戦姫絶唱シンフォギアAB   作:株式会社の平社員

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ピッ…ピッ…

 

規則正しく鳴り響く電子音が耳に届く。

 

意識を取り戻した響は、ゆっくりと目を開ける。

 

見覚えのある天井。過去にも大きな怪我を負った際にも乗せられた医療用のベットで目を覚ます。

 

「ここは…」

 

何故自分がこうなっているのか分からなかった。寝起きの頭は上手く働かず、ぼうっとしている。

 

身体中に電極が貼られ、腕には点滴。何故自分はまた病室にいるのか?僅かに後頭部に鈍い痛みがある。何処かぶつけて気を失ってしまったのだろうか?

 

訳が分からない為に、近くにあったコールボタンを押して誰かを呼ぶ。

 

数分経つと急いで来たのだろう、弦十郎と慎次が息を切らして病室に入って来た。

 

だが、病室に入って来た二人は響が起きた事に本当に安堵した様子で見るが、そこから直ぐに暗い表情を浮かべる。

 

何故そんな表情をするのか?何か大切な事を忘れている様な気がする。だが、何故こうなっているのか分からない響にはそれが何なのか察する程の鋭さは今は無い。

 

「…良かった…響君…君は無事で…」

 

何処か引っかかる言い方をする弦十郎。響が無事で。それは他の誰かがまるで無事でない様な言い方。

 

「…師匠…緒川さん、私は何で病室にいるんでしょうか?」

 

「…覚えていないのか?あの時の事を…東京スカイタワーでの事を…」

 

弦十郎のその一言で響のぼうっとしていた頭が覚醒し、頭の中で靄の中に隠れていた部分がすぐに情景が浮かび上がった。何があったかなんて何故すぐに思い出せなかったのか。東京スカイタワー、アシモフの襲来によるテロ。そして響はそのテロに巻き込まれた。

 

大切な親友、未来と共に。

 

そして響は助かったものの、未来はあの時の爆発に巻き込まれた。

 

全てを思い出し、頭を抱え、過呼吸になる。

 

「カハァ…ハァ…ハァ!」

 

「ッ!?慎次!医療班をすぐに呼んでくれ!」

 

「もう呼んでます!響さん!しっかりしてください!」

 

過呼吸になった響の元で対応する弦十郎と慎次。そしてすぐ医療班達が駆けつけて治療を行ってくれた為に、息苦しさは無くなったものの、未来が居なくなった苦しみ、悲しみ、そして寂しさが響を支配する。

 

「何で…何であの時…未来の手を離しちゃったんだ…助けるって誓ったのに助けられなかった…もう一度未来の手をこの手で掴むと決めたのに…駄目だったんだ…あの時離しちゃ駄目だったんだ…別の方法を考えつけば…あの時、未来と一緒に助かろうとなんで考えなかったんだ…」

 

過呼吸は治ったものの、未来が居なくなった喪失感を思い出した響は判断を誤ったと、自分を責め始める。

 

何であの時手を離してしまったのかと。助けると誓ったのに。もっと別の方法であれば二人助かる事が出来たかもしれないのに。

 

「響君…」

 

「響さん…」

 

弦十郎も慎次も今の響を見て何も言えなくなる。

 

伝えるべき事は幾つかある。だが、それは今伝えるべきなのかと迷ってしまう。

 

今の響に現状を伝えれば、響の心を壊しかねない。それ程、今見舞われている状況は最悪なのだ。救いの無い現実。

 

弦十郎も慎次も、響に掛ける言葉が見つからない。装者の誰かならば今の響に寄り添う事ができるかもしれない。奏、翼、クリスなら。

 

だが、今はそれも不可能に近い。

 

「…」

 

現在の装者三名も響同様に絶望している。いや、三人だけじゃない。二課全体が現在の状況に絶望に包まれている。

 

どうすればいいのか分からず、ただ響の自身を責める言葉のみが病室に小さく響く。

 

「…失礼します、司令」

 

そんな中、病室に入って来たあおい。

 

「…何があったのか?」

 

「いえ。しかし、司令が長く離れるのは良くないと思います。響ちゃんは私が側に居ますので司令は他の職員に指示をお願いいたします」

 

あおいの心遣いに感謝しながら、弦十郎と慎次はあおいに響の事を任せて、響の病室から出るが、あんな状態の響に何も声をかけられなかった事に悔やんでいた。

 

本来であれば自分達がしなければならない事。だが、出来なかった。普段ならば言えたかもしれない。響に対して慰める言葉が見つかったかもしれない。

 

だが、アシモフにより齎した現状が普段の弦十郎や慎次をそれすら出来ない程の心に傷を負わせた。

 

「クソッ…俺がするべき事だった…友里に任せなければ何も出来ないなんて…」

 

「…司令の所為ではありません…全部…全部アシモフの所為です…未来さんの事も…ガンヴォルト君の事も…全部…」

 

今二課を苦しめる元凶アシモフ。

 

東京スカイタワーにて未来を爆発に巻き込み、ガンヴォルトを倒した事。アシモフがガンヴォルトを確実にとどめを刺したのは未だ分からないが、行方がわからない。アシモフがガンヴォルトに対して持つ殺意から、生存は絶望的。その影響を直に受けた装者である奏、翼、クリス。そして未来の喪失、その影響によりガングニールが更に響の身体を侵食を早めてしまった。

 

全てが最悪の方向に向かい続けている。それに対応をしようにも、齎された絶望が全ての意欲を失せさせる。抵抗する意思も、解決しようとする意思も。

 

「…クソッ!アシモフめ!何処まで俺達を苦しめる!ガンヴォルトだけじゃなく、響君や未来君まで!」

 

アシモフに向けて弦十郎が怒りを込めてそう叫ぶ。犠牲になったもの達の事を思い、拳に力が入る。

 

慎次も言葉には出していないが、同様に怒りを隠しきれない様子であった。

 

だが、アシモフという強大な悪。そして超えることの叶わない電磁結界(カゲロウ)と言う大きな壁の前に二人は自分の無力さを恨む。

 

行方不明であるが生存は絶望。もう殉職した可能性が高い。だが、それでも弦十郎も慎次も信じている。ガンヴォルトは生きていると。ガンヴォルトが死ぬ訳ないと。何度も死の淵に立たされようと生き残って戦い抜いていたから。どんな事があっても立ち上がり、再び自分達の前に戻ってくるから。

 

「…信じるだけでは何も変わらない。慎次、お前はガンヴォルトの捜索に当たってくれ。俺は東京スカイタワーのテロの後処理の指揮を取る」

 

「分かりました。ガンヴォルト君の事は任せてください。必ず見つけ出します」

 

そう言って二人は動き出した。

 

ガンヴォルトは死んでいない。だから早く探すと。

 

勝手に死んだと思い込むな。ガンヴォルトは生きている。

 

だが、戦闘で傷は深い可能性がある。だから早く見つけよう。

 

二人は直ぐ様互いに行うべき事を遂行しようと動き始めた。

 

◇◇◇◇◇◇

 

ベッドの上で自分を責め続ける響の傍に腰を下ろすあおいはどう声をかければいいか分からなかった。

 

辛い気持ちは分かる。未来という大切な親友が居なくなった、響にとっての陽だまりが消えた事で心に深い傷を負ったのは理解している。

 

だが、その気持ちに寄り添える言葉が見つからない。

 

弦十郎に言ったものの、今の響にとって何が最善であり、何が安らげるのか大切な人を失った傷を癒す手立てをあおいは持っていなかった。

 

だが、それでも、自分より歳の下の女の子が深く傷つき、辛い目にあっているのに無視するなどあおいには出来なかった。

 

共に戦う装者であれば、何か響を立ち直らせるきっかけを与えてくれるかもしれない。しかし、その肝心な装者達も、ガンヴォルトが消えた事で意気消沈しており、それどころではない。

 

誰もが悲しんでいる。あおいもそうだ。

 

未来の喪失は悲しい。少ない時間だが、一緒に仕事をして来た子が居なくなったのだ。何も思わないほど、薄情な人間ではない。

 

それにガンヴォルト。未来よりも長く苦楽を共にし、互いに信頼していた仲間であったからこそ、その喪失が装者達同様に大きい。

 

だが、それでも、装者達が、自分より歳の下の女の子達を見てそんな状態であるのに自分が何もしないわけにはいかないと思い、装者達のケアを率先してやっている。

 

効果があったとは言えない。だが、少しでも装者達の心を壊れない様に行動しなければと考え、実行している。

 

だが、それでも寄り添うことしか出来ない自分を歯痒く思う。

 

あおいはただ、ベットで自身を責める響に寄り添い、優しく抱きしめることしか出来ない。

 

響もなされるがままだが、涙が決壊し、あおいの胸で泣く。

 

あおいはそんな響の苦痛を和らげる為に背中をさすることしか出来なかった。

 

「あの時…私が手を離さなきゃ未来は…エレベーターシャフトで爆発に巻き込まれる事はなかったんです…私が…私が…」

 

響が呟く言葉にあおいは違和感を覚える。

 

エレベーターシャフトで巻き込まれた。そうなればスマートフォンは翼とクリスが見つけられたのだろうか?

 

二人が見つけた位置とシャフトの場所が離れている。

 

いや爆発で飛んで行ったのかも知れない。だが、それでもスマートフォンに爆発を受けた様な壊れ方をしていなかった。

 

いや、二人がそのフロアに行っていたのかも知れない。その時にスマートフォンを落としたのかも知れない。

 

しかし、その確証が無い。響に聞くにも今の響に聞けない。

 

だが、あおいの中に浮かんだのは響にとって少しだけ希望になる物。だが、響にぬか喜びをさせて更に絶望に叩き落とすわけにはいかない。

 

だが、その違和感が僅かな希望になる。響を少しでも絶望から抜け出させる糸口になる。

 

未来が無事であれば響は立ち直れる。

 

「…」

 

だが、それだけではダメだ。未来が無事で響が立ち直れたとしても、響は戦えない。今回の戦闘で今までよりもガングニールが響を再び侵食を開始した。

 

響が戦うと決めても響は響出なくなってしまう為に戦わせる事は出来ない。これ以上響を戦わせる事は出来ないからだ。

 

それに今戦える装者達もガンヴォルトが消えた悲しみで意気消沈している。状況は悪い事ばかりだ。

 

だが、少しでも明るい話題があれば何か変わるかも知れない。いや、変わらなくてはならない。

 

ガンヴォルトが消え、悲劇に見舞われているとしても。未だ危機は去っていない。

 

アシモフは以前健在であり、地球滅亡から脱する為に選別という名の虐殺を続けるだろう。いや、着々と続けられているだろう。

 

こちらも絶望を乗り越えて対抗しなければならない。

 

だから、どんな小さな希望でも、戦う意思を再び灯す希望になればいい。ガンヴォルトが消えた今、装者達、そして二課でこの状況を打破するしかないからだ。

 

あおいはとにかく響が落ち着くのを待ち、今抱いた違和感を調査する事を弦十郎達に伝える事を考えた。

 

◇◇◇◇◇◇

 

ガンヴォルトが消えて意気消沈した奏、翼、クリスはガンヴォルトの部屋に集まっていた。

 

ガンヴォルトが居なくなった事により、心にぽっかりと穴が空いた。少しでもその穴を埋める為に三人ガンヴォルトがいた部屋にいた。

 

「ガンヴォルト…」

 

翼がそう呟く。だが、その呼んだ名前の人物はもういない。

 

「ガンヴォルト…」

 

奏も呟く。その目には涙が浮かび、頬を伝い、ポロポロと溢れている。

 

「…なんで…いなくなっちまうんだよ…」

 

クリスも涙を流して呟く。

 

間に合わなかった。そのせいでガンヴォルトが居なくなった。

 

三人の所為では決してない。ガンヴォルトも疲弊した状況で心配を掛けたくないと合わなかった事もある。だが、その事を知らない。知らない三人は何故居なくなったかを考えていた。

 

ガンヴォルトが消えてしまったのか。何故ダートリーダーだけを残して居なくなってしまったのか。

 

三人は考えなくても知っている。何度も対峙し、一度ガンヴォルトを死の淵に追いやり、今も尚、何処かで生きている憎き敵。

 

アシモフ。

 

全員を絶望の淵に追いやり、ダートリーダーだけを残して、ガンヴォルトを消した張本人。

 

許せない。憎い。

 

響が未来を失った時の様に、三人の心は憎悪が渦巻いている。

 

アシモフを許さない。世界を混沌に変えようとする元凶を。ガンヴォルトを消した事を。

 

絶対に許さない。アシモフという存在を。認めない。アシモフの生を。ガンヴォルトを消した存在を生かしてなるものか。

 

アシモフへの殺意がより確実に、より強く三人の心に色濃く浮かび上がらせる。

 

アシモフを殺す。ガンヴォルトの仇。

 

「ガンヴォルトを消したアシモフ…絶対に許さない…」

 

「当たり前だ…救ってくれた恩人を…大切な人を殺されて…許すなんて事出来る訳ないだろ…」

 

「もう二度と失いたくなかった…一人だった私に居場所をくれたのに…その二人はいない…」

 

翼、奏、クリスはそれぞれの言葉を口にする。その目には光はなく、憎悪に支配されている。

 

アシモフを殺す。その言葉が三人の心を支配する。ガンヴォルトを殺した報いを。必ず。

 

三人は殺意を滾らせて必ずアシモフを殺すと誓った。

 

そしてただ怒りと憎悪、そして殺意を滾らせる三人には会話など無く、ただ沈黙が支配する部屋。数十分、数時間経ったかは分からないが、そんな時、ガンヴォルトの部屋の扉が開いた。

 

「インターホンを押したのに誰も出なかったので、ガンヴォルト君のスペアで上がらせていただきましたが…皆さん…やはりここでしたか…」

 

そう言いながら入ってきたのは慎次。

 

「緒川さん…」

 

「行きますよ。いつまでここでそうやっているつもりですか?」

 

慎次が淡々とそう言った。だが、その言葉に三人は怒りを覚えて慎次に掴みかかった。

 

「なんであいつがいなくなったのにあんたはそう言えるんだよ!」

 

「クリスの言う通りだ!緒川さんもあいつがいなくなったのに悲しくねぇのかよ!」

 

「緒川さん!貴方を人として見損ないました!」

 

だが三人が掴みかかったが、慎次は最も容易くそれを躱す。だが、慎次はそんな三人に向けて言った。

 

「確かにガンヴォルト君は居なくなりました。ですが、それでこうやってただ怒りや殺意を滾らせるよりやるべき行動があるからそう言ったんです」

 

「ふざけんなよ!あいつが居なくなったのに感傷に浸ることすらするなって言うのかよ!」

 

「緒川さん、あんた最低だな!ガンヴォルトは大切な仲間だろ!」

 

「ふざけないでください!」

 

クリス、奏、翼が慎次に向けて罵倒を浴びせる。

 

だが慎次は言った。

 

「ですが、その大切な仲間を勝手に死んだと解釈する君たちに言われたくないですよ」

 

その言葉に三人は激昂しそうになる。だが、慎次の言葉にどこか希望を見出した為に動きが止まる。

 

「いいですか?ガンヴォルト君は死んだとまだ決まっていないんです。行方不明なだけです。それなのに勝手になんで死んだと決めつけてるんですか?その方が僕は許せない。ガンヴォルト君が死んだ証拠すらない状態でそう決める方が僕にとっては許せないんですよ」

 

三人を叱る様に。そしてただ今やるべき事はそんな事なのかと説得するように慎次がそう言った。

 

「アシモフと一人で戦って生存している可能性限りなくゼロに近いでしょう。ですが、完全なゼロじゃない。それなのに、何故行動しようとしないんですか?貴方達はガンヴォルト君に生きていて欲しくないんですか?」

 

「…」

 

慎次の言葉に何も言えなくなる三人。確かに、死んだとは決まっていない。それなのに自分達は諦めてしまった。ガンヴォルトが生存しているかもしれないと言う可能性を。

 

「僕は生きていると信じています。だからこそ動くんです。その可能性を信じて」

 

慎次の言葉に希望を見出す三人。そしてただガンヴォルトの生存を諦めていた自分達の考えを恥じる。

 

「…ごめんなさい、緒川さん」

 

「悪かったよ、緒川さん…」

 

「悪かったよ、そんな事も信じられなくって…」

 

そうして慎次に向けて謝る三人。

 

「謝っている暇があるなら行きましょう。時間は無いんです」

 

そう言って三人はアシモフに抱く憎悪や殺意よりも、ガンヴォルトの生存を優先して行動に移った。

 

憎悪や怒りなど今で無くてもいい。今はただガンヴォルトの無事が知られさえすれば。

 

三人はそう思い、慎次と共にガンヴォルトの捜索に移るのであった。

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