戦姫絶唱シンフォギアAB   作:株式会社の平社員

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甲板の上を駆ける響は未来へと接近する。その後を追う様に切歌と調が続く。

 

未来は血を流しながらも未だ三人を拒む様に接近を許せない。背後を浮遊する鏡のビットが装者達を纏うシンフォギアを分解する力を持ったレーザーが三人に向けて幾重にも放たれる。

 

危険だと承知している。だが、それでも三人の中には後退と言う選択肢などは無かった。

 

響には時間がない。それを理解しているからこそ、ただ前へ進み続ける。切歌と調も響の時間がない事を理解しているからこそ、進み続ける。

 

響だけじゃない。未来も時間がない可能性が高い。シンフォギアのインナーを血で濡らし、見えぬ目から血を流している事がそれを理解させる。

 

アシモフにより施された暗示、そしてウェルに施されたLiNKER。LiNKERにより無理矢理適合者へと引き上げられた結果、LiNKERの副作用により死へと近付いている。LiNKERの副作用の事は知らない三人。

 

だがそんなこと知らぬとも、危険だと分かる為に急いで救う為に接近し続ける。だが、接近しようとしても未来は穴を介して遠くへと距離を縮まらせない様に動き回っている。

 

「…ッ!」

 

ボロボロになり、身体がガングニールにどんどんと侵蝕されゆく痛みに表情を歪める。だが、何度も言うがこの程度の痛みなどで足を止めない。

 

みんなに誓ったんだ。未来を救うと。自分が自分であると。ガンヴォルトにも誓った。だから止まってはならない。自分を見失ってはならない。

 

助ける為に常に攻めの姿勢を崩さらない。だが、一向に未来との距離が縮まらない。

 

厄介な第七波動(セブンス)亜空孔(ワームホール)。アシモフがガンヴォルトが到着する前に大量に仕掛けた未来をサポートする幾つもの穴。

 

その仕掛けが距離を常に一定に取らされ続けられ、時間を潰してくる。

 

「相変わらずあの穴が厄介デス!」

 

「時間がないのにこのままじゃ!」

 

「だったら私達も使うしかないよ!どこに繋がっているか分からないとしても!それが未来を助ける糸口となるのなら!」

 

だからこそ、逆に利用する。どこに出るか分からない。だが、未来が距離を取り続ける以上、変な場所に繋がっている事はない。

 

だからこそ、響は何の躊躇いもなく亜空孔(ワームホール)へと入り込んだ。切歌も調も、響同様にそれぞれ別の穴へと飛び込んだ。

 

しかし、それは悪手であった。距離を詰める為に賭けた可能性は悉く潰えた。

 

三人が入った穴はまるで未来から遠ざける様に距離を離された所に出現した。

 

「ッ!?だったらこっち!」

 

響は離された事に悔しそうにしながらも再び別の穴に再度突入する。

 

しかし、入った穴は同様に離れた場所。切歌と調も同様だ。しかも今度は出た穴が三人がぶつかる様に開いていた為に三人は激突した。

 

「ッ!?想定外…アシモフの奴…既にこうなる事を想定していたの…」

 

「あの外道ならやりかねないデス…」

 

「どうすれば…速くしないと…速く未来に近付かないと」

 

ぶつかった三人はすぐに体勢を立て直し未来に向き直る。しかし三人に向けて依然としてレーザーが放たれる。

 

三人は躱して再度接近を試みる。アシモフの持つネフィリムの心臓が作り上げた亜空孔(ワームホール)は使えない。逆に利用されると考えて何か仕掛けていた為に、利用するとこちらが不利となる。

 

振り出しに戻された。更に出来た距離を詰める事はかなり難しくなる。

 

どうすればいいのか?どうすればこの状況をひっくり返せる。三人は考えるが何も答えを見出せない。考え様にも時が経つにつれ焦りが最適な思考をさせてはくれない。

 

時間がないのにどうすればいい?このままでは何も出来ずに未来を失う。自分が自分でなる可能性が高くなる。そんな事あってはならない。

 

絶対にそんな事を起こしてはならない。

 

しかし、そんな最低な事態を起こそうと未来は三人にレーザーを放ち続ける。血を流しながら。自分の命を削りながら。

 

「もうやめて!未来!」

 

「それ以上はもう駄目!それ以上はもう身体が!」

 

「止めるデス!これ以上自分を傷付けないで!」

 

更に血を流す未来の姿に三人は叫ぶも未来は止まらない。そんな未来を止める為に三人も接近を繰り返すが依然として距離が縮まらない。

 

このままでは未来が危険。そして響も。響の焦りに呼応する様にガングニールが響の身体を突き破り、結晶が出現する。

 

「ッ!?」

 

「ッ!もう時間が!」

 

「これ以上は危険デス!」

 

響は足は止めないものの、機動力が落ちる。表情は焦りと苦悶がより一層強くなる。切歌も調もそんな響の姿に焦りが増す。

 

焦ってはならない事は分かっていても状況が冷静さを保たせない。どうすればいいのかは分かっているからこそ、焦りを浮かべて未来に向けて鎌からエネルギーの刃を、丸鋸を放つ。

 

だが、攻撃は未来に届く事はない。

 

近くにある穴を通して、躱し、距離を取る。見えるのに届かない。追いかけても常にその距離は縮まる事などはない。

 

果てしなく遠く感じる。この状況が続けばどちらも破滅する。響はガングニールによって。未来はLiNKERの副作用によって。

 

そんな事させてはならないと分かっていても解決策など見当たらない。

 

今の自分達に何が出来る?どうすれば状況を少しでも良く出来る?

 

だが考えても思い浮かばない。だからこそ、切歌と調は動き続けた。思い浮かばないのなら行動して見出すしかない。

 

響にレーザーを向かわせまいと未来へと何度も接近と攻撃の誘導を繰り返そうとする。

 

しかし、未来にそんな誘導が効くわけもなかった。アシモフの戦闘データを加えられた未来はそんな切歌と調に見向きもせず、響へと向けて攻撃を開始する。

 

ガンヴォルトと言う存在がいる事であまり見られなかった行動。しかし、本来であれば綻びを見つければそこから攻める。ドミノ倒しと同じだ。一部が少しでも傾けばそこから瓦解する。戦闘でも同じ。少しでも自身に有利になるならばそこから崩す。

 

正々堂々では無いだろう。むしろ正々堂々を持ち込む方が可笑しいのだ。

 

「ッ!」

 

未来が響を倒す行動をした為に、機動力が落ちてしまった響を助けようとする。

 

距離が離れているお陰でレーザーが響へと到達する前に、助ける事は出来た。

 

しかし、二人が響を肩を貸して戦う事は不可能。更に機動力が落ち、切歌と調は逃げる事しか出来ない。

 

「しっかりするデス!」

 

「しっかりして!」

 

切歌と調はレーザーを躱しながら響に声を掛ける。

 

響の身体は少しずつ結晶の様なものが体表へと突き出てくる。

 

「ッ…ごめん…切歌ちゃん…調ちゃん…」

 

「謝る暇なんてないデス!助けるんでしょ!?だったら飲まれちゃいけない!」

 

「時間がないから謝らないで!」

 

二人は肩を貸す響にそう言った。

 

「うん…」

 

響も痛みと侵蝕による肉体の感覚がどんどんと可笑しくなるのを堪えて二人から離れ、自分の足で立つ。

 

何度も行われる仕切り直し。再び距離は変わらず、果てしない。だがそれでも接近するしかない。

 

響は切歌と調にレーザーの攻撃をサポートされながらも躱し、未来へと駆け出した。

 

だが、今度の接近は流れが変わった。

 

距離を詰め続ける三人との距離を取ろうと穴に未来が入ろうとした瞬間、穴が突如として消滅した。

 

何が起きたのか未来は理解していなかったが、暗示により焦りも驚きも感じられない。

 

「ッ!?何が起きたの!?」

 

「急に穴が消えたデス!?」

 

切歌と調も突然の事に驚く。分からないがチャンスだ。その為に足を止めない。しかし、響だけは驚きもなく、ただ切歌と調にサポートされながら距離を詰める為に走り続ける。

 

何故穴が突如として消えたのか?そんな事響は考えなくても分かっている。

 

ガンヴォルトだ。ガンヴォルトアシモフとの対峙でこの状況をひっくり返してくれたのだ。

 

ガンヴォルトが作り出したチャンス。意図した事でないかもしれない。だが、それでも訪れたチャンス。このチャンスが最後かも知れない。

 

身体からどんどんとガングニールが侵蝕したことによる結晶が突き出てくる。

 

このチャンスを無駄になんてしない。依然として穴が消えようと接近してくる響をレーザーで近付けさせない様に放ち続ける。

 

痛みで躱す事は難しい。だがそれを庇う様に切歌と調が防いでくれる。しかし、それでも完全に防ぎ切れるはずもなく、響にもレーザーが当たる。

 

シンフォギアが消えていく感覚、その後に今度は焼ける様な痛みが襲い掛かる。

 

「グッ!」

 

だが何度でも言う様にこの程度の痛みなどで響は足を止めない。

 

きつい。痛い。苦しい。だがそれ以上の事を未来が味わっている以上、足を止める訳には行かない。

 

切歌と調もボロボロだが、響を少しでも未来へと接近させる為にレーザーを何とかしてくれる。

 

だが、二人のアームドギアは限界を迎え、一時的に破損してしまう。

 

そして響へとレーザーが直撃する。身体を纏うシンフォギアが分解されていくのを感じる。

 

それでも響は足を止めない。そんな響を身体を張って守ろうとする切歌と調。

 

駄目だ。このままでは二人とも。

 

二人も一緒に助けるんだ。未来と一緒に。マリアさんも一緒に。

 

助けるんだ!絶対に!この場所で誰も失いたくない!終わらせない!

 

その気持ちに呼応する様に、シアンが与えた電子の謡精(サイバーディーヴァ)が力を貸してくれる。

 

響の周りに電子の障壁《サイバーフィールド》を展開させて身体を守り、それが広がり、切歌と調を守る。そしてボロボロのアームドギアを復元させ、傷を徐々に回復させ、痛みを消す。

 

ぶつかり合うレーザーをシアンの力が三人を守る。

 

(シアンちゃん…)

 

大切な親友を助ける為に恩人が力を貸してくれる。だから響は歩みを止めない。

 

そしてボロボロになりながらもレーザーを受け切りようやく辿り着いた大切な親友の、未来の目の前。一度切りのチャンスかも知れない。

 

だからこそ、響は拳に己の想いを込める。そしてその想いに呼応する様に、シアンの力、電子の謡精(サイバーディーヴァ)が拳に込められる。

 

「絶対…絶対…助けるから…」

 

だが、未来も扇子の様な物を振り上げて響に振り下ろしていた。

 

避けられない。だが、自分は一人じゃない。振り下ろされた扇な様なものを切歌が受け止める。だが、今度はレーザーを放とうと後方に浮かぶ鏡が響達に向けて放たれようとする。しかし、それを調がそれよりも早く破壊する。

 

そして己の想いとシアンの力を握りしめた。

 

「ごめん未来…でも、こうでもして止めないと未来がもっと傷付くから…」

 

響は謝った。今から未来に手を上げるから。だが、これ以外方法が分からない。声が届かない。想いが届かない。

 

届かないのなら無理矢理にでも届かせる。聞こえないのなら胸に言葉を想いを届ける。己の想いを拳に乗せて。

 

「痛いけど…絶対に目を覚まさせる!お願い!目を覚まして!未来!」

 

そして未来へと響は拳を振るった。

 

届けと願い。帰ってきてと願い。響の拳が未来の胸元へ拳を叩き込んだ。

 

◇◇◇◇◇◇

 

暗い空間に未来は檻の中、そして鎖によって雁字搦めで囚われていた。

 

何故こんな事になっているのかは未来は朧げながら覚えている。

 

アシモフによる雷撃。そこから未来はアシモフに何かを施され、この様な状態になっている。

 

意識はあるものの何も出来ない。何も見えない。今はどうなっているかを知る事も出来ない。

 

(何が起こっているの…動けない…意識があるのに身体がどうなっているのか…自分が何をしているのか分からない…)

 

囚われた未来はずっとどうなったかを考えていた。

 

(どうなったの…マリアさんや切歌ちゃん、調ちゃんは…)

 

心配するのは自分を助けてくれた三人の事。アシモフにより大切な人を人質に取られ、やむなくアシモフと言う外道に協力する人達の安否を。

 

(響は…響はどうなったの?)

 

無事を願うのは自分を救う為にもう纏えないと言われながらもシンフォギアを纏った親友の事。あの後どうなったのか?響は無事であるのか?

 

そして、

 

(ガンヴォルトさん…)

 

アシモフによって殺されたと知らされた響と同じくらい大切な恩人。嘘だと思いたい。ガンヴォルトは死んでなんかいない。そう思いたいがアシモフと言う存在がそれを否定する。

 

死んでないと信じたい。アシモフとの戦闘で何とか生き延びていて欲しい。

 

だが、心配も、無事も願う人達の安否を未来は知ることが出来ない。

 

(誰か…誰か…助けて…こんな場所居たくない…怖い…何が起こっているのか分からないのも…こんな嫌な場所に居続けるのも…)

 

未来は救いを求める。だが、その思いは依然として届かない。

 

(誰か…寂しいよ…怖いよ…助けて…響…ガンヴォルトさん…)

 

涙が流れる。閉鎖された暗闇がその辛さを助長する。

 

そんな時、歌が聞こえた。

 

その歌はかつて、シアンと響と共に秋桜祭で歌った蒼の彼方。そしてその声はシアンと響の声であった。そしてそれと共に見える小さな蒼い光。

 

(シアンちゃん!響!)

 

響く歌声と光に未来は救いを求めた。

 

(響!シアンちゃん!私はここだよ!)

 

声が出ない。しかし声が届かなくてもそう思い続けた。そしてその思いが通じた様に、未来の囚われた檻へと光が近付く。

 

眩い蒼い光が檻の前に到達する。

 

そして届く響の声。

 

(目を覚まして!未来!)

 

大切な親友の呼びかけ。未来はその呼びかけに涙を流す。

 

(響は無事だった…良かった…)

 

親友の無事が分かったからだ。しかし、それが分かったところで未来は囚われたまま。

 

未来も何とかしようにも鎖がそれを阻害する。

 

(お願い…もうこんな場所に居たくない!響の元に帰りたい!)

 

その思いが未来を突き動かす。だが、鎖はびくともしない。目の前に光があるのに何も出来ない。

 

だが、光が更に眩く輝くと、分裂して小さな光が未来の元へと来る。

 

その光が鎖に触れると鎖が緩んでいくのを感じた。

 

(シアンちゃん!)

 

光が形を象ってなかったとしても、その光が何なのか分かった。その温もりはシアンの物。

 

囚われているはずのシアンも、どうやっているのかは分からないが助け出そうとしてくれている。

 

だが、シアンの力を持ってしても鎖は完全に外れない。だが、僅かな緩みが未来の縛られた腕を抜け出させる事を可能にした。

 

(響!シアンちゃん!)

 

そして未来は手を伸ばした。檻の外の眩い光に救いを求め。

 

そして未来の手はなんとかその光に触れる事に成功すると未来の身体を縛る鎖が完全に解き放たれた。

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