戦姫絶唱シンフォギアAB   作:株式会社の平社員

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司令本部でメインモニターには米国の甲板の上にアシモフにより戦闘不能近くに追い詰められた奏、未来により追い詰められ倒れるクリスの姿。そして唯一残った翼も奏を盾にするアシモフによって攻撃を封じられている。

 

非常に不味い状況。アシモフは奏を殺そうとしている。だからこそアシモフの手中にいる奏はとても危険な状態だ。

 

弦十郎は頭をフル回転させて救出方法を模索する。急がなければ奏が死ぬ。

 

そうさせてはならない。

 

だが助ける為の人員はあの場には翼しか残されていない。奏はアシモフにより戦闘不能近くまで追いやられ、クリスも何故か敵対する未来により奏と同じく戦闘不能に近い。

 

敵はアシモフ、それに未来、未だ動かない切歌と調。更には取り囲むノイズ。翼一人では荷が重い。

 

どうすれば良い?

 

翼一人に打開させるべきなのか?だが、その可能性も限りなく低い。奏、翼、電磁結界(カゲロウ)を越える事を可能になった二人を無傷で抑えるアシモフ。更に、クリスをも戦闘不能近くに追いやる未来の存在。今は動いていないが、切歌と調がアシモフと共に攻め始めればどうにもならない。

 

打開出来る道筋が見当たらない。

 

自分が出ることも考えたが、ノイズと言う聖遺物、シンフォギア、第七波動(セブンス)を持たぬ者にとっての最大の脅威がある以上、下手に動けない。

 

どうすれば良いのか。

 

弦十郎は奏を殺されまいと必死に頭を回転させるが妙案は一向に思いつかない。

 

早くしなければ。何かないか?何か打開出来る案はないか?

 

弦十郎は焦りながらも考える。

 

どうすれば良い?どうすれば全員救える?

 

考えるが何も思い浮かばない。

 

そんな必死に考える中、ただ一人、覚悟を決めた様に動く者が一人だけいた。

 

響だ。

 

響はもう限界とばかりに扉へと走っていた。

 

「どこへ行く!響君!」

 

走り去ろうとした響に弦十郎は言う。

 

「もう限界です…もうこれ以上見ていられません…奏さんが傷付いているのに…クリスちゃんが傷付いているのに…翼さんが傷つくかもしれないのに…未来があんな姿にされて…未来がこんな事をさせられているのも…これ以上誰かを傷つけるのを…もうこれ以上黙って見ることなんて出来ません!」

 

響は叫んだ。

 

「戦える力があるのに!守る為の拳があるのに!これ以上誰かが傷付いていくのを黙ってなんて見過ごせません!」

 

「分かっている!我々だって同じ気持ちだ!だが、響君は戦えない!戦える力はあるが、それは絶唱以上の諸刃の剣!もしまたガングニールを!シンフォギアを響君が纏えば響君は響君じゃなくなるかもしれないんだぞ!」

 

響には戦える力がある。弦十郎は分かっている。だが、それ以上にその力を再び使えばもう人ではない何かになってしまうかも知れない。人に戻れなくなるかも知れないと考えている。

 

だからこそ、響にそう言った。

 

「そうかも知れないです!でも、このまま黙って見ていろって言うんですか!?最悪の結果になるかも知れない現状をただ黙って見続けるんですか!?私はそんなの嫌です!もう誰も居なくなって欲しくない!もうこれ以上誰かを悲しい目に合わせたくない!もうこれ以上、悲しい結末になんてさせたくない!」

 

響は叫んだ。

 

響の気持ちは痛い程分かる。この場の誰もが誰一人かけてはならないと思っているからだ。だが、響を出して良いのか?

 

響が出れば現状は変わるかも知れない。結果が変わるかも知れない。その考えは希望であり、打開ではない。

 

響に宿るガングニールがいつ響の侵食を終えるか分からない。いつ響が人ならざる者になるか分からない。もしかすれば今回の戦いではなんとかなり、みんなを助け出せるかも知れない。だが、本当にそうなるかは疑わしい。

 

アシモフという最悪の敵がいる以上、そうなる可能性が限りなく低くさせる。

 

弦十郎は何とか響を待つ様説得するが、響も一歩も引かない。

 

だが、こんな事をしている場合でもない。いつアシモフが動くか分からない。いつ未来が動くか分からない。切歌と調が動くか分からない。

 

最悪の選択をしなければならないのかも知れない。

 

だが、それで良いのか?司令としては誰かを犠牲にしてでも救わなければならない。だが、大人としてそんな事をしてはならないと必死にそれを押さえ込もうとする。

 

本当にどうすればいいのか?どんな選択が正しいのか?どんな選択をすれば全員が無事に帰って来る事が出来るのか?

 

そんな選択は存在するのか?もう最悪の選択をするしかないのか?

 

響を説得する語気がどんどんと勢いを失くしていく。

 

「だが、響君は本当にそれでいいのか?響君が出てアシモフと対峙して、みんなを救えたとしても…響君はもう人で無くなっているかも知れないんだぞ?」

 

「そうかも知れません…でもそうじゃないかも知れません!まだ決まった訳じゃない!私がガングニールを使い続ければ人じゃ無くなるかも知れません!でもそんなのやってみないとわかりません!やってみないと何も変わらない!何も救えない!未来も…奏さんも…翼さんも…クリスちゃんも…ガンヴォルトさんも!」

 

響は涙を流しながら自身の想いを弦十郎へとぶつける。それだけ響の意思は固い。響の大切な親友、友人、そしてガンヴォルトの為。

 

「…」

 

みんなを救いたい。助けたいのは弦十郎も同じだ。だが、許可を出す事はその助けたいと思う響を失うかも知れない可能性が付き纏う。

 

どうすればいい。もう時間がない。

 

「…友里、藤堯…響君がシンフォギアを纏った場合…侵食が進んでももう時間は分かるか?」

 

弦十郎は覚悟を決めた。最悪の選択と分かっている。だが、これ以上悩み続ければ全てを失う。だからこそ決めた。

 

「…通常の出力のシンフォギアであれば、今までの戦闘の結果から十分程は大丈夫の可能性があります……しかし、可能性であって確実じゃありません…」

 

「相手にアシモフ、そして敵装者二名…それに小日向さんがいる…戦いが激化すれば自ずと適合率が上昇し、侵食を早めます…」

 

辛そうに二人がそう答えた。響を犠牲にしたくない。だが、そうしなければ何も救えない。誰も助からない。

 

苦渋の決断と分かって居ても、納得出来なくとも、方法がない以上、誰も弦十郎の下そうとする判断に何も言えなかった。

 

「響君…最低だと言ってくれて構わない…俺は君を死地に送り込もうとしている…だが、そうする他無い…不甲斐ない俺のせいで君に残酷な未来を歩かせようとしている…」

 

「違います!最低なんかじゃない!残酷なんて事はないです!あそこは死地でも何でもないです!まだそうと決まった訳じゃありません!確定した訳じゃありません!もうそれが決まった事にするなんて師匠らしくない!」

 

響は最低な選択ではないと叫んだ。

 

「私がガングニールを!シンフォギアを纏って、人じゃなくなる可能性はあるかも知れません…でも!それはもう確定した事にするなんて間違っています!」

 

「響君…」

 

「結果はそうなるかも知れない!でも!それがいつ確定すると決めたんですか!?誰がもうそうなると決めたんですか!?何もしていないのにそうなると決めつけるなんて間違っています!」

 

響はまだ決まった訳じゃないと叫んだ。

 

「時間はないかも知れない!私が私じゃなくなる可能性があるかも知れない!でも!確定なんてして居ない!必ずそうなると決まった訳じゃない!どんなに小さな可能性だろうと!どんなに低い確率だろうと!そんなもの乗り越えて見せます!」

 

響が叫んだ。確定して居ないと。決まった訳じゃないと。まだ可能性があると。

 

どんなに極小な可能性だろうとやり遂げると言った。

 

覚悟は出来ている。みんなも助けると言い放つ響。そして危険なかけだろうと掴み取って必ず無事に帰ってくると。弦十郎はもうそれ以上否定はしなかった。

 

「勝算は?」

 

「どんなに小さかろうとこの手で掴んで見せます!」

 

響は拳を握ってそう言った。

 

「…なら、約束してくれ…絶対に帰ってくると…絶対に響君のままでここに戻ってくると…」

 

弦十郎はそう言うと響は力強く頷いた。

 

「…ならば頼む…響君…みんなを救ってくれ…」

 

頭を下げる弦十郎に対して響は力強く言葉を返した。

 

「絶対に戻ってきます!未来も!奏さんも!翼さんも!クリスちゃんも助けて!」

 

そして響は助ける為に急いで司令室から出て行った。

 

「絶対に…帰ってくるんだぞ…」

 

弦十郎はそう呟くしか出来なかった。

 

最悪の選択かも知れない。だが、方法がない以上響に賭けるしかなかった。

 

ここでアシモフを止めなければ何もかも失うのだから。

 

◇◇◇◇◇◇

 

調はただ黙って戦いを見ることしかできなかった。

 

だが、このままこの状態を続けていれば、アシモフの反感を買い、何をされるか分からない。最悪殺される。

 

今二人がそうなっていないのはアシモフが奏と翼と戦闘しているから。だが、それも既に終わっていた。

 

いや、戦いにすらなっていない。アシモフはたった一人で二人を完全に抑え、圧倒した。

 

アシモフが持つ電子の謡精(サイバーディーヴァ)を封じたギアペンダント。それがアシモフを無敵にしていた電磁結界(カゲロウ)を封じる様に力を貸し与えた様に見受けられたが、地力が違いすぎた。

 

電磁結界(カゲロウ)がなくともアシモフは難なく二人の攻撃を受けず、無傷で奏を無力化し、更には奏を盾に翼も無力化した。

 

そして未来。アシモフとウェルにより何かを施され、アシモフのいいなりになった未来はもう一人の装者、クリスをたった一人で無力化した。まるでアシモフの動きを思い起こさせる様な動きを見せて。

 

何故その様な事を未来が出来るか二人にとっては分からない。何故、未来にあんな事が出来たのだと。

 

考えても答えなど出ない。

 

だが、それにより、アシモフの思い通りに事が進んでいる。アシモフにより計画が完遂しようとしている。

 

それは世界を救う事を意味する。

 

だが、本当にこんな事で世界が救われて良いのか?

 

誰かを犠牲にするしか無い救済と調も理解していた。

 

だが、こんな事で世界を救えて良いのか?

 

アシモフにより傀儡にされ生かされたままで。助けたかった筈の未来を虐殺の為に操り、無理矢理こんな事させているのに。

 

「…間違っている…」

 

アシモフのやっている事は間違っている。世界を救う為、関係のない者を救済出来ないからと言って殺す事も。そして関係の無い未来を巻き込んで、自分の思い通りにさせる事も。

 

アシモフに切歌と共に命を握られ、ナスターシャを助ける為に従っていた。

 

それが間違いだと。

 

助けたいのは変わらない。

 

だが、こんな事で助けるのは違う。

 

助かるにはこうしかなかったと自信が考えを放棄していた事を後悔しながら、自分が間違っていたと考えを改める。

 

だからこそ、どうすればいいのかなど身体が勝手に動き始める。

 

死は恐ろしい。だが、その死よりも恐ろしい生が待っているのであれば抗おう。

 

許されないなど分かっている。だが、それでもアシモフによってもし生かされたとしても、生かされた場合、死よりも残酷な未来があるのならば、抗おう。

 

他社にどんなに凶弾されるかなんて分からない。だが、アシモフにより死よりも辛い生があるのであれば、切歌やマリア、ナスターシャが苦しむ様な世界であれば、変えなければならない。

 

例え、自身が命を落としてでも。

 

「ごめん、きりちゃん」 

 

「調?」

 

調は切歌にそう言ってアシモフへと接近した。

 

◇◇◇◇◇◇

 

アシモフと対峙する翼はどうすればいいのか分からず、動けないでいた。

 

未来と対峙したクリスは倒れ、奏もアシモフに掴まれた状態。

 

はっきり言ってどうやってこの状況を打開すればいいのか思い付かなかった。

 

ガンヴォルトに誓った筈なのに。必ずアシモフを殺すと誓ったのに。

 

電磁結界(カゲロウ)を越える為にシアンが囚われながらも力を貸してくれたのに。結果はこの様。奏はアシモフに殺されかけ、未来にクリスを倒された。

 

目も当てられない状況にまでなっている。

 

全て終わらせるとガンヴォルトに誓ったのに。

 

「こちらも急ぐとしよう。あれもいつまで持つかわからぬからな」

 

そう言って傷付いた奏にアシモフは今度こそ奏に止めを刺すべく銃を脳天へと突き付けた。

 

「奴と共に地獄(デッドエンド)で待つがいい」

 

そう言ってアシモフの指に力が入る。

 

だがそれよりも前に、アシモフに向けて、丸鋸が襲いかかった。

 

「どう言うつもりだ?」

 

電磁結界(カゲロウ)が発動して一度動きを止めたアシモフが丸鋸の放たれた方向を見てそう言った。

 

そこにはアシモフに向けて接近する調の姿。

 

翼もその攻撃に驚く。何故、敵対していた筈の調が、攻撃したか分からなかったからだ。

 

「こんな事間違っている!誰かを無理矢理従えて救う事も!マリアとマムを助ける為に自分の考えを放棄して貴方に従っていた事も!間違っていた!」

 

調がそう叫んだ。

 

「何が間違っているだ。貴様はただ己の死を早めただけだ。死にたいのであれば死ね」

 

アシモフはそう言って奏にとどめを刺そうとした。そして奏を殺し、調をも殺す為に動こうとした。

 

だが、それよりも早く、近くの海上、アシモフの立つ甲板の背後の海面が大きく盛り上がり、何かが飛び出してきた。

 

そしてその何かは大きな火を吹いて一気にアシモフの元へと接近した。

 

「やらせません!」

 

響だ。

 

止められて居たはずのシンフォギアを纏った響の登場に翼は驚く。

 

だが、アシモフは止まらなかった。響が接近するのであれば一瞬でも早く奏を始末しようと引き金を引こうとする。

 

だが、響の登場により一瞬だがアシモフの引き金を引くタイミングを遅らせた。

 

その瞬間を翼は見逃さず、同じく小剣を取り出すと投擲した。

 

アシモフにでなく、アシモフの影に向けて。

 

アシモフは自身に向けて攻撃ではないと直ぐに判断すると、迫り来る響を迎え撃つ為に、そして再び裏切った調を殺す為に、奏をすぐに殺そうと引き金を引く。

 

だが、アシモフの指は引き金を引く事はなかった。

 

「ッ!?貴様もか!」

 

かつて慎次によって体験した影縫い。それがアシモフはどう言う原理かは未だ分かっていないが、それが大きな隙となった。

 

その隙に響が接近し、アシモフに向けて拳を放つ。

 

電磁結界(カゲロウ)が発動しようとしたが、奏、翼、クリス同様にアシモフの腕にあるシアンの力、電子の謡精(サイバーディーヴァ)電磁結界(カゲロウ)を無効化し、アシモフの身体を捉えた。

 

そして奏を残し、アシモフは響の拳をまともに受けて、殴り飛ばされて甲板を転がった。

 

「もう誰も傷つけさせやしない!もう誰も悲しませたくなんか無い!今度こそ終わらせます!」

 

力なく倒れようとする奏を抱え、登場した響はそう叫んだ。

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