斯波田事務次官が用意したヘリへと乗り込んだボクは急ぎ、アシモフと二課の戦闘する海上へと向かっていた。
その中に先程の女性、ナスターシャを乗せて。
何故ナスターシャも乗り込んだのか?初めはボクも反対であった。ナスターシャは海を漂い、疲弊していた事は回復した事を確認したが、それ以外にも病に身体が侵されており、進行を抑え完治する為にも入院が必須であった。
しかし、ナスターシャ切っての希望、いやお願いだ。そして、自身が無事である事をマリア、切歌、調の三人が確実に知らなければ、アシモフとウェルにより、したくもない戦闘を続けてしまうと言う事を伝えられた為であった。
だからボクは仕方なく同行を許可した。戦闘能力を持たないナスターシャが今から行こうとする場所に向かうのは自殺行為である。
「同行は許可するけど、危険な場所だ。アシモフにウェル博士、そしてノイズ。ボクは貴方を守り切って本部に連れていくのはどれほど危険なのかは理解している?」
「分かっています…しかし、私は行かなければなりません。あの子達はアシモフに無理矢理従わせられている。我が子の様なあの子達があの外道に道を踏み外した事をさせる前に…そんな事させてはならない為に、私が生きている事を証明して、アシモフの手から逃さねばならないのです」
「…分かった…でも、それでも貴方が今まで引き起こした事、アシモフと共にやってきた事の罪は償わなきゃならない」
「分かっています…あの子達を助けることさえ出来れば、どんな罰だろうと受け入れます」
ナスターシャの真っ直ぐボクを見て言った。行ってきた事がどれだけのことか理解しているからこそ、既にもう罪を償う事に向き合っている様だ。そんな人に対してボクは何も言わない。
「それよりも、何故貴方がその三人とは別にあの場所にいた?ボク同様にアシモフに殺されかけたの?」
「はい。私はアシモフによって海底に落とされた様でした…しかし、海上へと繋がり、なんとか生き長らえました…」
アシモフが初歩的なミスをするはずがない。だが、他者の介入によるのらば別だ。ボクもそうであったから知っている。だが一体誰なのかはボクは分からない。聖遺物に干渉するとなればシアンの様な
「私はあの子に助けられました…もう聞くはずのない…会う事は決して叶わない筈のあの子に…」
そう言ったナスターシャの顔は懐かしそうにそしてどこか寂しそうにそう言った。
あの子とは誰か分からない。だが、ボクをも助け、そして助けを求めていた人物である事は察せる。
「あの声の人の事か…」
「ッ!?貴方もあの子に!?セレナの声を聞いたのですか!?」
ナスターシャがボクの言葉に驚きながら言った。
声の主はセレナと言うらしい。
ナスターシャの話からするにもう聞くはずがない。会う事が叶わない。その事から故人だと思われる、しかし、それは不可解な事としか言いようがなかった。死した人間の
「うん…だけど、その子は一体何者なんだ?話を聞く限り、亡くなった…そう取れる。その子が何故あんな事が…ボクと貴方を助ける事が出来たのか?」
「なんとなくですが…心当たりはあります…六年前、私達F.I.S.が犯した過ち、歌によるフォニックゲインを使わない完全聖遺物ネフィリムの起動実験を行っていました」
六年前に行われた実験。しかし、その結果は言わなくても分かった。
「歌によるフォニックゲインを介さない起動ではネフィリムを安定状態を維持出来ず、暴走を起こしてしまいました…初めから結果は目に見えていました…ですが、どの国よりもより優れていなければならないと言う観念に囚われていた為に、それをやらざるを得なかった」
聖遺物と言う力はどの国も欲し、更には他国よりも優れ、優位に立たななければならない。それがその実験を行った経緯。あまりにも身勝手な行為。
だが、ボク自身もそれについて何も言えない。ボク自身も自身の望む平和の為に、テロ行為に加担していたと言う事があるからだ。
「その結果、あの子を…セレナを死なせてしまった…ネフィリムの暴走を止める為、私達を助ける為に…絶唱を使い、ネフィリムを抑える事で救ってくれました。…ですが、抑えはしたものの、ネフィリムは完全に機能停止、基底状態にはなっていなかった為に、ネフィリムの最後の足掻きによって捕食され、セレナは亡くなってしまいました…」
それがセレナが亡くなった経緯。あまりにも身勝手な理由での死であり、怒りが込み上げる。だが、ボク自身がそれを怒るのは筋違いだ。ただ怒りを振り撒いたところで何も変わらないのだから。
それに当の本人がその事を酷く悔いている。それに追い討ちをかける様な真似をしたくはない。
しかし、それで亡くなったとなれば、話が少しだけ理解出来た。助けられたのはセレナの意思がネフィリムと言う器の中に未だに生き長らえていて、覚醒した事により、僅かながらにネフィリムに干渉してこの様な事を起こしたのだろう。
大切な家族を救いたくて。僅かに残る意思が、現状を理解して。どうにか助けたいと言う強い想いが、この事を為したのだろう。
だから助けよう。彼女の想いも受け継いで。彼女の大切人達を。
だが、ナスターシャはそんなボクの思いとは裏腹に話を続ける。
「…ですが、そのセレナも…亡くなったのにアシモフは利用しようとしている…」
「ッ!?どう言う事!?」
アシモフが何故亡くなったセレナを狙うのかボクはナスターシャへと聞く。
「…私にも分かりません…ですがアシモフはセレナの存在をどこかで知り、そして何かに使う為に生き返させると言いました…」
だからシアンを…
「ナスターシャ博士、セレナと言う子は適合者なのか?」
「はい…あの子は三人とは違い、聖遺物に適合した正規適合者です」
その答えでボクはある仮説が立つ。アシモフが帰る算段を持ち合わせていると答えた理由。そしてネフィリムを狙っていた理由。
正規適合者によるフォニックゲインの上昇による聖遺物の強化。更に
何処までも最低な考えにボクはアシモフへの怒りが込み上げる。だからこそ、決着をつけなければならない。
「貴方に聞きます、ガンヴォルト…本当にそんな事がアシモフに可能なのでしょうか…
そんな考えの中、ナスターシャがボクに対して何処か期待と不安に満ちた声で問う。
「…ボクはその問いに関してはっきりと答えられない」
ボクは一旦先程の考えを置いておき、ナスターシャの問いに答える。そう。
そしてもう一点、
だから、アシモフがセレナと言う子を復活させると言うのは本当に出来るかどうかはボク自身も分からないのである。確証がないのである。
その為、こう答えることしか出来なかった。
「そうですか…」
ナスターシャは何処か落胆した声音でそう言った。だが、その声音の中に、何処か安堵が含まれている。
「…死んだ人を甦らせるなどと空想だと言う事ですね…」
「空想の域ではあるけど…ボク自身が何度も体感しているからどうとも言えない」
「いいんです…無理な事を聞いたのは私の方ですから…」
そして一息ついたナスターシャは再度ボクに向けて頭を下げて言った。
「お願いします。セレナを…居なくなったセレナを…あの子も救って下さい…アシモフはあの子を何かに利用しようとしています…死んだ者を…大切な家族を…踏み躙られたくない…あの男にセレナを弄ばれたくない…だからお願いです…あの子も…セレナも救って下さい…あの子に安らかに眠れる様…あの外道の手から解放してあげて下さい…」
涙を流しながら、ナスターシャはボクに訴えた。
ボクはナスターシャに顔をあげる様に言う。
「ボクは元からそのつもりだ」
そう。かつてのボクの様に。アシモフにいい様に利用されているのだから。アシモフは変わらない。いい様に利用して最後は始末するだろう。そんな悲しい事をさせてはならない。ボクやシアンの様にあの様な体験をさせてはならない。
だからこそ助けるんだと。だからこそ救うんだと。あの世界のボクがやった様に。ボクもやらなければならない。もう元には戻らないとしても、その経験を他の者にさせるわけには行かないから。
ボクがそう言うとナスターシャはまた涙を流し、ボクに頭を下げて礼を言った。
この世界にあの様な事を起こさせない。アシモフにこの世界も、元の世界も壊させてはならない。
「もう貴方の好きにさせない…もう何もやらせはしない…今度こそ終わらせよう…アシモフ」
ボクはそう呟いて次こそ決着を着ける事を決意した。
◇◇◇◇◇◇
甲板の上。
ノイズと二課装者。そしてF.I.S.装者である切歌と調は武器を構え睨み合っていた。
「貴方達と戦う気はない」
「そっちがなくとも、こっちにはあるデス」
睨み合いながら翼の言葉に切歌が短く返す。
「お前達がアシモフにいい様に使われているのは知っているよ。だけど、アシモフはお前達が戦おうと決して約束など守らない。あの外道は何処までも道を外れているのはお前達がよく知っているだろう?」
「あの外道が約束を守らない可能性が高い事なんて知ってる。でも、それでも、僅かな希望に私達は縋るしかない。大切な人を失いたくない!マリアを悲しませたくないの!」
奏の言葉に調がそう返した。大切な人。それは人質に取られている誰かだと三人は理解している。だが、それでもアシモフが人質を無事解放させるとは絶対にないと知っている。
「その外道に協力する事が!一番お前達の大切な誰かを傷つける事になるんだぞ!アシモフを!あの外道を倒す以外方法がねぇんだよ!」
「それが貴方達が正しいと思っても!私達が貴方達と協力すれば、大切な人は帰ってくる事はない!あの外道が私達の大切な人を無事に返してくれる保証はない!だったらまだ望みがある方に私達は賭けるしかないの!」
クリスの言葉に調がそう答える。
「何故そこまで…アシモフは外道だ…それは貴方達が一番理解しているだろう…それなのに何故差し伸べた手を振り払う!何故共にアシモフから離れ、協力しようとしない!アシモフさえいなければ助けられるだろう!アシモフを殺せばどうにかなるかも知れないだろう!」
「それが出来れば誰も苦労しないデス!私達だってそうしたい!でも、もうそれすらも叶わないんデス!私達はお前達と戦わなきゃならない!そうしなきゃ、死んでしまう!大切な人を悲しませてしまう!そうしない為にも!私達が死んで悲しませない為にも!お前達と戦わなきゃならないんデス!」
翼が頑なにそうしない二人へと再度協力を要請するがそれを振り払う切歌。何故そこまで拒否するのが分からない。しかも死なない為にも。大切な人を悲しませない為にも。その意味が分からない。
「何でお前達はそこまでして拒絶するんだよ!何でそこまでしてアシモフに協力する!こっちは知ってるんだよ!お前達が本当はあいつの手から逃げ出したい事くらい!なのに何でだよ!」
クリスが二人に向けてそう言った。
「私達はアシモフに命を握られている…私達はもう従うしか他ないの」
そう言って調が自身の首元にあるチョーカーに手をやる。奏も翼も初めは何故としか分からなかった。だがこの中で唯一、アッシュボルト時代のアシモフの所業を知るクリスはその意味を知った。
「ッ!あの外道!こいつらに爆弾を付けやがったのか!」
「クリス!?本当なのか!?」
奏がそう聞くとクリスは肯定する。
「アシモフ!貴様は本当に人間か!?何故この様な真似が出来る!」
翼が切歌と調の置かれている状況を理解してそう吐き捨てた。
二人もその首に嵌められた枷がある限り、戦う他ないのだ。
「私達は貴方達と戦い、勝つ以外生きる方法はない」
そう言って調が構えた丸鋸を回転させる。切歌もそれと同時に三人へと向けて鎌を構え走り出した。それと同時にノイズ達も三人へと向けて襲い掛かる。
「ッ!やらねばならぬのか!?」
「やるしか方法はないだろう!そしてこいつらをなんとかしてアシモフを引き摺り出す!」
「ああ、悪いがこっちも引けないんだよ!だけど!お前達も必ずどうにかしてやる!」
そう三人は言うと、翼が切歌の鎌を受け止め、迫り来るノイズをクリスが打ち倒し、奏がそれに乗じて接近していた調の丸鋸を受け止める。
ぶつかり合う武器の音が開戦の合図とばかりに甲板の上に響き渡った。