戦姫絶唱シンフォギアAB   作:株式会社の平社員

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真っ暗な空間。その中でボクは絶望という名の鎖に縛られていた。

 

ボクは本物なんかじゃ無い。本物のを模倣する記憶を持った紛い者(偽物)であった鎖。

 

帰る場所もなく、居る場所もなく、存在そのものが罪であるとばかりにボクの身体を縛りあげる鎖。

 

だけど、装者達が。奏が。翼が。クリスが。響が。ボクを必要と言ってくれた。帰る場所は無いなんて事はないと言ってくれた。それに続く様に弦十郎も慎次も。

 

その言葉がボクを縛る鎖を揺さぶった。

 

だが、絶望して心に根付いた喪失感がその鎖を強固な物に変えており、解く事などは出来なかった。

 

例え言葉での肯定。それが本心であると思っていても、深い闇に落ちたボクの奥底まで届かなかった。

 

自暴自棄になり、生きる意味を見失ったボク自身がその言葉を拒んだのかも知れない。

 

紛い者(偽物)である自分にはそんな場所は無い。居場所を作ったのは本物と信じ道化を演じていたボクであり、本物でないと知ったボクに居場所など存在しないと思い込んでしまった。

 

だから、心を揺さぶられたのに、立ち上がる事も、その場所に縋り付くことすらも拒んだ。

 

だからこそ、このまま眠りにつくのがいい。死んだ様に。

 

その虚無感がボクの身体を縛る鎖を更に苦しく巻きついてくる。痛みなど感じない。不快感もない。ただ身を任せて意識を手放す様に目を閉じる。

 

そしてボクはそのまま暗闇へと誘われる様に意識が遠のいて行くのにただ身を任せた。

 

だが、その瞬間。目を閉じた筈のボクの瞼にはシアンが思い浮かぶ。

 

(シアン…)

 

だが、シアンも偽物。ボク同様のクローンでないにしろ、記憶を刻まれたまた別の存在。ガンヴォルトを慕っていたが、それは本物であり、ボクではない。求められているのはボクじゃない。

 

だから、ボクはその蝶の存在を無視しようとする。だが、その蝶はボクの瞼から消える事はなく、ただボクの前に佇んでいた。

 

(もう消えてくれ…助けを求めるのは偽物(ボク)じゃない。本物は居るんだ…)

 

だが、ボクの思いとは裏腹に、その蝶はボクの瞼の裏に変わらず佇んでいた。

 

(消えてくれ!ボクは…ボクは本物じゃない!君の求める本物()じゃないんだ!)

 

振り払う様にボクはそう念じた。

 

いくら念じようが、いくら否定しようがその蝶は消えてはくれなかった。

 

(ボクに何を求めるんだ…紛い者(偽物)のボクに…)

 

例え求められようが今のボクでは…紛い者(偽物)のボクには何も出来る事はないと何度も自分に言い聞かす。

 

だが、そうしている中、蝶が粒子となってボクの瞼の裏に再びあの光景を見させる。

 

ボクが本物でない事を告げる。紛い者(偽物)の確証を得たあの時の夢を。アシモフが言う通り、本物でない事を告げるあの現実を。

 

(一体…君は何を見せているんだ…)

 

見たくもなかった現実を見せられた事により、更に絶望という闇に呑まれようとする。だが、その光景はいつの間にか変わっており、それはアメノウキハシの出来事に切り替わっていた。

 

ボクに刻まれた謎の記憶。本物でないのに関わらず、本物の死の間際の光景が展開させられていた。

 

そこに映し出されたのはシアンと本物のガンヴォルト。既にアシモフにより強欲なる簒奪者(グリードスナッチャー)を撃ち込まれ、瀕死の状態の本物のガンヴォルトと事切れたシアンの姿。

 

(本物の記憶…何故かボクに刻まれた本物の記憶…)

 

謎の記憶を何故今ボクに見せる。そう疑問に思いながらも、ただボクは眺めていた。

 

「G…V…」

 

そんな中、突如ボクの耳にもう聞く筈のないシアンの声が聞こえた。シアンの身体から粒子が溢れる様に出るとその粒子が集まっていき、電子の謡精(サイバーディーヴァ)の、モルフォの姿を作り出す。

 

「…そっか…私は…謡精(モルフォ)になったんだ…」

 

それはかつてシアンから聞いた本物の再誕までの光景。そしてボクに宿った電子の謡精(シアン)の記憶の再現。

 

何故今頃、ボクには関係ない記憶を見せる。何故ボクにこれを見せる?

 

そう思っていると隣から声がした。

 

「GV…貴方がこれを見ているという事は…貴方が自分自身が何者かを知ったと言う事ね…」

 

そちらに視線を移すと目の前にいたシアンの亡骸から現れた謡精(モルフォ)とは別にもう一人現れていた。

 

「…シアン…君なのか?紛い者《偽物》であるボクにこの記憶を刻んだのは…」

 

「少し違う…それに私もあの子が残した残滓。私は貴方がこの事実を知った時にそれを伝える為だけに私が残したメッセージなの…」

 

そう言ったシアンの表情はとても暗い。

 

「何で…何でなんだ!紛い者《偽物》のボクにこんな記憶を持っているんだ!何でボクが!道化を演じさせる為なのか!?紛い者(偽物)のボクに偽りの目的を持たす為なのか!?」

 

現れたシアンにボクはこの事を糾弾する。何故こんな事を施したのか?

 

「ごめんなさい…貴方にとってこの事実がどんなに辛い事なのか理解している…でも…違うの…貴方は偽物なんかじゃない」

 

「ッ!?どういう事なんだ?」

 

シアンの答えに困惑する。だったら、あの記憶は何だ?ポッドに生かされたクローンの記憶。細胞一つ一つが覚えているボクが偽物である証明の記憶。あれは何なのだと?

 

戸惑うボクにシアンは指を指す。それは倒れた本物とシアンの居る方向。

 

その方向を見ると、ボクとシアンが融合する直前の光景だった。以前シアンから聞いた、本物の再誕の光景。あれに何があるというのか?

 

ボクはただそれを見続ける。そこに映し出されたのは信じられない光景であった。

 

本物のガンヴォルトからも何か粒子のような物が少しずつ抜け出している。だが、それは形を保つ事なく、淡く、弱い光。それが少しずつだが、本物のガンヴォルトから抜け出して、消えて行く。

 

そしてシアンと本物のガンヴォルトが重なり合う事により、発された光、電子の謡精(サイバーディーヴァ)の力だ。そしてその光が伝播してその抜け出た粒子にも当たる。

 

そしてそこに現れたのがモルフォ同様に電子が象った本物と瓜二つ、そしてボクや本物同様のガンヴォルトの姿。

 

「ッ!?何なんだ…これは…」

 

何故突然この様な存在が現れたのか理解が追いつかないボクに対して、シアンが言った。

 

「あれが貴方…GVが死にかけた事により、その命が終わりを迎えようとして抜け出たGVの魂の一部。それが私の電子の謡精(サイバーディーヴァ)の力により蘇った存在…それが貴方なの」

 

更にカミングアウトされた事に頭が追いつかなかった。

 

「あれが…ボク…」

 

「そう…貴方が何故この光景を知っているのか。何故貴方がGV同様の記憶を有しているのか。これがその答え」

 

シアンはボクに向けてそう言った。だが、結局は本物の魂から切り分けられた存在。

 

それがボクだと。そして記憶を有している理由はその切り分けられた魂が由来するのだと。

 

そして本物のガンヴォルトと融合したシアンは、そんな切り分けられ、生まれてしまった存在を見て驚きを隠せないでいた。

 

「…何で…GVの魂は身体にある…」

 

そして隣にいるシアンがボクに言う。

 

「…私にもどうしてこんな事が起こったのか分からない…電子の謡精(サイバーディーヴァ)の力にこんな事まで扱えるのなんて知らなかったから…」

 

シアンはその事について謝罪した。しかし、仕方ない事である。第七波動(セブンス)は未だ未知の部分が多く残されている。だからシアンが分からなくても当然であった。

 

だが、それでも。切り分けた魂から生まれたのならば結局はクローンと変わらない。遺伝子を使い生まれたのがクローン。ならば魂を切り分けて復活した存在もまたクローン。例え、切り分けられ生み出されたのなら、本物がいるのであれば結局はただの偽物。だからボクは叫ぶ。

 

そして光景にいるシアンはそんな(ボク)を見て、放心していると漂う(ボク)は少しずつ形を保つ事ができなくなった様に再び粒子となって消え去ろうとする。

 

「ッ!?」

 

それを見た光景のシアンは焦っていた。肉体のない魂だけの存在留まることなど出来ず、消える運命にある。それは一度消えかけたシアンだから、ガンヴォルトと融合する事で(想い)を留まらせる事が出来たシアンだからこそ理解出来たのだ。

 

シアンはどうすればいいの分からなかった。自分の所為で生み出してしまったGV。その存在をどうするべきなのか。

 

だが、シアンの想いはすぐに出た。彼もまたGVなのだから救わなければならないと。自分の所為で生まれてしまったとからではない。彼もまたGVだからこそ救いたいと願ったのだ。

 

しかし、身体には既に復活したGVの魂がある。想いだけの存在の自分は別として、これ以上の魂を入れる事は叶わない。

 

必死にシアンは助ける方法を探っていた。そしてシアンのソナーが捕らえたのが、今瀕死となっている別の身体。

 

そう。それがアメノウキハシの下。皇神(スメラギ)が秘密裏に続けていたプロジェクトガンヴォルトの実験場。アシモフによって破壊された実験場にて唯一生かされていたクローンの存在。だが、ボロボロで肉体はあるが魂は無くなったその存在を。

 

どうするかなんてシアンはもう決めていた。

 

「ごめんなさい…こんな事になってしまって…でも…私の所為でこうなった以上…生み出してしまった貴方を死なせたくない!この光景の私が言ったように貴方もGVなんだから!」

 

そしてボクの魂はシアンの力によってクローンの肉体へと送られた。そうして誕生したのがクローンの肉体に、切り分けられた魂が宿り、再誕したボクと言う存在。

 

その事で再誕したボクにシアンの意識が瓦礫の中のボクを見る。

 

「…これで貴方も生きられる…でも…目の前に同じGVが現れれば…貴方は絶望に陥ってしまう…」

 

辛い現実はまだある事を自覚する光景のシアンは自分の翅から一匹の蝶を生み出した。

 

「私に出来るのは貴方に私の力と…貴方がもしこの事を知ってしまった事まで…」

 

そう言って蝶を倒れたボクへと向かわせるとボクの中へと入り、消えてしまった。

 

これがボクの中にいたシアンの正体。この光景のシアンが残した力の一部。

 

「こうするしかないの…GV同士の争いなんて見たくない…私の我儘で自己中な考えだって事も…分かってる…でも…私は二人に生きて欲しい…貴方もGVだから…」

 

そう言ってボクの前で歌い出す。その歌により、ボクの身体が電子へと変換される様に消えかける。そして大きな光を放つと共に、ボクは消えていった。

 

これがボクがこの世界に来るまでの流れ。そしてこの世界に流れ着いた真実。だけど、ボクにとってはそんな事はどうでもいい。

 

結局は自分の存在が何なのか知ったところで事実は変わらなかったからだ。

 

「…なら結局ボクは紛い者(偽物)じゃないか!本物の魂の欠片から復活しようと、本物がいる!ガンヴォルトがいるのであれば、ボクは紛い者(偽物)だ!本物なんかじゃない!」

 

そう、結果は変わらない。本物がいる。本物から切り分たられた魂の一部だろうと本物がいるのであれば、後から生まれたボクは結局は偽物だ。

 

「違う!違うよ!貴方は偽物なんかじゃない!貴方もGVなの!」

 

だがそれを否定するボクをシアンが否定する。

 

「私のせいで貴方と言う存在を生んでしまったのは申し訳ないと思ってる…でも…でも貴方も今倒れているGVも…私の所為で生まれてしまった貴方もGVなの!」

 

シアンはボクも本物だと何度も言った。

 

「違う…違う…」

 

ボクは紛い者(偽物)だ。こびり付いた思いは例え誰であろうと拭い去る事など出来ない。

 

「違わない!」

 

シアンは違うと否定するボクを否定した。

 

「貴方はどれだけ否定しても、私がそれを否定する!貴方も本物なの!偽物なんかじゃない!倒れているGVも貴方もGVなんだよ!」

 

シアンがボクを本物と言う。

 

その事が、ボクの中に木霊する。

 

違う。結局切り分けられて生まれた存在はクローン。

本物がいるのがその証拠だ。ボクはガンヴォルトじゃない。

 

「なら何で自分が何者か知ったのに誰かを助けるの!?見捨てればよかったのに何で助けたの!?」

 

それはただの気紛れだ。ボクが自暴自棄になった自分の起こした気の迷いだ。

 

「違う!気紛れでもない!それが貴方もGVの証拠なんだよ!」

 

シアンはボクの心を読んでそう叫ぶ。だがボクはそれが何の証拠になるとシアンを見る。

 

「GVだからこそ、そう行動したの!GVがGVたらしめるのは何なの!?蒼き雷霆(アームドブルー)!?姿!?違う!そんなの関係がない!GVがGVたらしめるのは(想い)なんだよ!根幹にある人を救おうとするその想い!第七波動(セブンス)能力を持つ者持たない者!平等な世界を願うその想いこそGVがGVである証明なの!」

 

シアンがそう叫んだ。

 

違うと否定しようとしても、上手く言葉が出ない。それはガンヴォルトを信じていたボク自身が本物と信じ、その記憶に引っ張られて行っていた行動に過ぎないと考えたからだ。

 

「何度でも言う。貴方もGVなの。例え貴方が偽物だと言っても…貴方はGV…私だけじゃない…貴方が流れ着いた先…貴方と親しくなった他の人も貴方が否定しようと貴方がGVと信じている…」

 

そう言ってシアンはボクに近付いて抱き寄せた。

 

「GVはGV…誰かに決められたからじゃない…誰かにその事実を聞かされようと…誰かに貴方が否定されようと、貴方が否定しようと…貴方もGVなの…」

 

ボクもGVだと肯定するシアン。ボクはその肯定に悩まされる。

 

魂から切り分けられた自分は何なのか。

 

シアンの言う通り、本物の魂の一部であるのならば本物なのか。アシモフの言う通り、本物たらしめる何かを欠如していれば偽物なのか。

 

どちらの言い分が正しいのか理解出来なかった。

 

どっちなんだ…自分は本物なのか…偽物なのか…自分の中でその事だけがぐるぐると駆け巡っていた。

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