後日、改めて響の精密検査の結果を確認という事で二課主要メンバーと響は治療室のような場所に集まっていた。何も知らされず連れてこられたと思われる響は心なしか不安な表情を浮かべている。
「それでは全員集まったという事なので響ちゃんのメディカルチェックの結果発表に移りたいと思います」
いつもながら若干おふざけの入る了子の前置き。主要メンバーは呆れつつも毎回の事なので無視する。了子はそんな事を気にせずに自分でドンドンパフパフーと盛り上げようとするが誰も乗らなかったため、残念そうにしていた。
「はぁー、盛り上げようとしたのに誰も乗らないなんて」
「とにかく説明をしてやってくれ、了子君。響君は盛り上げようとする事よりあれが気になって仕方ないみたいだからな」
弦十郎が響の様子を見ながら了子に伝える。了子も弦十郎に言われて響を見るとそれもそうねと呟き、治療室のモニターに響の精密検査の結果を表示させた。
「メディカルチェックの結果は初めての経験をした負荷は若干残ってるけど、身体に異常は少ししかなかったわよ」
「少しって…」
響は了子の言う、少しと言う部分に引っかかる。多分、響にとってその少しの部分にあの力があると気付いているのだろう。
「貴方にとってはメディカルチェックの結果よりも別の事、あの力の事の方が気になるものね」
そう言うと了子と弦十郎が響にシンフォギアについて説明を始めた。現存する聖遺物の力を特定振幅の波動であるアウフヴァッヘン波を歌の力、フォニックゲインによって覚醒させ生み出される鎧がシンフォギアであり、ノイズと戦う為の力という事を。今、二課の保有しているものは翼の持つアメノハバキリ、現在二課に保管されている奏のガングニールについても。
奏の事が気になった響は了子に質問したが、奏の現状はテレビニュースであった通り、今もなお、意識不明という事を伝えた。その事については響は悲しそうにしたが、奏をよく知る弦十郎達はあいつは必ず眼を覚ますからと響を安心させようと話した。響は眼を覚ます事を信じて、その話題を一旦やめる。弦十郎はそれを見て先程の話の続きを開始した。
「その力を使う事が出来る人の事を我々は適合者と呼んでいる。その適合者が翼と君という訳だ」
「ある程度説明はしたけど何か分からない事があったら質問は何でも受け付けるわよ」
説明を受けた響はどことなく分かってないように頭を悩ませている。
「難しい質問ばかりだから、その子もいきなり理解するのは難しいと思うよ」
「そうだろうね」
「そうだろうと思ったよ」
ボクの言葉に賛同するようにあおいと朔也が言った。了子はそれを聞いて乾いた笑いを上げるが、気を取り直し、自分がこの技術を作り上げた偉人であると覚えといてと響に向けて言った。
「でも…そのシンフォギアって言う物の適合者は私と翼さん、そして奏さんだけと言っていましたが、その…ガンヴォルトさんは違うんですか?ノイズを倒しているから、てっきりその適合者だと思っていたんですけど」
響の質問に対して全員がボクの方に視線を向ける。その質問は自分で答えなさいという事であろう。
「ボクは適合者ではないよ。シンフォギア装者でもないし、聖遺物も持っていない」
そう言ってボクは手から雷を迸らせて響に見せる。
「ボクの力は
手から雷を消すと、響は近付いて恐る恐る手を見始める。その様子を見ている翼がイライラしているのを気付いた響は直ぐに離れてボクに問いかける。
「
響の質問はごもっともだ。ボクは一度全員の顔を見渡す。これから協力してもらう為にもその事について話すべきなのか一度全員に許可を得る為だ。翼以外は全員頷く。翼は話すべきではないと目でこちらに訴え掛けてくる。
「ガンヴォルト、その話はお前個人の問題だと思っている。お前自身が話すべきだと思うなら彼女に教えてやってくれ」
翼を一度見た弦十郎が溜め息を吐くとボクに問いかける。ボクは昔の事もあったため、隠そうと思ったが、信用を得る為にも響に話すと決めた。
「この能力を持っている人は多分、この世界にボク以外だと一人しかいないと思う。この能力、
その言葉を聞いた響はますます分からなそうに頭を悩ませていた。
「ボクはこことは異なる世界の人間であって、いつの間にかこの場所で気が付いた。ファンタジー小説なんかでよくある、異世界と言った方が分かりやすいかもしれない」
響に理解しやすいよう説明をしようとするがそれでもなお、彼女は頭を抱えている。突拍子のない事とは分かっているが、自分でも現状それ以外にあり得るはずがないと腑に落ちないが納得はしている。
「あらあら、あなたの話も難しくて響ちゃんも分かってないみたいじゃない。私にあんなこと言う割には自分だって難しい話してるじゃない。まあ、その事に関しては櫻井理論提唱者であり天才の私にも不明だからどうとも言える立場ではない訳なんだけどね…」
少し茶化したような言い方をするが直ぐに、了子は説明しようがない事に対して研究者として解明出来ないとしんみりと言った。
「その事に関しては、今ボクも了子の言う聖遺物の捜索中だから気にする事はないよ。話が逸れたけど、簡単に纏めるとボクは別世界の人間で、シンフォギアとは別のノイズに対抗する力を持っているという事だよ」
「最後の言葉で何となくは分かりました…でも、ガンヴォルトさん以外にももう一人と言っていましたが、誰なんですか?」
そう言うとボクはシアンの事を思いながら呟くように言った。
「もう一人は未だ行方不明で、この世界の何処かにいるはずのボクの大切な人なんだ…君も二年前のあの場にいたならもしかすると彼女の歌を…声を聴いていたかもしれない」
「あの歌声が…」
響は覚えがあるようで、シアンの歌声を聴いていたようだ。だがあの場にはシアンの姿は見当たらず声のみでボクに問いかけてきた。そして、彼女の言っていた言葉、その真意は不明だが、彼女に起こっている最悪の結末を描いてしまい、その考えを振り払う。
響にある程度質問された事を答えてから、ふと響は最初の質問であった聖遺物について首を傾げていた。
「そういえば、私が適合者という事は分かりましたが…私、奏さんと同じガングニールなんて持っていないんですが、どうして使う事が出来たのでしょう?」
響の質問に対して了子はモニターの画面を切り替える。そこに映し出されたのはレントゲン写真。それは昨日スキャン時に取られた響の物らしい。胸の辺り、ちょうど心臓のある辺りに小さな影が幾つも写っていた。
「その答えはここにあるの」
了子はレントゲン写真の胸の部分に何処からか取り出した指示棒で心臓付近に移る影を指した。
「心臓部分に幾つか写り込んだ影。これを調べさせてもらった結果、二年前の事件でノイズにより破壊されて飛び散った奏ちゃんのガングニールの破片という事が分かったわ。これが響ちゃんがシンフォギアを纏う事が出来た理由よ」
その説明を聞いた響はなるほどと頷く。だが、話を聞いていた翼はショックを受けたように壁に寄りかかり苦悩の表情を浮かべた。そして、翼は急ぎ足で医療室から逃げるように外へ出て行った。
「翼!」
弦十郎は翼に声を掛けるが、それを無視するようにいなくなる。ボクは弦十郎にこの場にいるように伝え、翼の後を追った。
「翼!」
ボクは彼女に呼びかけるが、止まる気配もなく、走ってあの場から遠ざかろうとする。走って追い掛けるボクは翼の肩に手を掛け、止まらせるとこちらに振り向かせるように力を入れた。振り向いた翼の表情は暗く、そして何処となく怒りを孕んでいる。
「なんで…」
翼は表情を変えず、ボクに縋るように叫んだ。
「なんであなたは何も思わないの、ガンヴォルト!あれは…ガングニールは奏だけのギアなのに!誰ともしれない一般人であるあの子がギアを纏っているのになんで誰もその事に疑問すら抱かないの!それに、あなたも行方の分からなくなった人の…姿を見せていない子が二年前のあの時に声を聞いただけでなんでそこまで生きていると信じられるの!」
翼の悲痛の叫び。彼女にとってガングニールとは相棒であった奏だけの物という事を正当化させており、響の持つガングニールは異物であり、本物ではないと思っているのだろう。だが、それだけならまだボクは翼を窘めたかもしれない。しかし、シアンの事まで言われたボクは頭に血が上ってしまう。
「シアンは生きている!ボクの
初めて翼に対して怒りをぶつけてしまったかもしれない。
「でも、あれは奏の!」
「ボク達二課の保有するガングニールは無事だ!奏のギアはここにあるんだ!なぜその事を理解しようとしないんだ!彼女の纏う事の出来る物は奏と同じガングニールだとしても、あれは彼女のギアであり、彼女のガングニールだ!翼の言う事は間違っている!」
翼は未だ納得していない様子。そしてボクが突き放すような言い方をしてしまったためか、彼女の瞳から涙が浮かび上がる。
「なんで…なんであなたも奏を否定するの!あなたなら理解して貰えると思っていたのに!」
そう叫び、翼はボクの手を振り払い、何処かに駆け出して行ってしまった。ボクは彼女の去って行く後を追おうとするが、さらに翼を傷付けてしまうのではないかと躊躇ってしまう。
「あの…」
いつの間にか近くに来ていた響が先程の様子を見ていたのか申し訳なさそうに声を掛けてきた。
「君は…もう話は済んだんだね。ごめんね。見苦しいところを見せて」
「こっちもすみません。聞くつもりではなかったんですけど…」
響は申し訳なさそうに謝る。その響の後を追い掛けてきた弦十郎や了子と合流する。
「ガンヴォルト、翼はどうした?」
「ごめん、弦十郎。翼の事を任してくれたのに彼女の説得に失敗した。でも、いくら翼でも言って良い事と悪い事ぐらい理解していると思っていたのに…シアンの事を否定されて頭に血が上ってしまって」
「そうか…分かった。翼の事は後は俺達がフォローしておく」
弦十郎はやれやれと言った風に溜め息を吐いた。了子はガンヴォルトに対して傷付いた女の子に逆上して怒ったらそれは傷付くわよ、特に翼ちゃんはあなたに対してはね、と何処かで含みのある言い方でボクを窘めた。
「反省してるよ。それで、君は自分がこれからどうしようか決めたのかい?」
ボクは響に対して問いかける。
「はい!私、翼さんやガンヴォルトさん達と一緒に戦います!慣れない身ではありますが精一杯頑張らせて頂きます!」
「分かった、これからよろしくね」
そう言ってボクは響に手を出す。その手を響は握り握手を交わした。
「よろしくお願いします!昨日挨拶しそびれまして、ガンヴォルトさんにしていませんでしたので自己紹介です。私、立花響って言います!」
「よろしくね、響。ボクは知っていると思うけどガンヴォルトだ」
そう言って握った手を離す。
「でも、この戦いに関わる事は自分の命を危険に晒す事と同義だという事だけは忘れないで」
「分かりました!」
響が元気の良い返事をするのを見て、本当に分かっているのか不安になる。
その時、二課の廊下内にアラームが鳴り響く。それと同時にボクや弦十郎、オペレーターである朔也とあおいの通信端末に連絡が入る。
ノイズが現れたらしく、朔也とあおいは持参していたパソコンを開き、二課のネットワークにアクセスすると情報を確認してボクに見せてくる。
「ノイズの出現位置を特定しました!距離は地上、リディアンの近辺!」
「分かった!ボクが現場に急行する!一課にも本件を通達後現場に急行する事を伝えてくれ!」
そう言うとボクはダートリーダーを取り出すとノイズを殲滅するため、現場へと走り出した。