戦姫絶唱シンフォギアAB   作:株式会社の平社員

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治療室。

 

そこには治療を施され、静かに眠るガンヴォルトと

奏と翼の姿があった。

 

「…」

 

ただ二人はガンヴォルトの手を握り、目を覚ますのを願っていた。

 

分かっている。自分達はシアンと違い、その様な能力などない。歌でガンヴォルトを癒す事も、死の淵から立ち上がらせる力などない事を。だが、少しでも不安を和らげる様に、自身の気力を分け与える様にただ握ることしか出来ない。

 

だが、ガンヴォルトは握り返してくれない。当たり前だ。治療を施されたとは言え、ガンヴォルトは重症。意識があれば、ガンヴォルトは蒼き雷霆(アームドブルー)で自身を回復させ立ち上がる。

 

しかし、無意識ではそれをすることは叶わない。

 

響と未来の為、身体を張って助けた結果だ。だが、自分を犠牲にして欲しくなかった。勿論、響と未来を助けてガンヴォルト自身も助かろうとした。

 

しかし、それを阻むのはアシモフだ。

 

アシモフと戦う度、ガンヴォルトは死の淵に追いやられる。今回はようやく掴んだ勝利も無に帰された。

 

そして更なる絶望をアシモフは与える。クリスと切歌を奪った。翼の代わりに切歌は連れ去られ、クリスはアシモフの目的の為、保険として連れ去られた。

 

そしてフロンティアの起動。これを何に使うのかは不明だったが、ガンヴォルトと共に本部に来たナスターシャにより知らされた。

 

元の世界へと帰還。ガンヴォルトが戻ろうとしていた様に、アシモフもそれを実行しようとしていた。そしてその準備が完了しようとしている。

 

止めなければならない。

 

だが、止められるのか?自分達に?アシモフという男を。殺せるのか?手も足も出なかったアシモフに。

 

殺すと誓った物の、依然として変わらない実力差。敵わないと思える強大な敵。本当にアシモフを自分達にどうにか出来るのか?殺せるビジョンなど浮かばない。

 

だが、どうにかしなければならない。アシモフを殺さなければこの戦いは終わらない。全てを取り戻さなければならない。シアンも、クリスも、そして協力してくれた調の為に切歌とマリアを。そしてここまで支えてくれた二課や一課のみんなの為に。そしてここまで傷付きながらも何度でも立ち上がりながらも尽力をし続けたガンヴォルトの為に。

 

だが、クリスと切歌を奪われ、調と三人で助けられるのか?

 

いや、やらなければならない。

 

しかし、自分達がアシモフを殺すに至らない。

 

「…アシモフを殺す事は…私達が束になったところで敵わない…悔しいがそれが現実だ…」

 

「ええ…何度も辛酸を舐めさせられた…刃を交えて何度も窮地に立たされ、それは実感している…私達がどうやっても敵わない事くらい」

 

敵わない現実に目を向けて現状を分析する。クリスもいて決して敵わなかったアシモフ。調と共に急造のチームワークで勝てるか?答えは否。アシモフには蒼き雷霆(アームドブルー)を除いた第七波動(セブンス)がある。それを三人で突破できるかと言えば、不可能。それに電磁結界(カゲロウ)。あの場にシアンがいたからこそ成り立った突破口。もしアシモフが次にシアンを持ち出さなかったから勝機などない。

 

絶望的状況。

 

だが、絶望なんてしてられない。

 

しかし、絶望の中に希望はある。二人が手を握るガンヴォルト。

 

気を失ったガンヴォルトに何が出来る?そう思われるかもしれないが、二人はガンヴォルトが気を失う前に言っていた一言を思い出している。

 

少しだけ休む。ガンヴォルトは気を失う前にそう言った。だから二人はガンヴォルトがすぐ目を覚ます事を信じる。

 

ならば二人が何をすればいいのか自ずと見えて来る。ガンヴォルトとの誓いは守れないとしても、誰もが望む未来が掴めるのなら。誓いはもう破棄しよう。ガンヴォルトがやるべき事ならば、ガンヴォルトに任せよう。

 

他人任せと言われるかもしれないが、適材適所。ガンヴォルトがアシモフとの戦いに専念出来る様に翼と奏は調と共に、その他を解決しよう。

 

クリス、マリア、切歌の救出。そしてフロンティアをどうにかする事。そしてウェルからソロモンの杖を奪還し、ウェルを拘束する。

 

それが奏と翼がやるべき事。そしてアシモフと対峙した場合は、アシモフの足止め、敵わないとしても時間を稼ぐ。そうすれば必ずガンヴォルトが目を覚ましてどうにかしてくれる。

 

だからこそ、奏と翼はガンヴォルトの強く握り、言った。

 

「あの誓いは果たせない。でも、ガンヴォルト。お前が目を覚ましてくれると信じてるから、私達がアシモフ以外をどうにかする。だから、今度こそ…今度こそアシモフを殺してくれ…お前が居ていい場所を守る為に、世界の人達を守る為に」

 

「雪音達は私達が救う。ウェルとソロモンの杖は私達が何とかする。だから、アシモフは任せるわ、ガンヴォルト。先の戦いでアシモフを追い詰めた様に、今度こそアシモフを殺して貴方のいるべき場所に戻ってきて欲しい。シアンを取り戻して…私達がいるこの場所に」

 

二人はガンヴォルトへとそう告げた。気を失ったガンヴォルトには届かないかもしれない。だが、それに応える様にガンヴォルトの握る手に僅かながら力が入った気がした。

 

答えては居ないが、だが、任せたという様に。

 

奏と翼はそれに応える様にこちらも手を離す。

 

「任せたぞ、ガンヴォルト」

 

「任せたわ、ガンヴォルト」

 

二人はそう言うと、クリス達の救出の為に、弦十郎へと出撃の旨を伝えにガンヴォルトの治療室を出た。

 

そしてすぐに司令室へと向かう。

 

司令室には暗い雰囲気が漂い続けていた。響と未来も目を覚ましたのだが、今の現状を聞き、無事である事が喜ばしくないこの状況の為であろう。

 

ガンヴォルトの重体。クリスのアシモフに奪われた事。アシモフから寝返り、こちらと共にアシモフの脅威から戦った切歌が拐われ、依然として囚われたマリアの事。そして今も尚続く、アシモフという脅威が依然として健在している事。

 

その全てが、この司令室を暗雲立ち込める原因となっている。

 

「奏、翼…ガンヴォルトはまだ目覚めないか?」

 

二人の姿を見た弦十郎がガンヴォルトの容体を気にして聞いた。

 

奏も翼も首を横に振り、未だ目覚めない事を弦十郎へと知らせる。

 

弦十郎は更に暗い表情をし、響も未来もそれを聞いて涙を流した。

 

「泣くなよ、響、未来。ガンヴォルトはそんな二人を泣かせる為に助けたんじゃない。それにガンヴォルトが傷付いたのは二人の所為なんかじゃない。全てはアシモフだ。未来があんな状況に追いやられたのも。アシモフが未来を攫ったからだ。操ったからだ。響も未来を危険を顧みず助けたかっただけだ。あんな状況になっても命懸けで助けようとした。二人は一切悪くないだから泣くな。それがガンヴォルトの望む事か?」

 

きついかもしれないがガンヴォルトが重体になってでも助けたんだ。悲しむ姿をガンヴォルトに見せて欲しくない。助かったのだから、ガンヴォルトが良かったと思える様にいて欲しい。

 

「そうだ。立花、小日向。貴方達の所為じゃない。奏の言う通り、そんな悲しそうにしていたらガンヴォルトが辛いだろう。ガンヴォルトは直ぐに目を覚ます。だから悲しそうな顔をするな。ガンヴォルトを出迎える為に、泣かないで欲しい」

 

奏と翼は響と未来へとそう言った。

 

「でも…ガンヴォルトさんがあんな目にあったのは私達が…」

 

「私達が、あの状況で気を失わなければ…ガンヴォルトさんは…」

 

依然として自分の所為だと言い続けようとする響と未来。

 

だが奏も翼もそれを否定する。

 

「絶対に違う。二人のせいなんかじゃない」

 

「そうだ。貴方達二人のせいなんかではない。全てはアシモフだ。誰かが傷付き、悲しい目に遭う元凶。その全ての根本的な原因はアシモフだ。アシモフが居なければガンヴォルトはあんな状態に何度もならなかった。アシモフが居なければ、こんな状況にもならなかった」

 

二人はそう言い切った。全ての要因はアシモフにある。ガンヴォルトが傷付くのも。この場の全員が何かしら悲しむのも。根本にいるのはアシモフ。

 

「だから悲しむな。調もだ。私達がクリスを。切歌を。マリアを救う」

 

「奏の言う通りだ。今悲しんでいる暇などない。まだ誰も失ったとは限らない。ならば私達がやるべき事はアシモフ以外を止めてアシモフの計画を破綻させる事だ。そして全員を救う事。それだけだ」

 

奏も翼もそう言い切った。

 

「それは分かっている…だが、アシモフがいる…アシモフをどうにかしなければそれは成り立たないんだぞ」

 

「分かっているよ、旦那。アシモフをどうにかしなきゃならない事くらい。だけど私達じゃアシモフに敵わない」

 

「だったらどうするつもりだ?ガンヴォルトはいつ目が冷めるか分からないんだぞ?お前達が犠牲になってでもとでも言うのか?」

 

少しだけ、怒りを交えた言葉で弦十郎が言った。

 

「犠牲になるつもりなどありません。私達はアシモフ以外をどうにかするつもりです。雪音、暁、マリアの救出。そしてウェル博士の拘束。ソロモンの杖の奪還。それさえ出来ればアシモフの計画を少しでも遅らせる事が出来ます」

 

「私達はアシモフに敵わない。だからこそ、時間を稼ぐ。ガンヴォルトが起きるまで。ガンヴォルトがアシモフに勝つまで。アシモフの計画を少しでも遅延させる。今ここで悲しんでいても全てが無に帰る。だったら私達はどうするべきなんか分かりきっている。今出来る限りの事をする。少しでもガンヴォルトが起きて負担を減らす為に私達はやるべき事をやる」

 

そう言った。

 

分かっているがガンヴォルトが直ぐに起きる保証がない。それなのに何故二人はそう言い切れるのか弦十郎は二人に聞く。

 

「ガンヴォルトがお前達が止めているうちに起きる保証があるのか?」

 

「ガンヴォルトは言っていた。少しだけ休むってな。だから直ぐ目を覚ます。私はそれを信じてる」

 

「奏の言う通り、ガンヴォルトは私達にそう言った。だから私も信じている。ガンヴォルトは直ぐに目を覚ましてくれる」

 

奏も翼もそう言い切った。

 

「…そうだな…あいつはいつでもそうだった…カ・ディンギルの時も…」

 

弦十郎も奏と翼の言葉に賛同する。あの時もそうだった。あんな重傷を負いながらも、死の淵から立ち上がってくれた。そしてあの時とは違い、今度は自分から少しだけ休むと告げたのだ。

 

ガンヴォルトを信じないでどうする。いつもその蒼い雷撃で照らし続けた光を。

 

「二人の言う通りだ。ガンヴォルトは直ぐに目を覚ます。ならば俺達がやる事はあいつがアシモフとの戦闘に専念できる様舞台を整える事だ。ガンヴォルトならばアシモフを必ず倒してくれる。世界を救ってくれる」

 

弦十郎も暗雲立ち込める司令室を振り払う様に声を張り上げて言う。

 

「俺達が信じないでどうする!ガンヴォルトは目を覚ますのなら俺達はガンヴォルトが最大限力を発揮出来るように尽力する事だ!確かにこちらが依然として不利な状況に変わりはない!だが、ガンヴォルトなら必ずやり遂げてくれる!」

 

それでも振り払われる事はない暗雲。だが、響も未来も、奏と翼の言葉を信じる。そしてガンヴォルトが直ぐに目を覚ます事を。

 

「私も…私もガンヴォルトさんを信じます!ガンヴォルトさんがそう言ったのなら!」

 

「ガンヴォルトさんは嘘は言わない!奏さんも翼さんもガンヴォルトさんがそう言ったのを聞いたなら私達もそれを信じます!」

 

確証などない。だが、それでもガンヴォルトは常にそんな状況でも光となってくれた。だからこそ、信じるのだ。

 

そして響と未来。自分達よりも年齢の低い二人にそうまで言われて信じない様な者は誰もいなかった。そして希望が伝播して包み込んだ絶望を振り払う。

 

各々がガンヴォルトの目覚めを信じ、為すべき事を遂行すべく動き出す。

 

「今度こそ、アシモフの野望を打ち砕き!全てを終わらせるぞ!」

 

弦十郎の発破と共に、全員が希望を持って動き始めるのであった。

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