アシモフにナスターシャを人質に取られ、やむなくアシモフに付き従い、輸送機へと戻された三人。そしてアシモフにより無理矢理連れて来られた未来は輸送機の一室に閉じ込められていた。
「…ごめんなさい…何の罪もない貴方を…こんな目に遭わせてしまって…」
マリアは共に囚われの身となった未来に対して謝罪を述べた。マリアと同様に切歌と調も未来に対して謝罪をする。
巻き込みたくはなかった。話を聞いた限り、機動二課の仲間であるが、シンフォギアを持たない女の子。そんな一般人である未来を巻き込みたくはなかった。
本音だ。
だが、アシモフに逃し切る前に見つかったせいで巻き込んで人質として囚われてしまった。
「…マリアさんや切歌ちゃん、調ちゃんの所為じゃありません…」
未来はマリア達にそう言うが、悔しそうに、そして悲しそうに言った。
アシモフにより囚われた未来。囚われた事により、自分のせいで二課の装者達を、奏や翼、そしてクリスを釣るための餌として危険に晒してしまっている事。
そして何より、アシモフから逃げる為に時間を稼いでいたはずのガンヴォルトがアシモフの手により、殺されたと言う事実が未来の心に深い傷を負わせた。
未来にとって恩人であり、命の危機を幾度となく救ってくれた大切な人。響と同じくらい大切な人であった。だが、その人は居なくなった。自分を今この様な状況に追いやり、更に未だ二課を、装者を、マリア達を、そして世界を危険な目に遭わせようとしているアシモフと言う男により。
その事実が未来の心を絶望させる。大切な人が居なくなり、更に響を、奏や翼、クリスを今も自分のせいで危険な目に遭わせてしまうと言う事もその要因だ。
そんな未来をマリアは抱きしめる。
大切な人が居なくなる悲しみはマリアはこの中で一番理解している。
たった一人の血を分けた妹、セレナを目の前でネフィリムにより亡き者にされた。
大切な人が居なくなった悲しみは計り知れないものであり、未だあの夢を見ては魘される。だからこそ、未来の気持ちは理解出来る。
それに未来がアシモフによって利用されようとしている事も許せない。それはマリアだけでなく、切歌と調も憤りを感じていた。三人はナスターシャを人質に取られ、目的の為の駒として利用している。未来も同様だ。アシモフ自身の障害を排除する為に使えるものは使い潰すつもりである事はもう分かっている。
それにセレナ。亡くなったはずのセレナをアシモフが知っており、何かに利用しようとしている。何なのか分からないが、大切な妹を利用することなんて許せない。セレナに対する冒涜を許さない。
だが、アシモフには敵わない。怒りを感じようが、憎しみを持とうが、その動力源だけでは敵わない。それほどアシモフとの間には圧倒的な差がある。それに爆弾をつけられた切歌と調。ナスターシャだけでなくセレナ同様に大切な家族を更に人質を取られた。
もうどうする事も出来ない。このままアシモフによって自分達は死ぬまで駒として使われるだろう。
「裏切り者が人質に寄り添う。そんな甘い考えだから何もかもが破綻していくんですよ」
突然、開かない扉が開くと共にウェルが入室して来た。
ウェルはそんなマリアを見て軽蔑する様な目で見る。マリアはそんなウェルを睨み返す。切歌と調も元々気に入らない人物であり、アシモフの協力者である故にマリア同様睨む。
「貴方達裏切り者如きに睨まれたってなんとも思いませんよ」
アシモフの腰巾着の様な男が何を言っているとウェルに苛つきを隠せない。切歌も調もウェルに飛びかかりそうになるのを抑えている。
「僕だけなら倒せるとでも思っているんですか?」
そう言ってウェルは何かリモコンの様な物を取り出す。
「アッシュだけでなく、僕も貴方達二人の命を握っているんですよ」
そう言って見せられたリモコンの様な物を見て自身の首に巻かれた爆弾を触り、冷や汗を流す。そしてそれを見たウェルは薄ら笑いを浮かべた。
「優位に立つのは心地いいですね」
そう言ってウェルは薄ら笑いを浮かべた表情が一変し、先程同様に軽蔑した目を三人に向ける。
「まぁ、今はそんな事どうでもいいでしょう。それよりも貴方達の行動は裏切るのは分かっていましたが、我々の計画に必要な物を盗み出すなんてよくそんなことしてくれましたね。フィーネを語る偽物さん」
「ッ!?」
マリアはナスターシャとしか話していない事を告げられ驚く。そしてその事を何も知らなかった切歌と調は驚き、マリアを見る。
「何故それを?とでも思っているのでしょうが、既にアッシュは知っていたんですよ。僕は知りませんでしたが、元から貴方がフィーネでない事くらい、アッシュは既に把握していた。あの湖の辺りでナスターシャ博士が言う前からね」
「どういう事!マリア!マリアがフィーネじゃないって!?」
知らされた事実に調は自身の危険よりもマリアの語っていた事が嘘であることの方に気を取られた。
「マリアがフィーネじゃない…じゃあ…」
調がマリアに詰め寄る中、切歌だけは別のことを考えていた。
調を助けた際に突如出現した力。あれがフィーネの力。マリアが違うとなれば、本当は切歌の中にフィーネが宿っていると考えていた。
「煩いですよ。いつ僕が発言許可を出しましたか?」
ウェルはそんな三人に苛ついたのかリモコンの様な物のスイッチに指をかける。それを見た三人はすぐに黙る。それを見てため息を吐いた。
「聞き分けだけは良いですね。まぁ、話が早くて助かります。で、貴方達、フィーネを語る偽物達に命令があるのでそれを伝えに来ました。次の戦いで敵装者、天羽奏と生きているのなら立花響の殺害、そして風鳴翼、雪音クリスの捕獲しろ。だそうです。もうガンヴォルトはいない。この程度出来なければナスターシャ博士の命がないと思え。だそうです」
アシモフの言葉を芝居の様に真似て言うウェル。芝居がかった仕草に更に苛つくが、切歌と調、そしてナスターシャの命がない。マリア達に残された選択肢はなかった。
だが、
「巫山戯ないでください!」
胸の中で絶望していたはずの未来が叫ぶ。そしてマリアの包む腕をゆっくりと離させてウェルへと近づく。
「巫山戯ないでください?人質如きが何をほざくんですか?」
そう言うウェルは顔を未来の方に近づける。
「そんな事許さない!響を!クリスを!奏さんも翼さんも!貴方やあのアシモフって人に!手を出させない!」
未来が泣きながらウェルに叫ぶ。そんな姿を見てウェルは高笑いを上げる。
「泣きながら何を言うかと思えば!君は馬鹿なんですか!お腹が痛いですよ!手を出させない?そんなの無理無理!力のない貴方に何が出来るんですか!?例え貴方に特別な力、シンフォギアがあっても、
未来の言葉を嘲笑うウェル。
未来はそれでも大切な親友を殺そうとする目の前の男とアシモフを許さないとばかり睨みつけた。
「そんな顔して睨んでも全く怖くないですよ!ああ、笑わせてもらいました!でも!」
その瞬間、ウェルは未来を押し飛ばした。
「その反抗的な態度、自分の立場が分かっていない様な奴はすごいムカつくんですよ!」
押し飛ばされた未来をマリアが支える。
「ッ!ウェル博士!」
未来を支えるマリアはウェルを睨む。
「その子をしっかり見張っていてください!僕の命令もしっかり守らないとアッシュに言ってナスターシャ博士かそこの二人を痛めつけてもらいますからね!」
そう言い残してウェルは出て行った。
「大丈夫?」
マリアは未来を心配して未来に尋ねる。
未来は泣きながらも大切な親友に手を出させない。もう大切な人が居なくなって欲しくないと繰り返していた。
絶望の中で生まれた怒りが未来を動かしたのだろう。
マリアはそんな未来を見て、自分の力の無さ。そして誰も助けることが出来ず、こんな立場に立たされている事に自分への怒りと未来、そして切歌や調に対して謝る事しか出来なかった。
◇◇◇◇◇◇
響は親友を失った悲しみがまだ癒えないながらも、幾分か落ち着いた。これも献身的に支えてくれたあおいのお陰だ。その甲斐もあり、体力も回復してようやく退院する。
だが、装者である奏、翼、クリスは一度として見舞いに来なかった。寂しくはあったが、あの様な現状で忙しいのだろう。だが、響にとってそれよりも優先して聞かなければならない事が出来た。
ガンヴォルトの事だ。響と未来の為にアシモフと東京スカイタワーで再び戦った。無事なのか分からない。あおいも気を利かせて言わなかったのだろうが、嫌な予感しかしない。
退院して急いで弦十郎の元に向かう。
「師匠!」
「ッ!?…響君、身体は大丈夫なのか!?」
疲れた弦十郎が司令室に入った響を見て驚いて身体の心配をする。響は今のところ何の変化もない事を伝えると弦十郎は胸を撫で下ろす。心配ばかりかけて申し訳ないと感じるが、今はそれどころではない。
そんな響の心情を察した弦十郎は司令室でオペレーター達や現場の指揮をしている中で時間を作ってくれ、響に話を聞いている。
司令室に映されているのは崩壊した東京スカイタワー。爆発の惨劇とノイズによる被害で見る影も無く破壊された光景。
あの場所で未来は。悲しみが再び響の心に翳りを生み出すが、それを何とか振り払う。
「…師匠…」
ガンヴォルトの事を口に出そうとするが上手く言葉が出ない。アシモフとの戦闘。それはどちらかが生きるか死ぬかの殺し合い。ノイズとの戦闘など比にならない血に濡れた戦い。
だからこそ言葉に出来ない。信じたくない結果が思い浮かぶから。それは今のこの場の雰囲気によって理解している。
アシモフに追い詰められているが今までなら陰鬱な雰囲気は無かった。だが今は違う。まるで誰か大切な人がいなくなった様に、希望がなくなった様に誰もが絶望してその絶望から逃げるかの様に黙々と作業をしている。
「ガンヴォルトはアシモフに敗北を喫し…現在行方不明だ」
弦十郎から告げられた言葉は響にとって未来と同様の絶望を与える。
ガンヴォルトが負けた。と言う事はガンヴォルトは死んだと言うのか?信じたくない。そんな事あるはずがないと言葉に出そうとする。
しかし、今までの戦闘。シアンと言う響にとっての大切な友人を失い、そしてガンヴォルトにとっての大切なパートナーを奪われ、常に劣勢を強いられていた。
故に言葉に出せない。響にとってもガンヴォルトは大切な恩人であった。何度も響を助けてくれた。大切な親友、未来を助けてくれた。そして二課で色々な人達と仲間になる事が出来た。
「…嘘ですよね?…ガンヴォルトさんが…ガンヴォルトさんが…」
その事実を知った響はガンヴォルトが居なくなった事に涙を流す。大切な親友を失い。更には恩人まで居なくなった。
絶望がより深く、色濃くなって響を包み込む。
だが、そんな響に向けて弦十郎が喝を入れた。
「何を絶望している!何故諦める!勝手に決めつけるな!」
弦十郎は涙を流す響に向けて続けて言う。
「あいつは確かに負けた!だが、まだ死んだなんて決まってない!行方不明だ!あいつはまだ生きている!絶対に!」
弦十郎はそう叫ぶ。
「アシモフとの対決は俺も経験しているから分かる…あれは互いの命が尽きるまで決着の付かない殺し合いだ…だからアシモフにガンヴォルトを殺されたと思うかもしれない…だが!だがガンヴォルトは必ず生きている!その証拠にガンヴォルトの姿は未だ見つかってない!アシモフならばあの時の様に確実にトドメを刺し、その場に残すはず!それかアシモフの事だ、ガンヴォルトの身体を使い、俺達の心を折る為に利用する!だが、それもないとなれば必ずだ!必ずガンヴォルトは生きている!」
弦十郎の言う様、アシモフという外道ならばやりかねない。だが、それもないならば生きている可能性がある。しかし、それは限りなく低い可能性。だが、信じないでどうする。
「旦那の言う通り、ガンヴォルトは生きてる」
そんな時、奏がそう言って入ってくる。その後に翼とクリスも続く。
「アシモフとの戦闘であればそう悲観するのは分かる。だが、私達がそう思うのは違う。勝手にガンヴォルトを殺すのは間違っている」
「そうだ。あいつはどんな時もどんな事があっても立ち上がって来たんだ。こんな所で絶対に終わってない。死ぬはずがないんだよ」
どこか疲れた様に入って来た三人はそう言った。
「奏さん、翼さん、クリスちゃん…」
「とにかく、響は無事でよかった」
そう言って響に近づいた奏は響の頭を撫でる。
「だけど、ガンヴォルトを勝手に居なくなったからって死んだなんて決めつけるな。ガンヴォルトは生きてる。絶対に」
奏の言葉に響は自分が思っていた事をさらに信じさせる力を持っていた。
だが、それでもそれは絶望から目を逸らす為の言い訳に過ぎないのかも知れない。しかし、その僅かな希望も信じないで絶望に浸る事なんて出来ない。
「…はい!絶対にガンヴォルトさんを見つけましょう!」
生きていなければ絶望。生きていれば希望。両極端の願いであるが、この場の誰もがその両極端の希望に縋る。
そうでなければ意味がない。絶望はもう嫌だ。こんな状況はもう懲り懲りだ。だからこそ、希望に縋る。
希望を持たなければ何も変わらない。
絶望を振り払い、希望を持ち始めた響。それを見て弦十郎は胸を撫で下ろす。だが、それでも二課は変わらない。今までの戦闘が課員の絶望を振り払う事が出来ない。
希望を持っているのは装者、そして二課の中でガンヴォルトと一緒にいた時間の長い、慎次や朔也、あおいのみ。
厳しい状況に弦十郎はどうすればいいかずっと考えていたが、答えは出ない。
そんな中、朔也とあおいが息を切らしながら司令室へと駆け込んで来た。
「司令!解析が終わりました!この事を響ちゃんに!って響ちゃん!?」
「響さんもいるのなら話は早い…」
朗報とばかりに息を整えながらあおいが全員に伝える。
「響さん、落ち着いて聞いて。未来ちゃんは生きてるわ」
あおいは響に向けてそう告げた。響はその事を聞いて耳を疑っていた。
「友里さん…それは本当ですか?」
未来が生きていると聞いて嬉しさと驚愕で口を手で覆う。そして声を何とか出してあおいに聞く。
それを聞いてあおいは強く頷いた。
「友里さん、未来さんは生きているかも知れないけど状況は最悪な事に変わりないよ。とにかくこれを聞いてください」
そう言って朔也は持っていた自分の通信端末からとある音声を再生した。
それは未来が生きていると言う事を知ることの出来る音声。だが、それ以上に未来が危険な事を知ることの出来る音声であった。
その音声で語られたのは未来があの爆発の時、F.I.S.の三人、マリア、切歌、調に救われていたと言う事。
そしてその三人も行動している理由が大切な人をアシモフに人質として囚われており、無理矢理協力を強いられていると言う事。そしてその中の切歌、調を更に人質としてマリアを縛る様に爆弾をつけられたと言う事、ら
更には、アシモフが未来を二課を、装者達を釣る為に餌として使われるために囚われたと言う事。
未来が生きていると言う事は響にとって喜ばしい事。だが、その未来を装者を釣る為の餌にすると言う事を告げたアシモフを、そして大切な人を人質にとり、更には切歌と調の命を手中に納める事でマリアを無理矢理協力させている事を許せないと拳を強く握る。
「翼さんとクリスさんが回収した未来さんのスマートフォン内のボイスメモに残されていたものです。未来さんがあんな大変な目に遭いながらも、こうやって記録に残る物を残していてくれて助かりました。それでこうやって分かった事がある。F.I.S.は寧ろ被害者であり、本当に戦うべき存在がアシモフとウェルと言う悪であるという事。そしてF.I.S.の装者である三人は救わなければならない事。ウェル博士については何も分からないですが、カ・ディンギルの趾地でアシモフと協力的な事からアシモフと同様だあると既に判断しています」
朔也は未来の残したボイスメモから把握した事柄を纏めてそう話す。
嬉しいニュース、だが、それ以上に怒りを思い起こさせる現実。アシモフという存在が許せない。
未来だけでなく、マリア達を無理矢理戦わせているという事を知らされた事に全員が怒りの感情が胸をざわめかす。
「藤堯、友里、よくやってくれた」
弦十郎は拳を力強く握りながらそう言った。弦十郎の怒りを感じ取った朔也もそれ以上は必要ないと頷いた。
「未来君の無事が分かった事は嬉しい事だが、未来君は未だ危険に晒されている。ならば俺達がやる事は分かっているな?」
弦十郎は響に、そして装者達に向けて言った。
それを感じ取った四人は力強く頷く。未来を救う。そしてF.I.S.。アシモフにより無理矢理協力させられているマリア達を助け出す。そしてアシモフが捕らえている三人を無理矢理従わせている人質の救出。
やる事はそれだけだ。
「分かってます!未来を絶対に助け出す!そしてマリアさん達も!」
弦十郎に向けて響は言った。
「分かっています。もうこれ以上アシモフの好きにはさせるわけにはいかない!」
「ああ、それにあの野郎と一緒にいる奴も!ソロモンの杖でこれ以上好きにさせねぇ!」
「当たり前だ!」
装者達もやるべき事を把握してそう叫ぶ。
弦十郎は頷いた。
未来の無事で響は希望を更に持った。装者達も同じくだ。後はガンヴォルト。
ガンヴォルトの無事が分かればなお良し。
(ガンヴォルト…未来君は無事だ…お前も無事でいてくれ…)
弦十郎は希望を持った装者達を見ながら、ガンヴォルトの無事を案じるのであった。