戦姫絶唱シンフォギアAB   作:株式会社の平社員

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二課本部。再び集められた装者達。

 

そして弦十郎の背後に浮かぶ大きなモニターには現在の響の胸に埋まるガングニールによって侵食されていく響の身体が映し出されていた。

 

「響君の胸に埋まるガングニールの現状だ。響君の体内を侵食して新たな臓器を作り出した。以前の侵食よりもかなりの早いペースで響君の体内を蝕んでいる。彼女達F.I.S.の装者の絶唱を束ね、それを放った影響だ。そしてこれが響君の力を増大させ、響君を人ならざるものに誘う悪魔だ」

 

映し出された体内に新たに、心臓の横に生み出された臓器。それはまるで心臓と同じ鼓動をする様に脈打っている。そして心臓を飲み込まんとばかりに蠢いている。

 

「つまり、私はこれ以上シンフォギアを纏う事が出来ないかも知れないという事ですか…」

 

「響君の症例は初めてであり、俺達も手探り状態であるが故に、分からない事だらけだが、端的に言えばそういう事だ。進行していくのをただ黙って見ている訳にはいかない」

 

「…」

 

奏、翼、クリスも響の状態が予想以上に進行している事に言葉が見つからず、ただ辺りは沈黙が支配する。

 

「…分かっています。これ以上シンフォギアを纏うと、私が私でいられなくなるんですよね…」

 

翳りを見せる表情で響はそう言った。

 

「そうだ。俺達はこれ以上君を戦わせる事は出来ない」

 

弦十郎も非情かもしれないが響にそう伝えた。戦力のダウン。だが、それでも響を犠牲にしない為にもそう答えるしかなかった。

 

その言葉に響は拳を強く握り、ただ俯く。

 

「…」

 

響が辛い気持ちは誰もが理解している。だが、それ以上にこの中の誰もが同じ気持ちだった。響には人で、響のままでいて欲しい。

 

そして響もその事を理解している。翼に以前にも言われているからこそ、戦わないといけない。まだやらなければならない事があるとは言えなかった。

 

切歌や調、そしてマリア。アシモフに協力する装者達と話し合わないといけない。だが、状態を知った今、そしてこの場にいる全員が、戦って欲しくないという為に、何も言う事が出来なかった。

 

「…響君がこの戦いでF.I.S.と話し合ってなんとかしたい事は分かっている。だが、そうなれば戦闘は避けられない。シンフォギアを纏わなければどうにもならない」

 

「…はい…」

 

響は俯きながらそう答える。分かっている。シンフォギアを纏えない以上、響に戦う力はない。それでもどうにかしたいと思うが、こんな状態であれば全員に迷惑を掛ける事、それに親友である未来を更に不安をさせてしまう。

 

辛いのは分かっている。だからこそ、響は黙って従うしかなかった。

 

弦十郎はそんな響を見て心苦しそうにする。だが、犠牲にしない為にそうするしかない。

 

「だが響君が戦えなくなったからと言って君自身の脅威が遠かった訳じゃない。ガングニールの侵食がシンフォギアを纏わなければそれ以上の進行はないとは言い切れない。そして最も警戒しなければならないのはアシモフ。響君がシンフォギアを纏えない事はまだ相手が知らないかも知れないにしろ、先の戦闘で何か気付いている可能性もある。そして更に、響君、いや、この場の全員、そしてガンヴォルトも全員の殺害もしようとしている。例え、戦場から離れたとしても、響君の危険は何ら変わりがない」

 

弦十郎は今現在分かっている事。アシモフの危険性がシンフォギアを纏えない事により、更に増えるという事。いや、纏えたとしても、今この場にいないガンヴォルトでも敵わない可能性のある男に挑もうとすれば奇跡が起こらない限り、結果は目に見えている。

 

「退院しても響君には警備をつける。迷惑かも知れない、だが響君の為なんだ」

 

「…分かりました」

 

響は弦十郎の言葉に黙って従う。

 

「響…戦えない事が辛いのは分かる。だけど弦十郎の旦那の言う通り、私達だって響を失いたくないんだ」

 

奏が響に対してそう言った。誰もが響は響のままあって欲しい。だからこそ、もう纏わないで欲しいそう思っているから。

 

「…奏さん…」

 

「私も雪音も同じだ。大切な友人を失いたくない。立花は立花のままであって欲しいんだ」

 

「お前の親友だってそう思ってるんだ。だからもう危険な目に飛び込まなくて良い」

 

翼もクリスも響を心配してそう言った。弦十郎も後は近い年齢の三人に任そうと、部屋を出て行った。

 

そして部屋を出た弦十郎は直ぐ様に通信機を入れて連絡をする。

 

「…ガンヴォルト、いいか?」

 

『弦十郎…どうしたの?』

 

疲れを感じさせる声音のガンヴォルト。休むように言ったのだが、ガンヴォルトを苦しめる悪夢により、以前にも増して疲弊している事が、声だけで分かってしまう。

 

「…」

 

今のガンヴォルトに頼むのは心苦しい。だが、アシモフと対峙した際、対処出来る可能性があるのもガンヴォルトしかいない。

 

「頼みがある。響君の警護をお願いしたい」

 

『…分かった。装者の中で今一番危険なのが響だから、それにアシモフに狙われているならそうせざるを得ない」

 

ガンヴォルトは直ぐに了承する。助かるのだが、それ以上にもし、アシモフが響の前に現れ、今のガンヴォルトがアシモフと対峙した時の事を想像してしまう。

 

疲弊したガンヴォルト、そして今まで以上に力を得たアシモフ。悪い意味で結果は見えている。

 

「だが、お前の任務は響君を守る事だ。アシモフに遭遇しようが、響君の安全を、そしてお前自身の安全を優先しろ」

 

『響をアシモフに殺させはしない。だけど、最後は保証出来ない』

 

「ガンヴォルト!」

 

『弦十郎の言いたい事は分かる。だけど、今のアシモフに確実に勝てる、逃げ切れる確証が無い以上、約束は出来ない』

 

ガンヴォルトの言う通りだ。分かっている。アシモフという男がどれだけ脅威であるかを。

 

だからガンヴォルトもそう言っている。そのどちらも両立出来るかなんて保証出来ない。

 

「…」

 

『心配してくれてありがとう。保証は出来ないけど何とかやってみる。ボクももう死にかけるのは懲り懲りだし、アシモフをこれ以上好き勝手させられないから』

 

ガンヴォルトはそう言った。

 

「…本当に悪い…俺にもアシモフに打倒できうる力があれば…」

 

『無いものを強請ってもどうにもならないよ。とにかく、響の警護は気付かれない様に何とかやる。今の状態で響の近くにいても、心配させるだけだから。それと、奏や翼、クリスにも。今の状態じゃ響同様心配を掛ける。連絡は返しているけど、会って更に心配を掛けたくない』

 

他の装者とも連絡はしているが、会う事をしていない様だ。それがもっと装者達に心配を掛けていると思うが、今のガンヴォルトと会えば、アシモフを殺す事を助長させてしまう可能性がある為に、最適なのかも知れないと考える。

 

「分かった。今の選択は正しいのかも知れない。だが、あの子達の事をもう少し考えてくれ。おまえに会えない事で不安になっているはずだ」

 

どちらにせよ、助長させているには変わりない為、ガンヴォルトにそう告げる。

 

『…善処するよ』

 

少し困った様に言うガンヴォルト。彼女達にとってガンヴォルト自身が装者達の安定剤になっているかを理解していない様だ。だが、今の状態は流石に会わせられないと思い、それ以上の追求はしなかった。

 

「悪いが、響君の警護を任せたぞ。響君が退院したらまた連絡する」

 

『分かった。こちらも何かあれば直ぐに連絡をするよ』

 

そう言って弦十郎はガンヴォルトとの通信を切った。

 

単独行動をさせているガンヴォルトに響の警護を任せ、弦十郎もアシモフやF.I.S.の動きに対応する為に司令室へと向かった。

 

◇◇◇◇◇◇

 

弦十郎が部屋から出て、しばらく経って翼が響へと伝える。

 

「立花、今の辛い状況なのは分かっている。だが、これからの戦いに立花を巻き込まなくていいと少し安心している」

 

「どういう事ですか…」

 

巻き込む。既に巻き込まれているのに何故翼はそう言うのか分からない響。

 

「私達はアシモフを殺す為に今後動く」

 

「ッ!?」

 

翼に告げられた言葉に驚きを隠せない。

 

「なんで…なんで翼さんも奏さんも、クリスちゃんもアシモフって人をそんな事しなきゃならないんですか!?」

 

響は聞かされた事に驚き、問い返す。

 

「ガンヴォルトだけに殺人と言う罪を押し付けたくないからだ」

 

翼の言葉に響は驚きを隠せないでいる。アシモフを殺す。それをガンヴォルトが行おうとしていたからだ。

 

「国や諸外国から既にアシモフの殺人命令が下されている。そしてガンヴォルトは私達が知らない間にそれを了承して、一人で実行しようとしていた。私達にそんな事させられないと。殺人と言う罪を被せない為にも」

 

「そんな…」

 

響が知らぬ間にあった事。既に下されたアシモフの殺害の命。

 

「話し…」

 

話し合えば、そう言おうとしたが響は口をつぐんだ。アシモフと面と向かって対峙した事は沖縄でしかない。

 

だが、それを言うのを躊躇ってしまう。アシモフは話し合えば、どうにかなる様な人物じゃない事を理解しているからだ。

 

大切な友人、シアンを奪い、恩人であるガンヴォルトを何度も死の淵に追いやっている。そして、以前にも何の罪もない人達を躊躇いなく殺そうとした。更には響を含めた装者は全員アシモフに命を狙われている。

 

この国も諸外国も下した決断に響は真っ向から否定するだけの言葉を持てなかった。

 

殺人は悪い事。それはこの国の誰しもが道徳を学んで知っている。

 

「話し合いで解決出来る様な相手じゃない。それは響も分かっているだろう。もう止めるにはこれ以外の方法がないんだ」

 

奏が響に向けてそう言った。

 

「でも…」

 

「お前が言いたい事は分かる。だけど、私達はあいつにばかりそんな重しをずっと背負わせ続けるのは我慢出来ない。あいつも私達がやろうとしているのは反対している。だけど、私達はあいつがもう一人で背負わせるのを黙って見ているのは耐えられないんだ」

 

クリスも響に向けて三人の覚悟を、そしてガンヴォルトにばかりそんな事を背負わせないと言う。

 

ガンヴォルトばかりに罪を背負わせるのは間違っている。それは響にも共感出来る。だが、それでも。それでも三人までそんな事をしようとしているのは正しいのかと疑問を持ってしまう。

 

「立花にとってなんでそんな事をしなきゃならない。間違っている。そう感じているだろうが、世界を救う為、シアンを助け出す為、F.I.S.を止める為、ガンヴォルトを助ける為。その全てを同時にやらなければならない。そしてその全てにおいて邪魔をするアシモフ。捕まえる事は不可能。だからこそ、ガンヴォルトは、私達はそれを実行するしかない。だからこそ言ったんだ。立花をもうこれ以上巻き込まなくていいと」

 

「響がこれを聞いたら間違っているかもしれない。だけど救う為にはそうするしかないかも知れない。迷いはこれからの戦いには死に直結する」

 

「…」

 

響にはその言葉を、覚悟を持った言葉に対して何も言えない。殺人は間違っている。だが、それ以外の世界を救う方法が見当たらない。どうすればいいのか。ガンヴォルトも奏も翼もクリスも。それ以外の答えを見出せない。

 

「心配してくれてありがとよ。だけどもう私達は決めたんだ。間違っているかも知れない。これが最善な答えじゃないだろうと、私達もこの件に関わる以上、黙っている事なんて出来ない」

 

クリスは何を言おうと辞めない事も告げる。奏も翼もクリスの言葉に賛同する様に頷いている。

 

もう響が何を言っても止まらない。どうやっても三人を止める事も出来ないと感じる。それほど先程の言葉に覚悟があった。

 

「立花、だから貴方はもうゆっくり休んで欲しい。司令の言った通り、まだ危険は去った訳じゃない。だけど、私達が、ガンヴォルトがアシモフを、F.I.S.をなんとかする」

 

それだけ伝えると、三人は病室から出て行ってしまった。

 

「…」

 

響はただどうすればいいのか分からなかった。

 

三人にも、そしてガンヴォルトにもそんな事をして欲しくない。

 

響の我儘だっていう事は分かっている。だけど、他の答えが響には何も思い浮かばない為に、悩む。

 

「…どうして…どうしてこんな事に…」

 

もう、シンフォギアを纏えなくなり、戦う力を失った。ガンヴォルトも奏も翼もクリスも、アシモフを殺そうとしている。

 

響には止められない。自分が何をすればいいのか分からない。

 

「どうすればいいの…未来…シアンちゃん…私…皆をどうやって止めればいいの…」

 

力を失った自分を。そして何も出来ない自分の不甲斐なさを感じながら、どうしようもならない事態にただ苦悩を強いられるのだった。

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