弦十郎により集められた装者である奏、翼、クリス。響はまだ意識を取り戻していない為に、そして未来はこの事を協力者だからと言って聞かせる訳にはいかない為に、響の病室で待機してもらっている。
ガンヴォルトはまだアシモフやF.I.S.の襲来の可能性があると考え、現場の警戒で離れられない為に装者のみ集められている。装者達の顔には怒り、苛立ちが感じられる。集められている理由を何となく察しているからであろう。
そして、弦十郎はこの場の全員に告げた。
「この場に集まって貰ったのはもう既に知ってしまったからこそ、あの場にいた君達にも周知するべきと俺が判断したからだ。俺達が、いや俺がガンヴォルトに告げた任務。アシモフの殺害の事を。あの場で奏には伝えたが、アシモフの殺害はこの国、そして諸外国からの総意だ。アシモフを捕らえる事は今まで繰り返された戦闘から不可能。そしてこれから起こりうる最悪の事態を想定した事による被害を限りなく減らす、いや、無くす為にも、それがベストだと判断された。だからこそ国や諸外国が下した決断でそれを俺もガンヴォルトも同意した」
「アシモフを捕らえる事は不可能…そしてこの国と諸外国から下された判断は理解出来ます…ですが!それを私達に黙っていたのですか!そんな事納得出来る訳ありません!私達には何も告げず何故ガンヴォルトだけにそんな事を頼んだのですか!?」
翼が弦十郎へと向けて言った。
奏もクリスも同様に弦十郎へと怒りの視線を向けている。
「それは先の戦闘でも伝えたはずだ。奏や翼、クリス君。勿論、響君にもだが、君達の手は救いを差し伸ばす手だ。そしてノイズという脅威から人々を守る為のものだからだ。だからこそ、救いの手を汚してはならない。その手を血に染めてはならないんだ」
「だったらガンヴォルトもその中の一人だろうが!そんなのは旦那達の押し付けだろうが!なんで私達に何も伝えずガンヴォルトだけにそれをやらせようとしてんだよ!何でガンヴォルトだけに!?」
「こいつの言う通りだ!なんで私達にそれを黙ってあいつにだけそれを抱え込もうとさせるんだよ!そんなの可笑しいだろ!」
奏もクリスもふざけるなと言わんばかりに弦十郎へと言う。
「さっきも話した様に国と諸外国の決定だ。俺達の様な組織は上の意向に逆らう事は難しい。それに殺人を強要する事を俺は君達の様な若者の未来を変えてしまう可能性があるからこそ、苦渋の決断をしてガンヴォルトに頼んだんだ」
「だから!そんなので納得出来る訳ないだろ!」
奏が弦十郎にまだ何か言おうとするがそれよりも先に弦十郎が言う。
「納得出来る出来ないの問題じゃない。例えどうであれ、君達には殺しという事をして欲しくないんだ。それがアシモフの様な悪人だろうと」
「こいつの言う通り、納得出来る訳ないだろ!そんなのおっさん達の単なる押し付けだろうが!私達はそんなの絶対に認める訳ない!」
「奏と雪音の言う通り、そんな押し付けの様な事を絶対に認めない!それに!ならば何故あの場でガンヴォルトは私達に頼んだのですか!?」
クリスも翼も奏に同調する様にそう言った。ガンヴォルトを思っての事であるが、弦十郎としても、ここにいないガンヴォルトもそんな事を認めたくない。装者達にその重りをつけて欲しくない。だが、あの場でガンヴォルトはその事をあくまで幇助という形で容認してしまった。装者達に覚悟をさせてしまった。だからこそ、どう答えても装者達は納得しないだろう。
「あの場はガンヴォルトもああ言うしかなかったんだろう。あの場での戦闘でガンヴォルトは戦闘において最適な判断を下したに過ぎない。だが、もうその戦闘は既に終わった。だからもう君達がこれ以上アシモフを殺す事に加担する必要はない。後の事はガンヴォルトや俺達で何とかする」
それでも弦十郎はそう告げ続ける。
「ふざけんなよ!あいつもおっさんもどうやってあの野郎と戦うっていうんだよ!殺し合うっていうんだよ!あいつの
「クリスの言う通りだろ!今のガンヴォルトに
「そうです!事実!私と雪音の攻撃は!それにもしかしたら奏もアシモフの
何処までも引き下がらない装者達。もうどう言っても無駄な事は理解している。だが、それでも弦十郎はここにいないガンヴォルトに変わって装者達へと殺人をさせない為に言うしかなかった。
「なら君達に聞くが、もし君達がアシモフと対峙した際、本当に君達はその手でアシモフを殺せるか?ノイズとは違い、生きた人間を己が武器で討つ事が出来るか?」
その言葉はとてつもなく重く、そして何処までも冷たい。その言葉に装者達は言い淀む。
「言葉にする事は簡単だ。だが、俺の言った言葉を聞いて何の迷いもなく直ぐに答えが出せない以上、君達がアシモフを殺す事は偶然が重ならない限り出来ない。そして殺すという行動に移せない。アシモフとの互いの命が潰えるまで続く殺し合いに対して足手纏いになり兼ねない。さっきの一瞬ですらアシモフとの戦闘では命取りになる。現に翼とクリス君は一時的にアシモフの殺気に怯え、身体が動かなくなっていた。もしガンヴォルトがいなければどうなっていたか分からない。それに何度も対峙してアシモフという男がどういう人間か分かっているだろう。だからこそ、大人である我々が、既に言葉でも、行動でも、本当に殺す事の出来る覚悟があるガンヴォルトと共にやらねばならない。君達は君達で、アシモフを除く奴らを。ウェル博士とF.I.S.を止める戦いに専念してくれればいい」
装者達にとって厳しい言葉かも知れない。だが、弦十郎の言う様に、一瞬の間でも死が伴う以上、殺す事の出来ない者、何の迷いもなく殺す覚悟のない者をアシモフの前にもう立たせる訳にはいかない。今ここで表した言葉の覚悟はこれから起こりうる事を想定した戦いでは何の意味を持たない。その罪を背負える程の度量、そして躊躇いを持たない事が求められる。
だからこそ、その何方も持つガンヴォルトにお願いをしたのだ。皮肉な事にガンヴォルトのいた世界の環境がガンヴォルトにその何方も持たせてしまったから。
「ふざけんなよ!何でそれだけで私達を除け者にするんだよ!旦那も!ガンヴォルトも!」
「除け者じゃない。戦闘に置いての適材適所、そう我々が判断した結果だ。君達の担当は捕らえるべきF.I.S.を…ウェル博士を。そして我々が、ガンヴォルトが国と諸外国から排除すべきと決めたアシモフを」
「話になりません!適材適所ならば私達もアシモフの元に行く方が賢明な考えです!」
「どう考えたっておかしいだろ!私達がいた方が多くの犠牲を出さずに何とかに出来るかも知れないだろ!なのに何でだよ!おっさん!」
「いい加減にしろ!」
文句を並べる装者達に弦十郎は一喝する。
「これはもう決定事項だ。いくら君達がここで駄々をこねたって変わらない…覆る事なんてないんだ。いい加減聞き分けてくれ…」
弦十郎が辛そうに言っているのは理解している。装者達も自身達に手を汚して欲しくないのも理解している。
「ッ!クソッ!話にならねぇ!」
「もういい!」
クリスと奏はそう言って部屋を出て行く。残った翼は弦十郎に向けて言った。
「…司令。私だってもういつまでも守られているばかりの…ガンヴォルトに頼ったり、守ってもらってばかりいる子供じゃないんです。それに実際の戦場に出れば誰もが殺す殺さないなど言っていられない状況になれば間を置かずに判断くらい出来ます。それに…幼かった私は司令の前でも、あの時所属していた二課の前でも言いました。ガンヴォルトが苦しみ、悲しむ様であれば私の携える防人の剣で払うと。だからこそ、私は何を言われようとやります。勿論、F.I.S.とウェル博士を捕まえる、そしてガンヴォルトの為にアシモフと対峙すれば必ず私は己が聖遺物で…剣で必ずアシモフを討ちます。勿論、今言っている事が命令違反なのは重々承知しています。ですが、私はそれでもガンヴォルトばかりに、ガンヴォルトだけに背負わせたくないんです。それがガンヴォルトの前で誓った事ですから。奏も雪音も同じです。何があろうとガンヴォルトと共にこの戦いを終わらせて見せます」
そう言って翼も奏とクリスの後を追い、退出して行った。
弦十郎は翼の言葉に何も反論せずにただ黙ってその背を見続ける。
「…ああ、本当に上手くいかないし、後を追い、辞めるように促すのが司令としての立場なのに…こんなんじゃ司令官として失格だ…」
扉が閉まり、大きな溜め息と共に、自身の立場としてやるべき事が出来ない事を嘆く。
「司令、彼女達は…どうやら聞き入れてくれそうにないですね」
そう言って入って来たのは、悲しそうな表情をしている慎次。弦十郎の様子、そして先程出て行った装者達の事を見て事態を把握したのであろう。
「ああ、共に戦ってくれる事は本当に感謝している。ガンヴォルトだけに罪を背負わせようとせず、共に歩んでくれる事は俺としても本当にありがたいと思っている…だが、駄目なんだ。あの子達に殺しをさせてはいけない」
慎次へと向けて弦十郎が辛そうに言った。
「…分かっています。装者達にそれをさせてはならない。それは司令の望みでもあり、ガンヴォルト君の望みでもありますから」
「ああ、本当はガンヴォルトにも殺さないでもいいと言ってやりたかった…」
弦十郎は悲しそうに今この場にいないガンヴォルトの事を思いながら呟く様に言った。
本当はガンヴォルトにもやらせたくはなかった。紫電の時と同様に。だが、あの時も今も、現状がそれを許さない。
支配に消滅。紫電もアシモフも変わらないと思われる思想。だからこそ、先にあるそんな地獄を止めなければならない。戦わなければならない。やらなければならない。ガンヴォルトも理解してそれに同意している。ならば此方もその思いに応える様に最大限のサポートをして事態を終息させる為に動くしかない。
しかし、その中にある一つの不安。
今のガンヴォルトは危うい可能性が高いという事。
斯波田事務次官も危惧しているガンヴォルトの精神状態である。
シアンを奪われ、
だから一人になり、警備と言いながらも悔いているのが容易に想像出来る。
潰してはならない。心を折らせてはならない。
ガンヴォルトがこの戦いにおいて重要な鍵であり、失くしてはならない存在だから。
「…とにかく、装者達の件は何とか説得していこう。それよりもガンヴォルトのカウンセリングを優先する」
「…ガンヴォルト君にアシモフを殺す事がですか?」
「それもあるが、ガンヴォルトの今の精神的に確実に潰れかかっている。何かの拍子にそれが決壊すれば、ガンヴォルトは確実に折れる。そしてガンヴォルトが折れれば、シアン君以外も奪い、失い、我々は多大な影響を与えるのは目に見えている。そして…」
慎次は弦十郎がその後の言葉を聞かずとも何と言おうとしていたのか分かっている。
何もかもが終わってしまうかも知れない。世界も。この先にあるべきはずの未来も。
「分かっています。僕はガンヴォルト君のあの場の警備が終わり次第、カウンセリングに取り掛かります」
「あいつの事だ。必ず気丈に振る舞うだろう。大丈夫だと言う事だろう。だが、それでも根気強くいくしかない。いつになる分からないアシモフの戦闘でも、その前でも、ガンヴォルトが折れてしまわぬ様に…壊れない様に…死ぬ事がない様に…」
弦十郎は慎次へと何度も言い、慎次もその言葉の重さを理解してただそうある為に強く頷いた。