「ボクは…ボクは…」
「偽物なんて思わないで…貴方もGV…身体が例えクローンであろうと…その
悩まされるボクにシアンがボクがガンヴォルトだと、ボクもガンヴォルトであると肯定する。
それがボクを一層悩ませる。
本物とは何なのか?偽物とは何なのか?
本物の魂を持っていれば本物と呼べるのか?肉体が例え違うとしても、その魂を持っていれば本物と言えるのか?
本物の魂を持っていようが、その魂は切り分けられた一部。その一部が再誕し、別の肉体に宿った場合、それを本物と呼べるのか?
誰かがそれを否定すればそれは偽物。誰かが肯定すればそれもまた本物。もしくは肯定派、否定派が同時に登場するとなれば、それはどちらになるのだろうか?
それを決めるのはいったい何なのか?
シアンはボクを肯定するのであればボクもまた本物本物なのであろうか?アシモフが否定しているためボクは偽物。本物が存在するからこそ、それとは別の存在は偽物なのであろうか?
シアンの言い分が正しいと仮定すれば、魂が本物であれば、肉体など関係なく本物。その想いに同じ根幹があるのならば本物。
アシモフの言い分が正しいというのならば、魂により引き継がれた魂を持っていようとガンヴォルトという存在をある意味生み出したアシモフからすれば、生み出した以外のものは全て偽物。
どちらの言い分が正しいのか?どちらが誤りなのか?
そもそも本物という基準は何を指標に決められるのか?
分からない。
どちらの言い分が正しいのか分からない。
本物が未だあの世界に生存している。そうなればあの世界にいる本物がガンヴォルト。
切り分けられたボクは本物と…ガンヴォルトと呼べるのであろうか?本物がいるのであれば、偽物と呼べる。だが、その根幹と同一の魂を持っているのならば、ボクもまた本物であるのか?
例え肉体がクローンだとしても同じであればクローンの肉体であろうと本物と呼べるのか?
分からない。
頭の中がこんがらがるほどの情報量にボクは答えを見出せない。
本物とは何なのか?偽物とは何なのか?
「…GV…貴方は迷うかも知れない…自分が何なのか?本物とは何なのか?偽物は何なのか?」
シアンはボクの心を見透かした様にそう言った。
「本物だよ。その胸の中に宿る思いが貴方がGVである証拠なんだから。誰に否定されてもその胸に宿る
シアンはそう言った。ボクもガンヴォルトであると。
「でも…ボクは…」
ボクは未だに悩み続ける。そんなボクに静かに寄り添うシアン。
「大丈夫だよ、GV。さっきも言った様に、例え誰かがGVを否定しようと私がその否定を覆してあげる。貴方も本物だって。貴方もGVだって。だから顔を上げて」
そう言ってボクの頬に手を当てて、ボクの顔を上げさせる。
「…ボクは…ボクは…」
「悩む必要なんてない…貴方もGVだよ。私が言うんだから間違いない。他にも貴方と同じ存在がいても、その存在もGV。そして貴方もGV何だから」
未だ答えが出ないボクにシアンは言った。あの世界にいるのもガンヴォルト。そしてこのボクもガンヴォルトであると。
「でも…あの世界にはGVがいる…それに帰る手段も分からない…それがGVにどれだけ苦しみを味合わせているのか分かってる…もうあの世界に帰ることが出来ない辛さがあるのは理解している…」
そう言ってシアンはまた悲しそうな表情を浮かべる。
そう。ボクには居場所が無い。例え本物であろうとと居場所が無いのであればボク一体何者なのか?
「私の勝手でそうなってしまったから…こういうのは失礼かも知れない…でもGVには絶対居場所はあるよ。あの世界じゃなくて今いる世界で…貴方が本来居た世界に帰れなくなっても、貴方の居場所は絶対に。どんなことがあっても、貴方になら今度こそ裏切られる事のない、信じられる大切な仲間が出来る筈だから。貴方が本物だからこそ、それが為せるのだから」
そう言われてボクの頭にはボクのことを認めてくれた装者、奏、翼、クリス、響。それに二課の弦十郎に慎次、あおい、朔也。それに共に過ごしたエージェントやオペレーターの人達。そして一課の面々。
「それに…GVが本物と知らなくても、貴方がどう言う人なのか知り、貴方の事を大切に思ってくれる人達が絶対に出来る…メッセージの私には分からないかも知れないけど、GVが偽物だと言っても、私が本物と言ってあげる。それに、GVが本物であるとは関係なしに、今のGVだけを知って認めてくれる人達が必ず出来る筈だよ」
本物だろうと偽物だろうと関係ないと言ってくれた大切な人達がいる。居場所がないと言ったにも関わらず、ボクに居場所があると言ってくれた人達がいた。それを思い出すと心が揺らぐ。あそこまで言ってくれる仲間がいたのに。本物偽物か悩んでいる必要があるのか?アシモフの言葉だけで揺らいでしまって良かったのか?ボクにはあの世界に居場所が無いと言っても、ボクにこの世界に居場所がある。
「貴方には私以外にも待ってくれる人達がいる…少しだけ不満だけど…今の貴方には私同様に貴方の事を大切に思ってくれる人達がいる筈よ」
シアンがそう言った。
そう言われてボクを縛る鎖が僅かながら弛んだ気がした。だが、そんなみんなをボクは裏切った。偽物と信じ、ボクにはもう何も出来ないと。期待されていたのに、その期待を裏切った。
アシモフを殺す事を誓い、何も為せず、幾度とない敗北を味わい、そして絶望して、挙げ句の果てに態々ボクを捜索してくれたみんなの言葉を否定した。
そんなボクにはもう戻る場所などない。
「みんなを裏切ったかも知れないと思うのは分かる。でも、大丈夫だよ。貴方がみんなをガッカリさせたかも知れないと思っていても、貴方の事をいつまでも信じて待っていてくれる筈だから」
シアンは言った。
そう言われてボクは気を失う前に聞いた数々の言葉を思い出す。
奏にとってのガンヴォルトは自分であると。本物か偽物かなんて関係がないと。
翼もだ。翼にとってもガンヴォルトは自分だと言ってくれた。自分がガンヴォルトであり、その事を否定させないとも。
クリスもだ。クリスは奏や翼の言う事と同様にボクがガンヴォルトであると言ってくれた。そして居場所もあると。戻ってもいい場所は存在すると。
響もだ。響も同様に本物か偽物かなんて関係なく、自分を必要と言ってくれた。否定するなと。ボクがガンヴォルトとして必要だと。
言い方が違えど、みんな同じ考えであった。
「全員女の子な所が少し気に食わないけど…でも、そうだよ。貴方にとっての居場所はある。帰る場所もある。存在してもいい場所がある。辛い事ばかりのあの世界じゃなく、この世界で。貴方がいなくて悲しむ人も。貴方にはあの世界じゃなく、この世界で帰る場所も居てもいい場所もあるんだよ」
居てもいい場所。帰るべき場所。あの世界でなくこの世界に。本当にいいのか?ボクは居ていいのか?
「居ていいんだよ。あの世界には貴方と同じGVがいる。あの世界で辛い目にあってばかりかも知れない…それでも、私が居る。それにどんなに辛い目にあっても貴方と同じGVならこの世界の様にいつか必ず私以外にもGVを裏切らない私以外の大切な人と巡り会う筈だよ。それに私が居る。例えどんなに辛い目に会って一人になろうとしても、私が付いてる。だから心配しないで」
シアンがそう言ってくれた。もう帰る世界がなくとも居てもいい場所がある。それが元の世界でなくこの世界に。
「そうだよ。居ていいんだよ。だからGVに聞くよ?あの世界のGVじゃなくてこの世界のGVに。貴方は何がしたい?」
何がしたい?何を為せばいい?
そう言われてボクを追い詰め、絶望に追いやったアシモフが思い浮かぶ。ボクを
そう。あの世界だけじゃなく、この世界にアシモフはいる。一度あの世界のボクに殺された筈のアシモフが。何故いるのか分からない。何故この世界に流れ着いたかも分からない。
だが、アシモフは再び元の世界に戻り、またあの世界で
そして、その為にこの世界で為そうとしているのか?ボクが守りたいと思っていた物を全て破壊し、ボクが守りたかった者を全て奪おうとしている。
そうだ。あの世界にはボクの帰る場所がなくとも、此処にボクの帰るべき場所がある。居てもいい場所がある。守るべき場所も、掛け替えの無い救いたい、助けたいと思った人達がいる。
だったらボクは何をすればいいかなど問いかけられなくとも答えは出ていた。
「守りたい…ボクの帰る場所を…救いたい…掛け替えの無い本当に信じられる人達を…助けたい…アシモフから」
ボクがガンヴォルトと信じてくれる人達を救いたい。助けたい。だがボクに力はない。アシモフを殺せる力は。
「それだけ分かれば大丈夫。貴方にはその力があるんだから。貴方にはそれを貫き通す意思があるんだから。例え絶望してもそれを乗り越えて立ち上がれば、貴方になら出来る」
シアンの言葉に呼応する様に、ボクの胸が熱くなる。まるで
「守りたい…皆んなを…救いたいんだ!」
その言葉が力を帯び、ボクの身体を縛る鎖が雷撃を纏い、溢れ出た雷撃の熱量により破壊された。
「それでいいんだよ。GV。貴方なら出来る。本物でもある貴方なら」
「ありがとう、シアン…でも少し違う。ボクはまだ本物と言う確証を持てない」
シアンに向けてそう言った。その言葉を聞いたシアンは少し悲しそうな表情をする。
だけど心配しないで。これはそう言う意味じゃない。
「ボクがボクを証明しなきゃならない。そしてそれを信じるために…始めなきゃならないんだ。本物にまだなれないボクが本物になる為に。ガンヴォルトになる為に」
その言葉と共に、シアンはボクの言葉の意味を理解して微笑んだ。
「ありがとうシアン。こんなボクを助けてくれて…こんなボクを救ってくれて…」
「気にしないで、GV」
そう言うと、シアンの身体が徐々に透けていく。シアンのメッセージがボクの心に届いた事により、その役目を終えた為に力がなくなったのだろう。
「じゃあね、GV。貴方ならもう大丈夫。貴方なら絶対に出来る」
「うん。絶対にやり切るよ。君が残してくれたボクに宿したシアンを絶対に助けるから。それに…いつか必ず、あの世界のボクが平穏でないのなら…君の助けにもなる…そのくらいはさせて」
そう言うとシアンは別れを惜しむ様に悲しそうにしたが、ボクがもう絶望に囚われていない事を安心して消えていった。
その残滓を見送ってボクは目を開ける。
そこにはもう暗闇など存在しない。蒼い雷撃により照らされ、明るくなった空間だけがあった。
「アシモフ…もう惑わされない…シアンが生かしてくれたこの
覚悟を新たにボクは歩き出す。
みんなを救う為に。そしてボクが絶望に陥った際に助けてくれたあの声の人物の為に。仲間を救う。そしてアシモフにより無理矢理戦わせられている敵として立ち塞がるマリア、切歌、調を助ける為に。
そしてボクは眩い蒼い光に包まれると共にゆっくりと覚醒していった。
◇◇◇◇◇◇
再び目を開けると病院と思われる場所に眠っていた。
どうやら、ボクは意識を失った後、弦十郎達にここまで運ばれた様だ。だが、周辺に誰の姿も見当たらない。
ボクはベッドから起き上がり、自分の身体を雷撃で包む。そうすると身体に出来た傷を一瞬で完治させた。
そしてその隣にあったボクの装備に身を包む。
助けるんだ。救うんだ。ボクがボクである証明をする為に。本物であると立証する為に。
そして近くにある通信端末を手に取るとその中の履歴を確認する。
それを見て既に再びアシモフ達との戦闘が目前の連絡があり、ボクは急ぎ、ある人へと連絡をする。
忙しい弦十郎や慎次でなく、今この時、最も素早く行動出来る人物へ。
『誰だ全く!こんな忙しい時に!』
斯波田事務次官。この国の防衛を仕切る幹部の一人。
「斯波田事務次官。ボクだ』
『この声はガンヴォルトか!?本当にテメェなのか!?』
斯波田事務次官がボクが本物なのかと尋ねる。
「ガンヴォルトだよ。ごめん、迷惑かけて」
『ったりめぇだ!俺もどんだけ心配したと思ってやがる!それに自分が偽物だとかふざけた事抜かして力が使えない!?何も出来ないとか言ってんじゃねぇよ!』
「本当にごめん…でも大丈夫。もうそんな事で惑わされない。もう絶望したりなんかしない」
『…どうやら、踏ん切りがついた様だな』
ボクの言葉で斯波田事務次官も知っているボクに戻って居ると感じ、そう言った。
「うん。だからお願いがある。もう既にアシモフとの戦いが始まっている。ボクもそこに行かないと行けない」
『分かってるんならいい。安心しろ。一課に言ってすぐにヘリを向かわせる。それよりも、本当に大丈夫か?』
僅かながら不安があるのだろうか?無理もない。斯波田事務次官もボクの絶望の状態を知っているからこそ、そう言っているのだろう。
「もう大丈夫だよ。本物か偽物かの問題も…力が使えない問題も。今度こそ終わらせるから」
そう言うと斯波田事務次官はボクの言葉にかつての絶望が本当にない事を理解して言った。
『それだけ聞けりゃ十分だ。だが、それを言った手前だ。絶対に終わらせろよ』
そう言って一課へと連絡してすぐにヘリを向かわせてくれる事を伝えられる。
『俺が出来るのはここまでだ。後はテメェと装者の嬢ちゃんに掛かってる。絶対に誰も不幸になんてさせんじゃねぇぞ!』
「ありがとう」
そう言ってボクは通信を切る。
「今度こそ決着をつけよう…アシモフ」
そう言ってボクは病室から急ぎ、退出するのであった。
意識不明だったボクが、出てくるのを見て慌ただしくなる院内。だが、ボクはそれに構わず屋上へと向かう。
もうアシモフにこれ以上好きにはさせない為に。何も奪わせない為に。
急ぎ屋上へ向かう最中、ボクの前に一人の女性が看護師達が一人の暴れる女性をなんとか抑えようと必死に動いている場所に出くわす。
申し訳ないが、急いでいる為にその場を後にしようとするが、その女性の言葉でボクは足を止めた。
「離して下さい!私は…私はあの子達に知らせなきゃならないのです!もう戦わない様に!あの男から離れる様に!アシモフから!」
アシモフ。その名を知る者は沢山いる。一課に二課。そして国防省の人間。そして諸外国の政府。だが、一般人などが多い病院にその名を知る者など限られる。
ボクはその暴れる女性が何者なのか知る為に看護師達が抑える場所に向かった。
そこにいたのはボクが絶望していた時に助けた女性。
「貴方は!?」
その女性はボクを見るなり、車椅子から転げ落ちながら縋る様に助けを求めた。
「ガンヴォルト!お願いです!あの子達を…あの子達をあの外道達から!アシモフとウェル博士から助けて下さい!」
懇願する女性。だがこの声に聞き覚えがある。かつて切歌と調が秋桜祭の時に爆弾の場所を教えてくれた人。そしてマリア達と同じ、F.I.S.の人。
敵であるが、ボクはその女性から助けを求められている。そしてボクを救ってくれたあの声の人物が救ってくれと願った一人だと確信して女性の手を握り、了承した。
「大丈夫…元からそのつもりだよ」
その言葉を聞いた女性はそれを聞いて安堵したのか、涙を流し、ボクへと向けて礼を言った。
「ありがとうございます」
「絶対に助けるから」
ボクは涙を流す女性に向けて力強くそう答えた。