはならない。現在はアシモフのせいでないにしろ、響が危ない状況に遭っている。追い討ちを掛けるように翼もクリスも狙われている現状。そして奏も、弦十郎も慎次もアシモフからボク同様に殺害を宣告されている。

 

だからこそ、勝たなくてはならない。殺さなければならない。もう誰も失わない為に。シアンを取り戻す為に。

 

自分がアシモフに勝つイメージを手繰り寄せる為に考える。いや、考え続けなければならない。このままでは全てを失う。アシモフの思い通りになってしまう。それは確実にこの世界が終わる事を告げている。

 

この世界の仲間が、守るべき者が全てアシモフの手によって殺される。

 

今のボクがアシモフに勝つイメージを。

 

それは矮小でボクの思うよりもとても小さな可能性なのかもしれない。だが、諦めてはならない。

 

負けなど考えてはならないから。だからこそ、ボクはどんなに極小の可能性を掴み取る為に考える。アシモフを殺して全てを守る為に。

 

こびりついた不安を勝つ為のイメージを浮かべ塗りつぶそうとするが、所詮は上塗りで見えなくなるだけ。その不安は決して消えはしない。

 

だからと言って表にそれを出す訳にはいかない。今度は失敗を起こさない。負けない為にも。守り抜いて取り戻す。

 

それがボクのするべき最善の事だから。

 

そんな苦しみながら、もがきながら考えている最中、弦十郎から通信が入った為に、それを気取られぬようその意思を隠して通信を開始する。

 

『ガンヴォルト、俺達が本部に到着した頃には響君の手術は無事終了していた。奇跡的に響君の胸に宿るガングニールの方も落ち着いていた』

 

「ありがとう、弦十郎。だけど、響が無事だろうと、もう響は戦う事は出来ない。そうでしょ?」

 

『ああ。今回も無事だったが、次にシンフォギアを纏えば何が起きるか、無事であるかの保証なんてない。戦力は下がるだろうが、響君が響君のままでいてもらう為にも、その親友の未来君に心配を掛けさせない為にもこれ以上響君には戦闘をさせられない』

 

分かっていた事。戦力がダウンする。だが、そんな事はどうでもいい。戦力がダウンしようと、響一人の命の方がボクにとっては大事だから。響が響のままでいてもらう為にも。

 

「響が無事で良かった…だからこそ、もう響に戦わなくていい様にしなきゃならない。もうこれ以上誰もこんな目に遭わさない様にしなきゃならない」

 

『ああ。もうこれ以上、アシモフの…F.I.S.の思い通りにさせる訳には行かない。初めから何も変わっちゃいない。全てを止める。原因をいち早く取り除く事』

 

何度も確認しあった事。だが、それの全てが失敗に終わっている。だからこそ、その言葉に以前にも増した力が宿るのを感じる。

 

ボク同様にまるで強迫観念に囚われた様に。

 

だけど、それが何だろうと関係はない。強迫めいたものだろうと何だろうと、初めから達成しなければ全てが終わる選択肢なんて無いものだから。

 

そしてボク自身がやらなければならない。終わらせなきゃならないものだから。

 

◇◇◇◇◇◇

 

弦十郎はガンヴォルトにその事を伝えると通信を終えた。

 

だが、その通信を終えてもまだやらなければならない事が幾つもある。

 

響の状態は今回は運が良かった。だが、本当に危ない状況になっている為に、未来にも響の状態を話さねばならない。

 

響にシンフォギアを纏わせない為にも、親友である未来の助力が必要と判断する。民間協力者である為、響の親友である為に、もうこれ以上響の事を隠し続ける事は不可能と判断して、それに自分達だけでは響をこの様な非日常から遠ざける事は不可能としか考えられなくなった為である。

 

そして、ガンヴォルトのアシモフの殺害に対する装者達の不満の事。

 

ガンヴォルトを思う故に、ガンヴォルトだけに国から、世界から課せられたアシモフの殺害をどう装者達に納得させるかも考えねばならない。

 

殺人と言うものがどんなものか弦十郎にも分からない。人の死というものはノイズによる被害によって近くにあるのは理解しているが、それを己が手で行う事の重さが、心労が理解出来ないから。

 

こればかりは弦十郎の性分では無い。人の道を説く。大人としてそれは伝える事が出来る。だが、その人の道を外れた行動だからこそ、殺人がどれほどの、これからの人生に伸し掛かる重さが伝えられない。

 

「…お前ばかりに本当に苦労ばかり掛ける」

 

呟く様に先程話したガンヴォルトの名を呟く。

 

その重さを理解している。そしてそれを背負いながらも生きたからこそガンヴォルトに説いてもらうしかない。

 

それしか出来ない自分を悔いる事しか出来ない。本来ならば自身が説くべきだと。

 

そんな考えをしながら他の対処も考えている中、通信が入る。

 

『弦十郎、大丈夫か?』

 

「斯波田事務次官」

 

通信の相手は斯波田事務次官であり、心配をした声音でそう言った。

 

『アシモフを倒せなかった事は別に責めはしねぇ、響の嬢ちゃんに大変な目に遭わせちまった』

 

「斯波田事務次官の所為ではありません…我々が全てを怠った結果です」

 

自身が警備を響に付けなかったせいで、もっとしっかりとカ・ディンギル址地で調査をしてネフィリムの心臓を先に見つけていれば。アシモフの存在を直ぐに察知できれば、F.I.S.の行動を予測していれば防げたかもしれないと斯波田事務次官に伝える。

 

『そんな自分を責めたって意味ねぇだろ。俺だってそうなっちまった一旦を担ってんだから、悔しいし、アシモフの野郎をぶちのめしてぇ。だが、そう思うならこそ、行動を起こさなきゃならねぇ。アシモフの野郎を、F.I.S.に煮湯を飲まされた分、次こそは先手を打たなきゃならねぇ』

 

既に次を見据えている斯波田事務次官はどうするかを考えて行動しているようで背後に怒声を飛ばしながら慌ただしくしている。

 

「勿論、次こそ被害を出さない為にも我々も動くつもりです」

 

そう伝える弦十郎。斯波田事務次官もそれで良い。今度こそ先手を打って止めると言った。だが、少し考えた後、斯波田事務次官は何か危惧しているかの様に弦十郎に尋ねる。

 

『ところで弦十郎、ガンヴォルトは無事か?』

 

「ガンヴォルトですか?ガンヴォルトは現在、アシモフが戦闘跡地にまた現れる可能性があると言ってあの場に残ってます。あいつ自身は無事です」

 

『ちげぇよ、弦十郎。身体とかの話じゃねぇ。精神の話だ』

 

斯波田事務次官はそう言った。

 

『あいつは気丈に振る舞って無事で装っているかもしれねぇが、アシモフの野郎と言うあいつにとってシアンの嬢ちゃんの敵であり、現在もシアンの嬢ちゃんを奪った男だ。何度も戦い、勝てちゃいない。そして俺達にとって何か大事な者を奪われたり、失くしかけている。それがどれだけガンヴォルトにとってのストレスになっているか分からねぇ。現に今あいつが一人になっているって事は相当きてるって事だろう』

 

斯波田事務次官にそう言われて弦十郎は苦虫を噛み潰したように顔を歪める。斯波田事務次官に言われるまで気付かなかった。

 

ガンヴォルトに何かあったのは理解していた。だが、響の状態の心配が先行して精神状態まで気にしていられなかったからだ。

 

「…すみません…斯波田事務次官の前に自分が第一に気付かなければならないのに…」

 

『弦十郎のせいじゃねぇよ。あいつの悪いとこだ…』

 

斯波田事務次官は溜め息を吐いてそう呟いた。

 

『気に掛けてやってくれ。あいつは以前からこんな経験ばっかりしてるから本当に何時に壊れるか分からない。特に今回は更に酷い状況だ。守るべき者を奪われ、更に響の嬢ちゃんがこんな状態、目を覚ますから奏の嬢ちゃんよりもまだマシだと思うが、翼の嬢ちゃんもクリスの嬢ちゃんが狙われている。奏の嬢ちゃんもテメェもだ。誰か一人でも欠ければガンヴォルトは正直、戦えはするが、奪われ続けた結果壊れちまう。それに最も危惧するのはアシモフの野郎だ。あいつは以前からガンヴォルトに対しての何かを握っている。それが何なのか知らんが、それがガンヴォルトの心を折るものなら目も当てられない』

 

斯波田事務次官の不安。ガンヴォルトが壊れる。肉体的で無く、精神的に。そしてそれは世界が終わる可能性を持った最悪の事態。

 

そしてそれは全て敵の手に握られているという事態。

 

「ご忠告ありがとうございます。自分や他の職員で何とかケアしてみます」

 

『ああ、俺達も出来る事は何でもしてやる。だから、ガンヴォルトを支えてやってくれ。頼る事しか出来ない。不甲斐ないと思うかもしれねぇが頼んだぞ。ガンヴォルトが潰れて仕舞えば、下手すりゃあ嬢ちゃん達の精神も危うくなる』

 

「斯波田事務次官も出来る限りして頂いているのでそんなこと誰もが思ってます。それに分かってます。大人として、ガンヴォルトの上司として何とか対応とケアをします」

 

『頼んだぞ』

 

そう言って斯波田事務次官から通信が切れるのを確認すると、弦十郎は大きな溜め息を吐いた。

 

「問題だらけだ…だが折れる訳にも、立ち止まる訳にもいかん…止めなきゃならないんだ…アシモフを…F.I.S.を」

 

弦十郎はそう呟くと先程の斯波田事務次官の言葉を思い出す。

 

ガンヴォルトの精神が危うい。

 

以前にも増して危険な状態だという事。ガンヴォルトに取っての全ての元凶にシアンを奪われ、更に取り戻す事の出来ない状況で、どんどん失いそうな者が増えていく一方。

 

ガンヴォルトの精神は強靭だと理解している。だが、人である限り、限度がある。だからこそ、斯波田事務次官の言う通り、それがいつ決壊するか分からない。

 

「本当にとんでもない事ばかり起こしてくれるな…アシモフ…」

 

弦十郎は世界すらを敵にしている仇敵の名を口にする。

 

全ての元凶にしてガンヴォルトの因縁の相手。倒さなければならない。殺さねばならない。世界の為にも。ガンヴォルトの為にも。

 

だが、ガンヴォルトと同じ能力。そしてそれ以上の力を持ち、第七波動(セブンス)を操るネフィリムの心臓。そしてノイズを操るソロモンの杖を操作するウェル。更に三人の装者。

 

考えるだけでも頭が痛くなる。

 

だが、何度も言うようにそれでも何とかしなければならない。取り戻さなければならない。シアンを。平和を。

 

弦十郎は拳を強く握り締め、更なる激闘を想定しながら、今対応出来る事をするべく動き始めた。

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