戦姫絶唱シンフォギアAB   作:株式会社の平社員

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16VOLT

「うーんもう少しだから頑張ってねー」

 

響は木に登り、猫に向かって手を伸ばしていた。

 

なぜこのような事になっているかというと、登校途中に木から降りれなくなった猫を見つけてしまい、響の困ってる人、いやこの場合は困っている猫だろう。困っていたら助けてあげたいという思いからこのような事になっていた。

 

響の手が猫に届きはしたが、猫はそれを避けて更に枝の先に逃げてしまう。

 

「あーもう、こっちにおいで。そんな端っこに行ったら枝が折れちゃうよ」

 

響の言葉を無視して猫は更に細くなっていく枝の先に行ってしまった。案の定、枝は猫の重さに耐え切れずにミシミシと音を立て折れてしまう。

 

「危ない!」

 

木から飛んで猫をキャッチする事に成功するがそのまま重力に沿って落下してしまう。とにかく猫が無事な様に胸に抱え、自分が下になるよう体勢を整えて目を瞑って衝撃に備えた。

 

しかし、衝撃は意外にもあっさりとしていて、痛みすら感じない。恐る恐る目を開けると男性の顔が目に入った。

 

「まったく、猫を助けるために無茶をして怪我をするつもりだったの?」

 

男性は呆れたようにそう言った。

 

「えっとすみません…」

 

「とにかく君も猫も無事でよかった」

 

そう言って男性は抱えていた響を地面へと下ろす。響は今まで自分がお姫様抱っこされていた事に気付いて顔を赤らめる。

 

「助けてくれてありがとうございます」

 

お礼を言って改めて男性を見る。スーツを着ていて長い金髪を三つ編みにしていて、目が悪いのか眼鏡を掛けている。

 

だが、その男性に既視感を覚えた。二年前のあの時の後ろ姿の蒼いコートを着た男性と重なった。

 

「すみません!つかぬ事をお聞きしますが、二年前に私の事を助けてくれた人ですか!?」

 

「…急にそんな事言われてもどう答えれば分からないな…。君を助けたと言われてもどういった時の事なのか分からないし、人違いなんじゃないかな?」

 

男性は少し困ったように答えた。確かに響の配慮が足りず、全く説明が入っていなかった。

 

「あっ、二年前のライブの時です!あの会場で怪我をしていた私とツヴァイウィングの天羽奏さんを救ってくれた時、あなたもあの場所で!」

 

男性は困ったように喋り続ける響に一度静止を掛けるように手を響の顔の前に出した。

 

「待ってくれ。君はリディアンの生徒だろ。こんな所で質問をしてる暇はないんじゃないかな」

 

そう言って男性は腕時計に指を指す。腕時計の時間を見せてもらうと既に始業の時間を少し過ぎており、完全な遅刻であった。

 

「あぁ!?しまった!すみません、この話はまた今度に!」

 

響はリディアンの方向に向けて走り出した。

 

「ちょっと…」

 

男性は何か言いたそうに響を止めようとしたが、既に響は全力で脇目も振らずに走り去って行った。

 

「猫を連れながら学校に行くのと、連絡先を知らないのにまた今度って…彼女は天然なのかな?だけど…」

 

男性、ガンヴォルトは響の背中を見送りながら少し安堵したような表情を浮かべた。

 

「だけど君は無事でよかったよ…」

 

◇◇◇◇◇◇

 

「だはー、疲れた。入学初日なのにクライマックスが百連発気分だよ。これは絶対に私呪われてるかも」

 

響はリディアンの寮の床に倒れ込みながらぼやいた。入学式には遅刻して怒られ、更に猫を学院内に連れ込んで先生に叱られるなど散々な一日だった。

 

「半分は響のドジかもしれないけど残りはどうせいつものお節介でしょ」

 

響のぼやきに答えるのは幼馴染であり寮の同室である小日向未来という少女であった。未来は荷解きをしながらそんな響に言った。

 

「人助けって言ってよ。人助けは私の趣味なんだから」

 

そう言って体を回転させて仰向けからうつ伏せ状態になり未来の方を見る。

 

「響の場合はその行いが度を過ぎてるの。猫を助けようとしてそのまま遅刻しちゃうし、同じクラスの子に自分の教科書は普通貸さないでしょ」

 

「私は隣の未来から見せてもらうからそんな事いいんだよー」

 

響はいつの間にやら未来の後ろまで来ており、笑顔を浮かべている。未来はそんな響を見て少し驚くも頰を染めて微笑む。響はそんな未来を見て満足したのかデスクの方へ向かう。そんな響を見て未来はバカと呟いた。

 

「おぉ、新曲のCD発売はもう明日だったけ?やっぱりかっこいいな。翼さんは」

 

響はデスクの上に置かれた雑誌を拾い、裏に大きく宣伝された翼のポスターを見て胸に抱えた。

 

「翼さんに憧れてリディアンに進学したもんね。あの成績からよく頑張ったよ」

 

「だけど今日は翼さんの姿すらお目にかかれなかった。そりゃー、今話題のトップアーティストなんだから簡単に会えると思ってないけどさ」

 

そう言って雑誌を置き、響も自分の荷解きを始めた。

 

(あの日私を助けてくれたのは、ツヴァイウィングの二人ともう一人、雷を纏った男性なんだけど…)

 

「あー!」

 

急に大声を上げた。未来はそんな響を見てどうかしたのかと心配そうに聞いてきた。

 

「どうしたの響。何か大切な物でも忘れたの?」

 

「違うの!今日猫を助けた時に落ちる私を助けてくれた人に改めてお礼を言おうとしたのに連絡先聞き忘れてた!」

 

その声を聞いた未来は少し呆れながらも響に言った。

 

「やっぱり響はドジなんだから。でもその人リディアンの近くにその時間にいたのならこの近くの人なんじゃない?それだったらまた何処かで会えるんじゃないかな?特徴とか覚えてるんでしょ?私も一緒に探してあげるから」

 

「うん。未来も探してくれるなら直ぐに見つかると思うんだけど…眼鏡を掛けた長い金髪を三つ編みにした人でスーツを着てたかな」

 

その言葉を聞いた瞬間に未来がものすごい勢いで響に詰め寄る。

 

「響!その人の事を何処まで知ってるの!?」

 

突然の未来の行動にあたふたする響。

 

「そ、そんなには知らないよ…その人に会ったのも二回目だし。もしかして未来の知り合いだったりするの?」

 

「知り合いじゃないんだけど…」

 

歯切れが悪く答える未来。

 

「だったら…はっ!もしかして未来の元カレとか!?私が知らない間にいつの間にか年上のかっこいい彼氏作ってたの!?私と一緒で年齢=彼氏いない歴と思ってたのに!?」

 

響がそういうと未来は慌てて首を振る。

 

「そ、そんなんじゃないよ!話の内容が飛躍しすぎて意味不明だし…ただ、私も前にその人に助けてもらったかもしれないから…」

 

「えっ?未来もその人に助けてもらった事あるの?」

 

「前にね…」

 

やはり未来は歯切れが悪い返答をした。何か隠しているのだろうか。だがとても言いづらそうにしているため、響は深く聞かず笑顔を浮かべる。

 

「だったらその人が未来の恩人だったら改めてお礼を言おうよ!その人がもし同じ人だったら未来の事を覚えてるかもしれないし!」

 

「七年も前の事だよ。その人かどうかも怪しいし…」

 

「大丈夫だよ!もし未来を助けてくれた人なら絶対その人も覚えてるはずだよ!だから会った時に絶対二人でお礼をしよう。ね」

 

未来はようやく笑みを浮かべて頷く。

 

(とは言ったものの、私がお礼を言いたいのは二年前のあのライブ会場の事。私が退院した頃に見たニュースでは全く違った事が放送されていた。ノイズの事はあっていたけどあの鎧みたいなものを纏った奏さんや翼さん…それに二人とは違ってあの場に現れたあの人の事…翼さんやあの人に会いたいのはあの日、本当は何が起こっていたのかあの人達に会えば分かる気がするから。でも、あの人が本当に二年前にライブ会場にいた人なのかどうかも分からない…未来にはあの時の事を聞いたとしても信じてもらえるかどうか分からないし…だって人が雷を操るなんて話したってまた変な子って思われるだけだし、どうしよう)

 

◇◇◇◇◇◇

 

未来は先程の響の言っていた男性について考えていた。

 

(金髪の三つ編みの男性…私の小さい頃に助けてくれたあの人かもしれない…)

 

未来は七年前に起きたノイズの発生地域にたまたま居合わせてしまった。そして逃げる人々に押されて転び、ノイズに襲われようとした時に間に入ったのが響が言ってた特徴と一致する長い金髪を三つ編みにした男の人であった。

 

うっすらとしか覚えてはいなかったが長い金髪を三つ編みにしている男の人というのはとても印象に残っている。

 

(でもその人なのか分からない。ただ響には言えないよね)

 

それは政府により口止めされている事と響に心配させたくないと思っている事ともう一つ。

 

(ノイズを倒す事の出来る雷を操る人だなんて信じてもらえるか分からないし…)

 

あの助けられた時の事、逃げている際にその人が大丈夫なのかと無事を確認したく、振り向いた時にその男の人は雷を操り、バリアのようなものを展開してノイズを倒しているのを目撃してしまった。

 

もちろん、最初はその人を助けてと保護された時に自衛隊の人達にお願いしたのだが、それ以降あの人に会う事も話を聞く事も、生きているのかさえも分からなかった。

 

(どうか、響の言うその人が私を助けてくれた人でありますように…)

 

未来はその人物が助けてくれた人だと信じ願った。

 

◇◇◇◇◇◇

 

所変わってリディアン周辺の森林の中、夜が深くなる頃にノイズが発生して、街に侵攻してきた。直ぐ様近くの一課が出動してノイズの進行を防ごうとしている。

 

鳴り響く銃撃と爆音。しかしノイズに向けて放たれる銃弾やミサイル弾はノイズをすり抜けてしまい、何のダメージも与える事が出来ていない。そんな中、一機のヘリが飛んできてノイズ上空を通過する。

 

そのヘリからは二人の人が飛び出していく。

 

「Imyteus amenohabakiri tron」

 

一人は歌を歌い飛び出す。もう一人は手にした銃で目下にいるノイズへと銃弾の様なの物を撃ち込み、手から雷を放つとノイズ達を炭へと変えていった。

 

二人の人影が降り立つ。一人は蒼いコートを羽織り、片腕には特殊な銃が握られており、身体には雷が迸っている男性。もう一人は蒼い鎧のような物を纏った女性であった。

 

『ガンヴォルト、翼。まずは一課と連携を取りつつ、ノイズの出方を伺ってくれ』

 

「必要ありません」

 

蒼い鎧を纏う女性、風鳴翼は直ぐにそう答えてノイズの群れへと突撃していった。

 

『翼!…全く、後で説教だ。ガンヴォルト、悪いが翼と一課のフォローを頼む』

 

「了解。こっちは任せて。そっちは状況を逐一報告とノイズの反応のチェックをお願い」

 

通信機越しに男性、ガンヴォルトが答えるとガンヴォルトも蒼き雷霆(アームドブルー)で生体電流を活性化させてノイズに向けて駆け出した。

 

迫り来るノイズは雷撃鱗を展開しての体当たりで炭化させ、離れている敵には避雷針(ダート)を撃ち込んでロックオンされた矢先に雷撃鱗から雷撃を誘導して雷が迸り炭化する。

 

翼もカポエイラの様に逆さになり足から伸びる刀で切り裂く、逆羅刹。周囲のノイズを殲滅すると空に跳び上がり、空中に大量の剣を出現させて降り注がせる、千ノ落涙。そして周辺のノイズを片付けると残っていた巨大ノイズに向けて駆け出す。手に持つ剣を巨大化させ、振るう剣からエネルギーの刃を飛ばす蒼ノ一閃。

 

巨体ノイズは身体を真っ二つに切り裂かれ、そのまま炭化した。着地する翼。しかし、死角から隠れていたノイズが翼に向けて弾丸の様な勢いで襲い掛かる。

 

だが、そのノイズには既に避雷針(ダート)でマーキングされた様に蒼い紋様が浮かび上がっており、ガンヴォルトが腕から雷撃を出すとまるで吸い込まれるかの様にノイズへと誘導されていき、翼に当たる直前に炭化した。

 

「翼、最後まで気を緩めるんじゃない」

 

ノイズの殲滅を確認したガンヴォルトは翼の方に歩み寄りながら言った。

 

「気を緩めてなんかいないわ。ノイズの存在自体も気付いていたけど、貴方のロックオンが見えたから無視していただけ。ガンヴォルトならやってくれると思ってたから」

 

ガンヴォルトはそれを聞いて少し呆れながらも言った。

 

「まったく。信用してくれるのは嬉しいけど、余り無茶はしないで。弦十郎の指示も無視して…。心配する弦十郎達やボクの事も少しは考えて」

 

「ごめんなさい、ガンヴォルト。でも、私は奏をあんな風にした存在が許せないの。だから直ぐにでも…」

 

ガンヴォルトは少し表情を曇らせるが直ぐに表情を隠した。

 

「それならボクも同じ気持ちだよ。でも翼、焦っちゃいけない。それが油断に繋がるんだから。この後はボクが一課と一緒に処理を進めるから翼はもう上がって。学生、アーティスト、防人の三重生活になってるんだから休める時はしっかり休んだ方が良い」

 

「私は大丈夫だから」

 

続けて何か言おうとする翼の言葉を遮る様に弦十郎から通信が入る。

 

『ガンヴォルトの言う通りだ。後は一課とガンヴォルトに任せて翼はもう休め』

 

「しかし司令!」

 

『たまには言う事を聞け!奏が入院してからお前はいつもいつもそれだ!ガンヴォルトの言う通り、お前は』

 

怒鳴る弦十郎。それ以上はまた小言を言われそうになるためガンヴォルトは翼の耳に付いている耳当てに手を当て、翼の通信機を切った。

 

急に耳に手を当てられた翼は顔を赤くする。

 

「な、何をするのガンヴォルト。そ、そういう事は…」

 

「そういう事?何の事か分からないけどこれ以上は弦十郎の話が長くなると思ってね。弦十郎の小言がまた入る前に帰った方が良い。後はやっておくから」

 

「…バカ…」

 

翼が小さい声でそう言うがガンヴォルトは通信機から手を離し、肩を竦める。

 

「翼が早く帰ってくれないと明日の弁当をボクは作れなくなるかもしれないな」

 

翼を和ませようとおどけた風に言うと翼は慌てる。

 

「そ、それは困る!ガンヴォルトの弁当が貰えなきゃ私の昼食がなくなってしまう!」

 

「だったら今日は早く帰った方が良い。さっきの件については弦十郎にボクが怒らない様に伝えておくから」

 

「でも」

 

また何か言おうとする翼の話を遮る様に前に奏が翼を嗜める時によく使っていたデコピンをする。

 

「根を詰めすぎてもダメだよ。ここは甘えておいて」

 

翼は少し恥ずかしそうにしたが直ぐに頷いてヘリの待機している場所まで歩いて行った。ガンヴォルトはそれを見送った後、一課の方に歩き始めた。

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