しかしバッドエンドは相変わらずインティらしいエンドだった。
鳴り響く鉄がぶつかり合う甲高い音。火花が散り、その激しさを物語る。
その渦中にいるのはアシモフによって操られ、自らの意思を持たぬまま鎌を振るい、目の前にいる大切な親友を殺そうとする切歌。そして対象に殺されまいと、切歌を救おうとする調の姿。
(焦りは禁物よ。ペースは殺そうとするあの子の方に分があるわ。あの子を取り戻す為には少しでも此方のペースに誘い込み、私達の力をあの子の心に響かせる。そうすればアシモフの洗脳を上書きして、貴方の声を届けて元に戻すことが出来る)
(分かってる…でも、切ちゃんを早くアシモフか助けて…あの人達と共にマリアを救いたい…セレナを解放させてあげたいの)
語りかけるフィーネにそう返す調。アシモフの魔の手から切歌を一刻も早く解放させてあげたい。そして切歌と同様かも知れないマリアを解放したい。そしてアシモフによってネフィリムを介し、苦しんでいるセレナをあの地獄から解放させる為に。
時間をかけていられないとフィーネへと返した。
(貴方の実力からして。それ実現出来るかは私の目から見れば正直難しいとしか言えないわね)
調の言葉にフィーネは難しいと、厳しい現実をぶつける。調と切歌にはそこまで実力差がない。フィーネの力を使えたとしても、あくまで戦うのもフィーネの力を引き出すのは調。
使い方を教えても最大限に力を引き出せるかどうかは担い手次第。勿論フィーネもサポートを行うが、魂を塗り潰さない以上、フィーネの力を従前に使いこなす事は時間があれば出来るが短期間であると難しくもなる。
(難しいとか厳しいとかそんなの関係ない。不可能じゃないならやらなきゃいけない事なの。掴まなきゃいけない未来なの。絶対に実現させなきゃならない事なの。それが出来なきゃ意味がない。約束したんだ、マムに。絶対みんな助け出すって)
だが、フィーネの言葉に調はそう言い切った。その結末以外望んでいない。誓った約束を違えるつもりなどありはしない。
(全く…無茶苦茶な事を言うんだから…)
その言葉にフィーネは呆れながらも何処か嬉しそうな答えを出す。
(でも、その無茶苦茶な事を達成した先に…あの子の望んだ未来でもある。あの子に託した未来がそこにある…私の願いでもあるもの…出来る限りそれを実現出来る様サポートするわ)
調へとフィーネはそう言った。勿論、今も戦闘中。調へ向けた鎌の攻撃を調は弾き、そしてフィーネも調の捌ききれない攻撃を自身の力を使い、攻撃を防ぐ。
(ありがとう、フィーネ)
調はフィーネのサポートに対して礼を言う。
(そんな事後でいいわ。それよりも、目の前のことに集中しなさい)
フィーネは調と対峙する切歌の事を言った。
そうだ。フィーネの言う通り、目の前にいる切歌を一刻も早く救う事が先決だ。
(さっきからも分かっている様に、あの子はアッシュボルト…いえ、アシモフに操られている故に容赦がない。容易に近付けば救う側の貴方が不利になる)
(じゃあどうすれば?)
切歌と対峙しながら調はフィーネへと対策を聞く。
(貴方と実力は拮抗しているから戦闘を続け、データを集めて隙を探るしかないわ。あの子のことをよく知っている貴方ならクセとかを理解しているかもしれないけど、もしかすれば操られていることで消えるかもしれないし、それを罠として利用するかもしれない。でもそれをしている時間はない。だから今分かっている状況で、あの子に現状で優っているもので短期でケリをつけましょう)
(優っているもの…私にあるフィーネの力…)
(それもあるけど、元々ある力よ)
フィーネは自身の力でもなく、他の力と言った。現状で切歌に優っているもの。実力は互角。ならば何があるのか?
(歌の力よ。歌があの子を救う鍵になる)
フィーネは調へと伝えた。
(あの子は操られている故にシンフォギアを最大限に活かせるほど歌を歌えていない。歌で上回り、あの子を押さえて私の力で元に戻す)
(歌の力で…)
歌の力とフィーネは言った。
(歌の力はどんな逆境をも乗り越える力を持っている。歌には無限の可能性が秘められている。歌の奇跡を信じなさい。貴方の歌に込めた願いを、歌に込めるあなたがあの子を助けたいと言う想いを)
(歌に…本当にそんな力が…でも…どうしてそこまで歌の力を?)
フィーネの言葉を信じている。だからこそ力を貸してくれているのだから。だが、何故そこまでフィーネが歌の力を、奇跡を信じさせようと言うのかどうしても疑問が生まれる。
(私自身も一度敗れる前までそう思っていた…でも、歌の本当の力を知らない故に私は敗れた…歌の力は無限の可能性を秘めている。奇跡をその手に手繰り寄せる力を持っている。込められた想いを、願いを実現させる力がある。あの子がそれを教えてくれた)
フィーネが言うあの子。切歌とは別の人を指すあの子。ガンヴォルトの事だろう。調へと語りかけるフィーネを一度倒し、そしてフィーネにここまで歌の力を信じさせる程の戦いを繰り広げ、無数にある可能性から最高の可能性を手繰り寄せ、奇跡を起こしてきたのだろう。
だからこそ、フィーネの言葉を信じる。歌の力を信じる。最高の可能性を手繰り寄せる為に、助けたいという想いを、願いを、歌に込め、必ず実現させる。
(待ってて、切ちゃん!絶対助けるから!)
そして調は歌を歌う。切歌を助けたいという想いを、みんな無事な未来を願い込めて。
そして調のシンフォギアに力が宿る。絶唱を使った出力には及ばない。だが、それでも、切歌の纏うシンフォギアを超える出力を調は叩き出す。
身体が軽い、力が湧いてくる。想いが、願いが調の歌に呼応してシンフォギアを強化する。
(歌い続けなさい。取り戻す為に。最高で最良の可能性を掴む為に)
そして出力を増したギアを構え、切歌へと駆け出した。
◇◇◇◇◇◇
ガトリングから連発して聞こえる銃声とその弾丸を弾く穂先を回転させた槍。
「目を覚ましやがれ!クリス!」
荒れ狂う弾丸の雨を躱しながらクリスへと接近した奏が槍をクリスに向けて振るう。
だが、銃撃をやめたガトリングを交差させて槍を受け止める。
だが、奏は受け止められたガトリングを払い、クリスへと蹴りを入れる。
だが、クリスはガトリングを一瞬でハンドガンへと変形させて、蹴りを躱し、奏へと銃弾を放ち、距離を取る。
だが、奏もクリスの弾丸を躱し、距離取らせない様に接近する。
銃と槍。中〜遠距離と近距離。互いの有利な状況を作り上げる為に距離を開こうとするクリスとそれを接近して潰し、自分の状況を良くしようとする奏。
だが、それでも互いの有利な状況を作り出せず、膠着状態。互いに有効打を与えられていない。
だが、それでも二人の動きは止まらない。止まる事を知らない。クリスはアシモフの洗脳で奏を殺す為に。奏はクリスを助け出す為に。
「クリス!いつまでアシモフの言う通りになってやがる!アシモフの奴にいい様にされていいのか!このままずっと操られ続けるのかよ!違うだろ!」
奏はクリスへと語りかけ続ける。目を覚まさせる為に。アシモフの洗脳から解放する為に。
「ソロモンの杖を取り戻すんだろ!アシモフを倒すんだろ!そのままでいいのかよ!このまま操られていたらまた繰り返すことになるんだぞ!私達の様な人を増やすことになるんだぞ!家族を失って悲しむ事を増やす事になるんだぞ!そんな事間違っているだろ!クリスなら分かるだろ!私と同じ!家族を失ったお前なら!クリス!」
奏は言った。それはかつて奏がフィーネによって操られていた時、ガンヴォルトが奏へと告げた言葉と似通ったもの。勿論、あの時の事をしっかりと覚えている訳ではない。だが、あの時のガンヴォルト同様に、奏もクリスを助けたいと言う思いがその言葉をクリスへと向けて告げた。
だが、クリスにはその言葉は、思いは届かない。クリスの意識には届かない。それほどアシモフの洗脳は強力なもの。
「聞こえてんだろ!クリス!」
それでも奏はクリスへと声をかけ続ける。クリスに言葉が届くと信じて。
「…」
しかし、それでも奏の言葉など耳を貸していない様にクリスは躊躇いもなく、攻撃をしてくる。止まる事なく攻撃をしてくる。
「ッ!」
奏はクリスの猛攻を防ぎながらも一定の距離を保ちながら、クリスにペースを掴ませない。
「やっぱり…声は届かない…ガンヴォルトもあん時…こんな気持ちだったのか…」
かつて操られていた自身もガンヴォルトにこの様な辛い気持ちを味わわせていたと身に染みて分かる。
だが、あの時ガンヴォルトは諦めなかった。取り戻す事を。目を覚まさせる事を。
奏も諦めない。クリスという友を救い出す事を。
だが、声が届かない。シアンの力が、
このままクリスをこの状態のまま、手をこまねいてていいのか。
違う。いい訳がない。クリスを助けると言った翼に申し訳が立たない。ガンヴォルトに約束したんだ。クリスを救うと。アシモフ以外を何とかすると。
だったら燻っている訳には行かない。この戦いを長引かせる訳には行かない。
だがどうすればいい?シアンの力なしにクリスを取り戻せるのか?どうすればクリスを取り戻せる?
ぶつかり続けるしかないのか?何の考えもなしにクリスと戦い続けるしかないのか?
(どうすれば…取り戻せる…どうすれば…)
奏は戦いながら思考し続ける。クリスを元に戻す方法を。助け出す方法を。
だが浮かばない。だだ闇雲に削り、削られる泥沼の様にはまっていく。
(シアン…お前の歌の力は…どうすれば引き出せる?どうすれば…)
考えながらクリスと相対する奏。
(…歌?そうか!)
そしてクリスと相対する中、一つの光明が指す。
それは歌。自身がシンフォギアを纏う為の歌ではなく、
シアンが力を貸してくれた時に浮かんだ、輪廻の歌。
だから奏は口に出して歌う。
輪廻の歌を。シアンの歌を。
だが、その歌を歌っても力を出すことが出来かった。そしてその僅かの隙をクリスは見逃さなかった。奏の振るう槍を掻い潜り、奏の腹へと銃口を突きつけて何発も銃弾を浴びせる。
物凄い衝撃が奏の腹を襲う。歌が途切れ、シンフォギアの出力が低下するのが分かる。
「ガァ!?」
その衝撃で奏は吹き飛ばされ、クリスと距離を開かされた。
そしてその間合いはクリスの最も得意とする中〜遠距離の間合い。奏の攻撃の選択が最も少ない間合い。
そんな状況に追い込まれた。
そしてクリスは吹き飛ばされた奏へと追撃とばかりに銃をガトリングへと変形させて奏へと銃弾の雨を放つ。
奏は痛む身体に鞭打って何とか躱し、近くにあった岩陰に身を隠す。
(歌も違う…シアン…やっぱりお前が居ないとどうにもなんねぇのか…)
奏は肩で息をしながら呼吸を整える。
違った。歌ではなかった。やはり、シアンがいてこその
(クソッ…どうすれば…)
岩陰がどんどんと削られて小さくなる。時間がない。このまま何の策もなく対峙しなければならないのか?
奏はどうすれば良いか考え続ける。だが、案が出ない。
そんな中、奏の身体からポロリと何か落ちた。
コロリと転がる小さな何か。
それはガンヴォルトの持つ銃、ダートリーダーに装填する一発の
それは海上の戦いが始まる前に、ガンヴォルトの部屋でお守りとして持ったもの。
(ガンヴォルト…)
奏は
(あんたなら…あんたならどうする?)
奏は
諦めない。ガンヴォルトならどんな事があろうと諦めない。自身の持つ力で、
だからこそ、奏は自身の持つ力を…シアンが残してくれた力を信じる。歌っても力が出ないなら歌い続ければいい。何度でも呼び掛ければいいと。
(ガンヴォルト…シアン…私に力を…クリスを救う力を貸してくれ)
奏は
奏の歌う撃槍の歌でなく、シアンの力を最大限に発揮する輪廻の歌でなく、別の歌。
灼熱を思わせる熱さ。そしてその熱は身体に浸透して力を湧き出させてくれる。
(シアン…答えてくれたか…)
奏は、その歌を歌う。
果てしない荒野を旅し、壮絶な歩みを連想させる歌を。
それと同時に奏の隠れていた岩が眼前に破壊され、奏のいた場所は弾丸の雨に襲われる。
そして奏を完全にチリと化すまで放たれる弾丸。
完全なるオーバーキル。
奏のいる場所は完全に土煙覆い尽くす。それでも、クリスは攻撃を辞めず、堪えず弾丸の雨を浴びせ続ける。
だが、その弾丸の雨を物ともせず、土煙を吹き飛ばしながら奏が現れた。
槍を構え、奏の身体の前に、六角形の水晶の様な物、シアンの使う
再び距離がつまり、奏は槍を振るい、クリスはガトリングでそれを受け止めた。
最初と全く同じ構図。
しかし、今度は違う。歌が。力が。希望が。
救える力をシアンから授かった奏はクリスへと向けて言う。
「クリス!痛いと思うがお前を救う為だ!我慢しろよ!」
奏が歌う歌は灼熱の旅です。