Gが終わるまで後どのくらいかかることやら…
診療所に戻り、ガンヴォルトと女性を回収した二課の全員は一課により用意された輸送ヘリの中に居た。女性の傍にはあおいと朔也が。ガンヴォルトの傍には装者達が心配そうにガンヴォルトの様子を見守っている。
「そんな…」
「ガンヴォルトが偽物で…本物がいる…それに本物のガンヴォルトがアシモフを既に倒してるって…いったいどう言う事なんですか…」
そんな中弦十郎は先ほど得た情報を、あおいと朔也にガンヴォルトの正体について話し、二人は混乱している。
未だ本当なのか分からないが、ガンヴォルトのあの様子であるのなら事実の可能性が高いと告げる。
しかも、その影響により、ガンヴォルトは
ガンヴォルトがもう戦える状況にない可能性がある。それだけで此方の戦力は大幅ダウンになる。
装者のみで戦わなくなってしまった状態。最悪の敵、アシモフ。それに加えて
それに、ガンヴォルトが戦えない可能性がある以上、弦十郎はある重要な決断を迫られていた。
(ガンヴォルトに下した任務…それを装者には引き継がせねばならない…)
そう。決断しなければならないのは国から、諸外国からも満場一致で下された、アシモフの殺害命令。
先程のガンヴォルトにはもうこの任務を続けさせることが出来ない。もう
だからこそ、その任務を装者へと引き継がせねばならない。大人としてその判断を下すのは間違っていると感じる一方、アシモフはもう装者にしか止められない。司令官という立場から、アシモフの目的を知った以上、止める為にもそれを装者に下さねばならないという、最悪の判断をせざるを得ない。
大人として下したくない。しかし、司令官の立場からして下さねばならない。
弦十郎はある種のジレンマを抱えてしまっている。
装者達に殺害を強要して良いのか?ガンヴォルトがそれを否定していた様に、弦十郎も大人としてそれはしたくない。
だが、司令官として、国を守る防人の要として、装者達にそれをさせねばならない。
どうすれば良いのか?
弦十郎は躊躇っていた。
だが、そんな弦十郎の心中を察した様に奏が言った。
「旦那…もうここまでなっているのに、私達にやるなとは言わないよな?ガンヴォルトはこんな状態だ。戦えるか分からない状態だ。アシモフを止められるのはもう私達しかいない…覚悟は当に決めているんだ。だからもう、否定しないでくれ」
眠るガンヴォルトを見守る奏。だが、その言葉からかなりの怒りが感じられる。
続く様に翼が言った。
「司令。私はガンヴォルトがこんな状態である以上、私達がそうするしかないと判断しています。防人として、もう迷っている場合じゃない。ガンヴォルトにもうこれ以上、背負わせるわけにはいかないのは分かっているはずです」
翼もガンヴォルトを見ながらそう言った。奏同様に言葉から怒りが見て取れる。
「もういい加減そっちも覚悟を決めろ。こいつばかりに背負わせるのは…これ以上今のこいつに強要するわけにはいかねぇだろ…私達は当に腹を括ってんだ…覚悟はとっくに出来ているんだ…これ以上何を迷う必要があるんだよ」
クリスもガンヴォルトを見ながらそう言った。
ガンヴォルトがこの様な状況になってしまった以上、誰かがその命を継がねばならないのは理解している。
「…」
だが、唯一殺人に反対していた響は間違いだと言いたかった。何故殺さなければならないのか?何故そうしなければならないのか?
しかし、現状で反対すれば、他のみんなを危険に晒してしまうと考え、口を紡いだ。
それに、アシモフを止めるにはそうするしかないと少しだが、響もその意見へと傾いていた。親友の未来を奪われ、恩人であり、友人であるシアンを奪われた。そして更に、響にとってシアン達と同じくらい大切な恩人をここまで追い詰めてしまった。
挙げ句の果てはこの世界の人類抹殺、そして別の世界の
ここまでして話し合いで解決出来るとも考えられなかった。
だから世界を守る為、人類を守る為、その甘さを捨てなければと考えていた。
弦十郎が全員の後ろ姿。もう覚悟をしているのに、自分が覚悟が足りないと自覚する。
もう守る為にはそうするしかない。
「…分かった…ガンヴォルトに下していた、アシモフ殺害の命令をお前達に下す…」
弦十郎は苦渋の決断をした。
装者達にも同様に、アシモフ殺害の命令を下す。
「だが、それはガンヴォルトが目を覚まし、戦えない事が確定するまでの間だ」
だが、それは一時的なものと付け加える。
弦十郎の考えた最大限の譲歩。こればかりは譲れなかった。装者達はまだ人を殺した事がない。当たり前だ。そんな事はあってはならないのだから。
ガンヴォルトにして欲しくないのだが、この中で唯一、その罪を背負い切れる程の精神を持っている。それも微かな希望でしかない。だが、それでも装者達にはその罪を背負って欲しくないという弦十郎の希望なのだ。
「…結局ガンヴォルトに頼るのかよ…」
奏が不満を漏らしながら言う。そして奏はガンヴォルトの手を握り、眠るガンヴォルトへと向けて誓うように言った。
「安心しろ…ガンヴォルト…あんたが私を助けた様に…今度はあんたが安心出来る場所を守ってやるから…あんたが目を覚ます頃には…終わらせてやるから…」
そして奏が手を離すと今度は翼がガンヴォルトの手を握る。
「あの時約束した様に…今度は私が…私が貴方の悲しみを…絶望を拭って見せる…だから…だから安心して目を覚まして…貴方が帰る場所を…貴方が戻ってくる場所を…今度は私達が取り戻すから…」
そう言ってガンヴォルトの手を離した翼。その後に続くよう、クリスがガンヴォルトの手を握る。
「あんたがあの時、居場所がない…帰る場所がないなんて聞いてムカついた…イライラした…あんたの場所はこっちにあるだろってな…だけどその反面あんたが元の世界に帰らなくてもいいって事にホッとしてる…私の我儘かもしれないけど…あんたがあっちに居場所がないのなら…こっちにいろ…帰る場所はあるって事をな」
そう言って三人は弦十郎の方へ向いた。
「私達が終わらせてやる…あの野郎を…アシモフを」
「ああ、ガンヴォルトの為にも…世界を守る防人として」
「さっさと終わらせるぞ」
弦十郎へ向けてそう言った三人。
弦十郎も三人を見て頷いた。
「とにかく、アシモフを今止められるのは我々だけだ。なんとしてでも止めるぞ!」
弦十郎の発破に三人は頷くのであった。
そんな中、響は未だ眠るガンヴォルトの手を握り、必ず目を覚ましてと願うのであった。
◇◇◇◇◇◇
アシモフは偵察から帰り、操縦室で現状をウェルへと告げていた。
「まさか…米国政府が既にフロンティアの場所を掴んでいたなんてね」
「ああ、流石大国と言ったところだ」
「アッシュ、どうする?」
「やる事に変わりはない。邪魔をしているのだ。
「流石アッシュ。その判断の速さに敬服するよ。でも一つ問題があってね。その案を採用するにあたってどうやって戦わせるかが問題なんだよ。既に準備はしてある。適合率は超高濃度のLiNKERを使い、無理矢理適合率を引き上げるつもりだ。フィーネがかつて作ったLiNKERをボクが改良して問題ない。それにあの子が壊れてもこっちは痛くも痒くもないしね。だけど、あの子に戦わせる為の意思をどう持たせるかだ。生憎、僕はメンタリストでも催眠術士でもないからその辺りはどうも出来ないんだよ」
アシモフはウェルの言葉を聞いてその程度は問題ないと言った。
「その程度の事で有れば何の心配もしなくていい。奴は
「どう言う事だい?」
アシモフの言葉の意味を理解出来ず、ウェルは疑問符を浮かべる。
「
そう言うとアシモフは準備を進める様、ウェルに指示を出す。
「Dr.ウェルはそのまま準備に移れ。私が連れてくる」
そう言ってアシモフはそう言って操縦室から出るとマリア達を閉じ込めた部屋へと赴く。
鍵をかけた扉を開けると、マリア、切歌、調、そして未来が互いに寄り添い合っていた。
そしてアシモフが入ってくるのを見るなり、マリアが三人を守る様に前に立ち塞がる。
「アシモフ!」
マリアはアシモフを睨み付ける。
「反抗する意思を前面に出すとは…貴様達の大切な者を殺してもいいのか?」
そう言われてマリアは苦虫を噛み潰した様に表情を歪ませる。そしてアシモフが恨めしそうにしながらも、マリアはアシモフから目を逸らした。
人質を取られている以上反抗出来ないのであろう。まあどっちにしろ、人質であるナスターシャはこの世にいないのだから、その事実を知らないマリア達を見て滑稽としか思っていない。
「それでいい。無駄な抵抗をすれば、貴様達の大切な者を一つずつ確実に奪ってやろう」
そう言われ、未来以外の三人はアシモフに従うしか生きる方法がない、ナスターシャを助ける方法がないと悟り、反抗を止める。
「これより、我々はフロンティアの起動に移る。だが、厄介な事があってな。米国政府の犬共が既にフロンティアの存在を嗅ぎつけ、抜け駆けしようとしている。そこで貴様達にチャンスをやろう。米国政府の犬共の抹殺。そしてその場に現れる機動二課の装者達。これを始末する事が出来れば、Dr.ナスターシャに会わせてやろう」
「ッ!?」
アシモフからの提案にマリア達は身体を震わせる。
「…それは本当なの?」
マリアが疑いながらアシモフに問う。
「ああ。貴様達が失敗しなければ会わせてやる。約束しようじゃないか」
その言葉に嘘ではないかとマリア達は警戒しながらも、考える。
だがマリア達に拒否権など無い。拒否でもすれば、ナスターシャは愚か、切歌か調が危険な目に遭うのは目に見えているから。
だからマリアは頷く事しか出来なかった。
「分かってくれて何よりだ」
そう言ったアシモフはマリア達の方に歩み寄ると、マリアの後ろにいた未来の胸倉を掴み上げた。
「ウッ!?」
「貴様も奴等の絶望に役に立って貰おうか」
「アシモフ!その子は関係ないでしょう!?」
何の関係もない未来を掴み上げたアシモフにマリアが叫ぶ。
「人質として生かしている者をどうしようが私の勝手だろう」
「アシモフ!」
三人がそんなアシモフを見て怒りを露わにして睨みつける。だがアシモフはどこ吹く風の様にそんなマリア達に何の興味を示さない。
「…ふざけないでください…絶対に…絶対に貴方の様な人の好きにはさせない!」
そんな中、未来もアシモフに掴まれながらも睨みながらそう答えた。
「威勢だけはいい様だな。だが、そんな強がりなど私の前では何の意味も持たないのだがな」
そう言うとアシモフは未来を掴む逆の腕に雷撃を纏わせると、雷撃を纏わせた腕で未来の頭を掴んだ。
「キャァァ!」
「アシモフ!何をしているの!?離しなさい!」
マリアが未来を助け出そうとする。
「黙っていろ、Dr.ナスターシャを殺してもいいんだぞ」
そう言われてマリア達は動くことが出来ない。そして未来はアシモフの雷撃を暗いぐったりとした状態になると、アシモフは雷撃をやめ、未来の頭から手を離す。
「貴様達は奴等を始末する準備でもしていろ」
そう言い残して、アシモフは未来を連れて、そのまま部屋を出て行く。
「さあ、絶望を味合わせよう。紛い者が死に、助け出そうとする者と戦わざるを得ない絶望をな」
アシモフは不敵な笑みを浮かべ、気を失った未来を連れてウェルの元へ向かうのであった。