融解した甲板を見つめるアシモフ。この程度の攻撃でガンヴォルトを殺したなどと思ってなどいない。例え強力な一撃だろうと殺せはしない。
幾度となる戦いでアシモフはそう考える。
まだガンヴォルトは生きている。他の者は殺せたかもしれないがガンヴォルトだけは生きている。あれはそう言う人間だ。どれだけ躱しようがなかろうがガンヴォルトは無事だろう。
鼓動を。生気を。見えなかろうが感じる。忌々しい存在の影を。
憎たらしい。忌々しい。絶望を与えたはずなのに立ち上がるその意思が。本物と自分を語るその言葉が。紛い者である存在が。そしてまだ生き続け存在し続ける事が。
だから殺す。本物と同じ形をした偽物を。殺す。本物と語るその口が開かなくなるまで。殺す。その存在が消え失せるまで。助けがいるのであればその助けを無駄にする様な力で。
殺す、殺す、殺す。
足りないのならば滾らせる。憎悪を。殺意を。今まで以上にだ。だから今度こそ確実に息の根を止めて見せる。今度こそ存在そのものを消してくれる。
死を否定されるのなら肯定されるまで殺す。ただ純粋な殺意で。
アシモフの雷撃が殺意と憎悪で今まで以上に迸る。その余波を喰らう翼も苦しむ。その近くにいる奏とクリスも。
それと同時に現れる蒼いオーラの様なものを纏うガンヴォルト。やはり死んでいなかった。この程度で殺せると思ってなど居ないからこそ、この場に再び現れると。だが、想定外の者達まで生きていた。響、切歌、調の三人。ガンヴォルトが生かした事に腹ただしく思う。
「やはり死んでなかったか…だが、死んでなかった事を後悔させてやろう!今度こそ確実に!息の根を止めてやろう!紛い者!そして貴様達もだ!まだ死んでいないのであれば同様に殺す!Dr.ナスターシャの様に!」
「そんな嘘にもう騙されない!マムは貴方に殺されてない!」
「もうこれ以上お前の言葉になんか惑わされない!」
調が、切歌が叫ぶ。紛い者のガンヴォルトだけでなくナスターシャも生かしていた。だが、生きていた事でどうなる?死の瞬間が僅かに伸びただけだ。だが、それでもセレナとシアンを忌々しく思う。
邪魔してくれる。本当に忌々しい。だが、今はナスターシャの存在などどうでもいい。今目下するべきなのは響や切歌や調の始末などでは無い。
目の前にいる紛い者であるガンヴォルトを殺す事だ。今度こそ消してやる。今度こそ確実に。
アシモフが殺意と憎悪を込めて睨んだ。眼光が凍りつく様な寒気となってガンヴォルト達を襲う。響、切歌、調は恐怖で体が竦みかける。だが、それを留まらせるのがガンヴォルトの存在だ。
どれだけの殺意と憎悪をぶつけようと怯みはしなかった。その姿にアシモフを更に苛つかせる。
怒りが増す。その存在に対する怒りが、アシモフの精神的なバイアスをかけ、アシモフの
「本当に苛つかせてくれる!紛い者!」
アシモフは叫んだ。
「これで最後にしよう!貴様と言う存在を!貴様と言う紛い者を!今度こそ
アシモフの叫びに呼応して雷撃を撒き散らす。辺りを雷撃が焼き焦がす。だが、蒼いオーラを纏うガンヴォルトはその雷撃が直撃する瞬間、自身の雷撃でそれを相殺した。
「もうその言葉は聞き飽きた…こっちの台詞だ、アシモフ。もう何も奪わせない、貴方に殺されかけない…全部を貴方から返してもらう」
「黙れ、紛い者!貴様に何が出来る!敗北し続けた貴様が何を根拠に語る!本当に忌々しい!今度こそ確実に絶望を与え、殺してやる!貴様と言う紛い者を!」
勝てると思っているのか?何を根拠にそう語る。敗北し続けた者が何を語る。ならば今一度知らしめよう。ガンヴォルトを語る紛い者が勝つ事など出来ない事を。紛い者が何を語ろう今までの様に変わらない敗北という現実があると言う事を。紛い者は何も出来ない事を。
翼を輸送機に送り込む為に穴を開き、投げ入れてアシモフはそう叫んだ。
◇◇◇◇◇◇
「翼さん!」
響が投げられ穴へと向かい、何処かへ消えそうになる翼を見て叫んだ。翼が奪われる。そんな事はあってはならない。
響が駆け出したが間に合わない。
だが響の目の前で、翼の姿が消えた。穴に入ったのではない。忽然と姿を消したのだ。
何が起きたのか分からない。目の前の翼はどうして消えたのか?
そんな疑問を解消する様に目の前で蒼い雷撃がぶつかり合うのが目に入った。僅かながらに捉えたガンヴォルトの姿。そして守るように抱えられた翼の姿。だが、すぐに雷撃の軌跡を残し、姿が見えなくなる。
何が起こっているのか分からなかった。僅かにしか目で追えなかった。だが、ガンヴォルトの姿、そして翼の姿を見て理解する。ガンヴォルトしか見えなかったが、ガンヴォルトが翼を救出し、アシモフと戦っている。その証拠にいつの間にかガンヴォルトと同様に消えたアシモフ。
もう既に戦いは始まっている。
辺り一体を眩い雷撃がぶつかり続けている。ガンヴォルトとアシモフは戦っている。どんな戦いかわからない。だが、ガンヴォルトなら。今のガンヴォルトならどうにかして翼を救ってくれる。アシモフを倒してくれる。だったらやる事はもう決まっている。
「切歌ちゃん!調ちゃん!」
自分自身にも時間がどれほど残されているか分からない。
残された時間が短かろうと生き残る。自分が自分であれるように。未来を元に戻し、取り戻す。
「分かってるデス。あの人を元に戻すデス」
「うん。助けるんだ。あの人も」
響の言葉に切歌と調が響の横に並び立つ。そして切歌も調もアームドギアを構え、血を流しながらも未だ敵として居続ける未来と対峙する。
◇◇◇◇◇◇
高速でぶつかり合う雷撃。
ボクとアシモフの雷撃があちらこちらで火花を散らすように雷撃を散らしていた。
「貴様がその姿には驚かされた!だが、絶望を乗り越え、その精神が貴様の
翼を何とか救出してそのまま高速での戦闘に入った。
「ッ!…ガンヴォルト…」
高速の戦闘。そして抱える翼がボクの名を呼ぶ。だが、翼は顔を歪ませ続ける。アシモフにより穿たれた手足。そこからは未だに血が流れ続けている。
「喋らなくていい、翼。きついかもしれないけど、絶対に君を奪わせない。君をアシモフの手にもう落とさない」
辛そうにする翼に向けてそう言った。
そしてボクは翼に微弱な雷撃を流す。他者の生体電流を操る事はボクには出来ない。やろうとも思えば可能かもしれないが、他者の生体電流を感じる事は難しい。だが、今の翼にシアンの力を感じる。あの時同様に、シアンがアシモフに捕らわれながらも翼達に力を貸してくれているのだ。だからシアンの力を助ける様に雷撃を流す。翼の傷を治してくれと。
だが、アシモフはボクが何をしようとしているのか分からないだろう。だが、それでも何かするつもりであるのならば徹底的に潰す。それがアシモフだ。何かしようのならその前に叩き潰すその為に攻める手を止めない。むしろ先程よりも確実に速度が、殺意が高まっている。だが、それでも翼にこれ以上の攻撃を、ダメージを与えない。ボク自身も喰らわない。アシモフが繰り出す拳、蹴り、放たれる弾丸を躱す。躱しながらも
だが、アシモフが先程言った様に、アシモフは
避ける必要がないからこそ、執拗に攻め続ける。
「何をしようと無駄だ!やらせはせん!どんな事をしようと考えようが潰す!貴様には選択肢すら与えん!」
そう言ってアシモフは
距離は翼を助け出してから変わらない。互いに手を伸ばせば掴める距離。
攻めるアシモフと翼を守りながら戦うボク。他者から見れば圧倒的に有利なのはアシモフに見えるだろう。
だがそれでもアシモフの拳を、蹴りを、弾丸を躱し続ける。
アシモフも躱し続けるボクにヘイトを溜めている。だが、それでもアシモフはその程度で冷静さなどを失わない。あれ程憎悪や怒りを燃やしながらも、繋ぐ攻めの連鎖には一挙一動乱れなどありはしない。
だが、それでもボクはアシモフの絶やさない攻めの手をただひたすらに翼を庇いながらも躱し続ける。
だが、アシモフは躱し続けられることに流石に怒りがピークに達し、至近距離で強力な雷撃鱗を展開した。
圧倒的な破壊を齎す強力な雷撃鱗。それに対抗する様にボクも雷撃鱗を展開する。
だが、アシモフの圧倒的な雷撃鱗にボクの雷撃鱗は押され、そのまま弾き飛ばされる。
「ッ!?ガンヴォルト!私を庇わないで!」
抱えられる翼はボクの心配をして叫んだ。自身が枷になっていることに気付いている。だからそう叫んだのだ。
だけど心配しないで。雷撃鱗で弾かれただけだから。ダメージはない。翼は身体が十分になるまで耐えてくれ。
ボクは翼に言葉をかけないが、目でそう訴えた。
翼はその訴えを理解したがそれでも不安を拭い切れない。押され続けているから当たり前だ。
だけど、それでもボクはただ翼にそう訴え続ける。
翼は不安そうにするが、ボクの目を信頼してただ自身の傷を治癒されていくのに専念する。
弾き飛ばされ、地面に着地すると同時にアシモフもボクへと距離を詰めて拳を振り下ろしていた。
翼をも巻き込もうとする拳。ボクはそれをダートリーダーを持つ腕でいなしたが、そこからはアシモフの攻撃は確実にボクの身体を少しずつ、着実に捕らえだした。
いなされた反動を利用し、そのままの勢いで後ろ蹴りを繰り出す。その蹴りを躱すが、アシモフはそれを見越してボクに向けた銃を放つ。
雷撃を纏う弾丸がボクのコートを掠める。そして更にネフィリムの心臓を起動させ、石化する光線をボクに浴びせようとする。
だが、放射状に広がる光を逆にアシモフの近くに行くことで躱す。そしてアシモフも近づいたボクに対して
それを紙一重で躱す。僅かに当たった髪が切断された様に宙を舞い、
そして体制が崩れた瞬間にアシモフは炎球を体制を崩したボクの前に出現させた。今までの炎球と同じだが、アシモフの憎悪と殺意に応える様に出現した炎球。
大きさは今までと変わらない。だが熱量が今までと段違いに違う。過去に立ちはだかった本来の能力者と遜色の無い力。
その炎球を撃ち抜く様にボクと向けて拳を放った。
翼を守る為にボクは崩れた体制で身を捩り、翼から爆炎も拳を当たらぬ様、背を向けた。放たれた拳は炎球を突き抜けてボクの身体を捕えた。それと同時に大きな爆発が起こり、ボクはあまりの威力にそのまま身体を吹き飛ばされた。
「ガンヴォルト!」
翼が叫んだ。だが、それでもボクは翼を離さない。身体が軋む。意識が飛びそうになる。だが、それでも翼に少しもダメージを与えぬ様に吹き飛ばされた。
アシモフはボクを確実に殺す為に手を休めない。至近距離の爆発を
体制を入れ替え、ボクが甲板へと叩きつけられた。ボロボロになりながらも身体を起こし、その場から何とか翼と共に離れる。そして叩きつけられた場所に何発も甲板を破る弾丸が撃ち込まれた。
「もういい!ガンヴォルト!貴方が私を庇っているのは分かっている!だけどもう心配ない!もう大丈夫だから!これ以上貴方が傷付き続けるのを見ていられない!」
翼が叫んだ。翼はボクから離れ、もう立ち上がれる事を証明する。そしてボクを守る様にアシモフと対峙する。
立てる事を証明しても依然として身体は震えている。完全に回復した訳じゃない。翼に心配かけたのは申し訳ないが、翼が回復された事を見て安堵する。
「無様だな!紛い者!あれだけ啖呵を切っておいてやはりこの程度!本当に呆れる!」
そして降り立つアシモフがボクに向けてそう言い放つ。そんな翼もアシモフに襲い掛かろうと剣を構えた。
「リヴァイヴヴォルト!」
直ぐ様ボクは
「大丈夫だ、翼。君がそこまで回復してくれれば良い」
そして翼の前に立つ。
「でも!アシモフは今の貴方でもどうにもならない!」
違うよ。翼。さっきまでは確かにそうかも知れない。でも今は違う。翼が動ける様になったからこそ、もう心配しなくていい。
「今のままじゃだ。だけどもう違う」
そう言うとボクは自身の身体から更に大きな蒼きオーラを解放させる。能力因子が生み出す強力な雷撃。その力を余す事なく放出した結果、オーラとなって身体から溢れ出す。
一度は自分を偽物と信じきり、絶望した。だが、あの世界のシアン残したメッセージでボク自身も本物であると断言した。そしてボクが本物偽物関係なく、ガンヴォルトであると信じてくれるみんながいるからこそ、絶望を乗り越えることが出来た。
そしてボク自身が本物であると証明をする為に、アシモフを今度こそ殺し、みんなを救おうとする想いに能力因子が応え、今までよりも強力な雷撃を生み出した。
それがこの力だ。これがボクの
「翼…奏とクリスを頼む。もう心配ない。慢心なんかじゃない。心配をかけたくないからじゃない。もうアシモフに負けないから言うんだ。あの頃とは違う」
「でも…」
翼はそれでも引き下がろうとしなかった。だが、今の姿。力を見て今までと違うかも知れない。そう感じたのか言った。
「…分かった…だけど、これだけは聞かせて…必ずアシモフを殺せるか…」
「ああ、今度こそアシモフを殺すよ…必ず、そしてボクは君達のいる場所に戻ってくる」
それを聞いた翼は剣を下し、奏とクリスの元へ向かった。
そして対峙するボクとアシモフ。
アシモフは相変わらず強い憎悪と殺意、そして怒りをボクに向けていた。先程の言葉の所為だろうと思っていたが違った。
「巫山戯るな…紛い者如きが…何だそのパターンは…本物では無いくせに…紛い者の癖に…奴が
「貴方が認めなくても、これが事実だ。ボクも本物であると言う証だ」
「貴様は紛い者だ!やはり貴様はどこまでも私の傑作を汚してくれる!殺す!奴の名誉の為に!奴と言う存在を汚す貴様を!」
「何度でも言う。ボクも本物だ。本物と貴方が否定するのなら、貴方を殺し、それを証明して見せる」
「ほざくな!」
そして再び強力な雷撃がぶつかり合った。