「ガンヴォルト!」
装者達が慎次の後を追ってガンヴォルトと弦十郎の場所まで来た。
だが、その表情はガンヴォルトを見つけた嬉しさはどこかへ消えてしまった。
それもそのはず。装者達の目の前にいるのは常に希望であり続けた光などではなく、その身から絶望を絶え間なく溢れ出させる闇そのものであったからだ。
「…」
その姿に装者達は何も言えない。今のガンヴォルトでなければ、どこに行っていたんだ。生きているのなら何故連絡してくれなかったのだ。何で戻って来なかった。
そう言えただろう。
だが、そんな言葉すらかけれないほど当たりを満たす程のガンヴォルトから溢れる絶望に何も言葉をかけれなかった。
「奏…翼…クリス…響…」
虚な目をしたガンヴォルトが呟く様に名前を呼んだ。
「何で…何でそんな状態なのに…連絡もせず…帰って来なかったんだよ…」
奏がガンヴォルトに向けて絞り出す様に言った。
「…ボクの帰る場所じゃないからだよ…今のボクに居場所なんてどこにもない…」
装者達にとって意味の分からない言葉。
「何を言っているんだ…二課は…ガンヴォルトの帰る場所だろう…そこが貴方の場所でしょ…」
その答えの意味がわからない翼も声を絞り出して言った。だが、その言葉にガンヴォルトは首を振るう。
「違う…ボクに初めから居場所なんてない…
そう答えるガンヴォルト。意味がわからないと思う装者達。
「何で…何でそんな事言うんだよ!あそこはお前の居場所だろうが!私達の居場所だろうが!何でそんな場所をくれたお前がそんな事言うんだよ!」
クリスが意味の分からない言葉を告げるガンヴォルトに怒りを露わにしてそう叫ぶ。
「そうですよ!帰る場所があるのに!何でガンヴォルトさんはそれを否定するんですか!?」
響もガンヴォルトの訳のわからない言葉にこっちがそうだと言わんばかりにそう言った。
「…違う…あそこはボクが居て良い場所じゃない…ボクの様な
「訳がわかんねぇよ!大体何で自分を紛い者って言うんだよ!何が紛い者なんだよ!アシモフが言っている訳のわからない事をガンヴォルトまでなんで言ってんだよ!」
ガンヴォルトの否定に痺れを切らせた奏がガンヴォルトに言った。
「ボク自身がだよ…ボクに居場所を得る権利なんてない…
ガンヴォルトの口から語られたクローンと言う言葉。装者達もその意味は知っている。本物の遺伝子を使い、同じ存在を生み出す技術。
「ボクは…
「ッ!?」
ガンヴォルトから語られた目の前にいるガンヴォルトの正体。
クローン人間。それがガンヴォルトだと言う事を知る。
「嘘だろ…アシモフの言った嘘に…何でお前なんかが信じてるんだよ…そんなの覚えがないんだろ…お前は関係ないだろうが…」
クリスが絞り出した声でガンヴォルトに言うが、首を振った。
「関係なくなかったんだ…アシモフが常にボクの名を呼ばず、紛い者と言い続けた理由…本物はアシモフを一度倒して…殺していて…本物は既にやるべき事を為していた…シアンの仇を…アシモフの野望を打ち砕いていたんだ…」
本物は既に今目の前にいるガンヴォルトが行おうとしていた事を終えていた。だが、それなら今禍根のアシモフは一体何者であるのか?
その事もガンヴォルトが語った。
アシモフは本物が倒した筈の存在である事。アシモフは目の前にいるガンヴォルトと違い、本物足らしめるすべで持ち合わせていると。
そしてアシモフの野望も。帰る手段を探り当て、元の世界に戻り、
規模の大きな野望。そして、そのアシモフが持つ野望は絶望を意味している。
「そんな…そんなのって…」
響はアシモフの野望を知り、自分達だけでなく、初めから世界が混乱どころか抹殺される危機に晒されている事に絶望する。
それならば尚更アシモフを止めねばならないと全員が思う中、ガンヴォルトだけは違った。
「ボクはもう何も出来ない…
そんな既に意気消沈した様に呟いた。
ガンヴォルトにとって全てが帰る為であったのであろう。その全てが何故か刻まれた記憶による行動だった。本物でない自分は何をやっても意味がない。生きている事すらクローンである自身は罪であると戒めている。
だが、装者達はそんなガンヴォルトを見て、同情や沈痛などの感情ではなく、怒りに満ちていた。
何でそうまで自分を否定する。何故そこまで存在しなかった方が良かったと言うのだと。
アシモフに世界が破壊されようとしている中であっても、そんなこと忘れて装者達は怒りのまま叫んだ。
ふざけるなと。
「何が自分はいちゃいけない存在だ!偽物だからってだけで何でそう思うんだよ!本物じゃなきゃいけないのかよ!本物でないと戦わなきゃならない理由なんてないだろ!」
奏が叫ぶ。
「私達にとって貴方が本物であろうがなかろうが関係ない!本物のガンヴォルトが存在するとしても、本物がこの世界で何をした!?この世界で何を為した!?フィーネとの戦いで何かしたのか!?紫電との戦いでも何か力を貸してくれたのか!?」
翼が叫ぶ。
「こいつらの言う通り、本物が私達に何かしてくれたか!?手を貸してくれたか!?この世界を守ろうとしたのかよ!?それを実行してたのは誰だよ!?」
クリスが叫ぶ。
「みんなの言う通り!本物か偽物なんて関係ない!私達を救ってくれたのは誰なのか!七年前に見ず知らずの未来を助けたのも!七年前、シアンちゃんと一緒に私と奏さんを救ってくれたのも!翼さんと一緒にノイズと陰ながら戦っていたのも!クリスちゃんを救ってくれたのも!全部!私達の目の前にいるガンヴォルトさんじゃないですか!」
響も叫ぶ。
装者達にとって本物のガンヴォルトかなど関係はない。自分達と共に世界を救おうと戦ってくれたのも。装者達の心に刻まれているのも。大切な人であるのも。
全て今目の前にいるガンヴォルトなのだから。
「居場所がない!?存在しちゃならない!?そんな事はないんだよ!本物か偽物かなんて関係ないんだよ!私にとってのガンヴォルトはあんたなんだよ!」
そうだ。奏にとってのガンヴォルトは今目の前にいる人だ。自分を救い出してくれたのも。自分が好きになったのも。
「奏の言う通りだ!私達にとってガンヴォルトは貴方なんだ!共に背を預け戦い、共にこの世界を守ろうとしたのは誰でもない!ガンヴォルトでしょ!!否定なんてさせない!違うとは言わせない!前に貴方が言った様に否定すればその思いを無碍に扱うことになると!」
翼にとってもそうだ。共に戦い、共に人生を歩んだのは他の誰でもない。目の前にいるガンヴォルトなのだから。本物だろうと偽物だろうと関係ない。否定もしない。かつて響を否定した時の事を今度はガンヴォルトへと告げる。それに翼も好きになったのは、今目の前にいるガンヴォルトなのだから。
「大体居場所がない!?帰る場所がない!?ふざけるな!もし本当にお前が偽物なのかも知れない!お前がいた世界に居場所がないかも知れない!?そうだとしても、この世界にあるだろうが!お前の帰る場所が!お前の居るべき場所が!お前自身が作った場所が!温かい場所が!私達の帰る場所が!」
クリスにとってもそうだ。クリス自身も帰る場所を無かった。居場所なかった。だが、それを作ったのは本物でなくとも今目の前にいるガンヴォルトだ。それを否定させない。帰る場所を作ってくれた。居場所を作ってくれた。そしてクリスが誰かを好きになる気持ちを教えてくれた。だからこそ、本物だろうと偽物だろうと関係ない。クリスにとって大事な存在は今目の前にいるガンヴォルトだと言い聞かせる。
「ガンヴォルトさん!そんな悲しいこと言わないでください!自分は本物じゃない、偽物だ…私達にとって本物偽物なんて関係ないんです!何を言われようと、何を否定されようと私達の知っているガンヴォルトさんは貴方だけなんです!私達を助けてくれたのも!私達をずっと支えてくれたのも!だから、帰りましょう…戻りましょう!みんな心配しています!みんなガンヴォルトさんの帰りを待っているんです!」
響が言った。偽物でも本物でも関係ない。救ってくれたのも、助けてくれたのも、支えてくれたのも。全て今目の前にいるガンヴォルトなのだから。みんなはガンヴォルトの帰りを待っている。だからこそ、帰ってきてほしいと懇願する。
弦十郎も慎次も装者達の言葉がガンヴォルトの心に響く事を願う。
「…こんなボクになんの価値がある…もう以前の様に戦えないボクに…
少し心が揺らいだのか、ガンヴォルトは言い淀む。だがまだ足りないのか。
だが、すぐに装者達がそんなガンヴォルトへと詰め寄って言った。
「もうそんなの沢山だ!何度でも言ってやる!私にはどんな事があろうとガンヴォルトが居てくれれば良いんだよ!戦える戦えないじゃない!私はあんたがいれば良いんだよ!本物や偽物だなんて関係なしに!あんたがいれば良いんだよ!私を救ってくれた!私を赦してくれたあんたが!私には…家族のいなくなった私にはあんたが必要なんだよ!」
奏が告白まがいの事を告げる。だが状況が状況故に誰もその事を言及はしない。
「ッ…」
再びガンヴォルトの心が揺らいだ。
「私も奏と同じ気持ちだ!私も貴方が必要だ!ガンヴォルト!ガンヴォルトに助けてもらったあの日から!貴方が導いてくれたから今の私があるの!だから自分自身を否定するな!」
翼も続けて言った。本物偽物など関係ない。翼にも目の前にいるガンヴォルトが必要だと。
「お前の価値をお前が決めるな!私にもあんたが必要なんだよ!居場所をくれたお前が!帰る場所をくれたお前が!私には必要なんだよ!自分を否定するな!」
クリスも奏と翼の後に続けて言う。自分の価値を決めるのは自分ではない。否定などして欲しくない。本物偽物ではなく、今のクリスには目の前にいるガンヴォルトが必要なんだと。
「ガンヴォルトさんだから!私達が知る貴方だからみんなそう言っているんです!自分を追い込まないで下さい!否定しないで下さい!戦える戦えないなんかじゃ無い!私達にはガンヴォルトさんが必要だから!」
響は言う。自分自身も戦えない。だけど必要としてくれる他の仲間がいるから。だからこそ、同じ境遇に陥ったって響はガンヴォルトに戻ってきて欲しいと懇願する。
「ボクは…ボクは…」
ガンヴォルトが必要だと言われ、迷いが生じている。
こんな自分が本当に必要なのかと。
ガンヴォルトの崩れかけていた精神の奥底に何かが芽生えようとしている。
「ボクは…」
そう言うと共にガンヴォルトは倒れた。
「ガンヴォルト!?」
装者達、そして弦十郎と慎次が倒れたガンヴォルトへと急いで近付く。
「気絶している様です」
慎次がガンヴォルトの状況を確認してそう言った。
絶望した精神に追いやられ、ガンヴォルトが必要だと言う装者達の想いがガンヴォルトの精神を揺さぶり、その結果、繋ぎ止めていた精神の糸が切れ、意識を失ったのだろう。
装者達はそう言われて安堵した。だが、気絶だからと言って余談は許さない状況だ。ガンヴォルトはアシモフの戦闘の後に手当てをしていない。身体はボロボロで特に酷い胸の傷は化膿している。
「とにかくガンヴォルトを病院に連れて行く。それと、診療所にいた女性もだ」
そして慎次がガンヴォルトを担ぐと弦十郎と装者達と共に、あおいと朔也の待つ診療所へと向けて足早に戻るのであった。