暴走を抑えはしたが、疲れの見えるアシモフとウェルがフロンティアの中枢へと向けて歩みを進めていた。
「休んだほうがいいんじゃないかい?アッシュ。計画の遂行までもう目前だ。機動二課にダメージは十分与えた。動くまで時間はまだあるはずだよ」
疲れが見える故にウェルはアシモフにそう助言する。
だが、アシモフはその助言など必要ないの一点張り。ただ苦しみながらも目的の場所へとただひたすらに進んでいった。
そんなアシモフの姿を見てため息を吐くウェル。
「まぁ、あんな事が起きればイラつくのは分かるけどさ。全く…ネフィリムの中にいる君の大切な妹が抵抗するからこんな事になっているんですよ?計画の遂行の為にただ黙って待っていればよかったのに」
そう言って背後へと声を上げるウェル。
その背後にはクリスと切歌に引きずられながら気を失うボロボロのマリアの姿。
「全く、殺そうとしたのに、アッシュから話は聞いていましたが、ネフィリムに残る貴方の妹の残滓が常に邪魔をするからアッシュを苛ついているじゃないか。計画に必要な為にまぁ、僕もですけどね」
そう言ってマリアを一瞥するウェル。そしてウェルは気を失い反応しないマリアになんの興味も示さず、ただアシモフの後を追った。そしてマリアを担いだクリスと切歌はただ黙ってウェルの後を追うのであった。
何故敵対するクリスと切歌がマリアを担ぎ、アシモフとウェルに付き従っているのか?
それは少し前に遡る。
◇◇◇◇◇◇
マリアへと向けて発砲された銃弾。
それはマリアの脳天に直撃するはずであった。
だが、マリアへと放たれた銃弾は直撃する事はなく、マリアとウェルの間に出現した穴へと吸い込まれていった。
「ッ!?
マリアは何故か出現した穴に困惑するが助かった事に安堵する。だが、何故このタイミングで現れたのか?ウェルの言う通り、アシモフが出したのか?いや、あり得ない。あの外道は調や切歌を殺そうとしていた。マリアも同様だろう。その為にこのような事をするなど考えられない。
「なぜだ!?アッシュがネフィリムの心臓を持っているのに何故その力が!?」
ウェルは状況が飲み込めず、狼狽える。だが、それでもマリアを殺そうと
「ッ!?」
状況が飲み込めず、更には思いもしない反撃をくらい、ウェルは尻餅をつく。
『煩わしいぞ、Dr.ウェル。殺してやろうか』
別部屋の通信でアシモフの声が響く。苦しそうの中、銃声を何度も響かせたウェルに怒りを覚えているのだろう。かなりの殺意が篭っている。だが、ウェルはそんな事すら気付いておらず、アシモフに向けて言った。
「アッシュ!ネフィリムの心臓の様子は!?
『…また貴様か!』
アシモフが通信機越しに叫んだ。また貴様。どう言う事か一瞬分からなかった。だが、ウェルの言ったネフィリム。そして、人に対して使う貴様と言う言葉。
そんな行動を取る人物をマリアは知っている。だが本当なのか?そんな事あり得るのか?いや、それを実行しようとしているのがアシモフだ。そして利用しようとしているのも。
「まさか…セレナ…セレナなの?」
マリアが大切な妹の名を呟いた。だが、その呟きに返答などない。だが、返答がなかろうとさっきの行動が、自身を守ろうとする現象がそうとしか考えられなかった。
セレナの意思が自身を守ってくれた。そうとしか考えられなかった。そのマリアの考えも正しく、アシモフがセレナに対してそして敵対していた二課の
『
アシモフがそう叫び、通信機越しに慌ただしく動き始めた。
『Dr.ウェル!今すぐ輸送機から移動する準備をしろ!』
「わ、分かった!アッシュは!?」
『私に気にせず貴様はさっさと動け!』
怒りを堪えきれていないアシモフの言葉にウェルはただこれ以上アシモフを怒らせるとまずいと判断したのか、部屋から足早に出て行く。
残されたマリア、気を失ったクリスと切歌。そして未だ出現し続ける
だが、その部屋に再び何者かが入ってくる。この場に入ってくる者などあの男以外考えられない。
「本当に忌々しいな。
そう言いながら雷撃を迸らせ、疲労により苦しそうに、だが、それ以上に怒りと憎悪を滾らせるアシモフがマリアの前に現れる。
「アシモフ!」
マリアがアシモフの名を叫ぶ。だが、そんなマリアに向けてアシモフは何の躊躇いもなく銃を取り出すと銃弾を撃ち込む。
だが、マリアにその銃弾は当たる事はなかった。アシモフの腕に巻かれるネフィリムの心臓が反応して、アシモフの意思とは別にマリアを守るように穴を出現させた。
「ネフィリムの中に残る魂如きが…守りたいと言う意思か?助けたいと言う意思か?私の操る事の出来るネフィリムの意思を掻い潜り
苛つきながらもマリアに銃弾が当たらない事をネフィリムの心臓に対してそう言った。
「本当に忌々しい。殺すべきものが殺せない。足手纏いを殺す事すらさせない貴様達が。いい加減うんざりだ」
そう言うとアシモフの姿が一瞬で消えた。目に負えない程の動き。そしてその一瞬で背後からクリスの叫び声が木霊する。
「ッ!?」
マリアは直ぐ様背後へと視線を向けると片手でクリスの頭を掴むアシモフ。そしてもう片方の手は切歌の頭へと伸ばされていた。だが、アシモフの腕は切歌を掴む事なく、出現した穴へと吸い込まれていた。
「殺意に反応して出していたのか…つまり殺そうとすれば貴様達が邪魔をするのだな…セレナ・カデンツァヴナ・イヴ。
「アシモフ!その子達に何をしている!」
力がなくとも、アシモフの行動が許せないマリアはアシモフに襲い掛かる。
だが、アシモフはそんなマリアを振り向かずとも腹へと的確に蹴りを入れた。今度はマリアへの攻撃は穴は出現せず、直撃した。
「グゥ!?」
そのまま壁へと蹴り飛ばされ叩き付けられた。
「ガァ!?」
だが、飛ばしたマリアなど気に求めないアシモフはクリスに雷撃による暗示を施すと今度は切歌を掴み上げて雷撃を浴びせた。本来ならば殺したい。だが、邪魔をされるのであれば、殺意を感知して動くのであれば、別の方法を使うだけ。
「殺されないように行動したのならばそうするがいい…貴様達がそう望んだのだ…ならば私は貴様達が苦しむよう行動してやろう」
そう言って切歌にも同じように暗示を施すとクリスと切歌から手を離す。そして今度はマリアへと暗示をかけようとする。
「ガァ!?」
気を失ったマリアを掴み、雷撃による暗示をかける。だが、そのタイミングで再びアシモフの想いもよらない出来事が起きた。
「ッ!?どこまでも邪魔をする!」
雷撃を浴びせた瞬間、暗示がかかり終える前に、アシモフの腕が発火し、光によってズタズタに切り裂かれた。
爆炎が、残光が、マリアへの雷撃を邪魔をしたのだ。殺意にではなく、マリアを守ろうとする行動。そして殺意にのみ反応した悔やみなのかそれ以上を許さないとばかりの行動。
殺す事も、操る事も不可能な状態にするセレナに対し、そしてそれを助けるかのように力を使わせたシアンに対して、アシモフは苦しみながらも怒りを吐き出した。
「貴様達はどこまで私を苛つかせれば気が済む!」
行き場のない怒りはアシモフの雷撃へと変わり、自身を傷付けながら迸る。幾度と無く邪魔をする二人の存在に。憎悪と怒りがアシモフの迸る雷撃が物語る。
「本当に腹正しい!憎たらしい!」
雷撃が四方八方へと飛散するがマリアには当たらない。本当に憎たらしい。
そしてそんなタイミングでウェルが戻ってくる。
「アッシュ、急いで準備をして来たよ…大丈夫かい?」
「貴様の目は節穴か?これ以上私を苛立たせるな。すぐに行くぞ。貴様達はそれを運べ。ここで殺せぬのなら別の方法で殺す」
アシモフはウェルを突き飛ばしながらそう言って輸送機から出て行った。そしてその言葉に反応して倒れていたクリスと切歌が立ち上がり、マリアへと向かうとアシモフの言う通りに動き始めた。
「…本当に計画が進むごとにアッシュは怖くなる一方だよ…でも、それももう終わりさ」
ウェルは今のアシモフに恐怖しながらも、その恐怖はすぐに終わる。このまま計画が完遂すればあの時のアシモフに、初めて会った時のアシモフに戻ると信じ、二人を誘導するようにアシモフの後をついて行くのであった。
◇◇◇◇◇◇
それが少し前の出来事。
そしてアシモフとウェル、そして操られたクリスと切歌、気を失ったマリアはフロンティアの動力炉へと辿り着いた。
「ここがフロンティアの心臓部…」
ウェルは神秘的な光景に、そしてようやく英雄になれる事を目の前にして歓喜している。
だが、アシモフはそんなウェルとは別で、直ぐ様動力炉へと向かうとそこにネフィリムの心臓を叩きつけるように投げ込んだ。
「Dr.ウェル。貴様がしばらくフロンティアを操作しろ」
「分かったよ」
アシモフの言葉に反応したウェルは直ぐ様自身の腕にL注射器を打ち込んだ。
その途端にウェルの腕が変色し、かつて動いていた時のネフィリムのような腕へと変化した。
ウェル自身が打ち込んだのはネフィリムの細胞。拒絶反応を限りなくゼロにすることに成功させたウェルの科学の結晶。そして変質化した腕の動きを確認して問題ない事を認識したウェルは変質化していない腕の方でアシモフにあるものを手渡した。
「アッシュなら大丈夫だと思うけど、僕が動力源となるネフィリムの心臓の操作を可能したものに比べて相当…」
「説明など不要だ。さっさと寄越せ」
だが、アシモフはウェルの説明など聞かずにそれを奪い取るように取り上げた。
「苦しかろうが、辛かろうがどうでもいい…そんな物は先の戦闘での奴に敗北した屈辱に比べれば軽いものだ」
そう言うアシモフ。そしてアシモフはウェルに更にフロンティアを浮上させるように言った。ウェルもこれ以上アシモフに何も言わず、動力炉付近のコンソールのようなものに変化した腕を押し当ててフロンティアを操作した。
そしてフロンティアが大きく揺れ動く。ウェルの操作によってフロンティアが持ち上げられたのだ。ここからでは分からないが、フロンティア自身から腕のようなものが出現し、月へと伸び、宇宙に浮かぶ月を支えにしてフロンティアを更に上空へと引き上げた。
そしてウェルが操作に集中する中、アシモフは再びマリアへと向けて銃を構えると容赦なく発砲した。
だが、あの時同様にマリアに向けて発砲した銃弾はマリアに当たる事もなく、開かれた穴に防がれた。
「これでも尚邪魔をするか、セレナ・カデンツァヴナ・イヴ。
アシモフはただ動力炉へなったネフィリムの心臓へそして自身が持つギアペンダントへと向けてそう言い放った。
「ならば貴様達が苦しむよう何処までもこの者を追い詰めてやろう。死にゆく助けたかった者達が死にゆく様を、この者と共に見届けるが良い」
アシモフはそう言うと、自身が操るクリスと切歌へと命令をしてマリアを拘束させた。
「此処で確実に決めてやろう。貴様達を苦しめて殺してやろう。機動二課…そして紛い者。今度こそ確実に決めてやろう…必ず貴様は私がこの手で
そしてアシモフはウェルへとフロンティアの操作を任せ、クリスと切歌へと指示をすると、勝利を確実なものとする為に、回復を急ぐのであった。