戦姫絶唱シンフォギアAB   作:株式会社の平社員

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数日かかった現場の検証も襲撃も無く終わった事は喜ばしい事だが、結果的に特に得られる物は何も無かった。

 

不安ばかりが募る警備でも、何かしらの成果さえあればと期待をしていたのだが、アシモフどころかF.I.S.の痕跡すら何も見当たらない。

 

状況が悪い事ばかりだろうがやるべき事は変わらない。変わらないのだが、何の成果も情報を得られない事が、アシモフの殺害を、シアンの救出のハードルを上げ、重しとなってのしかかる。

 

焦りと不安ばかりがボクを苦しめる。

 

焦っては駄目だ。不安になっては駄目だ。何度も何度も言い聞かせているのに、成果がない事がそれを強く押し出している。

 

だが、それを無理矢理でも押し込めて隠すしかない。自分の感情のまま行動で全員に迷惑を掛けられない。

 

そうしても溢れ出しそうになる。だが、皆に心配を掛けたくない。不安にさせてはならない。

 

そして何とか抑え込んでとにかく本部へと帰還すると報告の為に弦十郎の元へ向かう。

 

司令室へと入ると弦十郎と慎次が待っていた。

 

「ご苦労だった、ガンヴォルト。とにかくあの場であの後に何事も無くて本当に安心した」

 

「あの場は特に何も無くて良かったかもしれない。アシモフもF.I.S.の襲撃も無くて良かったけど、状況は芳しくないよ。アシモフとF.I.S.の状況も動向も分からなかったんだ。アシモフ達の有利な状況は変わらない」

 

「…分かっている…ネフィリムの心臓を手にしたアシモフを止める事はかなり難しい…」

 

「ネフィリムの心臓はボクの方でなら何とかなる。とは言ってもアシモフはまだ本調子ではないと言っていた…まだ何か隠しているかもしれない。だから早く止めないといけない。それにボクは以前にも似た様な戦い方をしている人物と何度も戦闘しているから、戦い方は熟知している。問題はその先だよ。アシモフの電磁結界(カゲロウ)。あれをどうにかしなきゃ話にならない」

 

「アシモフは今回の戦闘でもう同じ手を喰らう事はないと思います。ガンヴォルト君、それをどうやって破るつもりですか?」

 

「考えはある。難しいけど今出来る対抗策。二つ目はあまり現実的ではないけど、確実にアシモフを殺す事の出来る策」

 

慎次の言葉にボクはそう答える。そして現場での策を二人に話す。

 

「一つは水辺での戦闘だ。いくら対策してこようが、対策しようがない程の水のある場所でなら何とかなる可能性もある」

 

例えば海。正直この案は、現実的じゃない。まず、アシモフが己の弱点である水辺、その場に現れたり、自ら赴こうとしないからだ。そして、もし現れたとしても、ボクも同様に雷撃を封じられる。

 

「確かに海などであれば、奴の雷撃は封じられる可能性もある。しかし、同様にガンヴォルトの雷撃まで封じられる事になる…」

 

「一長一短の策と言う訳ですね。しかし、ガンヴォルト君の言う通り、アシモフが自らそこへ行くのも考えづらいですし、戦闘でもそうなれば撤退した時にも使用された第七波動(セブンス)で逃げられる」

 

「難しいからどうとも言えないけど。そして二つ目はアシモフとの戦闘中、どうにかしてアシモフの持つ対第七波動(セブンス)能力者用の銃を奪う事だ。あれに装填された強欲なる簒奪者(グリードスナッチャー)。あの弾であれば電磁結界(カゲロウ)を超えて、アシモフを殺す事が出来る」

 

もう一つ、それがアシモフの持つ強欲なる簒奪者(グリードスナッチャー)。その銃弾を身体に撃ち込まれ、その威力、第七波動(セブンス)の無効化能力をその身で何度も体験している。それに電磁結界(カゲロウ)をも打ち消す事も。

 

「ガンヴォルトを死に追いやったあの弾丸。確かにあの銃を奪う事が出来れば何とかなるかもしれません。しかし、電磁結界(カゲロウ)を破る事が可能なんですか?」

 

電磁結界(カゲロウ)蒼き雷霆(アームドブルー)由来の力だ。だから強欲なる簒奪者(グリードスナッチャー)なら電磁結界(カゲロウ)を無効化して当てられる。それも何度も経験しているから分かるんだ。例え強力な第七波動(セブンス)だろうとその力を完全に打ち消す事の出来る弾だからこそ、勝機は見出せる」

 

「ですが、どうやってアシモフから奪うのですか?電磁結界(カゲロウ)は自身の身だけでなく、身に纏う物にも効果があるんじゃないですか?そうなればアシモフからその銃を奪うのも至難の技である筈です」

 

「だからあまり現実的ではない案なんだよ。ボクの雷撃がアシモフの電磁結界(カゲロウ)を超えられない以上、それすら難しい。方法は有る事にはあるけど、装者である翼とクリスを起用する事になる。だけどそれは絶対に駄目だ。アシモフが翼とクリスもシアンの様に狙っている。奏も駄目だ。翼とクリスとは違い、ボクや弦十郎、慎次と同じ殺害対象にされている。そして響もだ。シンフォギアを纏えない響にはこれ以上の戦闘をさせられない。だからボクが何とかするしかならない」

 

弦十郎も慎次も翼とクリスの名を聞いた時、険しい表情を浮かべたが、ボクの答えを聞いて安堵した表情を浮かべる。

 

「翼もクリス君もアシモフの戦闘に参加させないのは決定事項だ。それに奏も響君も」

 

「でも、あの場でボクが下した決断で翼もクリスも奏も、アシモフをどうにかするかもしれない」

 

そう答えると弦十郎も慎次もボクの予想が的中した様に表情に影が差す。分かっている。ボクがあの場で最善の答えが、そうさせてしまった事を。だからこそ、早く決着を着けなければならない。

 

「だけどその方法はどうするんですか?」

 

慎次の言葉は当たり前だ。現時点で電磁結界(カゲロウ)を越える事が出来るのは翼とクリスの攻撃。アシモフが言うには電子の謡精(サイバーディーヴァ)の何らかが作用してアシモフの電磁結界(カゲロウ)を越す事が出来る。だが、方法が無い訳じゃない。

 

今のボクの雷撃が越えれないなら外部から補えばいい。それは既に前の戦闘で実証されている。

 

「外部から電気を補える場所で戦う、もしくはアシモフの雷撃だけを何とかして身体に蓄える。それなら電磁結界(カゲロウ)を越えられる」

 

「…確かに、あの場の戦闘でその事は実証されている。だが、それではお前が…」

 

「ボクだけが傷付くのならいいよ。それに傷付いても死ななければいい。生きていれば…シアンを取り返せる。皆を悲しませずに済む…」

 

アシモフを無傷で殺せる訳も無い。傷付いても、何処か失っても生きていればいい。その言葉にその覚悟を乗せる。

 

「…」

 

弦十郎も慎次もその言葉に何も言えないとばかりに口を紡ぐ。

 

「とにかく、装者達にはこの事は話さないでくれると助かるよ。心配ばかり掛けるけど、装者達が無事でいる為、この世界を守る為、それに、アシモフを殺す為なんだ」

 

そう言って司令室から出ようとした時、弦十郎がボクを止める。

 

「待て、ガンヴォルト」

 

「何?作戦に不満が?」

 

「違う。お前が来るまで慎次と話していた事についてだ」

 

その事に対しては何も分からない為に、足を止めて弦十郎と慎次の方に向き直る。

 

「斯波田事務次官も気にしている。お前の精神状態だ。シアン君を奪われ、更にアシモフによって何度も苦い経験ばかりで相当疲弊していると思う。警備の時、一人で行った。以前の翼の時の様に、必要な事であるが、それは誰にも辛い所を見られたく無い時の行動だ。今回は時間があって隠し切れていると思っているかもしれないが、どれだけ長い付き合いだと思っている。お前の顔を見れば分かる」

 

「…大丈夫だよ。弦十郎や慎次が懸念している程疲弊はしてないよ。確かに、アシモフの所為でかなり苛立っているし、焦ってもいる。だけど、そう言う事なら皆同じだよ。誰もがアシモフに、F.I.S.の所為で苛立ってる、焦ってる。でも皆同じくその疲弊を隠して、オペレーター達は何かしら情報を、装者達も次いつになるか分からない戦闘に緊張しながらも不安を隠しているんだから」

 

そう言うと弦十郎はそうだがそういう事ではないと言う。

 

「ガンヴォルトの言う様に俺達も今の状況不安にさせない為にも焦らない為にも、平静を表面上保っている。だが、お前は違うだろう?」

 

「違わないよ」

 

「いいや、お前の焦りは、不安は俺達が背負っているよりも更に大きく、重い。そして下手をすればいつその感情が溢れ出してしまうか分からない状態だ」

 

「七年近くの歳月とここ数日で起こった出来事で君が言うよりも、自身が隠しているよりも少し鋭い周りは気付くものなんですよ」

 

弦十郎と慎次が、まるで見透かしているかの様にそう言った。

 

「…いいや、大丈夫だよ。確かに、一人になった事は皆に不安と焦りを悟られない様にする為なのは認めるよ。でも、もう大丈夫。問題ない」

 

「嘘だな」

 

「嘘ですね」

 

「何で二人はそう言うんだ?」

 

ボクは少し苛つきながらそう言った。

 

「俺達はお前と長く苦楽を共にしている。手一杯じゃ直ぐには気付けないかもしれないが、少し落ち着けば分かる。それに今回出したお前の策は俺達を入れずに考えている。前と同じく、一人でやるべき事をやろうとしている。その証拠にさっきの策にお前はボクとだけ言った。俺達を戦力として数えていない」

 

「ッ!?」

 

指摘されて自分でも気付かずそう言っていた事に驚いてしまった。

 

「以前の…翼が傷付いたから時のお前ならそう言っていただろう。しかし、最近は、シアン君がいた時はそんな事も無かった。だが、今のお前はどうだ?自分が傷付いても構わない。指摘されるまで単独で無謀にも挑もうとする。それの何処が大丈夫なんだ?」

 

「確かに辛い状況で、正常な判断が出せないのにも気付けない程疲弊しているんです。だからこそ、焦っては駄目です。それはガンヴォルト君自身が分かっているはずです。焦ってはアシモフに足元を掬われる。理解しているからこそ、今ガンヴォルト君に必要なのは休息です。現場での緊張感、そしていつアシモフが攻めてくるか分からない不安と焦り。今の状態ではアシモフに勝てない。それは自分でもよく分かっているでしょう?」

 

弦十郎や慎次の言う通りかもしれない。シアンを取り戻す為には不安を、焦りを僅かでも取り除かなければならない。今の状態ではアシモフに勝てないと分かっている。

 

休息が大事なのは理解出来る。休める時に身体を精神を安定させるのに休む事は重要だ。しかし、今のボクには休息が出来ない。難しいのだ。

 

「…確かに重要かもしれない。休まないといけないのは理解している」

 

その言葉に何処か引っ掛かりを気にする弦十郎と慎次。

 

「なら何故やろうとしない?」

 

弦十郎がそう言う。

 

「出来る事ならしたいさ。でも、弦十郎も慎次もさっき言った様に、今の状況がそうさせてくれない」

 

「いや、少しでもいいんです。横になって目を瞑れば」

 

「それが出来ないんだ、慎次。今の状態じゃ、ボクは余計に疲れてしまうんだ…」

 

二人にだけは話しておいた方が良いと思い、ボクが何故そう言ったのかを話す。

 

「弦十郎や慎次のさっき言った通り、今の状況がそうさせてくれない。シアンを奪われた事で、皆が狙われている状況で、眠ろうとすれば、見たくもない夢を見るんだ。アシモフにシアンを殺されてあんな姿にしてしまった時の事を。何も出来ず、深淵(アビス)で死にかけて、シアンを奪われた時の事を。そして見たくもない、絶対になっちゃ行けない未来()の事も」

 

ぽつりぽつりと話す。

 

「皆がアシモフによって殺される。そんなあってはならない夢を寝れば必ず見させられる。眠っている間永遠に。絶対にさせない。だから見たくない。想像したくない。振り払おうにもこんな状況になった事で最悪の状況を想像してしまうんだ」

 

「…」

 

弦十郎も慎次もその言葉を聞いて絶句していた。

 

そしてそこまで追い詰められていた事にまでは気付けなかった事を不甲斐なく思う様に、顔を曇らせ、翳りを見せる。

 

心配してくれるのは嬉しい。だが、現状はボクの疲弊を回復はさせてくれない。アシモフを殺し、シアンを取り戻さないとこの不安も、疲弊も抜ける筈がない。

 

「何故そこまで追い詰められているのに隠していた…何でそこまで…」

 

「悪いと思っているよ。でも、話す機会が無かったんだ。シアンを奪われて、装者達が狙われて、こんな状況で。いかにアシモフを殺すか、F.I.S.を止めるかの状況でボク一人だけが弱みを見せる事なんて出来なかったからだよ」

 

弦十郎は小さくそう言うのでボクは答えた。

 

弱みを結局を見破られている為に、もう隠す必要もない。だが、その結果、弦十郎も慎次も、ボクに対する、いや、ボクがアシモフに勝つ事が出来ないかもしれないと思うだろう。

 

「でも死ぬ気なんてない。もうあんな経験は二度とごめんだから。ボクは必ずアシモフを殺すよ」

 

「…ッ」

 

弦十郎も慎次も何か言いたそうだが、言葉が出ず、何も言えていない。ボクはそんな二人を見て、隠していてごめん、だけど大丈夫だからとだけ言って部屋から退室した。

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