戦姫絶唱シンフォギアAB   作:株式会社の平社員

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もうすぐ2周年だけどとりあえず今書いているのが終わって、一周年企画の奴を終わらせてから完結記念として何か書こうと思います。


68GVOLT

装者達へと連絡を取り、二課のメンバー、弦十郎、慎次、朔也、あおい。そして装者である奏、翼、クリス、そして響は一課のヘリに乗り、本部の停泊させている港から離れた別の県の周りを山に囲まれた漁村へと来ていた。

 

通報によるとこの漁村の診療所に意識を失った老婆と胸に傷を負ったガンヴォルトらしき男が訪ねてきたらしい。診療所に在中していた医師は治療の為に用意をして戻ると老婆のみを置いて男は消えていたようだ。

 

「ここに…ガンヴォルトが…」

 

「何で東京から遠く離れた場所にガンヴォルトさんが…」

 

奏が漁村を見てそう呟く。響も同様に離れた場所にガンヴォルトがいるのか不思議に思っている。

 

「そんなのどうでもいいだろ。ここにあいつがいるのなら連れて帰るだけだ」

 

「雪音の言う通りだ。それに、怪我を負っているとなればすぐにでも連れ変えなければならない」

 

クリスの言葉に翼が続ける。

 

「しかし、響さんの言う通り妙ですね…ガンヴォルトなら診療所に入り次第、すぐにこちらへと連絡を取ると思うのですが…」

 

「…」

 

あおいの言葉に弦十郎も妙だと感じる。以前と違い、密に連絡を取り合っていた。通信端末などが壊れたのならあおいの言った様に診療所で借りればよかったはず。

 

だが、そうはしなかった。何故なのか…。

 

唯一、弦十郎だけが胸騒ぎをしていた。

 

以前、斯波田事務次官より言われていたガンヴォルトの精神状態の事。そして、アシモフがガンヴォルトの何かを握っている事。その何かがガンヴォルトのギリギリ保っていた精神を壊すものであったのならば…。

 

ともかく今はガンヴォルトの安否を確認だ。

 

「藤堯さん、通報があった診療所へ行きましょう。ガンヴォルト君が行方を探すならまずそこでしょう。それに、もし本当にガンヴォルト君であれば、連れてきた人、もしくは駐在者がガンヴォルト君の行方を知っているかも知れません」

 

「分かりました。こっちです」

 

朔也の案内で漁村の診療所へと向かう。着いた先の小さな建物に入り、事前に朔也が連絡していた為に、すぐに医師が出てくるがあまりの大人数にたじろいていた。

 

「大人数で押しかけてすみません」

 

朔也は医師にそう話し始めていたが、医師は二課の主要メンバーは理解している様だが、装者達、学生服を着た少女達に対しては疑問符が頭に浮かんでいる様だ。

 

だが、今はそんな事などどうでいい。とにかくその人物の親しい人達と言って何とか納得してもらう。

 

「混乱しているかも知れませんが、単刀直入に聞きます。ここに訪れた男性についてです」

 

「え、ええ。今日の夜明けに通報した男性が気を失った女性を抱えて訪ねて来たんです。最初は幽霊か何かと思いましたよ。胸に何か傷を負っていたのか血を流していて…それに着ている服が何か事件に巻き込まれた様にボロボロでしたし…それでこの人を助けてやってあげてくれと言う言葉で我に帰り、女性の治療、それに男性の治療をしようと思い、準備しようとしたらいつの間にか女性を近くのベッドに寝かせられていて男性が消えていました」

 

医師がその時の状況を説明する。そして初めに話したボロボロになった服装を事細かに聞き、この中で唯一、アシモフと戦闘前にガンヴォルトと会っている響に確認して、間違い無くガンヴォルトだと確信する。

 

やはりここにガンヴォルトがいた。

 

だが、何故ガンヴォルトはいなくなったのか?

 

どうしてその様な行動を取ったのかは未だ不明であるが、ガンヴォルトが連れてきた女性の存在も気になる。

 

医師に連れられ、その女性がいる病室へと向かう。

 

そして病室には点滴を付けられて眠る女性の姿があった。

 

「この方も知り合いでしょうか?」

 

初めて見る女性の姿をこの中の誰も知らなかった。

 

困惑する全員に医師も何と言えば良いのか分からないと同様に困惑した。

 

だが、ガンヴォルトの情報を握っている可能性の高い。

 

しかし、意識を失っている以上、無理矢理起こして聞き出すわけにもいかない。

 

「他に…他に何かあいつの…その男性の分かる事はないですか!?お願いします!」

 

朔也が懇願する様に医師へとお願いする。朔也だけでない。この場にいる全員がどんな事でも構わないと医師へとお願いしていた。

 

医師も困り果てているが、それ程この場に現れた男性が何かとても重要な人物なのではないかと察して医師が最も印象に残っていた事を答えた。

 

「暗くて分かりにくかったですが…その男性の表情はとても印象に残っています…絶望…まるで何かとてつも無い絶望に落とされた様な…そんな表情をしていました…」

 

朔也達はその話を聞いて、アシモフの幾度となく喫した敗北に精神が勝てないと認めたのかと思ったが、弦十郎だけは違った。

 

胸騒ぎが当たっていた。アシモフが精神的に危ういガンヴォルトを更に追い詰める何かをガンヴォルトに向けたのだと確信する。

 

ガンヴォルトに対する何かは分からない。だが、それでもガンヴォルトの弱った心を折る程の何かをアシモフがガンヴォルトに与えた事により、今までギリギリ保っていた精神を完全に破壊した。

 

弦十郎は直ぐ様に指示を下す。

 

「情報提供ありがとうございます。友里君と藤堯君は女性の側にいてくれ。もし起きる事があれば事情聴取、それに捜査協力を仰いでくれ」

 

弦十郎は指示出すと医師に礼を述べて直ぐに装者と慎次を連れて外へ出る。

 

「どうしたんだよ、旦那?そんな慌てて指示を出して?」

 

「司令、一体何を慌てているんですか?」

 

奏と翼が弦十郎に不安そうに聞いた。

 

「…ガンヴォルトを早く探さねばならない…あいつは…あいつの心は限界を越えてしまった…壊れた人間はどうなるか分からない…だから…早く探さなければ…」

 

「どう言う事だよ!?おっさん!?」

 

「師匠!何の話ですか!?」

 

弦十郎の溢した謎の言葉に装者達は弦十郎に問い質す。慎次も何も知らないようで弦十郎に言う。

 

「司令…それはどう言う事なんですか?」

 

「…ガンヴォルトの状態は皆も何となく察しているだろう…アシモフとの幾度となく行った戦闘。その全て、勝利を掴む事が出来ず、幾度となく敗北を喫している…そして、シアン君…ガンヴォルトが大切にしていた彼女を奪われた事からガンヴォルトの精神は徐々に蝕まれていった…その結果、過去のシアン君…俺達が話で聞いたシアン君の肉体を失った時を夢で何度も見る事になった…」

 

ガンヴォルトの過去。アシモフに殺され、肉体を失ったシアン。更に今度はシアンという存在すらガンヴォルトから奪われた。

 

その辛さは想像を絶する物だろう。

 

「そんな中でも、アシモフを倒せばまた戻る…シアン君を助けられる…装者達も我々も助けられる…それが絶望してもガンヴォルトを繋ぎ止めていた唯一の希望であったと思う…だが、それ以外に斯波田事務次官より言われていた事がある…アシモフがガンヴォルトの何かを握っている…それが何なの事なのか分からないが、ガンヴォルトを壊す可能性があると危惧していた…それがものの見事に当たってしまった…」

 

「おっさん!何でそう言えるんだよ!?そんな事あいつに会いもしねえで分からねぇだろ!?」

 

クリスが弦十郎へとそう言うが、弦十郎は首を振るう。

 

「さっき医師が言っていただろう…診療所に訪れた時のガンヴォルトの表情を…絶望に落とされた様な顔をしていた…探すのは当たり前だが、一刻の猶予も無くなったんだ…」

 

「…司令、ガンヴォルトを早く探すのは当たり前です。アシモフがいつ動くか分からない以上早くガンヴォルトを見つけなければならないのは当たり前。ですが、それで一刻の猶予も無くなったのはどういう事ですか?」

 

翼は未だ弦十郎の意図が読めないとそう聞いた。

 

「壊れた人間がどの様な行動を取るか分からない…今のガンヴォルトがそうである様に、ガンヴォルトはどうなるか分からない…人を殺すなどの過ちは犯さないにしろ…そうなると向ける矛先は自分の可能性がある…だからこそ一刻も早く見つけねばならない…ガンヴォルトが無事である内に」

 

「そんな…」

 

響はその言葉を聞いて絶句する。だが、響だけは何となく悟ってしまった。深い絶望の中、ドス黒い感情に支配され、何をやったのか分かりもせず、大変な事を幾度も行ってきたからこそ、弦十郎の危惧する意味を理解した。

 

「ッ!何でそんな事黙っていたんだよ!旦那!それを知っていたなら対策しようがあっただろう!私達にも話してくれれば何とかなったかもしれないだろう!」

 

何故そんな重要な事を黙っていたと奏は弦十郎に噛み付く。

 

「今のお前達に言えるわけないだろう!我々の心中も察せず、ガンヴォルトもやって欲しくないアシモフの殺害をしようとするお前達に!先程の事を前もって言えばお前達がどうするかなんて分かりきっているからだ!」

 

弦十郎はそう叫ぶ。弦十郎が響を除いた装者達に向けてそう告げた。それを聞けば装者達が何をするかなんて分かりきっている。アシモフの殺害をより執着する事になるだろう。大切な人を悲しませたくない。大切な人を守りたいと。一人で背負わせたくないと。だからこそ伝えられなかった。

 

「だから隠してたって言うのかよ!大体、私達はもうとうに覚悟は決めている!」

 

「雪音の言う通り!私達はもう既にアシモフを殺す覚悟をしています!ガンヴォルトだけにそれを背負わせないと決めたんです!それなのに!私達の覚悟を否定するのですか!」

 

「お前達の覚悟は分かっている!だが、お前達に人殺しと言う事をさせたくないんだと言っているだろ!」

 

「なら何でガンヴォルトにだけ一人で背負わせようとするんだよ!おかしいだろ!何であいつばっかりに辛い事をさせようとするんだ!」

 

「皆さん落ち着いてください!今は我々が言い争っている場合じゃないでしょう!」

 

慎次が一触即発の装者達と弦十郎を諌めるために割って入る。

 

「ガンヴォルトが今危ない状況と言うのが分かっているのならこんなところで言い合いをしている暇がないことくらい理解して下さい!」

 

「そうです!今ガンヴォルトさんが危険なのに何で仲間同士争わないといけないんですか!」

 

慎次に続き、響も今は争っている場合ではないと伝える。

 

その言葉で我に帰る四人。

 

「すまない…慎次、響君…今は争っている場合ではない…ガンヴォルトを早く探さなければ…」

 

慎次と響の言葉にガンヴォルトの身が危ない事を思い出し、冷静になる。

 

そして弦十郎は指示を出して弦十郎と慎次、奏と翼、クリスと響のペアでガンヴォルトの捜索を行う事にする。

 

「通信機を常に入れて置いてくれ。そしてガンヴォルトを誰でもいいから見つけ次第、報告するんだ」

 

そう言う弦十郎は慎次に言って各ペアに耳につける通信機を渡す。

 

「さっきの事はまた後で話そう。一刻も早くガンヴォルトを見つけ出すぞ」

 

そう言って弦十郎の言葉に頷いた全員はペアごとに散らばってガンヴォルトの捜索を開始した。

 

◇◇◇◇◇◇

 

「あいつ…何であんなにメールで無事って言ってたくせに…危なかったんじゃねえか…」

 

クリスはガンヴォルトに悪態を吐きながら漁村へと来てガンヴォルトの姿を探していた。

 

「クリスちゃん…」

 

響もガンヴォルトを探しながらクリスの後を追う。

 

クリスと響は懸命に探す。どちらにとってもガンヴォルトは掛け替えの無い人だから。何度も救ってもらった人だから。

 

絶望に立たされているのなら救わなきゃいけない。今までの恩返しをしなきゃならない。

 

クリスは家族失った自分に新しい居場所を作ってくれた事。こんな自分を受け入れてくれた事。それに自分にとって家族とは違った掛け替えの無い人だから。

 

響にとっても同様だ。過去に間接的に命を救われた。幾度と無く危機を救ってくれた。それに最も大切な親友を。未来を助けようとしてくれたのだから。

 

二人は懸命に探す。もう失いたく無い。そんな絶望の中に取り残してはならない。救い出さなければならないと。

 

◇◇◇◇◇◇

 

奏と翼はクリスと響とは離れ、漁村の外れにてガンヴォルトを捜索する。

 

クリスと響同様にガンヴォルトに何度も救われているから。それだけじゃ無い。それにクリスと同じく奏と翼にとってガンヴォルトとは掛け替えの無い存在であるからだ。

 

何度も命を救ってくれただけじゃ無い。ガンヴォルトによって心も救われた。

 

だからこそ救わなければいけない。今まで助けられてばかりだからこそ、今度は自分達が救わなければならない。絶望の淵から。

 

「絶対…絶対見つけ出すから…無事で居てくれ」

 

「変な事を起こさないで…間違っても…自分を傷つける様な選択を…私達が見つけるまで…絶対に…」

 

奏と翼は漁村の外れを探し続ける。

 

◇◇◇◇◇◇

 

クリスと響の漁村、外れを奏と翼、弦十郎と慎次は山の中を探していた。

 

「ガンヴォルト…無事で居てくれ」

 

山の木々にガンヴォルトの痕跡を探しながら急いで山を駆け上がる。

 

まだこの場にいると言う保証などない。だが、それでも諦めきれない気持ちが、弦十郎や慎次を、そして装者達が動く理由になっていた。

 

「…この辺りに何もありません…もしかしたら漁村から別の道でこの場から去った可能性も…」

 

かなりの時間、険しい山道を探して全くの痕跡すら見つからない為に慎次がそう口にした。

 

「…」

 

弦十郎もそう思い始めていた。かなりの長い時間をかけてもガンヴォルトが歩んだと思われる痕跡が見つからない。慎次のいう通り、もう既にこの場所にいない可能性が浮上する。

 

「…かもしれない。漁村の方を捜索しているクリス君と響君…外れを捜索する奏と翼からも発見したと連絡が無い…」

 

浮かぶのは絶望。そしてガンヴォルトが既にどうかなってしまったという不安。そんな考えが弦十郎と慎次の頭によぎってしまう。

 

まだそうと決まったわけでは無いと否定しようにもそれを振り払うだけの可能性を弦十郎と慎次は持たない。

 

これ以上のここの捜索は無意味だった。そう思った時、二人の目の前に一匹の蝶らしきものが横切る。

 

ただの蝶であれば何の木にする必要もない。だが、その蝶は何処か見覚えのある意匠をしていた為に弦十郎も慎次もその蝶を目で追っていた。

 

「あれは…シアン君と同じ…」

 

そう。その蝶はシアンと同じ翅の生えた蝶であった。

 

「そんな…シアンさんはアシモフに奪われた筈なのに…」

 

その蝶を見て弦十郎も慎次も開いた口が塞がらない。そもそもシアンは弦十郎と慎次には機械を通さなければ見えない存在。それなのに目に見える。それに慎次が言った様にアシモフに奪われた筈。

 

だが、弦十郎はその光景を一度だけ見た覚えがある。かつてガンヴォルトが死にかけた時、奏のギアペンダントから蝶が現れだとかの事を。

 

そして蝶はまるで二人を誘うかの様に追ってくるのを待っているかの様にその場を漂っていた。

 

「シアン君なのか?」

 

蝶に向けて弦十郎が聞いたが、答えは帰ってこない。シアンなのかは分からない。だが、ガンヴォルトを見つける手がかりである。

 

漂う蝶を追い始めるとまるで案内するかの様に蝶が飛んでいく。

 

険しい山道を二人は蝶が案内をする通りに進んでいく。暫くの時間、ただ黙々と蝶を追う二人。

 

だが、蝶が突然粒子になって消える。

 

「ッ!?」

 

その瞬間を目撃した二人は急いで蝶の元へ向かうが、既に粒子となって消え去った後。そして粒子が一方へ進んでいく道を見るとそこにはボロボロになり、木を背に座る、ガンヴォルトの姿があった。

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