戦姫絶唱シンフォギアAB   作:株式会社の平社員

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一晩明け、ボクはとある病室に来ていた。病室のベットに寝かせられているのは二年前あの日から眠り続けている奏であった。

 

「奏…昨日、君が助けたかった女の子に会ったよ。危なっかしい子だったけどとても元気な子だった。多分、今笑っていられるのは奏のおかげだよ。それと今、奏が眠ってるせいで翼が無理して困ってるんだ。早く起きて翼に何か言ってあげて」

 

その呟きは病室で静かに木霊する。しかし、その問いに対して奏は目を覚ます事はなく沈黙を続け、眠っていた。

 

◇◇◇◇◇◇

 

「自衛隊、特異災害対策機動による避難誘導は完了しており、被害は最小限に抑えられた、だって」

 

食堂でスマートフォンのニュース欄を見ながら未来が呟いた。響は未来の話を聞きながらご飯を食べる。

 

「ここからそう離れていないね」

 

未来はそう言いながらスマートフォンの画面に出ている関連記事を読んでいく。

 

急に食堂の入り口付近がざわめきたち、やがて伝染する様に食堂内が騒がしくなる。

 

「ねぇ見て、風鳴翼よ」

 

「芸能オーラ出まくりで近寄り難いわ。さすが孤高の歌姫といったところね。でも、あの人がお弁当を食べる時だけは和やかな雰囲気になるのは何でかしら?」

 

響は風鳴翼と聞いた瞬間、お椀を持ちながら立ち上がり、入口の方を向いた。向いた先には既に翼が目の前にいた。

 

「あ、あの…」

 

目の前に立っている翼を見ると上手く言葉が出ない。響は口をパクパクさせながらなんとか喋ろうとするが、その前に翼は自分の口元を指差した。

 

「おべんとついてるわよ。慌てずゆっくり食べなさい」

 

そう言って翼は響の前を通り過ぎて奥の方に行ってしまった。

 

響は顔を赤くして大人しく座り、無言でご飯を掻き込んだ。

 

◇◇◇◇◇◇

 

「あーもうだめだ。翼さんに恥ずかしいところを注意された…絶対おかしな子って思われた…」

 

放課後、響は机に伏せながら昼食時の失態を嘆いていた。しかし、翼と少しだけでも会話が出来た事は嬉しかった。

 

「けど、あのタイミングでなんでおべんとなんか付いてるのー」

 

「落ち着いて食べないからそんな事になるのよ。それに翼さんの認識は間違ってないからいいんじゃない」

 

隣に座る未来は課題なのか開いたノートにペンを走らせていた。

 

「少しは慰めてくれてもいいじゃん…それより、今やってる事もう少し掛かりそう?」

 

「うん。あっ、そっか。今日は翼さんのCD発売日だったね。でもなんで今時CDなんかで買うの?」

 

「やっぱりダウンロード版よりも初回特典の充実度が違うからに決まってるじゃん。それにダウンロード版にはないあのお店まで買いに行く時のワクワク感。やっぱりあの感覚を味わうために」

 

響は得意げに饒舌をふるう。未来はそれをしっかりと聞きながら響が話終わるのを確認してから未来は口を開いた。

 

「だけど私が終わるのを待ってるなら初回特典のCD、売り切れちゃうんじゃないかな?」

 

「しまった!ごめん未来、それが終わったら部屋の鍵開けて待ってて!急いでCD買って帰るから!」

 

響は鞄を持つと急いで教室から出て行った。

 

「まったく、慌ただしいのはいつまでも変わらないな」

 

未来はそんな親友の様子を困りながらも微笑みながら見送った。

 

「私も早く終わらせて帰らなきゃね」

 

そう呟くと未来はノートに書く速さを少し上げた。

 

◇◇◇◇◇◇

 

街が夕日により朱に染まる道路を響は小走りで駆け抜けていく。未来を待っていて少し遅くなってしまったが、CDショップまでもう少しという所に迫っていた。

 

「今回もCDの初回特典は豪華だったし、早く買って帰って未来と一緒に翼さんの新曲を聴きながら初回特典を拝まないと!」

 

そう呟きながら響は走るペースを少し上げた。角を曲がればCDショップという所で街から先程までの喧騒が消えているのに気付いた。

 

「さっきまであんなに人がいたのになんで?」

 

喧騒と同時に人も全く居なくなっている。逢魔時の恐ろしさなのだろうか。肌を撫でる風がとても冷たく感じた。そして、その風と共に飛来してくる黒い粉のようなもの。吹いてきた風の方向に目を凝らすとそこには幾つもの炭の塊が散乱していた。

 

「えっ?まさか、ノイズ!」

 

気付いた時には響の足は既にシェルターの方へ駆け出していた。先程の道を戻るように走り抜け、ノイズがいないか怯えながらも駆ける。その時、少し離れた所で女の子の悲鳴が聞こえる。響はシェルターに向けて駆けていた足を止め、その悲鳴の方向に走り出した。

 

建物の間、路地を駆けて出た通りには一人の女の子がいた。親とはぐれてしまったのだろう。響はその子の元へ向かう。

 

「大丈夫!お母さんとはぐれちゃったの?」

 

女の子に声を掛ける。女の子はビクッと怯えて反応するがノイズではなかった事を安堵したのかこちらに寄ってくる。そして問いに答えるようにこくんと頷いた。

 

「なら、お姉ちゃんと一緒にシェルターに向かおう。一人で心細くても二人なら平気、へっちゃらだからね」

 

女の子を安心させるように笑顔を浮かべて言う。女の子は安堵した表情で響の手を握る。

 

「じゃあ急ごうか」

 

そう言ってシェルターの方へ向かおうとした時、遠くの方からこちらの方に向けてゆっくりと迫り来るノイズが目に入った。後ろの通ってきた道からも既にこちらに向かってくるノイズが見えた。

 

響は女の子の手を引いて別の裏路地に逃げ込んだ。後ろから迫り来るノイズを見ながら路地の奥へ奥へと進んでいく。そして路地を抜けた先の用水路に出ると既に先回りをされたようにノイズが待ち受けていた。

 

「お姉ちゃん!」

 

女の子が泣きそうな顔で響の制服を握る。響は女の子を抱き寄せる。

 

「大丈夫。お姉ちゃんが一緒にいるから!」

 

左右そして来た道からもノイズが迫ってきている。逃げ道は目の前の用水路しかない。意を決して響は女の子と一緒に用水路に飛び込む。そして向こう岸まで泳ぐ。女の子と共に向こう岸に渡りきり、女の子の手を引き再び走り出した。

 

必死に逃げる。だがノイズから逃げるうちにシェルターからどんどん離される。だが、響は足を止めない。

 

(あの日、あの時、私は確かに救われたんだ。私を救おうとしてくれた奏さんも言ってた。生きるのを諦めないでって。だから、こんなところで諦めちゃダメだ!)

 

響は足が動かせないと言い始めた女の子を背負い、工場地帯へ入る。太い配管の合間を縫うように道なき道を走る。今のところはノイズの姿は見えない。だけどノイズは急に現れるため油断ならない。

 

響は工場地帯の中にある一際大きな給水タンクの梯子を登る。長い貯水タンクを登り切るとアドレナリンが切れたのか今まで走っていた足が急に動かなくなり大の字に倒れる。

 

「はぁ、はぁ…」

 

「お姉ちゃん、私たちどうなっちゃうの…」

 

女の子が心配そうに響を見る。女の子は響が倒れた時に放り出されたせいか、体中泥や埃などでうっすらと汚れていた。

 

「大丈夫…ここまで来れば」

 

「お姉ちゃん!」

 

女の子が急に悲鳴のような叫び声を上げる。重くなった身体を起こすといつの間にかノイズの大群に囲まれていた。先ほど登ってきた唯一の逃げ道であった梯子もノイズによって塞がれてしまっているため、逃げ道はもうない。

 

「いやぁぁ!」

 

女の子は響に抱きつく。その身体は恐怖のせいで震えている。

 

(こんな所で死にたくない!私に…私にだってまだ出来る事がまだあるはずだ。だから)

 

響は震える女の子を安心させるため、そして恐怖で竦む自分を鼓舞するように叫んだ。

 

「生きるのを諦めないで!」

 

叫ぶと共に胸の内から何か込み上げてくると共にすぅと思い浮かんだ言葉を響は歌った。

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

 

紡いだ言葉は響の周りを淡い光で覆った。そして、響の胸からは一筋の光が溢れる。その光の光源にあるのは2年前に着いた、フォルテの形をした傷だ。

 

そして淡い光が治ると同時に今度は胸から出る光が広がって響を光で包み込んだ。同時に身体の内が熱くなる。まるで細胞ひとつひとつが急速に温められていくような感じ。だが、瞬間、物凄い勢いで身体を何かが蝕むように激痛が走る。

 

「あぁぁ!」

 

響の背中を突き抜けるように出てきた機械。それは響の背中を出たり入ったりを行くばかりか繰り返す。響は余りの激痛に叫び続ける。そして機械は響の中に全て入り込んだ。だが、また食い破るように背中から突き出てきて今度は響の身体に巻きつくように絡まる。

 

絡みつく機械はいつの間にか形を変えていき、二年前に奏が装着していた鎧と似たような物に姿を変えた。

 

「な、なにこれ!?」

 

急によく分からない物を纏った響は訳が分からず叫んだ。先程まで着ていた制服は何処になど今の状況では些細な事ばかりに思い浮かぶ。

 

だが、目の前にいるノイズが目に入るとそんな考えも消え、どうすれば助かるのか、どうすれば逃げられるのか考える。

 

「お姉ちゃんその格好…お姉ちゃんはヒーローなの?」

 

縋るように見つめる女の子。震えはなくなり、その目には淡い希望の色が見える。

 

「…うん!お姉ちゃんはピンチになると変身出来るの!だからもう安心だよ」

 

とは言ったものの、危機的状況には変わらない。ノイズは響に向けて形を変え、襲い掛かる。響はそれを避けるように女の子を抱えてその場から飛び退く。

 

「えっ!?」

 

響は軽く飛んだつもりだったのだが、給水タンクから大きく飛び出し空中に浮かんでいた。自分の跳躍力に驚きを隠せないが、そんな事はどうでもよくなる。響の身体はしばらく滞空した後に重力に沿って落下を始めた。

 

「ど、どうすれば!?」

 

どうすればいいか考えている間にすぐに地上はすぐ目の前に迫っていた。響はやけくそになり、女の子に衝撃が来ないよう抱きしめ、両足を地面に付けた。途端に来る衝撃。しかし、痛みなどはなく、足も身体も無事であった。

 

「ぶ、無事なの…?」

 

身体の何処にも違和感がなく、高い所から落下したのに痛みがない事に驚く。

 

「お姉ちゃん!」

 

我に帰るとノイズの大群が響に向けて形を変えて弾幕の張るように襲い掛かる。響は再び、それを避けるように走る。だが、間に合わず、地面に衝突するノイズの衝撃で吹き飛ばされる。吹き飛ばされた先には給水タンクがあり、女の子を庇いながら衝突する。衝突しても痛みはほとんどなかった。衝突した衝撃でバウンドして直ぐに重力に沿って再び落下し始める。響は給水タンクの壁をがむしゃらに掴んだ。

 

給水タンクの配管を掴む事に成功し、落下するのは回避出来た。しかし、その隣にはいつの間にか巨大なノイズが出現しており、響に向かってカニのハサミのような形状の腕を響に向かって振り抜く。

 

響はとっさに手を離し、避ける事は出来たが、衝撃で女の子もろとも地面に吹き飛ばされる。女の子を守るように抱えて、背中から地面の衝突する。響は軽い衝撃に襲われる程度であったが、身体を起こし、抱きしめている女の子の無事を確認する。

 

「大丈夫?」

 

女の子は響の顔を見て頷く。よかった、そう思った瞬間、女の子は響の後ろを指差す。そこには四足歩行のノイズが飛び上がり、響達を覆い被さるように襲い掛かってきていた。体勢的に動く事が難しいため、無駄かもしれないが響は片手を振るってノイズを払おうとする。

 

だが、結果的には響の腕に当たったノイズは何が起こったか分からないが、炭の塊となって崩れ落ちた。

 

(わ、私が倒したの?)

 

余りの出来事に理解も追い付かない。その時、バイクのエンジン音がこちらの方に近付いてくるのに気付く。その方向を見ると、バイクに跨った一人の女性がこちらに向けてフルスロットルで迫ってくる。そしてバイクに乗った女性は響の横を通り過ぎると翻るように飛び降りた。

 

バイクは慣性に従って進み、巨大なノイズにぶつかると爆発した。飛んできた女性、翼は響と女の子の前に着地する。

 

「惚けない。あなたはそこでその子を守ってなさい」

 

「えっ?つ、翼さん!?」

 

響は憧れの翼が目の前にいる事に驚くが、翼はそれを無視して歌いながらノイズに向けて駆け出した。

 

「Imyteus amenohabakiri tron」

 

歌うと翼は光に包まれる。光が収まると翼は響と似たような鎧を纏っていた。翼は剣のような物を取り出すと、巨大な剣に変えて振り下ろす。振り下ろされた剣から青いエネルギーが放出され、ノイズの大群を斬り払う。そして、飛び上がると翼の後ろに大量の剣が出現して、ノイズに降り注ぐ。ノイズの大群があっと言う間に数を減らされていく。

 

その鬼神の如き戦いに響は見惚れる。

 

「お姉ちゃん、後ろ!」

 

女の子の言葉で我に帰り、後ろを確認すると巨大なノイズが響達に向けて腕を振り下ろそうとしているところだった。響は逃げようと考えたが振り下ろされた衝撃が自分達を襲うだろう。響は女の子だけでもと女の子を守るために抱きしめた。

 

「煌くは雷纏いし聖剣、蒼雷の暴虐よ敵を貫け!迸れ!蒼き雷霆よ(アームドブルー)!スパークカリバー!」

 

突如響き渡る男性の声。その言葉と共に出現した雷を纏った巨大な剣がノイズを貫き、炭へと化した。崩れゆく炭の塊。その塊が完全に崩れると共に雷を身体から溢れてさせ、特徴的な銃を握った男性が現れた。

 

その男性の姿はかつてライブの惨劇で響を救った男であった。

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