戦姫絶唱シンフォギアAB   作:株式会社の平社員

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ウェルがナスターシャの治療をする傍ら、マリア、切歌、調がそれを見守る。

 

「アシモフは何処ですか?」

 

「アッシュは休息を取って寝ているよ。幾度となくガンヴォルト、そして二課との戦闘をして、更に色々と今後の計画の手順を考えて疲れているからね。少しくらい休んでもらわないといけないよ」

 

そう言ってナスターシャはウェルの側にあるケースの中に鼓動する物体を目にしてウェルに尋ねる。

 

「それがネフィリムですか?」

 

「ええ。正式にはネフィリムの心臓です。アッシュが以前より集めていた聖遺物を喰らわれていた事により、聖遺物に内包された莫大なエネルギーを蓄えたネフィリムの動力炉とでも言えばいいですかね」

 

ナスターシャの疑問を答える様にウェル言った。

 

「ですが、これはただの動力炉ではありません。以前のカ・ディンギル趾地でガンヴォルトから奪った電子の謡精(サイバーディーヴァ)を封じ込めている神獣鏡(シェンショウジン)から溢れる力で、ネフィリムの心臓を持ちさえすれば思いのまま五つの第七波動(セブンス)を使用出来る代物です。そして我々の計画に必要なフロンティアの動力源になり得る」

 

以前からネフィリムが第七波動(セブンス)を使えるのはアシモフが以前に手に入れた聖遺物が関係しているのは察している。そして、これがフロンティアに必要な事も。しかし、アシモフはセレナを使って何かしようとしている事。

 

「まあ、貴方がフィーネであった時に手に入れてくれたおかげですね。その時ボクもアッシュも他の研究や聖遺物を集めるのに忙しかった事もあり助かりましたよ」

 

「…ええ、そんな事もあったわね」

 

「おかしいですね?ここ数年前の出来事ですし、貴方がアッシュに頼まれた事ですが、覚えていないんですか?」

 

「ウェル博士。まだマリアは完全にフィーネの覚醒をしている訳ではありません。記憶はまだあやふやで思い出している事と思い出せない事もあるでしょう」

 

「…まぁ、そういう事にしておきましょう。それよりもこれでようやく計画に必要な物が全て揃いました。後はフロンティア起動の為の準備をしながらアッシュの回復が済み次第、計画を進めていきます」

 

「待つデス!計画を進めるって言ったってまだ邪魔をするあいつらがいるデス!」

 

「ああ、機動二課の事ですか?それはもう心配しなくても良いですよ」

 

「何が心配しなくて良いの!あっちにはまだシンフォギア装者が四人もいる!ガンヴォルトがいなくなったからってまだ心配事がなくなった訳じゃない!」

 

切歌も調もまだネフィリムの心臓にセレナが囚われている事を知らない為に、不本意ながらも戦闘に参加するに当たっての懸念を叫ぶ。

 

「君達の言う通り、敵はまだ戦力を残しています。特に、君達の絶唱を受け止め、それを空へと打ち上げた立花響、そして、貴方達とは比べ物にならない戦闘経験を積んでいる三人の装者。更にこっちには不都合な事にガンヴォルトは未だ生きているという事実」

 

「ッ!?」

 

その言葉にウェルを除いた全員が絶句する。ガンヴォルトはアシモフが殺したと伝えられていたからだ。そしてアシモフの様な外道が殺し損ねたという事があまりにも信じられないからだ。

 

「ガンヴォルトはアシモフが殺したと言っていませんでしたか?」

 

「ええ、アッシュも確実に心臓を穿ったと言っていました。呼吸も心臓の鼓動も停止した事を確認して電子の謡精(サイバーディーヴァ)を奪ったと。しかし、アッシュも予想外の事が起きたみたいです。アッシュ曰く、電子の謡精(サイバーディーヴァ)の残した力でガンヴォルトが生きながらえたと」

 

その言葉にナスターシャ、マリア、切歌、調は違う表情をする。ナスターシャはかつての二人の虐殺を止めた恩があるが、自身の目的にも支障をきたす存在がまだいる事。マリアも同様にナスターシャと同じ気持ちであった。切歌と調は何処となく安心した様な面持ちである。二人にとって敵でもあるかもしれないが、一度手を汚さないでくれた人である為に、良かったと思う一方、また戦うかもしれないと複雑な心境であった。

 

「まあ、ガンヴォルトに関してはアッシュがなんとかしてくれるでしょう。アッシュ曰く、もうガンヴォルトは脅威ではない。アッシュの持つ力の前には一人ではどうしようもないと言っていましたから、ガンヴォルトが邪魔になると感じる事もないでしょう」

 

「…そうですか。分かりました。計画を進める事は私も賛成です。しかし、この様な状況で進めるのは支障をきたす可能性があります。アシモフ同様、私達も少し休ませてもらえますか?」

 

「…まぁ、いいでしょう。アッシュもどれくらい休めばいいか分からない状況ですし、ですが、くれぐれも変な真似をしないでくださいね。貴方達には以前、僕とアッシュの計画していた選別の邪魔をされた経緯があります。もし、また変な気を起こそうとしたら、次はないと思ってください」

 

ウェルの言葉にナスターシャが頷くのを確認した後、ウェルは治療していた部屋からネフィリムの心臓を持って出て行った。

 

残された四人。そしてナスターシャはウェルが離れていくのを確認した後、これからの事を三人へと話し始める。

 

「これから私達は命を懸けてアシモフ、ウェル博士を裏切ります」

 

「ッ!?」

 

何も知らなかった切歌と調はナスターシャの言葉に息を飲み絶句する。無理もない、先程のウェルの脅しの様な言葉の後にナスターシャが裏切ると発したのだから。だが、二人は反対などはしなかった。元よりあの二人に対して外道以外の感情を持ち合わせていなかったからである。

 

しかし、そうなると問題がある為に切歌が言う。

 

「あんな外道共から離れるのは賛成デス!でも、そうなると私達が為そうとする目的が…」

 

「切ちゃんの言う通り、私達だけじゃどうにもならないよ、マム。資金も機材も無いのにどうやって」

 

「全てアシモフにより用意された物。ここの全てを失う事にはなりますが、問題ありません、新たな協力者は既に見当をつけています。アシモフより巨大で、私達の持つ技術さえあれば取引に応じる可能性のある協力者が」

 

既に見当のついた協力者になる可能性のある所には目を付けている。だが、協力を仰ぐには些か超えなければならない壁は大きい。だが、それでもアシモフを出し抜いて自身達の目的の為に。そしてセレナをこんな事に使わせない為に。

 

計画は遠回りになる。だが、それでも、セレナを。大切な家族をアシモフの様な外道に利用されない為に。

 

ナスターシャはセレナを、ネフィリムの心臓をどうにかしてアシモフ、もしくはウェルの手より奪い、気付かれずに新たな協力者候補との連絡手段を考え始めた。

 

◇◇◇◇◇◇

 

アシモフが休息を取る部屋にウェルが入ってくる。

 

「アッシュとりあえず、ナスターシャ博士の治療を終えたよ。しかし、良かったのかい?あの連中、僕達に対して物凄い不満を抱えているし、そろそろ裏切る可能性もあると思うんだけど、治療なんてして」

 

「気にする事はない。奴等は我々の持つネフィリムの心臓さえあれば裏切るに裏切れないからな」

 

「フロンティアの起動による人類の救済の為だね。それ以外に方法が有れば裏切る可能性もあるけど、ネフィリムの心臓に変わる動力炉はありはしないさ」

 

「その事もあるが、もっと根本的な事だ」

 

アシモフの言葉にウェルは分からないといった風に疑問符を浮かべる。

 

「まぁ、分からなくてもいい事だ。裏切らなければ計画には何の支障もない」

 

アシモフは分からないと疑問符を浮かべるウェルにそう言う。

 

「次に奴等には餌になってもらう。何のアクションもないが、目障りな連中を消去(デリート)しなければならない」

 

「ガンヴォルトの事かい?確かに、一番の計画に支障をきたす奴だけど、敵の為に動くかい?」

 

「あれはそういう人間だ。だが、今回消去(デリート)するのは奴じゃない。さっきも言っただろ。何のアクションも起こさないが目障りな連中と」

 

「ああ、そういう事か!」

 

ウェルはアシモフが言いたい事を理解してそう言った。

 

「だけど、今やるべきかい?あの程度の連中ならそんな直ぐに始末する程?」

 

確かにそうかもしれない。だが、アシモフにとっては違う。どんな小さな綻びになるかもしれない存在があれば消さなければならない。かつての自分が起こした過ちで今の様に当初の計画より時間が掛かっているのだから。

 

だからこそ、摘まねばならない。自身の目的の障害になるものを。邪魔になる存在を。どんなに小さかろうと消さなければならない。

 

「どんなに矮小な存在だろうと、私に抗うのなら消去(デリート)する。そんな矮小が残っていると後々に痛い目に遭う。私はそれを身に染みて実感している」

 

かつての奴のように。あの時、トドメを刺さなかった自分が犯した過ちを繰り返さない為にも。

 

「…確かにどんな矮小だろうと消すに越した事はない。分かったよ、アッシュ。その辺りは僕じゃなくアッシュに任せるよ」

 

「元より、その役割は私が行うものだ。Dr.ウェルはフロンティア起動や他の有用な情報でも集めていてくれ」

 

「そうさせてもらうよ。それと一点、少し気になる事があるんだけど…」

 

「何だ?」

 

ウェルはアシモフに疑問に思った事を口にする。それは先程のマリアとの会話。

 

「彼女、マリア・カデンツァヴナ・イヴは本当にフィーネの転生体なのかな?記憶がまだはっきりしていないと言っていたけど、どうも引っかかるんだよね」

 

「ああ、その事か」

 

アシモフはウェルの言葉を聞いて直ぐに答えた。

 

「あれはフィーネの転生体などではない。Dr.ナスターシャの真っ赤な嘘だよ」

 

「やっぱりか、さすがアッシュ。既にその事を知っていたんだね」

 

「私が何の為に本物のフィーネに敵意(ヘイト)を稼いでいたと思っている。本物のフィーネで有れば私の行った所業を許しはせんさ。それなのに憎悪は持っているにしても余りにも矮小。欺くにしては杜撰。本物のフィーネで有ればもっと狡猾に私へと復讐するだろう」

 

本物を知っているからこそ、マリアが本物ではない事は初めから把握している。

 

「まぁ偽物でも本物でもどうでもいいさ。本物であろうと、フィーネが私を殺す事など不可能だからな。それに奴のネームバリューは役に立った。特に奴や機動二課に対しては」

 

電子の謡精(サイバーディーヴァ)を手に入れる為の餌として、そして次は標的を消去する為に。

 

「使い潰すさ。使えるものは最後まで有用に」

 

ニヒルな笑みを浮かべたアシモフに同調するようにウェルも釣られて笑うのであった。

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