戦姫絶唱シンフォギアAB   作:株式会社の平社員

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翼はガンヴォルトを信じ、奏とクリスを回収に走る。

 

背後ではガンヴォルトとアシモフが、そして目と鼻の先には響と切歌、調、そして未来が。

 

大切な者を取り戻す為に。

 

翼も初めはガンヴォルトを手助けするつもりであった。しかし、アシモフとガンヴォルトの戦闘は今までとの戦闘と一線を画していた。

 

今の翼がいれば足手纏いになると目に見える程の圧倒的な力。

 

憎悪と殺意、そして憤怒を力に変えたアシモフの雷撃。絶望を乗り越え、同等の力に達したガンヴォルト。

 

今の二人の戦いに入る隙などありはしなかった。

 

響達の戦いも同様だ。シアンの力をガンヴォルトが手助けくれたおかげで何とか動けるまでに回復はしたが、今のままではあの戦いでも足手纏いになる。

 

その状況が翼に僅かながらの胸に痛みを引き起こす。だが気にしていられない。今の自分に出来る事を全うする。

 

とにかく奏とクリスをこの場から退避させる事。回復はしているが未だ動くのがやっとの身体を動かして奏の元へ、クリスの元へ向かう。

 

「奏!大丈夫!?」

 

初めに奏の無事を確認する。

 

「ッゲホ…何とか…」

 

奏は倒れながらも翼の言葉に反応してそう言った。ギアはボロボロだが外傷は軽度と見える。

 

シアンの支援によってガンヴォルトが稼いだ時間である程度回復させたのだろう。だが、翼と違い、ガンヴォルトにシアンの力を更に引き出されていない事で立つ事は出来ないようだ。

 

奏に肩を貸して立ち上がる。

 

「すまねぇ、翼…でも…来てくれたんだな…ガンヴォルト…立ち直ってくれたんだな…」

 

「ああ、前よりも強くなって…」

 

「全く…立ち直るのが遅いんだよ…」

 

奏はガンヴォルトの到来に少し嬉しく、だが少し不満を漏らす。

 

「確かにそうね」

 

翼も奏の言葉に賛同する。しかし、奏は翼同様に胸を痛めた。同じ理由。同じ思いだったからこそ胸を痛めた。

 

だが、今はそんな事を思っている場合ではない。すぐさまクリスの元へ向かう。

 

爆炎(エクスプロージョン)の影響で依然として燃え盛る炎の中にクリスがいる。だが、その燃え盛る炎からクリスを守る様に六角形が連なったドーム状の結界が展開されていた。

 

シアンの力である電子の謡精(サイバーディーヴァ)電子の障壁(サイバーフィールド)。どうやらクリスの命の危機を察知して自動的に展開したのだろう。

 

だが、シアンの支援による物。本来、能力者では無いクリスが扱える訳では無い為、所々ヒビが入り、今にも崩れそうになっている。

 

翼は炎の中に入り、電子の障壁(サイバーフィールド)を通り抜け、クリスを炎の中から助け出した。

 

電子の障壁(サイバーフィールド)が展開されていた事により、奏や翼とは違い、傷があまり癒えていない。

 

「ッ…どうなった…アシモフは…あいつは…未来は…」

 

翼によって救われたクリスが目を覚まして現状を聞いた。

 

「…今はまだ現状は変わってない…アシモフも健在…小日向も…」

 

「ッ!だったら倒れてる場合じゃねえ…早く…早く…」

 

翼を振り解き、再び戦闘に参戦しようとするが、傷が癒えていない状態、一人で立つこともままならず、膝をついてしまう。

 

「…クソッ!立たなきゃなんねぇのに!」

 

「雪音、無理をするな」

 

翼が再び肩を貸してクリスを立たせた。

 

「だけど!この間にも…」

 

そしてクリスは翼と奏を見て言葉を止めた。クリスは今の状況を見て誰がアシモフを止めているのか理解出来なかったからだ。気を失ってから何があった?どうして二人が?響が止めているのか?だったら早く行かなければならない。切歌と調だとしても電磁結界(カゲロウ)を越える事の出来ない二人には荷が重すぎる。

 

しかし、そうであるなら何故二人が何とか立てる状態でも行かないのか?何でこうする時間があるのか意味が分からなかった。

 

「クリス…ガンヴォルトが来た…来てくれたんだ」

 

その言葉にクリスはガンヴォルトの姿を探す。しかし、現在ガンヴォルトは目で追う事が難しいアシモフとの高速戦闘中。その姿を見る事は出来ない。

 

だが、それでもぶつかり合う雷撃を見てガンヴォルトの存在を認知した。クリスも嬉しいのだろうかホッとするが、何処か辛そうにしていた。

 

三人が胸を痛めた理由、それはガンヴォルトに対して誓ったはずの約束を果たせなかった事。アシモフを殺すと誓った筈なのに。シアンが力を貸してくれ、アシモフの無敵の防御、電磁結界(カゲロウ)を越える力を持ってして尚、アシモフに対して傷一つつける事が出来なかった。

 

そして結局、アシモフをガンヴォルトに任せる事しか出来なくなった現状が三人の心に傷を負わせる。

 

「私達は何も出来なかった…私達はアシモフをどうする事も出来なかった…あいつの居場所を守るって誓ったのに…結局何も出来ず…あいつに任せる事になるなんて」

 

覚悟した事は無駄であった。シアンの力を借りても手も足も出ず、何も出来なかった。自分達の覚悟に何の意味があったのか?自分達がアシモフと戦った意味があったのか?

 

「全部無意味だったのか…私達の覚悟も…誓いも…」

 

クリスはそう言った。今の状況ではそう思えてしまう。

 

「無意味だったと思いたくない…でも…」

 

奏もそう呟く。自分達の姿を見てそう捉える事しか出来なくなる。

 

「私達は…何も出来なかった…アシモフを殺す事も…ガンヴォルトの居場所を私達の手で守る事も…」

 

翼もそう漏らした。

 

悔しくてしょうがない。辛くて胸が痛い。

 

『いいや違う。君達の覚悟は…誓いは決して無駄じゃない…無意味なんかじゃない』

 

「司令…」

 

『君達がアシモフを殺す事を覚悟して戦ったからこそ、ガンヴォルトが立ち直る時間を…ガンヴォルトが到着するまでの時間が出来た。君達がガンヴォルトの居場所を誓い、アシモフという強大な存在に立ち向かったからこそガンヴォルトは立ち直ったんだ』

 

弦十郎はそう言った。ガンヴォルトがそう言ったわけじゃない。だが、ガンヴォルトならばそう言うと知っているからこそ弦十郎はそう答えた。

 

「そうかもしれねぇ…だけど…私達がやらなきゃならなかった…あいつの為に…」

 

「そうです…雪音の言う通り、誓ったからこそ…覚悟したからこそ、ガンヴォルトの為に私達がやらなきゃいけなかった」

 

「二人の言う通りだ…それなのに…立ち直ってくれた事は嬉しいよ…でも…私達は私たちの力の無さを許せない…」

 

三人は辛そうに言った。

 

辛いのは弦十郎も理解出来る。ノイズへの対抗手段がシンフォギア、そして第七波動(セブンス)蒼き雷霆(アームドブルー)

 

そのどちらも持たぬゆえに、弦十郎も戦う力を持つ者のノイズを倒せない為にガンヴォルトを除いた、まだ子供の装者達を戦わせなければならないと言う選択を取る事をしている。

 

自分に力があればと、シンフォギアでなくとも、ノイズを倒せる力さえあればそんな選択をしなくてもいい。

 

だからこそ、今の三人の気持ちを理解出来る。

 

『そうかも知れない…だが、終わっていない。まだ戦いは終わっていない。救うべき者もまだ救えていない。倒さなければならない男も未だ健在している』

 

弦十郎はそんな三人に向けて言った。

 

『何も出来なかったなんて勝手に決めつけるな。まだ何が起こるか分からないんだ。響君の事もある。今の未来君がどうなるかも分からない。個人としてはこれ以上殺す覚悟を持ってアシモフに挑んで欲しくない。ガンヴォルトが来た以上、それはもうしなくてもいい。だが、ガンヴォルトが来たからと言って流れが変わったとしても、状況を簡単にひっくり返る事はない。アシモフという男がどんな汚い手で今のガンヴォルトを追い込んでくるか分からない。常に最悪な状況を考えなければならない。まだ覚悟が無駄になった訳じゃない。誓いを守れなかった訳じゃない。それなのに悲観するのが君達がやる事が?』

 

ガンヴォルトが来て流れが変わっただろう。だがアシモフという男がどんな手を残しているか分からない。今のガンヴォルトならば勝てると思うが勝利が確定している訳じゃない。ガンヴォルト自身も自分の居場所を守ろうとするが、それを悉く邪魔をして、追い込んできたのがアシモフだ。

 

何が起こるか分からない。ガンヴォルトが来た以上、これ以上殺しに固執して欲しくない。だが、それでも最悪な状況はいつ訪れるか分からない。だからこそ、まだ誓いは遂行しなければならない。弦十郎はそう言った。

 

厳しい言葉。だが、悲観している場合ではない。まだ戦いは終わった訳じゃない。何も出来なかったなんて終わってないのに言う場合じゃない。

 

しかし、その厳しい言葉に装者達のダメージは少しだが緩和される。

 

まだ完全に自分達が何も出来なかった訳じゃない。まだ誓いも覚悟も無駄じゃないと思えたから。

 

ガンヴォルトの今の力はアシモフを倒す可能性がある程の力を感じさせる。だが、それでも可能性。今のガンヴォルトならばアシモフを倒せるかも知れない。ガンヴォルト自身も今度こそ倒すと翼の前に誓っている。

 

だがしかし。アシモフにはガンヴォルトにとって脅威となる強欲なる簒奪者(グリードスナッチャー)、そして第七波動(セブンス)を操るネフィリムの心臓がある。第七波動(セブンス)に対してその戦いを熟知していようが、何かまだ隠している可能性がある。

 

だからこんな所で燻っている暇などない。万が一。億が一。ガンヴォルトには敗れて欲しくないと思うが何が起こるか分からない。

 

「…そうだな、旦那。ガンヴォルトには負けて欲しくはない。だけど可能性がある以上少しでもこの戦いを勝てる様に念を入れなきゃならないな」

 

「そうだな。今のあいつなら大丈夫。だが確実じゃない以上、私達も私達でそのカバーをしなきゃならない」

 

「すみません、司令。少し頭が冷えました」

 

弦十郎の言葉が装者達を立ち上がらせる。

 

まだ終わっていない。勝たなきゃならない戦いのどんな小さな敗北という可能性を絶やさねばならない。

 

だからこそ、装者達は折れかけた心を奮い立たせた。

 

『それでいい。とにかく今は任せるんだ。アシモフはガンヴォルトに。未来君を響君達に。だが、回復次第、まずは響君を助ける様に動いてくれ。響君に残された時間はもう少ししかない。全員で無事にこの戦いを終わらせるんだ』

 

弦十郎の言葉に三人は了解と発するととにかく危険この場から去り、浮上した本部である潜水艦へと向かった。

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