戦姫絶唱シンフォギアAB   作:株式会社の平社員

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本部内に雷撃が現れ、司令室に出現したノイズの大群は炭の塊となって辺りに散らばった。

 

「あいつ…ようやく二人の声が届いたか…本当に…本当にどれだけ待たせるんだ!」

 

弦十郎がその光景を、馴染みのある雷撃を見て嬉しさのあまりに吠えた。

 

他のオペレーター達もノイズからの恐怖からへの解放と、希望の目覚めに歓喜する。

 

「あの方が…やったと言うのですか?たった一人であの数のノイズを…一瞬で…」

 

ナスターシャはあまりにもノイズのあっけない消失、そしてその雷撃の威力に驚きを隠せなかった。何度も映像として見ていた。だが、それを実際に目の前で見るのでは迫力が違いすぎた。第七波動(セブンス)と言う物の規格外の力。それを操るガンヴォルトと言う男に。

 

「ガンヴォルト以外、この場の全員を救える男は居ません。規格外な力、第七波動(セブンス)を誰かを救う為に使い続けるあいつしか」

 

弦十郎はナスターシャへと向けてそう言った。そして本部の安全を確認する為に各所へと通信にて連絡を入れる。

 

救出された米国政府所属の軍人、医療班、技術班、そしてその他の場所で待機していたエージェント達は誰一人欠けてはいなかった。

 

その事に誰もが安堵する。誰一人あの絶望的な状況で被害に遭わなかった奇跡を、そして待ち望んだ希望が目を覚ました事に喜ばずにはいられなかった。

 

そしてその待ち望んだ希望たるガンヴォルトから通信が入る。

 

『弦十郎…遅くなってごめん』

 

「ガンヴォルト…目を覚ますのが遅いぞ…だが、助かった…お前のお陰で絶望的な窮地を一つ脱却出来た」

 

『…まだアシモフの所為で依然として窮地なのは変わりないんだね…』

 

ガンヴォルトは弦十郎の言った言葉に奥歯を噛み締めた気がした。

 

『ボクも直ぐに響と未来を連れてそっちに行く。装備を整えてそっちに行ったら今陥っている状況を教えて』

 

「分かった。だが、急げ。状況は逼迫している。時間は無い」

 

そう言って通信が切れる。

 

「ガンヴォルトが目を覚ました!あいつは直ぐにここに来る!ノイズの残骸は無視して情報を纏めてくれ!」

 

すぐに指示を出す弦十郎。その指示通りに動こうとしたが、一つ誤算があった。

 

「司令!幾つかのモニター機能と装者達の通信がダメになってます!現在の装者達の状況が分かりません!多分、先程のガンヴォルトの雷撃鱗による影響が!」

 

「技術班に連絡して復旧を急がせてくれ!」

 

ガンヴォルトが雷撃の能力。それを本部で行われても対応出来るように施工していたのだが、それすら対応出来ないほど強力な物。だが、ノイズと言うどうしようもない窮地に比べれば安い物。

 

とにかく出来る事を行う。

 

そして数分が経過して、装備を整え、万全の状態のガンヴォルトが司令室へと入って来た。

 

◇◇◇◇◇◇

 

「弦十郎、今の状況はどうなってる!」

 

開口一番にそう言ったボクに弦十郎は現在の状況を簡潔に、分かりやすく説明してくれる。

 

アシモフがフロンティアの起動をして、宙に浮かぶフロンティアにいてこの国から孤立している事。アシモフによりクリスと切歌が奪われ、更には操られ、それを救う為に、奏、切歌が担当している事。

 

そして一番最悪なのはアシモフが復活して、翼がアシモフと対峙していると言う事。

 

「そんな…」

 

「翼さんがあの人と…」

 

響と未来もその事を知り、酷く胸を痛めた。

 

アシモフによって操られ、助ける為に戦った響。そのお陰で助かった未来にとって少し前の出来事。

 

「みんな…無事に帰って来ますよね?」

 

響も未来も心配そうに弦十郎へと聞く。

 

「帰って来る…みんな無事で」

 

弦十郎は二人へとそう言った。

 

「調君には味方がついてる。奏も翼もそうやわな奴じゃない」

 

「味方?」

 

弦十郎の言葉にボクは聞き返す。

 

「調君の中に、フィーネが宿っていた」

 

「ッ!?フィーネが!?」

 

ボクは弦十郎の言葉に驚きを隠せなかった。ボクだけでなく響も未来もだ。

 

フィーネ。かつての敵で、ボクにとある未来を託し、紫電の戦闘で助けてくれた恩人。

 

何故フィーネが現れた?と言う事はかつての了子の様に、フィーネは調という個人を塗り潰してしまったのか?

 

その不安を拭う様に弦十郎ではなくナスターシャが言う。

 

「本当にフィーネが宿っていた事は私達の中でも想定外の出来事でした。ですが、フィーネはあの子を…調の魂を塗り潰さず、フィーネ自身はその力を調へと与え、切歌を助ける力をくれました」

 

フィーネの想定外の登場。そして調という人物の魂を塗り潰さず、調のまま、フィーネの力を貸し与えた。何故フィーネがその様な行動を取ったのか?

 

そんな事が頭に過るが、既にボクの中では答えが出ている。フィーネがボク自身に託した未来。それを実現した世界を見たいと言った。あの時の未来を見る為にその行動を取ったのだろう。

 

「貴方がフィーネの心を動かした。かつてフィーネと戦い、その戦闘で勝利を収めた事で、フィーネが変わった。良い方向に」

 

ナスターシャがボクに向けてそう言った。

 

「了子さん…」

 

その反応をしたのは響。かつての了子だった時の様に、優しく手を差し伸べ、力を貸してくれた事に感慨深い感情を抱いていた。

 

ボク自身もフィーネがあの時の言葉通り、託した未来を見る為に、その未来が失われない為に調の魂を塗り潰さずに他の方法を取って戦っている。

 

アシモフによって齎されようとする終末を阻止する為に。望んだ未来を掴む為に。

 

「フィーネ…貴方が託した未来は必ず実現させる…それが貴方の望んだ未来だから…ボクが…みんなが望む未来だから…絶やさせる事はしない」

 

ボクは小さく呟いた。望む未来を絶やさない。あの世界でも失ってなお、それを目指したボクがアシモフを殺した様に、この場所でボクもアシモフを殺さなければならない。アシモフから全てを取り返さなければならない。一人じゃなく、みんなで。この世界のガンヴォルトとして、ボクの望む未来を掴み取る為に。

 

奪われたシアンを、クリスを、切歌を。マリアを。死してなお、アシモフに利用されようとするセレナを。

 

ダートリーダーを強く握り締め、自分のやるべき事を再認識する。

 

再認識したからこそ浮かび上がるアシモフという敵の手強さ。

 

自身の蒼き雷霆(アームドブルー)とアシモフの蒼き雷霆(アームドブルー)の力量。初めは差があったが幾重にも重ねた戦闘が五分五分となった。電磁結界(カゲロウ)の有無。これも五分となった為、なんとか対応出来る。だがアシモフが電影招雷(シャドウストライク)以外にも隠し玉を用意しているとしたらどうする?

 

今度の敗北は本当の終末を意味しているのだ。ここで終われば、全てが水の泡。今までの頑張りが、装者達の努力が無駄になる。

 

そんな事はさせない。させてはならない。何度も敗北しようが最後の最後、たった一度の本当の勝利を手にすれば変えられる。今までの敗北を帳消し出来る。

 

出来る出来ないじゃない。やるんだ。

 

アシモフがボクを殺す為に策を弄するならそれをボクが打ち砕こう。策を弄せず力で対抗するのならば今度こそ打ち破る。隠し玉を用意しようが、それを乗り越えて終わらせる。

 

そして返答がないのを心配する響と未来がボクのコートを不安そうに握る。

 

だから、ボクは二人の方を向いて言う。

 

「何度も言って、未だ実行出来てはいないけど、今度こそ終わらせる。みんなの為に…この世界を終わらせない為に。信じて欲しい。今度こそアシモフの計画を終わらせる。みんなの望む最良の形で。だから心配しないで。みんなと一緒に帰ってくるから…信じてくれる」

 

ボクは二人へそう言った。何度も言って信じてもらった。だが、何度も失敗している。そんなボクを二人は信じてくれるのか?例え信じて貰えなくてもボクは絶対にやり遂げる。

 

「何度も敗北したって、私は絶対ガンヴォルトさんを信じます。あの人を倒せるのもガンヴォルトさんしかいない…みんなを救えるのはガンヴォルトさんしかいない。それに…最後は絶対ガンヴォルトさんならやり遂げれるから。根拠なんてないですけど、そんな事関係ありません。ガンヴォルトさんならやり遂げられると信じています」

 

響は言った。

 

「私も信じています。絶対に勝ってこの世界を救ってくれるって。何度も救ってくれた様に、今回も救ってくれるって。小さい頃、私を救ってくれた頃から、ガンヴォルトさんと再会して、何度も私の危機を救ってくれたガンヴォルトさんなら出来るって信じられるから」

 

未来もそう言った。

 

ボクはそう言った二人へありがとうと答え、弦十郎へと向き直る。

 

「ガンヴォルト…例え敗北しようとも、私も貴方を信じるしかありません。装者達の持つシンフォギアとは異なる力、第七波動(セブンス)蒼き雷霆(アームドブルー)を持つ貴方を。希望は既に見させて貰いました。誰もなし得なかったアシモフを追い詰めた。貴方ならマリア達を救ってくれると信じられる。だからお願いです…私達も…私達も救ってください」

 

弦十郎の隣にいるナスターシャも頭を下げる。

 

「必ずみんな取り戻す。だからあの子達やマリアの無事を、セレナに救いを願って待っていて」

 

ボクはナスターシャに言う。

 

「俺達も、みんなお前を信じている。今度こそ、この戦いを終わらせてくれると。だから聞かせてくれ。勝算は?」

 

ボクに向けて弦十郎は言った。

 

「確定させなきゃいけないのにそんな事を聞くのは違うでしょ。だけど、勝算なんて可能性を数字では語れない」

 

その言葉を聞いた弦十郎はその言葉を聞きたかったとご満悦だ。

 

「司令!技術部によって通信だけは回復しました!」

 

そして弦十郎はボクに向けで新たな通信機を渡す。

 

「翼はお前が目覚める時間を稼ぐ為にアシモフを足止めしている。だから、声を聞かせてやってくれ。少しでも翼の気力を持たせる為にも、絶望に落とされていようと、希望を持ち、力を与える為にも」

 

そう言われて、ボクは通信機を耳に付けた。

 

「翼、心配かけてごめん。みんな無事だ。返答はいらない。すぐに翼の元に向かう。だからそれまで耐えてくれ。アシモフから身を守ってくれ。そして歌い続けてくれ。ボクが君の元へ辿り着ける様に」

 

ボクはそう言うと弦十郎達に戦場へと向かう事を伝えてコートを翻して出口へと向かう。

 

「行って来い、ガンヴォルト。全てを終わらせる為に」

 

弦十郎の言葉と共に、ボク自身もアシモフを殺し、全てを取り戻す為に戦場へと向かった。

 

◇◇◇◇◇◇

 

「アシモフ!貴様ぁ!」

 

怒りのままボロボロの身体でアシモフを斬りつけようとする翼。だが、アシモフに翼の一撃は当たらない。

 

精神の揺さぶり、ボロボロの身体。その二つが翼の剣を遅く、鈍らせていた。

 

「もう奴以外生きていない。奴も目を覚まし、その現実を目の当たりにして絶望しているだろう」

 

「ふざけるな!アシモフ!貴様は何なんだ!何故そんなにも外道な行動を!」

 

ガンヴォルト以外生きていないと言う現実。信じたくもない現実。

 

信じたくない。信じられない。だが、通信機からの応答がない為にそれが現実なのではないかと思わせてしまう。

 

それを考えない様に剣を振るう。そんな現実から目を背ける様に。

 

「好きなだけ吠えろ。私はただ勝つ為にそうしている。計画の完遂の為にそうしているだけだ」

 

アシモフはそう言う。

 

再びアシモフが反撃に移り、翼を蹴り飛ばす。ボロボロの身体、不安定な精神で避ける事が叶わず、直撃し、更に大きなダメージを受けた。

 

そして地面を転がり、再び地面へと倒れ伏す。

 

ガンヴォルト以外が死んだ。まだ決まった訳じゃない。だが、装者のいない本部にノイズが襲われればどうなるかなど想像が付く。

 

その最悪の考えが翼の身体を蝕んでいく。

 

嘘だと思いたい。そんな事は起こってないと信じたい。だが本部の通信がない為に絶望する。

 

だがそれでも立ちあがろうとする翼。身体はボロボロ。精神も折れかけ。

 

何が翼を突き動かすと言うのか?

 

防人としての意志か?約束か?

 

どちらもだ。

 

防人として国を守ると言う使命があるから、アシモフと言う男止めなければならない。

 

ガンヴォルトに約束したから自分をアシモフに奪われるわけにはいかない。

 

ガンヴォルトが生きている故に、翼はまだ自分の使命を、約束を全うしようと立ち上がる。仲間は居なくなったとしても、世界の危機は変わらない。

 

だからこそ、翼は最後の希望の為に立ち上がる。

 

そんな翼の通信機にその希望たる男の声が耳に届く。

 

『翼、心配かけてごめん。みんな無事だ。返答はいらない。すぐに翼の元に向かう。だからそれまで耐えてくれ。アシモフから身を守ってくれ。そして歌い続けてくれ。ボクが君の元へ辿り着ける様に』

 

聞きたかったガンヴォルトの声。すぐに切れたが、その声と吉報だけでも翼にはかなり救われた。

 

みんなの死という絶望が振り払われた。ガンヴォルトの目覚めという希望がさらに強い光を持った。

 

その短い言葉で、翼にとんでもない活力を与え、表情からも絶望が無くなる。

 

それを怪訝に思うアシモフ。

 

「何がおかしい…まさか、奴か?紛い者か?」

 

「ああ、ガンヴォルトだ。ガンヴォルトが目を覚まし、本部の全員を救った。残念だったわね、アシモフ…貴様の策が無駄になって」

 

「紛い者が…何処までも想定外の事をしてくれる!」

 

翼と違い、怒りを露わにするアシモフ。立場が逆転した。

 

そして気力の戻った翼は剣を杖に立ち上がり、再び剣を構える。

 

だが、構えだけのハリボテ。振るう力が僅かに残るのみでふらふらだ。

 

(ガンヴォルトが目覚めた…あとは時間を稼ぐだけ…そして)

 

ガンヴォルトに居場所がわかる様に歌を歌う。

 

(シアン…そこにいるなら力を貸してくれ…ガンヴォルトに届く様に…ガンヴォルトが辿り着くまで時間を稼げる様に…私に力を…)

 

そして翼は歌を歌う。翼の歌ではなく、シアンの歌を。

 

その歌はかつてシアンが響と未来と共にリディアンで披露した蒼を連想する歌。

 

その歌と呼応する様に、アシモフの胸にあるポケットから光が漏れる。

 

翼の歌に呼応する様に。歌う様に。

 

その歌と共に、翼から蒼いオーラが溢れ出す。

 

それはガンヴォルトがシアンの歌で強化された時の様に。傷が癒されていく。気力が湧いてくる。絶唱によって生み出されたエクスドライブに近い力が湧いてくる。

 

「ッ!貴様も相変わらず邪魔をする様だな、電子の謡精(サイバーディーヴァ)!」

 

胸ポケットを一瞥してアシモフはそう叫んだ。

 

「当たり前だ。この場で貴様の計画に賛同する者などいない。シアンも、私も」

 

そして翼は傷が癒え、力が入る様になった身体で剣を構えた。

 

「もう少し時間を稼がせてもらうぞ。アシモフ」

 

「貴様一人!すぐに終わらせてその口を閉ざさせてやろう!」

 

「一人じゃない!シアンがいる!私達を侮るな!アシモフ!」

 

そしてシアンの力を顕現させた翼は再びアシモフを止める為に奮闘するのであった。

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