戦姫絶唱シンフォギアAB   作:株式会社の平社員

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間に合わなかった。誰一人として無事な人がいない。奏は少し離れた所で倒れている。クリスが炎の中で倒れている。翼がアシモフに捕まれ、腕、足から血を流している。響もだ。あれだけシンフォギアを纏ってはならないにも関わらず、シンフォギアを纏い戦っていた。

 

それに先程の切歌と調。首には巻かれていた爆弾。なんとか間に合いはしたが、それまでに戦っていたせいでボロボロになっている。そして呆然としているが、それでもまだ何かされたのか放心している。

 

更には未来。戦場とは無縁の筈の彼女が今ボクの目の前にいる。シンフォギアを纏い、血を流しながら。

 

全て自分の所為だ。絶望し、考える事を放棄してしまったボクのせいだ。ボクがもっと早く立ち直れれば…いや、ボクがあんな事で絶望しなければ誰もこんな事にはならなかった。

 

ボク自身の弱さに腹が立つ。だがそれ以上に、この様な現状にしたアシモフに激しい怒りが込み上げる。

 

「貴様と言う存在は本当に忌々しい。紛い者の分際で再び私の前に現れた貴様が。絶望させたのにも関わらず、幾度も私の前に現れる貴様と言う存在が」

 

アシモフがボクに向けて恨みを込めた言葉でそう言った。

 

「もう喋るな」

 

ボクはただ短くそう答える。

 

何が忌々しいだ。今のこの状況を誰がした?誰がみんなを傷付けた?

 

それはこちらの台詞だ。アシモフ。シアンを奪った。奏を、翼を、クリスを、響を傷付けた。そして切歌と調を殺そうとした。そして未来に何をした?まるでかつての奏のように血を流しながらも戦場に駆り出されている。未来に何をさせている。

 

「それはこちらの台詞だ。敗北者が私に命令するな。紛い者如きが私に命令をするな。苛立つんだよ。その声に。本物である奴と同様の声を持つ貴様が発する声で。貴様が本物同様に語る事で」

 

「貴方が紛い者と言おうが、どうでもいい。貴方がボクの存在を否定しようとどうでも良い。ボクも本物だ。ボクもガンヴォルトなんだ」

 

静かに怒るボクはアシモフに向けて言った。

 

「貴様が本物だと?巫山戯るな!貴様は紛い者だ!偽りの身体!偽りの記憶!貴様が本物である訳がないんだよ!本物は私を一度殺し、あの世界に留まる奴だけだ!だからこそ、貴様は紛い者だ!本物を語る偽物だ!忌々しい!奴を冒涜するな!貴様と言う存在は本当に私を苛立たせてくれる!私の育て上げた傑作を汚してくれる!」

 

アシモフもボクが紛い者と、偽物と叫び続ける。

 

「貴方が何を言おうとボクもガンヴォルトだ。ボクも本物だ。肉体が例え偽物だろうと、魂が…意思が…そして、ボクをガンヴォルトと認めてくれる人がいるのならばボクも本物だ。ガンヴォルトなんだ」

 

否定するアシモフの言葉を否定する様にボクはそう言った。

 

「その口を閉じろ!ああ、本当に忌々しい!何度殺そうと再び立ち上がり、私の前に現れる貴様が!自らを本物と語るその烏滸がましい言葉と意思が!本物を冒涜するな!本物を汚すな!貴様如きが奴を語るなよ!」

 

否定に更に怒りを昂らせるアシモフ。分かっている。アシモフとこんな会話をした所でこのやり取りはいつまでも平行線だろう。何を言おうとアシモフはボクを認めないだろう。ボク自身ももう二度と自身を紛い者だと卑下しない。自身を偽物だともう思わない。

 

「絶望し、死なないのであれば更なる絶望を与えて殺してやる!死を拒むのであれば、貴様と言う存在そのものを(デリート)してやる!貴様と言う存在を私は許さない!貴様と言う存在を認めない!貴様と言う本物を冒涜する存在を生かしてなど置けない!」

 

アシモフはボクに向けて言った。何度も言い放つボクの存在を否定する言葉。

 

「ボクも同じだよ、アシモフ。ボクも貴方と言う存在を認めない。貴方と言うこの世界の、そしてあの世界の害悪を許さない。この世界の為にも、あの世界の為にも。貴方と言う存在を生かしておけない。殺さなきゃならない」

 

「驕るなよ!紛い者!」

 

アシモフは叫んだ。

 

アシモフがボクを認めない様に、ボクもアシモフを認めない。

 

互いに互いを否定し続ける。もうこんな会話に意味を持たないだろう。認めないのならばやることは一つ。否定するのならば殺し合うしかない。

 

「それは貴方の方だ」

 

これ以上会話は必要ない。何度も言う様にこれ以上会話をしていても無意味だ。

 

「死ね!紛い者!」

 

アシモフの言葉を合図に、アシモフではなく、今までの会話により完全に力を蓄えた未来が避けようがない程のレーザーをボクに、いや、響、切歌、調に向けて放たれた。

 

◇◇◇◇◇◇

 

「なんでガンヴォルトが生きているんだ!?アッシュが殺したはずなのに!?」

 

輸送機の中でウェルがそう叫んだ。

 

だが、ウェルとは違い、マリアはガンヴォルトの登場に驚愕したものの、二人が無事である事。救い出してくれた事に感謝した。ナスターシャを失ってさらに二人を失ったらマリアはより絶望に堕とされただろう。だからガンヴォルトに届かないだろうが感謝した。二人を救ってくれた事に。

 

「本当に何なんだよあの男は!一体何なんだ!不死身なのか!?」

 

ウェルはそんな希望を見たマリアの事など気にせず叫ぶ。

 

マリアも希望を見て立ち上がろうとする。ウェルが踏み付ける足を退ける為に力を入れる。

 

それに気付いたウェルはマリアの行動に驚きつつもそれ以上の力で踏みつける。

 

「調子に乗らないでください!ああ!本当にアッシュの憎しみがよく分かるよ!何で僕の英雄への向く夢を邪魔をする!」

 

そんなマリアを抑えながら苛つくウェル。だが、ウェルはそんな状況でも戦況を見て笑う。

 

「だけど君は死ぬんだ!急造品の力で!今度こそ死んでくれ!ガンヴォルト!」

 

そう言ったウェルにマリアもモニターを見る。そこにはガンヴォルトに響、そして切歌と調に向けて極太のレーザーが放たれる瞬間だったからだ。

 

だが、マリアはそれを見ても絶望しない。何度も立ち上がり、アシモフの前に立ちはだかる光があるから。その光が助けてくれると信じているから。

 

だからマリアはガンヴォルトを信じて、自分自身もこの外道から、この状況から抜け出す為に力を振り絞った。

 

◇◇◇◇◇◇

 

響も、切歌も調も死を覚悟した。死にたくはないが身体が動かない。響は自身を蝕むガングニールによって。切歌と調は絶望によって。どうしようもない状況に目を瞑りたくなる。

 

だが、そんな動かない身体が、何者かによって持ち上げられるとそのレーザーの射線からほんの一瞬で外れた。

 

ガンヴォルトだ。たった一瞬で三人を抱えて射線から救い出してくれた。そして甲板に降りるとそのまま海上へ飛んだ。

 

何故?そちらに足場などない。なのになんで?

 

響はそう考えると何故ガンヴォルトはそちらに飛んだか理解した。海上が膨れ上がり、潜水艦が浮上した。そして潜水艦の上に降り立つ。

 

『本当にガンヴォルトなのか!?』

 

無線から弦十郎の声が響く。

 

「ごめん、心配かけた」

 

『言いたい事は山ほどあるが、全員を救ってくれ!頼む!』

 

弦十郎はガンヴォルトにそうお願いした。

 

「当たり前だよ。その為に来たんだ。その為に絶望を乗り越えたんだ」

 

そう言ったガンヴォルト。その姿は以前にも増して頼もしく感じる。

 

「響、言いたい事はいろいろあるけど侵食はどうなっている?」

 

そしてそう誓ったガンヴォルトは響の侵食の具合を聞いた。

 

「…正直に言いますと、身体のあちこちが痛みますし、さっき身体の一部が…」

 

先程のガングニールの侵食によって現れた黄色い結晶のことを話した。

 

「ッ…」

 

ガンヴォルトはそれを聞くと辛そうな表情をした。自分の所為と思っているのだろう。

 

違う。ガンヴォルトの所為ではない。これは自分の意思だ。戦場に出たのも。こんな状況になったのも。だけどガンヴォルトに言った。

 

こうなっても自分は自分のままでいる事。決してガングニールに飲まれない事を。

 

「…本当に大丈夫なのかい?」

 

「…説得力はないかもしれませんが大丈夫です…でも時間がないんです…未来を助けないと…翼さん達を助けないと!」

 

響はそう言った。自分が助かっても状況は変わらない。未来を取り戻していない。翼達はまだアシモフの手の届く場所にいる。

 

助け出さないと。

 

「分かっているよ…翼達も絶対助ける」

 

そう言って今度は切歌と調の方に向く。

 

「君達も無事か?」

 

絶望の淵にいる二人は何も答えない。代わりに響がどうして二人がこの様になったのか伝えた。大切な人を殺された。アシモフの手によって。救いたかったはずなのに助け出そうとしたのに既に殺されていた事を。

 

「…ナスターシャ博士の事か…」

 

ガンヴォルトがそう口にした。響も先程アシモフが言った人の名と一致する。何故ガンヴォルトがその名を知っているのか?

 

「二人とも、ナスターシャ博士は無事だ」

 

ガンヴォルトはそう言った。二人にとってその言葉は希望そのものであった。

 

「ッ!?…本当なんデスか?」

 

「本当に…本当にマムは生きてるの?」

 

ガンヴォルトの言葉に絶望の中に希望を見た二人。ガンヴォルト自身の耳につけた通信端末の音量を上げて二人に渡す。

 

そして通信機を弄ると響の知らない人の声が。だが、切歌と調にとって最も重要な人物の声が聞こえた。

 

『切歌!調!無事ですか!?』

 

「マム!?本当にマムなんデスか!?」

 

「マム!」

 

『ええ、私です…心配かけてすみません。…よかった…本当に貴方達も無事で…』

 

ナスターシャの声から二人の無事を本当に安堵している事がわかる。切歌も調も涙を流しながらナスターシャの無事を知った。

 

その事に響も安堵する。どうやら本当に二人の大切な人も無事である事に。

 

「ガンヴォルトさんありがとうございます…二人の大切な人を救ってくれて」

 

「ボクのお陰じゃない…ボクじゃなくてネフィリムの心臓に宿るセレナのお陰なんだ」

 

「ッ!?」

 

響には誰か分からないが、切歌と調にとっては違う。二人の大切なマリアの妹。死したはずの家族。

 

「セレナの意思がナスターシャ博士を救った。ボクも救われた。だから助け出さないといけない。アシモフの手からシアンと共に取り戻さないといけない」

 

『ガンヴォルトの言う通り、あの子をあの外道の手から助け出さないといけません…切歌、調…貴方達はもうあの外道の言う事など聞かなくていいのです…』

 

切歌と調はもう裏切った。大切な者を救う為に。自分の望んだ未来の為に。だから涙を拭いナスターシャに言った。

 

「大丈夫だよ、マム。もうアシモフの言う事なんて聞かない…もうあの外道に手を貸さない…」

 

「もう枷は無くなったデス…もうあの外道に縛られない…」

 

『…ありがとうございます…自分でその答えを出してくれて…』

 

ナスターシャが自分の意思で二人が裏切った事を感謝した。

 

『マリアはどちらに居ますか?』

 

「マリアは…まだ輸送機の中に…」

 

その言葉を聞いて、ナスターシャもまた辛そうに声を漏らす。だからナスターシャはガンヴォルトに懇願する。

 

『…貴方にしか頼めません…ガンヴォルト…マリアも…マリアも救ってください…』

 

「初めからそのつもりだよ…セレナに頼まれているんだ…君達を助ける事を。マリアもその中に含まれている。だから助け出す」

 

『ありがとうございます…本当に…ありがとうございます』

 

ナスターシャが涙を流してそう言った。

 

「その言葉は全て終わってからでいい。ボクは戻って翼達を救う。響、君はもう休んでくれ。あとはボクが何とかする。切歌、調、響をお願い」

 

「ガンヴォルトさん!でも!」

 

「でもじゃない…君はもうそれ以上は無理だ。これ以上は君が君じゃなくなってしまう」

 

ガンヴォルトも響の状態を察してそう言った。だが、それでも響は言う。

 

「私も戦います!未来を助けなきゃいけない!未来を救わなきゃならないんです!」

 

「駄目だ!ボクが何とかする!未来も、翼も奏もクリスもボクが救う!」

 

「ガンヴォルトさんなら…今のガンヴォルトさんなら三人を救う事は出来るかもしれません!でも…でも未来だけは!未来だけは難しいんです!」

 

「…どう言う事?」

 

「未来はアシモフの暗示の所為で操られています!」

 

暗示。ガンヴォルトもかつてフィーネによって操られた奏と対峙している。ならばなんとかなると言おうとする。

 

だが響はそれは違うと言う。必要な物があると。今の蒼き雷霆(アームドブルー)では無理だと。

 

「ガンヴォルトさん!未来を救うには想いだけじゃ足りないんです!シアンちゃんの声が!シアンちゃんの力が必要なんです!」

 

ガンヴォルトは違うと言いたけそうだったが、かつての響の状態を思い返して言い淀む。あの時はシアンの力がガンヴォルトにあった。

 

「…そうかもしれない…でも…響はこれ以上戦えば響じゃなくなってしまう可能性がある…ボクはそれを許容出来ない…響も大切だから失いたくない…」

 

しかし、ガンヴォルトはそれでも響に行かないで欲しいと言った。

 

「私が私じゃなくなるかもしれない…でもそれは可能性です!まだ私が私じゃなくならずに戦えます!だがら!」

 

響はそれでもガンヴォルトに言う。未来を取り戻したいから。元に戻って欲しいから。これ以上傷付いて欲しくないから。

 

「私達が何とかする…この人がこの人であれるように」

 

そんな中、調が言った。

 

「一人じゃ可能性が低くても、二人追加されればなんとかなるかも知れないデス。それにアシモフと戦いながら、みんなを救う事なんて一人で出来るとは思えないデス」

 

切歌も言った。

 

「切歌ちゃん!調ちゃん!」

 

急な援軍。ガンヴォルトはどうすればいいのか考えた。確かに切歌の言う通りだ。アシモフと戦いながら、三人を救う。未来を抑えながらそんな事厳しいだろう。ガンヴォルトは悩むが、時間がない為に言った。

 

「…分かった…だけど無茶はしないでくれ…響。絶対響のままで居てくれ。切歌、調。君達もだ。絶対に死なないでくれ」

 

そう言うとガンヴォルトは直ぐに甲板へと戻るのであった。

 

響と調は頷いたが、ガンヴォルトの言葉に切歌だけは悲しく、頷く事はしなかった。

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