「クリス君!」
モニターに映った連れ去られたクリスと翼の身代わりとなった切歌。長きに渡るアシモフとの戦いに決着がついたかと思えば、気付けばアシモフはまだ暴走を起こす様に雷撃を放った後、ウェルの援護によって再びシアンを、そしてネフィリムの心臓を奪われ、更には未来の聖遺物へと干渉し、暴走させた。
ガンヴォルトが手にした勝利を根こそぎ無に変える一手を打ったアシモフ。自身の暴走。それを引き金に戦況を再びひっくり返された。
「まだお前は俺達の前に立ちはだかるか!アシモフ!」
弦十郎は血が滲む程拳を握りしめ、姿無きアシモフの名を叫んだ。
奪われたクリス。そして切歌。更には暴走し、光柱の中に残された響と未来。そしてそれを救う為にその中に入ったガンヴォルト。状況が分からない。
「司令!海底から巨大なエネルギー反応が!」
「次から次へと!アシモフは何をした!?」
「海底に封印されていたフロンティアが起動させられたのです」
弦十郎の背後から聞こえる声にそちらへと視線を向ける。
それはガンヴォルトが到着した後に現れた敵対するF.I.S.の研究者であり、アシモフによって囚われ、いや、殺されかけ、切歌と調が戦わざるを得ない状況になったナスターシャであった。ガンヴォルトが到着してしばらくして一課のヘリでここまでやって来た。そして敵ではなく味方として、自身もアシモフの手から救いたい人物がいるからこそ、協力を申し出たからだ。
「フロンティアとは?」
「私達が使おうとしていた聖遺物。滅びゆくこの星から可能な限りの命を救う為に人類が存続する為に使用予定であった聖遺物」
弦十郎の言葉にナスターシャが答えた。
フロンティア。それはノアの方舟の様な物。封印されていたが、
「アシモフは一体何が目的でそんなものを?」
「ガンヴォルトからアシモフの目的を聞かされました。アシモフの目的は私達の知らないガンヴォルト、そしてアシモフのいた元の世界へと戻ること。それに必要なのが、
ガンヴォルトからアシモフの目的は聞いていた。そしてそれを可能とするのがネフィリムの心臓。
「その為に翼やクリス君を!」
ナスターシャの言葉に弦十郎は理解するとそう叫び、ナスターシャは静かに頷いた。
「奪われたあの子達は一体何をされるんだ!ナスターシャ博士!」
弦十郎は二人の今後をナスターシャへと問う。ガンヴォルトがいないこの場でアシモフの計画の全貌を知るのはナスターシャ以外いない。
「貴方達の仲間の正規適合者…それはアシモフの計画に支障が出た場合の、もしもの際のバックアップとして使われる…ここに来る前にガンヴォルトに聞かされました」
「バックアップ?」
どういう事だ?アシモフの目的には翼とクリスが必要。それなのにバックアップとは?
「アシモフが利用としているのはあの子とは別の正規適合者。ネフィリムの心臓の中に宿る魂だけの存在となった私の大切な家族。セレナを利用しようとしている。あの子はそれが失敗した場合のバックアップ。しかしアシモフがあの子を使い、計画を成功に至った場合、用済みとなり、どうなるか分かりません」
ナスターシャはそう述べた。
「ッ!?」
どうなるか分からない。しかし、用済みとなった場合はどの様な扱いがされるかなど弦十郎はナスターシャが何も言わなくても分かっている。使わぬのなら排除する。それはクリスの死を意味する。弦十郎は更に拳を強く握りしめる。
救ったはずの命が失われてしまうかもしれない事に。やっとの思いで仲間になり、救った命が失われてしまう事に。
そして更に奪われた切歌。切歌は正規適合者などではない。それ故にアシモフの抹殺対象。故に連れ去られた場合はどうなるかなど想像が容易かった。
切歌は死ぬ。アシモフの手によって。
「身代わりとなった切歌は…あの子は確実に殺されてしまう。あの子は調やマリアと同様にアシモフを裏切っている。何度も裏切り続けた私達をアシモフは許さない。このままではアシモフに切歌とマリアは…」
弦十郎が言うよりも早くナスターシャが口にした。そして大切な家族の危険を身に染みて感じる失うかもしれない恐怖がナスターシャを震えさせていた。
家族を失うかもしれない恐怖は誰もが理解出来る。この戦いに敗北すれば、この中の誰もが自身やその大切な家族、大切な人を失うかもしれないという恐怖に脅かされているからだ。
ナスターシャの大切としている切歌はアシモフに奪われた。マリアもまだ輸送機の中におり、アシモフの魔の手がすぐそこまで迫っているかも知れない。
こんな状況である為に、絶望がより一層濃くなる。アシモフの手に落ちた者を救う方法は可能性は限りなく小さい。
迫る絶望。更にアシモフの引き起こした絶望は連鎖している。
未来に響。クリス。そして身代わりとなった切歌。そして囚われたマリアに再度奪われたシアン。そして先程聞かされた利用されようとしている魂だけのセレナ。
限りなく小さい可能性は存在する。だが、その限りなく小さな可能性を掴む為の存在も生存が危うくなっている。
ガンヴォルト。アシモフを一度だけ、戦闘不能近くに追いやった男。ガンヴォルトに油断などはなかった。だが、アシモフが予想外のタイミングでの暴走により、トドメを刺す事が出来なかった。しかし、それでもアシモフを追い詰める事を実現した為に、最もこの状況を変えれる力を持っている。だが、そのガンヴォルトも暴走する力で命の危機に瀕する未来。そしてそんな未来を救う為に、自身の身体がガングニールにより侵蝕され行く響。二人を救う為、自身の身を挺し、荒れ狂う力の奔流へ飛び込んだ希望となる存在。
身を挺する。それはガンヴォルトも危険を伴う事になる。もしここでガンヴォルトが再起不能になれば全てが終わる可能性がある。
奏と翼、そして調がいるのだが、アシモフとの戦闘が可能であるのは前者の二名のみで調はアシモフの
だからこそ、ガンヴォルト。アシモフを一度下し、追い込んだガンヴォルトが必要なのだ。未来と響を助け出してくれる事、そしてガンヴォルトも無事に帰還する事、そしてクリスと切歌、マリアを救い出す事を願う。
他力本願としか思われないだろうが、
「奏!翼!クリス君を他にアシモフに囚われた二人を頼む!必ず全員を救い出さなければならない!誰かを犠牲になってしまった勝利に何の意味もない!ガンヴォルトが頼んだ救助は此方がする!ノイズはあの力の前に全て消し飛んだ!お前達は輸送機へと踏み込め!」
『ッ!了解!』
『必ず救います!』
そう言って二人は傾いた船体の先にある輸送機へと向かう。
「調、貴方も行きなさい。アシモフと言う巨悪がいる以上、人手が多いことに越した事はありません。切歌やマリアがもしかしたらアシモフ、もしくはウェル博士によって行動不能にされている可能性があるのなら、アシモフに対抗出来るあの二人のサポートをして少しでも可能性を高めねばなりません」
『切ちゃんもマリアも必ず助けて、マムの元に戻るから』
調はそう言って奏と翼の後を負い、輸送機へと向かった。
「必ず…みんな無事に帰ってきてください…」
そう言うナスターシャ。それを見た弦十郎も同じ思いだ。
アシモフに奪われたクリスと切歌の奪還に向かう奏、翼、調。そしてモニターに映る巨大な光柱。その中にいるはずの響、未来、そしてガンヴォルト。
誰一人として欠けてはならない。
「…とにかく、今はみんなを信じよう…我々は少しでも多くの命を救う為に行動を。あの光柱の奔流の影響のない場所をすぐに割り出し、乗組員を救出する」
信じる以外出来ない。だが、装者やガンヴォルトの戦いやすい状況を整える事くらいは可能だ。弦十郎は今出来る最大限のサポートを二課に属する者達と共に全うするのであった。
◇◇◇◇◇◇
暴走した雷撃を気力で抑えようとしているアシモフ。その近くには雷撃により気を失ったクリスと切歌が倒れていた。
「風鳴翼を手に入れようとしたのに貴様が身代わりになるとはな…」
苦しそうに切歌を睨みながら言うアシモフは、銃を取り出して切歌へと向けた。
紛い者であるガンヴォルトに屈辱を味わわされた事、更には本当に必要な物が手に入らなかった事に苛立ちを隠せない。
「紛い者も…貴様達も…私の計画の邪魔を…本当に忌々しい」
そう言ってアシモフは切歌の脳天へと向けて引き金を引いた。邪魔者をまず一人。その後はマリア、そして二課へと寝返った調にナスターシャ。F.I.S.を殲滅する。もう必要など無い。邪魔になるだけの存在を生かしている意味などありはしない。だから全員殺す。F.I.S.も二課も、そして紛い者も。
今は暴走を抑える事に専念し、フロンティアを手に入れ、奴ら殺す。フロンティアの起動にネフィリムの心臓を使用するが、代替え案は既に用意してある。問題は
そして切歌の脳天へと銃弾が当たる瞬間、邪魔が入った。
切歌の脳天へと向けて放った弾丸は突如開いた
「また貴様達か!セレナ・カデンツァヴナ・イヴ!
向かってくる弾丸は暴走している雷撃の抑えを一瞬解き、雷撃で弾き落としてアシモフは叫んだ。
切歌を殺そうとしてセレナもしくはシアンの邪魔が入った。思い通りに行かない事に苛つきを高めさせられる。
「アッシュ!帰ってきていたのかい!?大変だ!フロンティアが浮上するまでまだ時間がかかるのに奴らが攻め込んで来た!」
アシモフのライフルを担いだウェルが叫びながら入って来た。
奴等とはあの場に残された奏、翼、調の事だろう。未だモニターから外の様子が分かる為、まだガンヴォルトはあの力の奔流の中。
ならば対応可能だ。だが、暴走してる故に、あまり時間を掛けられない。
「Dr.ウェル。貴様はフロンティアが浮上するまでの間、輸送機の高度を更に上げろ。私が奴等を叩き落とす。フロンティアで奴等と蹴りを付ける。今は少しでも奴の対処の為に暴走を抑えたい」
「分かったよ。とにかく僕は輸送機の高度を上げるから奴等を食い止めてくれ!必ず英雄になる為に!」
そう言ってウェルは部屋から出て行くと、操縦席へと向かった。
アシモフは切歌とクリスのギアペンダントを奪うと、レーザー式の檻へと二人を入れて迫りくる脅威の排除に専念する。
そしてアシモフは輸送機のハッチへと向かい、外からこちらへと向かう三人の姿を視認した。
「やはりただでは返してくれないようだな」
「当たり前だ!クリスを返せ!」
「雪音を返してもらうぞ!」
「切ちゃんとマリアも返して!」
迫り来る三人。だが、ウェルが操縦桿を握ったのか傾いた甲板からどんどんと遠ざかっている。
だが、奏と翼。そして調が逃さないとばかりに更に速度を増す。
だが、
「殺してやりたい、風鳴翼を奪いたい。だが、私もこの状態ではそれは難しい。だから、次で決着をつけてやる。貴様達を今度こそ必ず殺す」
「巫山戯るな!次はねぇ!ここで終わらせてやる!」
「もう貴様に誰も奪わせない!取り戻す!シアンも!雪音も!F.I.S.も!」
「返してもらう!切ちゃんとマリアを!私達の自由を!」
アシモフの言葉に奏、翼、調は次はない事を。ここで終わらせる事を告げる。
次が無いのはアシモフにとって都合が良い。だが、暴走状態故に普段とは違う。暴走状態の為に自身の
だからこそ、此処は引くのだ。例え相手が引く事を許さなくとも、此方があちらを引かせればいいだけ。
だが、既に輸送機と三人の距離は互いの射程圏内。あちらは直ぐに輸送機へと乗り込んでくるだろう。だからこそ、暴走状態でもなんとか
「ッ!?」
三人は驚きながらも強力な雷撃をなんとか躱そうとするが、アシモフの狙いはそうではない。
足場を完全に破壊する事。傾いた船体を雷撃で破壊して足場を無くす。
そうする事により、三人がこちらへと向かわせないようにする。
だが、それでも三人は諦めない。足場がないのであれば、翼が巨大な剣を輸送機に向けて出現させて足場を作り上げる。
それを足場にアシモフの目の前まで接近を試みる。
だが、遅かった。足場を一撃で破壊されたタイミング。そして剣を出すタイミングが間に合わず、完全な制御を得た輸送機は一気に高度を上昇させたのだ。
「ッ!」
行かせてはならないと、三人は可能な限りの速度で駆け出す。だが、それでも輸送機の上昇に間に合わない。一人であれば連携すれば輸送機に届く事は可能かもしれない。だが、あの状態のアシモフに対抗できるかわからない故に、立ち止まることしか出来なかった。
「次だ。確実に終わらせてやる」
「ちくしょう!シアンを!クリスを返しやがれ!」
「雪音を!シアンを!F.I.S.を解放しろ!」
「切ちゃん!マリア!」
手の届かないところまで輸送機が上昇して行く所を見ている事しか出来ない三人はただ叫ぶ事しか出来なかった。