戦姫絶唱シンフォギアAB   作:株式会社の平社員

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54GVOLT

辺りでナスターシャから聞かされた事実。フィーネの魂は誰にも宿らなかった。

 

それを聞かされてマリアはホッとすると共に、その事がバレればアシモフとウェルがマリア達が裏切る前に始末する可能性があるのではと考えていた。

 

だが、アシモフもウェルもその事を知った気配を見せない。依然として計画を遂行させる為に、行動をしていた。

 

(バレてはいない…でも、アシモフ、もしくはウェルがこの事を知って仕舞えばどうなるか分からない。私達は隠し通せるの…あの外道共から)

 

マリアは不安で仕方がなかった。常に気を張り続けなければいけない状況。しかし、疲れてでもやり通さなければならない。アシモフが、ウェルがセレナを何かに利用させられる。そんな事させない。唯一の救いはアシモフは何故か機内ではなく、やるべき事があるとウェルに告げ、何処かに行ってしまった事である。だが、やる事。それは敵対する機動二課、もしくは選別と称した虐殺。それはマリア達にもその事が重しとなっていく。

 

しかし、マリアは何とか持ち堪えている。ネフィリムの心臓。あれさえ奪う事が出来ればセレナは使われない。そして、ネフィリムの心臓をどうにかすればまたセレナに逢える可能性がある。そして今の現状を打破する事が出来る。

 

その事が今のマリアの支えとなっている。

 

「…」

 

機内で一人になってどうすれば奪えるかだけを考え続ける。

 

そんな時、自身の無線に何者からかの連絡が入る。この無線の周波数はF.I.S.、そしてアシモフとウェルだけしか知らない。アシモフとウェル、そしてナスターシャは既に機内に居る。近くであれば態々無線などする必要が無い。今この機内にいないアシモフもしくは切歌か調のどちらかが無線したとしか考えられない。

 

マリアは耳元の無線に手を当てて、答える。

 

「どうしたの?」

 

『マリア!大変デス!調が!調が!』

 

切歌の慌て様に非常事態が発生したと感じ、状況を切歌に確認する。

 

「落ち着いて!切歌!敵なの!?あいつらなの!?それとも!?」

 

機動二課、ウェルが別の方法で何かした可能性を考える。そしてタイミング良くいないアシモフ。何があったか切歌に問う。

 

『違うデス!でも、緊急事態デス!調が!調が頭を打ってしまったデス!どうすれば良いデスか!?マリア!?』

 

敵でも、アシモフ達でも無い事にホッとするも、調が頭を打った事を聞いて調が危険な事を知るとマリアは一目散に機内の操縦室へ向かう。

 

操縦室に入り、直ぐに操縦桿を握り、神獣鏡(シェンショウジン)を起動して迷彩を輸送機に施すと出発する。

 

輸送機が動く事に気付いたウェルとナスターシャが、操縦室へと入り込んで来る。

 

「一体どうしたのですか、マリア」

 

「勝手に輸送機なんて動かしてどういうつもりですか?」

 

状況を把握していない二人がそうマリアに言う。

 

「調が今危険な状態なのかもしれないの!あの子、何があったか知らないけど、頭を打ったの!」

 

それを聞いてナスターシャは驚き、直ぐにマリアに急ぐ様に伝える。ウェルはその事に対して慌てはしてないが、苦い顔をする。

 

「全く、何してるんですか…計画に支障が出たらどうするんですか?」

 

「今そんな事はどうでも良い!とにかくあの子達の所に直ぐに向かうわ!ウェル博士!貴方は調の治療が出来る様にお願い!」

 

「はいはい。分かりましたよ。あの子達に施した僕の作り出したLiNKERの効果の経過観察もありますし、回収は反対はしませんよ。でも勝手な事をしてるんだからアッシュにもその事を伝えさせてもらうよ」

 

「勝手にしなさい!」

 

マリアはウェルを一瞥してそう叫ぶと急ぎで、切歌と調の元へ向かった。

 

近場であった為、直ぐ様着く事が出来たが、輸送機から降りて切歌と調の周りの惨状を見て、直ぐに二人の元へと駆け寄る。それに気付いた切歌は涙を流しながら、叫んだ。

 

「マリア!」

 

「切歌!調は無事!?」

 

「分かんないデス!でも調の意識が!?」

 

切歌も、こんな事になっていて慌てており、上手く状況を伝えきれていない。周りにはパイプが散らばっており、それが落ちている二人は巻き込まれた可能性がある。ともかく、切歌をナスターシャの元へ向かう様に伝え、調を抱き上げ、輸送機へと入り込む。

 

今は人が居ないのだが、この惨状、いつ周りに人が集まるか分からない。直ぐに調をウェルの元へ連れて行くと、マリアは直ぐ様輸送機を出発させた。

 

ウェルに調を任せて、安全圏である先程の湖の辺りまで戻ると、何があったか切歌に確認する。

 

切歌はナスターシャの膝元で涙を流し、ごめんなさいとばかり言っていた。ナスターシャはそんな切歌を慰める様に頭を撫でていた。

 

「何があったのですか、切歌?買い出し中に」

 

ナスターシャが頭を撫でながら切歌に問い掛ける。

 

「ぐすっ…調と一緒に少しだけ休んでた時に、言い合いになっちゃったデス…あの事で…」

 

切歌はそんな状態でありながらも、アシモフかウェルが聞いているかもしれないと濁しながら話してくれた。

 

「…」

 

アシモフという外道を裏切るには相応の犠牲が必要という調の考え。最悪の考えであったが、調の懸念はごもっともと考える。だが、何故調が犠牲にならなければならないという考えに至ったのか。マリアとナスターシャはその原因が自分達が不甲斐ないばかりであると考えてしまう。ナスターシャは世界を救うという事ばかり考え、自身だけじゃなく、アシモフとウェルという外道と手を組んでしまった事。マリアは自身がもっと力を持っていれば、二人にこんな事を想像させてしまった事を。

 

そして全員が一致した裏切り。

 

それが今の二人を不安に思わせてしまい、この様な事態になってしまった事を。

 

怒る事は出来ない。自分達の所為で二人に不安にさせていた事であるが故に、ナスターシャもマリアも切歌を、そして調を責める事など出来はしなかった。

 

「…それに…」

 

そして切歌はまだ何かあるかの様にか細い声でそう言った。

 

「…」

 

だが、切歌はそれ以上言葉にする事はしなかった。ナスターシャはそんな切歌の頭を撫でながら問う。

 

「他に何かありましたか、切歌?」

 

「…買った物…全部台無しにしちゃいました…」

 

切歌の言葉に少しだけ呆気に取られたが、そのくらいの事で二人は責めはしなかった。

 

ともかく、今は切歌が無事である事。そして調が何とも無い事が二人にとって最も重要だったから。

 

だからこそ、切歌の言葉に何か隠れている事に気付けなかった。

 

◇◇◇◇◇◇

 

その後、調は意識を取り戻し、軽い打撲だけで特に異常がなかった事をウェルから告げられる。

 

「頭の方は軽い打撲だけで、特に脳に異常はありませんでした。良かったですね。それと本命のデータを取らせて頂きましたので、また次回、貴方も取らせてもらいますよ。データは多い方がいいですからね。あと、今回の件はアッシュに報告させて頂きますから」

 

そう言って、ウェルは治療室から出て行った。

 

「ごめんなさい。皆に迷惑掛けて」

 

「…確かに、調の所為で危ない状況に陥りました」

 

ウェルが聞いていない事を確認してナスターシャはそう言った。仕方ない。

 

「マム!調の所為じゃ無いデス!私が!私があんな所に!」

 

ナスターシャの言葉に反応して切歌が調を庇う。

 

「切ちゃん…」

 

「切歌、調。私は別に怒っている訳じゃありません。危険な目に遭ったかも知れませんが、貴方達が無事であればいい」

 

「とにかく、調に何ともなくて安心したわ。だけど暫くは安静にしてなさい」

 

調に対してマリアも休む様に伝える。その言葉に調は頷いて、マリアは優しく微笑んだ。

 

「マリア…マム…」

 

切歌も調も泣きそうになりながら二人の心遣いに感謝する。だが、それ以上に自分達の所為で皆を危険な目に晒した事に深い罪悪感を覚える。

 

「大丈夫…絶対に何とかしてみせるから…マム、時間がないわ。協力者との接触を急ぎましょう」

 

「ええ、ウェルがアシモフに報告する以上、計画を早めるしかありません」

 

そう言ってマリアとナスターシャは裏切る準備を早める為に部屋を出て行った。

 

残された切歌と調。二人は顔を見合わせる。そして調が先に話を始めた。

 

「ごめん、切ちゃん。私がこんな事になった所為で…」

 

「調が無事なら良いデスよ…でも、調。あの時の事はもう考えないで欲しいデス。私達は誰もいなくなっちゃならない。それに誰かが犠牲になるなんて考えちゃダメデス」

 

「うん。もう考えない。誰もいなくなっちゃダメ。大切なマリアや、切ちゃん、マム。それに私も。誰かがいなくなったら絶対に嫌だから…誰も欠けちゃ嫌だから…もうあんな考え絶対にしない」

 

調の言葉に切歌も安心して良かったと言う。でも、切歌はその言葉とは裏腹に胸を痛めた。

 

あの場で、起きた出来事。降り注ぐパイプを防いだ謎の光の壁。あれが切歌には何となくだが分かってしまった。シンフォギアとも第七波動(セブンス)とも違う力。歌を介しておらず、切歌にそんな特殊な力を持っていない。となれば自ずと答えが出た。

 

あれがフィーネの力。そしてマリアではなく、フィーネは自分に宿っているという事。フィーネが器である切歌を守る為に無意識下のうちに使われた力であると察したからだ。

 

だからこそ、切歌は誰も失いたくない。そして調にもそう思わせてしまったという事が、嘘になってしまった。だからこそ、その事を調にもマリアにもナスターシャにも話す事が出来なかったから、辛かった。苦しかった。

 

切歌は切歌で無くなってしまう。自身がフィーネになってしまうという事実が、今の切歌を苦しめる呪縛となってしまった。

 

そしてそれを喋る事をしなかった自分に。そして大切な皆に嘘を吐いてしまったという事が、今の切歌の胸を苦しめる事となってしまった。

 

◇◇◇◇◇◇

 

「と言う事で、アッシュ。あいつらの不手際で少し状況が悪くなってしまった可能性があるんだけど、どうする?」

 

アシモフへと先程の件をアシモフへと報告していた。

 

それを聞いてアシモフは溜め息を吐いた。

 

『全く、役に立たない駒だ。ただの買い物すら出来ないのか』

 

アシモフは何か作業をしているのかガチャガチャという音を鳴らしながらそう言った。

 

『まぁいい。それなら奴等は計画を早めるだろう。Dr.ウェルも準備を進めろ。この国に入り込み、私達の計画を邪魔しようとしている者達の消去(デリート)を予定より早く開始する。既に奴等の接触(コンタクト)する場所に今仕掛け(サプライズ)を用意している』

 

「了解したよ。しかし、馬鹿な事を考えるものだよね。向こうの計画なんて既に此方に筒抜けなのに。バレてないと思って、準備なんて進めちゃって。滑稽としか言いようがないよ」

 

『ああ。だが、警戒は怠るなよ。常に私の考えている通りの計画通りに物事は動く事はない』

 

アシモフはそう言った。計画は着実に進んでいる。だが、アシモフの言う通り、計画の過程で不祥事にはならない物の、予想外の事が多々起きている。消した筈の、殺した筈の人間が再び目の前に現れる。そして、脅威となる者達が増えている。

 

だからこその言葉。ウェルもそれを理解している故に言った。

 

「分かっているよ。誰も僕達の計画の邪魔をさせない。僕が英雄になる為に、アッシュの計画を成功させる為に。どんな小さな綻びだろうと必ず摘んで見せるよ」

 

『分かっているなら良い。失敗も奴等にも気取られるなよ』

 

「勿論だよ」

 

その言葉を最後にアシモフとウェルの通信が終わる。

 

「さてと、僕もアッシュの為に働きますか」

 

そしてナスターシャとは別に、アシモフの計画通りにウェルは動き始めた。

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