戦姫絶唱シンフォギアAB   作:株式会社の平社員

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56GVOLT

何処かに出掛けていたアシモフは帰ってくると、輸送機の中の一番広い部屋へと全員を集めた。

 

ナスターシャ、マリア、切歌、調はまだ自分達の裏切りには気付かれてない事を信じ、その招集に応じていた。

 

「さて、私がいない間に面倒な事をしてくれた様だな」

 

集められて直ぐにアシモフは切歌と調に向けて、鋭い視線を送る。

 

切歌と調はアシモフのその視線を受けて身体を縮こませ、恐怖する。

 

神獣鏡(シェンショウジン)があるとは言え、輸送機まで出張らせ、痕跡を残した事で計画に支障があればどう責任を取るつもりだ?奴が生きている以上、奴らに先手を取られる事がどれほど危険な事か分かっているのか?」

 

アシモフは冷静に言うが、言葉には怒りが見える。

 

「…申し訳ないと思っています。ですが、事故はいつ起きるか分からないものです。それに、あの場に切歌と調、二人が動けない状況である事は私達にとって不利益な事ばかりでしょう。あの場に両名が留まったとしてもしガンヴォルト、もしくは機動二課の誰か、そして装者と遭遇し、二人が連れて行かれれば私達の計画に支障が出るでしょう?」

 

ナスターシャの言葉は正論である。

 

「そうかも知れない。事故はいつ起こるかなどな。だが、今回はそこのお嬢さん(レディ)の勝手な行動をした事によるものだ。直ぐに目的を達したのなら戻ればよかったのだ。それを遂行すれば何も起こる事はなかっただろう」

 

ナスターシャの正論に正論をぶつけるアシモフ。確かにアシモフの言う通りかも知れない。だが、何故切歌と調がその様な行動を起こしたのかすら見当のついていないアシモフに対してナスターシャは怒りすら覚える。

 

全てアシモフ、そしてウェルに対するストレス。外道たらしめる行動。それが今回の要因を招いた事に気付いてないアシモフを睨む。

 

「誰の所為でこの様になったと思っているのですか…」

 

「そこのお嬢さん(レディ)だろう?私にその様な感情を向けるのはお門違いだ、Dr.ナスターシャ」

 

だが、アシモフは何処吹く風という風にナスターシャの睨みを全く気に留めず言う。

 

「私は計画の為に常に動き続けている。ネフィリムの覚醒、電子の謡精(サイバーディーヴァ)の奪取、計画に邪魔となる奴、機動二課、そして機動二課に属する装者の除去。全ては世界を救う計画を遂行する為に私は動いている。その行動を全て狂わせようとしているのは貴様達だろう?以前の爆弾の件、そして今回だ。全て貴様達が自ら招いた不祥事だ。私をどれだけイラつかせればいいのだ?」

 

アシモフから溢れ出る怒り。そしてそれが昇華して殺気へと変わる。室内の温度が一気に寒くなる様な感覚。

 

切歌と調はその殺気に完全に怯えてマリアにしがみついて涙を浮かべ、恐怖する。マリアもそんな二人を守ろうと必死になるが、今までに感じた事のない恐怖に怯えている。

 

ナスターシャも心臓が握られている感覚に襲われ、息が上手く出来ない。ウェルもとばっちりを受けた様で尻餅をついて怯える。

 

「計画を幾度となく邪魔をして、貴様達に利用価値が無ければ私は直ぐにでも殺している所だ。何の成果も上げられない貴様達が生きていられるのは、私と貴様達の協力という最低限の義理を通しているだけだ。だが、次に…次にまた何か失態を…どんなに小さな綻びを生むような出来事を起こせば義理など関係なく、排除すべき対象として貴様達を殺す。それだけは覚えておくといい」

 

室内を支配する殺気を抑え込んだアシモフはゴミを見る様な目でナスターシャ達を見て、部屋から出て行った。

 

「まっ、待ってくれよアッシュ!」

 

腰を抜かしていたウェルも殺気が収まった事によって、なんとか立ち上がるとアシモフの後を追って部屋を後にした。

 

握られた様に不規則な鼓動をしていた心臓が解放される。

 

「はぁ…はぁ…」

 

ナスターシャの身体が酸素を身体が欲する様に何度も呼吸する。

 

そして殺気がなくなり、マリア、切歌、調は腰を抜かしてその場にへたり込む。感じた事のない程の殺意。そしてそれに伴う恐怖。恐ろしい。それ以外言葉が思い当たらない。マリアはあまりの恐ろしさに涙を浮かべ、切歌と調に至っては完全に涙を流し、泣いてしまっている。

 

無事である事が全く喜べない。だが、年長者として、三人の親として、こんな状態のままにして置いて良いはずがない。恐怖を無理矢理にでも打ち勝ったナスターシャはへたり込んだ三人の元へ向かう。

 

「申し訳ありません、マリア、切歌、調…私が…私があんな外道達と手を組んだばかりに…申し訳ありません…」

 

世界を救う為にこんな事になってしまった。全て自分が間違った選択をした事で三人を傷付け続けた事をひたすら謝る。

 

だからこそ、もうこんな地獄に三人を置いている事は出来ない。この三人とそしてネフィリムの心臓。その中にいると思わしきセレナを必ずこんな地獄から救い出そうと誓う。

 

「絶対に…絶対にこんな場所から抜け出しましょう。必ず、四人で…」

 

例え自分の命が尽きようとも家族だけはこんな地獄から抜け出させるとナスターシャは誓った。

 

◇◇◇◇◇◇

 

部屋から出たアシモフは自身の武装がある部屋へ向かっていた。

 

あれだけの事を言ったのだ。直ぐにF.I.S.は動き出す。だからこそ、こちらもそれに合わせて準備する必要がある。

 

「アッシュ!いきなり脅かさないでくれよ!僕も怖かったじゃないか!」

 

ウェルも殺気に当てられてカッコ悪い場面を見せた事をアシモフに対して文句を言う。

 

「あの者達が早く動く様後押しをしただけだ。爆弾を設置しているとは言え、バレれば直ぐに計画が破綻するからな。それに、あの程度の殺気などでDr.ウェルも怯えるな」

 

歩きながらアシモフはウェルにそう言って部屋に入る。自身の持つ拳銃。そしてライフルを手早く分解をして手入れを開始する。

 

「しかし、アッシュ、あれだけでよかったのかい?見せしめで誰か殺せばよかったんじゃないの?」

 

「その手も考えていたが、有用に処理したいんだよ。私は」

 

アシモフの言葉にどんなやり方か分からないと言う風に疑問符を浮かべるが、アシモフはそれ以上何も言わなかった。

 

「ああ、それと」

 

アシモフはウェルに対して言ってなかったとばかりに付け加える様に言った。

 

「あの者達にも言った言葉はDr.ウェルも入っているからな。Dr.ウェルも私が計画している事に綻びを生んだ場合、例え君であろうと私は躊躇いなく殺す」

 

「ッ!?」

 

自分は関係ないと思っていたと考えていたウェルはそれを聞いて驚き、冷や汗を流す。

 

「じょ、冗談キツイよ、アッシュ…」

 

「私が冗談を言うと思うか?」

 

ウェルの言葉にそう返すアシモフ。その目には曇りなど無く、本気だという事が何も言わなくても理解出来た。

 

「英雄になりたいのだろう?英雄譚(サーガ)を作りたいのだろう?ならば計画通りに動けばいい。何の邪魔も綻びも生まないのであらば貴様が英雄になるまで私は手を貸すさ」

 

「本当だろうね?」

 

「ああ。あの時の約束はDr.ウェルが計画通り動いてくれれば必ず成し遂げよう」

 

ウェルは冷や汗を未だに流しながらも頷いて計画を遵守する様、アシモフの言う通り動き始めた。

 

◇◇◇◇◇◇

 

「はぁ…はぁ…」

 

崩壊した街の中、その中でボクはボロボロの身体で目の前にいる男、アシモフを睨み続ける。

 

「哀れだな、紛い物。一人で闇雲に戦ってくる姿は滑稽以外に見えないぞ」

 

「黙れ!アシモフ!」

 

ボロボロの身体でアシモフに向かい避雷針(ダート)を打ち込んで行く。だが、アシモフには避雷針(ダート)が当たる事はなく、電磁結界(カゲロウ)によってすり抜けて後ろの瓦礫へと向かい弾かれる。

 

だがボクはそれでもアシモフに向けて避雷針(ダート)を撃ち続ける。アシモフは電磁結界(カゲロウ)を使い、避雷針(ダート)を避けることなくすり抜けながらボクへと近付く。

 

そしてボクの目の前で拳を振るい、鳩尾へと叩き込んだ。

 

「ガァ!」

 

叩き込まれた拳を防ぐ事も避ける事も出来なかったボクはそのまま殴り飛ばされる。

 

直ぐ様立ち上がり、アシモフの元へ向かおうとするが、銃声が響く。

 

その瞬間、ボクの掌が熱を持ち、そして直ぐに物凄い痛みが手を駆け巡る。

 

「グッ!」

 

ダートリーダーを持つ逆の手を撃たれた。痛みを堪えながらも直ぐ様立ち上がろうとするも、再び銃声が響く。今度は腕、そして足を撃ち抜かれ、激痛が走る。

 

腕にも足にも力が入らずに、そのまま崩れ落ちる。そして、ボクが倒れて直ぐにボクの頭へとアシモフが足を踏み下ろす。

 

「ガァ!」

 

「ようやくだな。やっと貴様を殺せる。あの時、私がこの手で殺めなかったせいで邪魔し続ける存在になった貴様を」

 

頭を踏み付けながらアシモフはまた意味の分からない事を言う。

 

「本当に目障りだった、奴の真似事をする貴様は」

 

「訳分からない事ばかり言ってるんじゃない…」

 

ボクは頭を踏み付ける足を血に濡れた手で掴もうとする。だが、掴む前に弾丸がボクの腕に撃ち込まれ、どうする事も出来ない。

 

「訳が分からなくても気にするな、貴様を殺すのだから知る必要もないだろう」

 

アシモフがそう言うと通常の銃を仕舞い、強欲なる簒奪者(グリードスナッチャー)を装填された銃をボクに向けて構える。

 

「今度こそ、アスタラビスタ(さよなら)だ。私があの時残してしまった紛い物よ」

 

そして引き金が引かれ、ボクの身体を強欲なる簒奪者(グリードスナッチャー)が再び撃ち込まれた。

 

◇◇◇◇◇◇

 

「ッ!?」

 

強欲なる簒奪者(グリードスナッチャー)を撃ち込まれた瞬間に目を覚ます。身体中に嫌な汗を掻き、掻いた汗がシャツを湿らせている。

 

「…またこの夢を…」

 

疲労を少しでも取る為に近くにあった一課の施設を使って休息を取っていたのだが、疲れの為に寝てしまい、また夢を見てしまった。

 

ほんの少しの時間の睡眠だが、休息どころかどっと疲れてしまった。

 

アシモフとの戦闘で何度も味わっている敗北が、シアンを奪われた事が、そして更にアシモフがボクが大切になっている人達の命を狙う事が焦りを生んで、そして最悪の事態を想像してしまう。勝てる確証がない為に、不安が募り、悪夢をボクに見せてくる。

 

させない。何度も誓った。夢の様な最悪の事態にさせない。もうアシモフにこれ以上世界を混沌にさせない。

 

だが、本当に出来るのか。

 

そう考えがボクの中で駆け巡る。

 

「…いや、出来るか出来ないかじゃない…やるんだ…そうしないと大切な物を全て失う。守りたい物を全て奪われる…」

 

何度も駆け巡る不安を振り払う。そしてシャツが汗に濡れた為にシャワーを借りに行く。

 

シャワーを浴びる前にふと視線の先に映る鏡を見て自分の顔の酷さを見て、顔を顰める。

 

「…酷い顔だ」

 

そんな言葉しか浮かばない。それでも休息を取れない。疲労が取れない為に酷さは一向に治らない。

 

「もう少しで響の退院で警護もしないといけないのにな…」

 

会わないにしろこんなの状態ではもし見られたりすれば心配される。だが、休息出来ない以上どうしようもない。

 

とにかく、響や奏、翼にクリス。装者の面々には悪いと思っている。だが、それ以上に会わない事による心配以上の心配を掛ける訳にはいかない。

 

鏡から目を離して、気持ち悪い汗を流す為にシャワーを浴びる事にした。

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