戦姫絶唱シンフォギアAB   作:株式会社の平社員

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ウェルに裏切り者であるF.I.S.の対応を任せたアシモフは一人、海辺へと来ていた。

 

それはフロンティアを起動させる為に現場の下見を行いに来た。

 

フロンティア。F.I.S.がその存在を知り、仮称として名付けた方舟。伝承によるとカストディアンと呼ばれる異星人が乗って来た舟と伝えられている物らしいが、アシモフにとってそんな事はどうでもよかった。

 

異星人などはなからどうでもいい。アシモフにとって必要なものはフロンティアそのもの。伝承などに興味など無い。新たな拠点として、そして元の世界の自身の望む世界に作り替える為の新天地として欲している。

 

既に場所は自身で特定して後は封印を解くだけだ。

 

だが、アシモフにとって不都合なことが今、目の前で起こっている。

 

「米国政府の犬共が…どこでフロンティアの存在を嗅ぎつけた」

 

憎たらしく海を見つめるアシモフの視線の先に浮かぶ米国政府の旗を掲げる軍艦の数々。多さに辟易するが、アシモフにとって障害になりはしない。

 

この世界は元の場所よりも少し科学の発展が進んでいないが、それでも電気を多用している以上、アシモフの持つ蒼き雷霆(アームドブルー)にとってなんの意味を持たない。

 

だが、それは分かりきっている為、どうでもいい。気に入らないのは長い年月を費やして、漕ぎ着けた物を横から掻っ攫う気でいる米国政府に怒りすら覚える。

 

それを見ながら自身の怒りのみで行動を起こさぬ様、落ち着かせる。軍艦だろうと蒼き雷霆(アームドブルー)で鎮圧出来る。機械仕掛けの船であればどうとでもなる。しかし、問題もある。軍艦程度侵入すれば無力化は可能だ。だが、海上。アシモフが懸念するのは海上での戦闘。多量の海水は蒼き雷霆(アームドブルー)の力を阻害する。

 

そうなって仕舞えば長い年月をかけて成し遂げた全てが終わる。だからこそ、慎重に動かなければならない。

 

それに焦る必要もない。あの軍艦を超えるフロンティアを持ち上げることは不可能。そしてフロンティアを起動させることも。それに封印を解く鍵はこちらが既に握っている。

 

聖遺物、神獣鏡(シェンショウジン)。それに電子の謡精(サイバーディーヴァ)。又はそれに近しい能力を持つ聖遺物か何か。それが無い限り、フロンティアを持ち出すことなど不可能。

 

そう考えて猛る気持ちを落ち着かせたアシモフ。焦りは判断を鈍らせ、計画を破綻させる。長い時を費やしてようやく辿り着いた。今更たった数日、米国政府に無駄なことをさせても問題ないだろう。

 

落ち着きを取り戻すアシモフ。

 

だが、未だに懸念するものはある。機動二課の装者。紛い者が消え、戦力は落ちた。だが、依然として紛い者とは別で電子の謡精(サイバーディーヴァ)の力を僅かながら見せ、使うことの出来る装者達。天羽奏のみ未だ力を使っていないが、予想では使える可能性がある。

 

電磁結界(カゲロウ)を越える攻撃。油断も慢心もないが、予想外の行動で負傷する可能性もある。だが、それさえ予想出来れば敗北は無い。

 

それに、何度も報告やこの目にしている立花響の容体。

 

シンフォギアを纏い、他の追従を許さない程の出力を扱えるようだが、それが身体を蝕んでいるのか戦闘不能の状態になっている。

 

始末するのは容易いが、もし黒いシンフォギアを纏った状態で戦うとなればどうなるかわからない。紛い者が消えても厄介者はまだ残っている。

 

だからこそ、消えても構わない駒を残した。それに人質も。

 

あらゆる状況を想定して既に対策は済ませている。

 

不安など無い。

 

「…問題ない。もう邪魔を出来る者が残っていようが、全て始末出来る。最悪、Dr.ウェルの案を採用しよう。先程の連絡で何とかなるかもしれんからな」

 

そう呟くとアシモフは海辺からゆっくりと離れて行く。その口元は既に勝ちを確信した様に口角を上げて。

 

◇◇◇◇◇◇

 

奏、翼、クリスはガンヴォルトの捜索、そしていつ起きるか分からない戦闘の為、アシモフを殺す為の特訓を終え、夜が深くなり始めて来た頃、三人はまたガンヴォルトの部屋に集まっていた。

 

「ったく…あいつは何処にいやがんだよ…こんなに捜索しているのになんで見つからないんだよ…」

 

「同感だ…何故ここまで捜索しているのにガンヴォルトの痕跡すら見当たらないんだ…」

 

「…アシモフにやられて負傷して動けないのかもしれない…けど、それなら早く…少しでも早く見つけなきゃならない」

 

ガンヴォルトが生きていると信じている三人は今の現状に痺れを切らして来ている。まだガンヴォルトの捜索が始まって二日。だが、全くの手がかりも掴めていない状態。

 

そんな状態でも三人はガンヴォルトは生きていると必死に探している。勿論、弦十郎も慎次も、オペレーターである朔也やあおいも必死になって捜索している。

 

しかし、それでもガンヴォルトの影すら捕らえられていない。

 

死亡。

 

最悪の文字が頭に浮かんでいるが、それを信じたくないとばかりに三人は首を振るってその考えを振り払う。

 

ガンヴォルトは必ず生きている。そう信じる。

 

だが、その希望が今の三人を苦しめる。

 

こんな状態で本当にガンヴォルトは生きているのか。アシモフと対峙して生きているのか。未来のスマートフォンのボイスメモに残されたアシモフの声が、それを否定する。

 

だが、三人は信じない。ガンヴォルトが死んだなどと信じない。三人にとってそれが苦しめるよりもさらに辛い現実を突きつけるからだ。だからこそ、辛いが生存しているという希望を抱き続ける。

 

ガンヴォルトが見つかるまでは。

 

そんなどん底の状態に陥る中、ガンヴォルトの部屋の扉がゆっくりと開かれた。

 

「…ごめんなさい…何度もチャイム押しても反応がなかったので、緒川さんから借りた鍵で上がらせてもらいました…」

 

入って来たのは響であった。

 

響は現状、シンフォギアを纏えば危険な状態に陥る。その為待機を命じられていたのだが、未来をアシモフに連れ去られている。そして、ガンヴォルトが行方不明な状況で自分一人だけ何もしないなど出来ないと弦十郎にお願いし、慎次と他のエージェントと共にガンヴォルトの捜索を手伝っている。

 

「緒川さんがこれを持っていってくれって頼まれまして…ガンヴォルトさんがまだ見つかってないし、みんなちゃんとご飯を食べてないって言ってましたから…」

 

そう言って響が手に持っていた紙袋を持ち上げる。

 

それを受け取り中身を見ると中には簡単に食べられるサンドイッチやおにぎり、飲み物が人数分用意されていた。

 

「ガンヴォルトさんがいなくなって寂しいし、悲しいのは分かっています…私だってガンヴォルトさんいなくなって…未来も連れ去られて辛いです…でも、まだ未来もまだ無事…ガンヴォルトさんは分からないかもしれないですが必ず生きてます。でも、みんなが倒れたら二課のみんなも心配になりますし…何よりあの人の思い通りになって世界が滅茶苦茶になります」

 

響が三人の体調を心配してそう言った。

 

今現状アシモフと戦う事の出来るのは奏、翼、クリスのみ。弦十郎や慎次も戦えない事も無いのだが、アシモフにある無敵に近い防御手段である電磁結界(カゲロウ)、そして電磁結界(カゲロウ)意外にもネフィリムの心臓、更にはソロモンの杖を有するウェル。そして敵装者であるマリア、切歌、調。

 

敵装者の三人、ウェルだけなら何とかなるかもしれないが、ソロモンの杖によりノイズを出されたら生身である弦十郎や慎次はひとたまりも無い。

 

ガンヴォルトが見つかっていない今の希望は奏、翼、クリスなのだ。その三人、いや、もう誰一人もかけてはならないのだ。

 

「…悪かったよ、響。ずっと暗い顔して」

 

奏がそう言って少しでも暗くなった雰囲気を振り払う。

 

確かにガンヴォルトが見つかってなくても、アシモフは着実に計画を進めている。今止められるのは自分達しかいない。その自分達がこんな状況であればあるほど、その絶望が伝播し、全員に更なる不安を煽る事になる。ガンヴォルトがいない状況でそんな事になって仕舞えば全てが無駄になる可能性が高くなる。

 

「そうだな…悪かった、立花。苦しいのは私たちだけじゃ無い…叔父様も…緒川さんも…二課のみんなも辛いのに…戦える私達が暗ければ光明も何も見つからなくなってしまう」

 

翼も響に対して謝る。

 

「…そうだな…あたしらがいつまでもこんな状況だったら、アシモフに好きな様にされちまう…」

 

クリスも最悪だろうと絶望していればアシモフの計画を完成させてしまう。それは駄目だと、そう言った。

 

「戦えない私が言うのもなんですけど…絶対に負けちゃいけないんです…シアンちゃんと未来を助ける為にも…マリアさんや切歌ちゃん、調ちゃんのためにも…」

 

助ける為に、世界を救う為に自分達がなんとかしなきゃならない。全てを終わらさなければならない。

 

ガンヴォルトがいない状況で終わらせれるか分からない。だが、その状況を少しでも良くする為には絶望し続けてなどいられない。

 

奏、翼、クリス、そして響は今は少しでも持ち直さなければと意気込み、慎次が用意し、響が持ち込んだ夜食を取り、次の戦闘までに気力を少しでも回復させようと取り組むのであった。

 

◇◇◇◇◇◇

 

響に三人の様子を見る様に言った後、夜が明けるまで慎次はガンヴォルトの捜索を行った。しかし、ガンヴォルトが見つかる事は無く、手掛かりも得る事が出来なかった。そして今回の成果を伝えに本部へと訪れていた。

 

その事を伝えるだけでも気が重い。

 

司令室へと入るとオペレーター達が忙しなく働いており、アシモフの居場所の特定、ガンヴォルトの捜索、そして月の衝突を回避する方法など、分かれたモニターには沢山の対策案が映し出されていた。

 

「慎次か…ガンヴォルトの捜索はどうだ?」

 

「いいえ、ここの画面に映し出されている通り、未だガンヴォルト君を見つける事が出来ませんでした」

 

「…」

 

弦十郎も慎次も、ガンヴォルトを殆ど寝ずに捜索に協力しているのだが、全くと言っていいほど足取りが掴めていない。

 

死亡の線が濃厚になる状況に弦十郎も慎次も首を振ってその考えを振り払う。

 

考えるな。勝手に決めつけるな。ガンヴォルトは生きてる。

 

絶対に。

 

しかし、何も情報がない以上焦りが常に付き纏う。今はアシモフに動きがない為、こうして動ける。だが、もしアシモフの計画が進むとなればガンヴォルト抜きで対策しなければならない。

 

それは装者に殺人を強要する事となる。誰もそれを望まない。だが、そうせざるを得ない。

 

既に奏、翼、クリスはそれを実行する覚悟を決めている。もうこのまま命令を下していいものなのか。一個人で無く、指揮官として下さねばならないのかと葛藤する。

 

だが、その時、ガンヴォルト捜索を率先して行なっていた朔也が叫ぶ。

 

「司令!ガンヴォルトに似た人物がいると通報がありました!」

 

「ッ!?藤堯!それは本当か!?」

 

朔也の言葉に驚きを隠せず、弦十郎が叫ぶ。

 

「カメラで写っているわけではありませんが、特徴が一致しています!ガンヴォルトの可能性が高いです!」

 

やはり生きていた。ガンヴォルトは死んでなかったと歓喜する。

 

だが、何故生きているのなら連絡がなかったのか?何故帰ってこれなかったのかと疑問が浮かぶ。だが、今はどうでもいい。ガンヴォルトの無事が今の弦十郎達にとって嬉しいニュースであったからだ。

 

「すぐに一課にヘリを用意させる!装者達にもその事を伝え、すぐにでも出発するぞ!」

 

「はい!」

 

光明はまだ潰えていない。二課の全員がガンヴォルトの無事に歓喜し、希望が満ち溢れる。

 

だが、その光は既に消えかけている事は今はまだ二課も装者も誰も知らなかった。


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