戦姫絶唱シンフォギアAB   作:株式会社の平社員

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ガンヴォルトと診療所にいた女性に連れて行ったが、有事の際に療養施設を開けていなければならない為、かつて翼が入院していた病院に預けた後は、ガンヴォルトの病室に集まり、医師からガンヴォルトの容態を確認していた。

 

「ガンヴォルトは無事なんですか?」

 

弦十郎が医師へと静かに眠るガンヴォルトの状況を確認する。

 

「ええ、怪我の方に関しましても、酷い打撲や胸の傷も化膿していましたが、適切な処置をして問題ありません。内臓などもダメージがありますが、いずれ回復するでしょう。もう一人搬送された女性の方も、この方が早く見つけてくれたお陰で大事には至りませんでしたが、病に侵されているようで、適切な処置を必要とするでしょう」

 

ガンヴォルトの身体が無事な事そしてもう一人の女性の方の容態を医師から説明を受け、それを聞いて安堵する。だが、医師は続ける。

 

「しかし、身体は無事かもしれませんが、精神が危うい。貴方達から聞いた話であれば、この方は相当な精神的苦痛を受け、深い眠りに着いた状態です。普通の人であればもう目覚めてもいい頃合いですが、この方の場合、それが未だ見られない。精神的な面は未だ解明されていない事が多い為、原因が分かりません。いつ覚醒するかは私達でも見当がつきません。こればかりはこの人の精神の強さを信じるしか無いでしょう」

 

そう。身体が無事だからと言っても油断が出来ないのが現状だ。ガンヴォルトはここに来るまでに聞いたアシモフの言葉により、相当な精神的なダメージを受けている。その影響でいつ目が覚めるかは分からないかもしれない状況と説明された。

 

しかし、今はそれだけでも良かった。装者達にとっても二課にとっても大事な人物。生きているだけでも、喜ばしい事だ。

 

医師は定期的にガンヴォルトの治療を行う事を説明して、その場を後にして残された二課のメンバー達。

 

「…ガンヴォルト」

 

装者達が深い眠りについたりガンヴォルトの側に寄って、心配そうにする。

 

「…みんな…」

 

「…」

 

装者達の様子を見て朔也が何か気の利いた言葉を探り出そうとしたが、今の状況で何か言えるはずもなく、ただ沈黙するしか出来なかった。

 

あおいも同様だ。ガンヴォルトならば目を覚ます。そう言いたかったが、弦十郎から聞かされたガンヴォルトの正体。

 

偽物。クローン。

 

その言葉の重みはガンヴォルト本人にしか分からない。だが、今のガンヴォルトを見るにそれがどれほど辛く、どれほど苦しい物だと理解している。

 

だからこそ、ただ大丈夫。必ず目を覚ますと口にする事が出来ない。

 

「…」

 

弦十郎も慎次もだ。軽々しく言える問題ではないために病室は沈黙に包まれる。

 

長い沈黙が支配するガンヴォルトの病室。どのくらい時間が経過したのか分からない。

 

そんな中、装者達が動きを見せる。

 

「…行こう。この間にもアシモフは動きを続けている」

 

奏がそう言った。

 

「ああ。ガンヴォルトに誓ったんだ。目を覚ます頃には終わらせると…」

 

翼も奏に続いてそう言った。

 

「ああ。ここでこいつが目を覚ます前に終わらせる」

 

クリスもそう言った。

 

そうだ。アシモフはまだ目的の為に動き続けている。世界の崩壊をさせる為にも。

 

それを理解しているからこそ、装者達もそう言った。

 

「力になれるか分からないけど…私だって同じ気持ちです」

 

響もそう言った。

 

止めなければならない存在を野放しに出来ない。救わなければならないのなら、その元を絶たねばならない。

 

既に覚悟は決めているのだから。今まで助けられて来た分、今度は自分達がやるんだと。

 

そんな装者達を見て弦十郎頷く。

 

「分かった。とにかく、俺達は今出来る最善を尽くすだけだ」

 

そう言って全員が病室を抜ける。諸悪の根源を断つために。ガンヴォルトが目を覚ました時、もう心配いらないと言うために。

 

◇◇◇◇◇◇

 

海上を飛行する輸送機。アシモフはマリアに輸送機を運転させながら、マリアや共にいる切歌と調を監視していた。

 

マリアは協力は反対したかったが、ナスターシャ、切歌、調の命がアシモフの手に握られている以上、従う他なかった。

 

それに、未来の存在である。未来を連れてきてしまったからこそ、後悔していた。助けたつもりが、アシモフに雷撃を浴びせられ、更に今どうなったかもしれない状況になっている。

 

だが、アシモフの事だ。人として最低な行いをしているに違いない。だからこそ、マリアは未来の事を心配する。

 

だが、口に出そうものならアシモフに人質に取られた誰かに何をされるか分からない為、マリアは唇を噛み締めて口を閉じる。

 

「…マリア…」

 

そんなマリアを見て不安を駆り立てられる切歌と調。どうにかしたいと思っているのだが、二人の首に付けられた爆弾により行動に移せない。どうにかしたい。だが、アシモフに何かを気取られれば、その瞬間、切歌か調、どちらかの首に付いた爆弾を爆破、もしくはどこにいるかも分からないナスターシャが殺されるかもしれない。

 

そうなれば更にマリアを辛い目に遭わせてしまう、またマリアにとって大切な者が居なくなってしまう、悲しませてしまう。そう考えてしまい、二人も何も出来ない状況にいた。

 

だが、切歌だけは少しだけ違った。アシモフに告げられたフィーネには誰にも宿っていない事。それはアシモフの見立てであり、切歌は調と共に買い出しの時に確信していた。フィーネは自分に宿っていると。

 

何故、自分なのか。何故マリアでもなく、調でもなく、自分なのか?

 

考えても分からなかったが、今はそんな事どうでも良い。いずれ覚醒したフィーネは自身を塗り潰し、完全なフィーネになるだろう。そうなれば、切歌はマリアや調、それにナスターシャの事を忘れる。

 

切歌にとって死に近い事が近々起ころうとしている。ならば自分はどうしなければならないのか?

 

このままアシモフに命を握られたまま、アシモフの駒となり、マリア達と共にやりたくも無かった殺しをするのか。このままマリア達をそんな状況に陥らせながら、自分はフィーネになって居なくなってしまうのか?

 

あってはならない。自分が消えてしまう悲しみと共に、アシモフの言いなりになったまま殺したくもない人を殺し続け、悲しむマリアと調を見たくなんかない。

 

だからこそ、切歌は一人誓う。そんな悲しみを味合わせるのならば、自分がフィーネになってしまう前に、マリアと調、それにナスターシャをどうにかしようと。

 

例え、自分がいなくなって悲しむとしても、より深い絶望に落とされるよりはいいと考える。

 

だからこそ、自分が自分であるうちに、アシモフと言う邪悪に一人立ち向かおうと決める。勝ち目がないかもしれない。だが、隙をつけば、三人を助ける手だけだけは手に入れられるかもしれない。

 

残された時間がどれだけあるか分からないが、切歌は自分が自分で無くなる前に、それだけはやると覚悟を一人誓う。

 

そんな考えをよそに、操縦室に何処に居たのか不明だったウェルが入り込んで来る。

 

「アッシュ、調整は終わったよ。これで準備は整った」

 

マリア達など目もくれず、ウェルはアシモフにそう言った。

 

「そうか」

 

アシモフはその言葉にそれだけ返すとマリアに向けて言う。

 

神獣鏡(シェンショウジン)の迷彩を解除しろ。もうこそこそ動く必要もない」

 

マリアはただ命令通り、輸送機に施していた神獣鏡(シェンショウジン)の副次的効果の迷彩を解き、その姿を露わにさせる。

 

「隠れる必要もないって言うけど、このまま発見されて迎撃されたりしないのかい?」

 

ウェルが迷彩が解かれ露わになった輸送機の心配をしてアシモフにそう言った。

 

「安心しろ。米国政府の犬共が対空兵器を使おうと私がいる限り無力だ。それに、これからはもうフロンティアを起動させるのだ。もう隠れる必要もない。それに、奴等に見つけてもらうのが早い方がこちらとしても好都合だからな」

 

ウェルにそう向けて言う。ウェルはアッシュがそう言うならと特に気にしていない模様。

 

だが、マリア達三人はこれから始まろうとする米国政府、そして機動二課との戦争に近い戦闘を想像して、苦虫を噛み潰した様に表情を歪める事しか出来ない。

 

「私はもう逃げも隠れもないさ。本当にこれが最後になるのだからな」

 

もう目的は達したとばかりにそう言うアシモフに対して、ウェルもようやく僕は英雄になれると恍惚な表情を浮かべる。だが、マリアと調は暗い表情を浮かべる事しか出来ない。

 

そんな表情の最中、切歌だけが、ただ自身がこの男達を止めると誰にも気付かれない様、ただその機を伺うのであった。

 

◇◇◇◇◇◇

 

二課の対策本部の潜水艦へと戻り、それぞれがアシモフの出現に備える中、アシモフとの戦闘。その手を血に染める事、そして自身が起動させてしまったソロモンの杖を止める事、その同時を出来るのか不安になっていたクリスはガンヴォルトの為に用意された部屋へと一人赴いていた。

 

ガンヴォルトは一課員であるが、ノイズとの戦闘、そして数々の任務から特例で部屋を与えられていた。

 

だが、その部屋もガンヴォルトはあまりいた事はなく、ただあるだけの存在であったのだが、それでもガンヴォルトの部屋である事が重要なクリスはそんな事はどうでも良かった。

 

ガンヴォルトの部屋に入る。潜水艦である以上、必要最低限のものしか置けない場所。その中にあるクリスはガンヴォルトの装備の仕舞われたクローゼットを開け、クリスが欲しているものを捜索する。

 

「何してんだよ…クリス」

 

不意に声を掛けられてビクッと反応するクリス。

 

声の方を向くと奏が呆れた顔で立っていた。

 

「なんだ…あんたかよ…関係ないだろ」

 

「いや、勝手に人の部屋を勝手に漁って置いてそれはないだろ…」

 

奏はそんなクリスを見て溜息を吐いてから近づく。

 

狭い部屋では逃げ場もないクリスは奏にガンヴォルトの部屋を物色して何を持ち出そうとしていたのかを見る。

 

その手に握られていたのはガンヴォルトが戦闘で使用する、特殊な弾、避雷針(ダート)の弾倉であった。

 

「何でこいつが必要なんだよ?シンフォギア装者の私達に必要ないだろ?こいつ自体そこまで威力ないみたいだし、蒼き雷霆(アームドブルー)がないと機能しないだろ?」

 

「そんなのわかんねぇだろ…あいつが目を覚ました時とか…戦線復帰したとか…いきなり来て弾倉忘れたりとかしたら危ないだろ…」

 

何処か言い訳を並べるクリス。奏はそんなクリスを見て言った。

 

「まあ、あるかもしれないな。でも、実際は少しでも寂しさを紛らわす為にあいつとの温もりが欲しかったとかじゃないのか?」

 

見透かされたように言われ、クリスは顔を赤くする。

 

「私も同じさ。ガンヴォルトが本当にいない戦闘。これまではガンヴォルトが目を覚ましていたけど…今回はあいつがいないって思うとどうしても不安になっちまうからな」

 

そう言って奏はクリス狭い部屋に用意されたベッドに腰を下ろした。

 

「それに、今回はあいつがやろうとしていた任務まで引き継いだ。不安でしょうがない…」

 

奏の真剣な話にクリスも顔の赤みを残しながらも真剣に聞く。

 

「アシモフの野郎を私達は本当に殺すことが出来るのか?本当にどうにか相手に出来るのか?今もそんな気持ちでいっぱいだ」

 

そう言う奏の手は震えているのが見てわかる。

 

「だから、その不安を拭う為に私も少しでもあいつが隣にいてくれると思うようにクリスと同じように力を貸して貰おうとこの部屋のガンヴォルトの装備の一つでも拝借しに来たんだ」

 

奏も不安なのだ。自身の手を血に染める事が。クリスと同様に。

 

「安い女かもしれないけど、ガンヴォルトの身につけていた物を持っていれば少しだけ不安が和らぐと思ったんだ」

 

そう言った奏は乾いた笑みを浮かべた。だが、そんな話をクリスは笑う事なく、ただ真剣に話を聞いた。

 

「結局、私はガンヴォルト頼みなんだ…笑えるだろ?」

 

そしてひとしきり話を終えた奏はクリスにそう言った。

 

「笑える訳ないだろ…私だってあいつが居ないと不安だ…だからこうして少しでもあいつが居てくれるようにその小さな幻想を求めて来た奴なんだからな」

 

そう言ってクリスは奏に笑みを向ける。そしての自身の持つ弾倉から一発の避雷針(ダート)を取り出してそれを奏に渡す。

 

「これくらいのもんで不安が少しでも和らぐならないよりマシだろ?」

 

そう言ってクリスから避雷針(ダート)を貰う奏。

 

「…だな…ないよりいい」

 

そう言って避雷針(ダート)を握る奏。装者として、そして同じ部屋に住む者同士、そして同じ男を好きになった者同士。もう二人の間に言葉入らなかった。

 

「…でも、避雷針(ダート)一発って…どうせなら私にも弾倉を…」

 

「これ一つしか無かったんだよ!それに万が一の時、私のアームドギアなら使えるし、私が持っていた方が良いだろ!」

 

少し二人は些細な事で言い合いになりそうだが、二人にとって少しだけ不安を和らげる効果があった。

 

「ッ!?奏!?雪音!?何故ここに!?」

 

そんな中、同じように翼も来て狭い部屋が更に狭くなり、ここでもまた一悶着あったが、そのお陰で三人の不安は少しだけ、拭え、戦いの前のほんのひと時の安らぎを得たのであった。

 

◇◇◇◇◇◇

 

三人と別行動であった響は簡易ベッドで軽い仮眠を取ろうとしていたが、アシモフによって奪われた大切な友人と親友の心配をしていた。

 

「未来…シアンちゃん…絶対に助けるから…」

 

力を失った響ではどうする事も出来ないだろうが少しでも、その助けになろうと誓う。

 

そう誓うと共に、胸に宿るガングニールが鼓動を打つ。

 

まるで自身を使えと訴えかけるように。

 

だが、それを響は胸を押さえて否定する。

 

駄目だ。そうすれば自分が自分で無くなると言われている。そうなれば、未来もみんなも悲しむ。

 

だけど…

 

「もし…もし…本当に危なくなったら…力を貸して…ガングニール…」

 

最悪な状況なら別。

 

アシモフと言う男からみんなを救う為にも、自分を犠牲にしてでも、みんなを助けられるならと響はガングニールへと呟いた。

 

悪魔の契約に近い者だろう。だが、全てを失うくらいなら響はそれを受け入れる。装者達は覚悟したのだ。

 

だから自分も覚悟を決めよう。

 

その言葉に呼応する様にもう一度ガングニールは脈打った。

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