アシモフが起動させた爆弾により、東京スカイタワー全体が大きな揺れに包まれ、米国政府の兵達の銃口がアシモフの身体から逸れる。
その瞬間、この中で唯一爆発を予期しており、マシンガンを取り出すと、米国政府の兵へと向けて乱射する。
先頭にいる兵達はアシモフが放った鉛玉を喰らい、倒れていく。だが、腐っても米国政府の兵。先頭の兵がやられていくのを確認すると素早く部屋から出ると共に部屋の外へと身を隠す。
だが、アシモフは再びリモコンを操作すると共に隠れている壁ごと爆発して瓦礫や血、そして吹き飛んだ兵達の身体であった一部が辺りへと散らばる。
F.I.S.の面々も突然の揺れ、そして突然の爆発で耳と平衡感覚を奪われてしまう。
「アシモフ!なんて事を!」
マリアは目を開けた惨状を目にしてアシモフに向けて叫ぶ。
「聞こえはしないが、言っただろう。開戦の狼煙と。始めるんだよ。計画の為に。フィーネの計画などではなく、本来の私の目的を」
アシモフはそう言うが、F.I.S.の面々にはアシモフが何を言っているか理解出来ていない。
切歌と調もようやく体勢を立て直し、マリアと共にアシモフの前に、ナスターシャを守る為に立ち塞がる。
三人は何も言わなくてもやるべき事は理解している。アシモフは此方を始末するつもりだろう。だから抗う。今回の裏切り、そして裏切りの前に言っていた始末するという言葉。
もう、此処でアシモフと戦う以外方法がない事を。
マリアも切歌も調もLiNKERを打ち込み、聖詠を歌い、それぞれ、ガングニール、イガリマ、シュルシャガナのシンフォギアを纏い、アシモフと対峙する。
シンフォギアを纏う事により、身体強化をされた事で、先程まで苛まれた三半規管の支障。そして鼓膜の支障が解消されて各々が武器を構える。
勝てる見込みなんてない。そんな事は今までのアシモフとガンヴォルトの戦闘を知っているからこそ分かっている。マリア達三人とアシモフは場数が圧倒的に違う。それも本当の殺し合いという場数が。三人とF.I.S.は次元が違うのだ。
圧倒的な威圧感。数は此方が有利だとしても覆りようの無い大きな壁。
だが、それでも抗うしか無い。もう後戻りなど出来ない。四人に残されたのは目の前の男と戦うか死ぬかのどちらかである。
「…」
三人は冷や汗をかきながら、アシモフの動きを一瞬でも見逃さないと瞬きすら忘れて観察する。
だが、そんな緊張感が張る三人とは違い、アシモフはただ余裕とばかりに構える事なくただ立っている。
「自死を覚悟して私に特攻でも仕掛けようというのか…ああ、全くもってナンセンスだ。あの時のガンヴォルトと同じだ。だが、そのナンセンスな行動が私を追い詰めたんだったな…」
言葉の真意などは分からない。だが三人はそんな言葉を気にも留めず、隙を窺う。
「感傷に浸って変な言葉を溢してしまった」
そしてアシモフは自分が失言をしたとばかりに溜息を吐いた。
その瞬間、マリアが動き、その後に続く様に切歌と調も動いた。
アシモフを殺すならば今しかない。マリアはシンフォギアによる身体強化された脚力でアシモフまで距離を一気に詰めて、ガングニールをアシモフの喉元に突き立てようとする。
「無駄だ」
だが、アシモフの
「クッ!」
だが、それでもアシモフへの攻撃の手を止めない。
透過したガングニールを横薙ぎにしてアシモフへと振るう。勿論、それもアシモフの身体を透過して何の意味をなさない。
「切歌!調!」
攻撃の手を止めてはならない。それがマリア達に残された勝機を掴み取る方法なのだから。
そしてマリアは薙ぎ払いの後、後退をして控えていた切歌と調が、鎌と丸鋸を振るい、アシモフへと仕掛ける。だが、それも
「無駄だ。
そう言って切歌と調の攻撃を意を返さず突き進み、切歌の首を掴み上げる。
「グッ!?」
「切歌!」
「切ちゃん!」
マリアと調は切歌を助け出そうとアシモフへと仕掛けるがアシモフは切歌を盾にして動きを止める。
「私に勝ち目がなのに挑むのが間違いなのだよ」
「アシモフ!」
調とマリアはアシモフを憎しみを込め睨みつけるが、アシモフは全く意を返していない。
「いいのか?貴様の大切な家族は私の手のうちにあるのだぞ?」
そう言って切歌を掴む手に力を込める。切歌は苦しそうにしながらもどうにか抜け出そうと鎌でアシモフの腕や身体を斬りつけているのだがアシモフの身体を透過して全く意味をなしていない。
「いい加減鬱陶しいな。一人くらい殺してしまうか?」
殺意を込めた言葉に切歌は怯えて動きを止めてしまう。
「辞めてください!」
マリアと調ではなく、ナスターシャがアシモフに向けて叫ぶ。
「お願いです…この子達は…この子達だけは助けてください…」
「マム!今のこの男に命乞いなんて!」
「そうだよ!マム!この男はそんな事!」
「黙ってなさい、マリア!調!」
狼狽えるマリアと調にそう言うナスターシャ。
「フィーネの偽物の言う通り、今更命乞いか?私に刃を向け、抵抗したのに?」
「分かっています。貴方にとって私達はとんでもない行動をした事も…ですが…ですが…この子達を…この子達だけは…それに…セレナを…セレナを…」
ナスターシャは懇願する。切歌と調は何故今この場で亡くなったはずのセレナの名前を告げているのか理解出来ない。アシモフがこんな事で許すなど有り得ないと感じる。だが、アシモフはその言葉に僅かに眉を動かした。
ウェルにも話していない、アシモフしか知らなかったはずの情報。何故ナスターシャが知っているのか。自身の本当の計画に必要な物。誰にも伝えてないはずだが、かつて口走った時聞かれていた事を、自分が犯した失態を悔やみながらも、特にバレても支障がないと切り捨てる。
「勝てないと察して、あれだけの事をしておいて、敵に懇願など愚の骨頂だ。ましてや今迄の行動を赦される程の何かを持ち合わせない貴様達を赦す譲歩を与えると思うか?」
アシモフの言う通り、ナスターシャにはアシモフに有益になる物など持ち合わせていない。それでも、ナスターシャは大切な家族だからこそ、自身の身を挺しても助けたい。残りの命の短い自分よりも生きて欲しい。だから懇願する。
「…無様で不愉快だ。赦しを乞えば生かされるとでも思っているのか?自分を犠牲にすれば誰かが生き長らえると思っているのか?」
アシモフはまるでゴミを見る様な目でナスターシャを見る。静かに怒るアシモフにナスターシャはどう答えればいいか考えようとするが、そんな時間はありはしない。直ぐにでも答えなければ、切歌が殺される。
ただ闇雲に何か言おうとした瞬間、いつの間にか外に飛んでいたノイズが見覚えのある紋様を浮かべ現れたと思うと、蒼い雷撃により炭となり堕ちていく。
「…どうやら奴も来ている様だな…」
F.I.S.に興味を失ったアシモフは直ぐ様切歌をマリアと調の方に投げ捨てた。
「切歌!」
「切ちゃん!」
マリアと調は投げ捨てられた切歌を抱え上げ、無事を確認する。首元に跡が残っており、苦しそうにしているが、無事な様だ。
その様子からマリアはアシモフへと飛びかかろうとする。だが、それよりも早く、アシモフはネフィリムの心臓を起動させると、ナスターシャの足元に穴を穿ち、姿を消してしまう。
「アシモフ!何をした!マムを何処にやった!」
「貴様達が生き残るチャンスをやろう。此処に残る米国政府の犬共を殺せ。そうすればDr.ナスターシャの場所を教え、貴様達の命も助けてやろう」
「ふざけないで!マムを何処にやったの!」
マリアと調はそんなアシモフに食って掛かろうとするが、アシモフがそんな二人を睨む。
「貴様達にチャンスをやったのに不意にするつもりか?私はそれでも構わんぞ。奴を殺した後、貴様達も奴と同じ場所へと送るだけだからな」
選択肢のない問い。マリアと調は何も返す事が出来ず、その選択に従うしかなかった。
「…従えばいいんでしょ…やるわ」
マリアがアシモフの言葉に従い、首を縦に振る。
「それでいい。ならば早く行け」
アシモフがそう言うと切歌を抱え、マリアも調も忌々しそうにアシモフを睨みながら壊れて大きくなった部屋の出口から出て行った。
「教えてやるさ。貴様達の大事な家族が死んだ場所をな」
マリア達へと向けて言った言葉。
ナスターシャは
そしてアシモフはマリア達が戦闘を開始したのか銃声が響く。アシモフはそれを確認すると外の様子を見る。未だに雷撃が放たれ、数々のノイズが炭となって落下していく。
「此処で確実に殺してやろう。私の恥ずべき選択で生きながらえた紛い者を。何度も立ち上がり、私の神経を逆撫でする貴様という存在を」
そう言い残してアシモフはバチバチと身体が徐々に消えていき、完全に姿を消した。
◇◇◇◇◇◇
響と未来とそして救出された子供の三人をノイズから守りながら非常口を目指したのだが、非常口はノイズにより完全に破壊され、通る事は出来なかった為に、他の脱出口を探す。
「ガンヴォルトさん…大丈夫ですか?」
響がノイズを倒して一時的な安全を確保し終えたボクに向けてそう言った。
「大丈夫だよ」
肩で息をしながらボクは言った。心配させたくないからの虚勢である。だが蓄積された疲労。そしてノイズを倒す際に以前とは違い、かなりの
以前なら半分の力で倒せた筈なのだが、それでは足りない事を実感している。
シアンをアシモフに奪われた影響だろう。今になってこんな事を知り、自分の不甲斐なさを実感するが、そんな事を気にする余裕はない。
響と未来、そして子供を助けなきゃならないからだ。疲れていようが関係ない。
「ボクが何とかするから、心配しないで」
疲れていても何とか安心出来るよう言葉を掛ける。だが、非常口は全て破壊されており、逃げられないようにされている。
脱出経路が無い。響も未来も子供もそれを知って恐怖を助長させてしまう。
「ガンヴォルトさん…どうしましょう…」
未来が不安そうにそう聞く。
「正直、あんまり使いたくなかったんだけど…ボクが使っていたエレベーターの梯子を使おう。此処からだとかなり降りる事になるけど助かるにはそれしか無い…」
あまり使いたくはなかったエレベーターの梯子を使う事を伝える。何故使おうとしなかったのかは中層から降りる恐怖と戦わなければならないからだ。
恐怖心を克服するのは難しい。高所故の落ちたら死んでしまうかもしれないという恐怖。そして終わりの見えない梯子を下り続けるという恐怖がある為だ。
ボクが雷撃鱗を使って降りればいいかもしれないが、高さ故の雷撃鱗のタイミングでは四人とも死ぬ可能性があるからだ。
だが、脱出経路が全て塞がれている以上、やるしか無い為に、ボクは安全を確保しながらエレベーターへと向かう。
だが、そんな時、タイミングよく何か大きな音がボクの耳に響く。その瞬間ボクは割れたガラスの方を見るとノイズを躱しながら接近するヘリの姿を捉える。
ボクはその瞬間に素早く、そのヘリに気付き、襲おうとしたノイズ達に
「ガンヴォルト!助かりました!」
そして接近したヘリの扉が開き、見慣れた一課の隊員が姿を現す。
「よく来てくれた!響!未来!子供から乗せて君達も乗ってくれ!」
まさかの救助に安堵の息を漏らす。子供を持ち上げて素早く乗せようとしたその瞬間。
嫌な予感がすると共に何か小さな音が聞こえる。
ボクはヘリに直ぐに飛び立つよう伝え、響と未来を守るように雷撃鱗を張った。
その瞬間、雷撃鱗に何か触れた瞬間、爆発が起きた。
ヘリも爆風に煽られながらも、何とか離脱した。
「勘のいい奴だ…」
その声を聞いて今最も会いたく無い人物と遭遇した事に悪態を吐きたくなる。
「やっぱりこの件も貴方の仕業か!アシモフ!」
ボクがそう言うと共にゆっくりと透明だったアシモフがゆらりと姿を現した。