励みになってます。ちょっと小説に集中したくてそうさせていただいています。
響は未来と共にスカイタワーへと遊びに来ていた。
だが、響は遊びに来たのに目の前の巨大な水槽を優雅に泳ぐ魚を上の空で見ながら、ずっと心あらずであった。
ガンヴォルト、そして自身を除いた装者達がF.I.S.、そしてアシモフとウェルを止める為に動く準備をしているのに自分はただ待っている事しか出来ない事。自分達を追い詰めようとする諸悪、アシモフを殺す為に動こうとしている全員を止める事が出来ない不甲斐無い自分にどうすれば全員に殺すという事を止める事が出来るのか。
だが、アシモフという存在はそうしなければならない程危険であり、止めるにはそれ以外の方法が思い浮かばない為に国も、諸外国もそう答えを出した。
シアンを奪い、何度もガンヴォルトを窮地に追いやり、あまつさえ、一度ならず二度もガンヴォルトを死の淵に追いやった。許されない事をしている。それを容認するのは仕方ないかも知れない。
だが、それは正しいのか。
答えなど出ない。
もうシンフォギアを纏えない自分に何か意思を通す程の力などない。もう止める事など出来ない。知っているのに何も出来ないのだからこそ、今この状況でどうする事も出来ない自分の不甲斐無さと力を使う事の出来ない自分に悔いる事しか出来なかった。
そんな考えばかりして浮かない顔をした響の頬に冷たい何かが当てられ、変な声を出してしまう。
「ヒャァ!?」
その正体はジュースの缶であり、それを持った未来が響にジュースを渡す。
「せっかく遊びに来たのに深刻な事考えていたでしょ?」
「うっ!」
響は未来に直ぐに考えていた事がばれて、狼狽える。
「…考えたい気持ちは分かるよ、響。私も同じ気持ちを味わっているから」
過去の事を出されて響はぐうの音も出ず、未来に謝る。
「ごめんなさい…」
「ちょっとここだと目立つから、端っこで話そう」
そう言われて未来と響は端っこに設置されたベンチに座る。
「…前と同じで…今も大変な事になっているんだよね…」
「…うん」
未来も協力者である為に、ある程度の情報が共有されている。ライブ会場での敵勢力の事。響の現在の状況の事。そしてこの事件の根幹にいる、シアンを奪い、ガンヴォルトを死の淵に追い詰めようとするアシモフという存在を。
未来がどのくらい知っているかは分からない為に、何処まで話せばいいか分からない。だが、今アシモフという男に何処まで追い詰められているかを話す。
しかし、未来も何となく現状を察していたのか、その事に対しては暗い顔をして話を聞く。
「やっぱり、今大変な事になっているんだ…」
「うん…アシモフっていう人にかなり追い詰められてる…特にガンヴォルトさんが一番辛い目に…大切だったシアンちゃんが奪われて…何度も殺されかけて…」
アシモフとガンヴォルト。同じ世界の人間であり、ガンヴォルトに取ってシアンの肉体を殺し、この世界に来た原因を作った因縁の敵。
ガンヴォルトがこの世界に来るまでどんな経験をしていたのか。かつて二課でガンヴォルト本人から聞いた過去の話。それは辛い事ばかりの連続。
能力を持っている故の非人道的な実験対象、戦い、信じていた者からの裏切り、そして喪失。
ガンヴォルトが正気を保っていられるのが不思議なくらいの辛く、そして悲しい出来事。
未来もガンヴォルトの過去に対して何も言えなかった。
響も自身も聞かされた時と同じ様にただ未来の心が落ち着くのを待つ。
「私…ガンヴォルトさんの事…何も知らなかった…」
「ガンヴォルトさんもこんな過去を自分の口から語るのが辛いって言ってたんだよ…」
未来も響の言葉に同意する。こんな過去があったら話す事も辛い事ばかり思い出す為に語るのはしたくないだろう。
だが、それ以上にガンヴォルトの心の危険を垣間見る。
初めはアシモフの裏切りを何か意図があるんじゃないかと信じていたのに、結局アシモフの裏切りは自分の意思であり、ガンヴォルトの僅かな希望を打ち砕いてしまった。
そして再びシアンを奪った事。それが引き金となり、ガンヴォルトの心はいつ壊れてしまうのではないかと心配する。
だが、未来には戦う力が無い。響ももうそんなガンヴォルトの隣に立つ事が出来ない事に歯痒い気持ちに苛まれる。
以前、慎次との約束が頭に過ぎる。かつて慎次と約束をした事。大切な者を奪われてガンヴォルトが壊れてしまわない様に頼まれた。
戦いに没頭してしまう。今のガンヴォルトがその状況だ。
その行動は正しいとは思う。だが、ガンヴォルトのそれは響とは本質が違う。助ける為に、取り戻す為に怨敵を殺す。生死を賭けた殺し合いなのだ。
話し合いや友好などではなく、残虐で悔恨を残す血塗られた闘争。
響と未来はただ、力のない自分達が何も出来ない状況にただただ恨めしくなる。
約束を守れない事に。こんな中でも何も出来ない自分に。
どうしようもない状況に追い込まれているのに何も出来ないという事が、二人を苦しめるのであった。
◇◇◇◇◇◇
「マム、本当に此処で大丈夫なの?」
「ええ、此処で間違いありません」
マリアは不安を零しながらナスターシャに問い、ナスターシャはマリアに対してそう言った。
マリアがナスターシャの後ろから車椅子を押し、その後ろを切歌と調が後を追う。
四人が来ている場所は東京スカイタワーの中層にあるテナント企業が入るフロアの一角。
そこでアシモフを裏切り、新たな協力者との会合で指定された場所。
人目が多く、会合場所にしては合わない雰囲気にマリアと切歌、調は警戒しながらも指定された部屋へと向かう。
「ナスターシャ博士ですか?」
不意に声を掛けられ、四人は声のする方に視線を向けると大柄のサングラスを掛けた数名がおり、切歌と調は威圧感でマリアの後ろに隠れる。
「ええ、そうです」
ナスターシャは臆さずにその声を掛けた男性へと返事をする。
「例の物をアッシュボルトから持ち出す事は成功致しましたか?」
「勿論です。ですが、此処であなた方に見せるのは少し軽率な判断だと思います。こちらもタイミングよくアシモフとウェル博士から居なくなって持ち出せた物なのですから」
「それもそうですね。こちらへ」
ナスターシャの言葉に従う男達はマリア達を囲みながら、テナントが入る区画を抜けて会議室へと通される。
「待っていました、ナスターシャ博士。まさか、私達を裏切った貴方から連絡が来るとは思いませんでしたよ」
会議室の中にも同様にボディーガードが何人もおり、その中心に座る男が話し始める。
その男は米国政府の重鎮であり、かつてのF.I.S.にも所属していたナスターシャのかつての上司であった。
「アッシュボルト…いえ、アシモフとこれ以上は危険だと判断した結果です」
「アシモフ…それがタケフツ・アッシュボルトの本名かな?まあ、そんな事はどうでも良い。例の物をアッシュボルトから奪えたんでしょうね?」
米国政府の男はナスターシャに対して、本題は其方とばかりに話し始めた。
そう言われたナスターシャは切歌と調に対して例の物を出す様に伝え、それを机の上に置く様指示した。
切歌と調はそれぞれが袋に覆われたそれを机の上に置くと、開封して中身を露わにさせた。
切歌の開けた袋の中身はネフィリムの心臓であり、F.I.S.達の計画の核になる完全聖遺物。
そして調が開けた袋にはギアペンダントが。
「これがネフィリムの心臓ですか?」
そう言って米国政府の男は聖遺物を確認する機材を持たせたボディーガードにそれを調査させると本物だという事が証明されて笑みを浮かべる。
「そしてもう一つはギアペンダントですか?」
もう一つは何なのか気になる米国政府の男が置かれたギアペンダントを興味深く観察する。
「アシモフが狙い、そしてあの男、ガンヴォルトから奪った
それを聞いた米国政府の男の顔が好奇に満ちた表情に変化する。
「
「ガンヴォルトとアシモフとは正確には違う
淡々とナスターシャは説明をしていく。奪ったネフィリムの心臓、そして
全てのデータと聖遺物。米国政府と再び手を組む為に必要な材料を全て渡した。
「これだけあれば十分ですね。分かりました。データ提供をしてくれたのでこちらも約束を守りましょう、ナスターシャ博士」
ナスターシャはその言葉を聞き、安堵の息を吐くが、その瞬間にナスターシャへと向けてボディーガードの男達が一斉にナスターシャへと向けて銃を構える。
突然の事に、ナスターシャもマリアも、切歌も調も身構える。
「どういうつもりですか!」
「一度裏切った貴女ともう一度手を組む?どれだけ頭の中がお花畑なのですか?そんなの我々が許すはずがないでしょう?我が国を裏切り、あまつさえアッシュボルトとかいうテロリストと手を組んだ貴女を生かす程我が国はそんな優しくはないんですよ」
「この外道共!」
マリアは切歌と調に合図を出すと共にLiNKERを取り出し、打ち込もうとする。
「辞めた方が身の為ですよ。あなた方がLiNKERを打ち、聖詠を歌うよりも早く、我々は引き金を引く」
「くっ!」
その言葉にマリア達は苦虫を潰した様に表情を歪める。
「安心してください。処理するのはナスターシャ博士のみ。フィーネ、そして、そこの二人は生かさせてあげますよ。LiNKERを使うとは言え、腐っても適合者。聖遺物に適合する人間は貴重ですからね」
「ふざけるじゃねぇデス!」
「この外道共!」
切歌も調も米国政府の男に噛み付く様に叫ぶ。
「外道で結構。我が国も世界の頂点に君臨し続ける為に必要ならば何処までも非情になりましょう」
二人の言葉にただ笑みを浮かべて答える米国政府の男。ナスターシャは自身の決断が全て間違っていた事を悔いる。アシモフに協力して、結局は使い捨ての駒のように使われて、米国政府に協力を要請してみれば結局初めから応じる事もなく、搾取されるだけであった。
家族を守りたい、世界を救いたい。ただそれだけであったナスターシャは完全に意気消失してしまう。
だが、その瞬間、銃声が幾つも響く。それと共にボディガードの脳天に何処からともなく弾丸が撃ち込まれ、米国政府の男、そしてF.I.S.以外全てが一瞬の内に倒れ、死んでいき、会議室が一気に凄惨な現場と化した。
「な!?何が起きている!?ナスターシャ博士!貴方が何かしたというんですか!?」
狼狽える米国政府の男、そして何が起こったか分からないF.I.S.達。
そして静かになるとバチバチと音が響くと共にゆっくりと何かが姿を現す。
「私の予定通りに裏切ってくれて良かったよ、Dr.ナスターシャ。こうして隠れてこそこそしている邪魔者を引っ張り出してくれたのだからな」
「き、貴様はアッシュボルト!?」
現れたのはアシモフであり、机に置かれたネフィリムの心臓、そして