戦姫絶唱シンフォギアAB   作:株式会社の平社員

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目を覚ました調の初めて見た光景は爆炎が上る大地。

 

爆心地の真ん中から少し離れてはいるが爆風と熱気が調へと襲いかかって来る。

 

だがその爆風も熱気も何者かが調を守るように抱き抱えられ、そしてそれと同時に現れた雷撃の膜が飛来する砂利などを破壊していく。

 

こんな芸当が出来る人など二人しか居ない。だが、一人は敵対しており、切歌を操り、悲劇を起こした元凶。だから、このように助けようとする人は一人しか浮かばない。

 

この戦いに雷撃()を齎す希望であり、フィーネが望んだ未来を実現させようとする人物。

 

そして爆風と熱気が収まり、雷撃の膜がが消えるとともに抱き抱えられていた調から離れ、その姿を見て安堵する。

 

「また…助けられた…ありがとう…ガンヴォルト」

 

調の前に現れたのはガンヴォルト。ガンヴォルトは調を見て、隣に視線を向けて言う。

 

「ごめん…ボクがあの時にアシモフを殺せていたら…君達にこんな悲しい事をさせなくて済んだのに…でも…ありがとう…二人とも生きていてくれて…ありがとう…君の声でボクは君達を失わずに済んだ…ナスターシャ博士…セレナとの約束を守らせてくれて…」

 

その言葉に調も隣を向く。それと同時に自身に強く抱きつく温かな存在を認識する。

 

「調…本当に…本当によかったデス…生きていてくれて…」

 

「き…切ちゃん…」

 

フィーネの力が、調の歌の力が操られた切歌を取り戻し、また大好きな切歌に戻ってくれた事を認識した調は切歌と同様に涙を流し、互いの無事を安堵した。

 

「二人が助かった事は喜ばしい事だけどまだ泣いている場合じゃない。まだマリアが、奏が、翼が、クリスがいる。全ての元凶、アシモフが残っている。やるべき事は残っている」

 

だがそんな状況に水を差すようにガンヴォルトが言った。

 

水を差すタイミングじゃないだろうと誰もが思うだろうが、この場には三人しかいない。そしてガンヴォルトの言う通り、まだ終わっていない。切歌は無事だとしてもまだマリアが救えていない。

 

だから切歌と調は再会の涙を拭い、ガンヴォルトの方に向く。

 

「ありがとうデス…ガンヴォルト…調とフィーネに救ってもらって…貴方に救ってもらっても…まだマリアが捕まっている…アシモフがまだ残っている…」

 

「うん…助け出さなきゃいけない人達は残っている…マリアも…あの人達も…だから私達もその為に何をすればいい?」

 

二人はガンヴォルトに問う。自分達は何をやるべきなのかを。自分達がどう行動するべきなのかを。

 

「君達には一度本部に戻ってもらう…ウェル博士の持つソロモンの杖…あれを取り戻さなければ、本部にまた被害が出てしまう。今はボクが雷撃鱗を本部に展開しているから問題はない。でもボクから離れた本部の雷撃鱗はボクがフロンティア中央に行く度に弱まっている。それにアシモフと戦う時、本部に回している雷撃鱗の力も必要だ。だから、ソロモンの杖を奪還まで、君達は一度本部に戻ってほしい…君達の手でマリアの奪還をしたいだろうけど、誰ももう死なせたくはないんだ」

 

ガンヴォルトはそう言った。マリアを自分達の手で救いたいのを承知しているが、本部にはマリアと同じくらいに大切なナスターシャが残っている。

 

「でも…」

 

マリアも救いたい。ナスターシャも。セレナをあの男の手から。自分達の手で。だが、自分達ではあの男に手も足も出ない。だからこそ迷う。

 

だが、それでも切歌も、調もガンヴォルトに言った。

 

「分かった…マリアを…セレナを…救って…」

 

絞り出すように。本当は自分達の手で救いたい。だがその過程で自分達が、どちらか片方でも欠けてはならない。だからこそマリアを、セレナを救い出す事をガンヴォルトに託す。

 

自分達が救えないとしても目の前のガンヴォルトならばその可能性を実現出来ると信じられるから。数々の敗走を乗り越え、アシモフに一度敗北を突き付けたからこそ、願いを託した。

 

「勿論だ。必ず助けてみせる。あの地獄から。アシモフとウェルの手から。必ずだ。君達の家族を必ず取り戻す」

 

ガンヴォルトはそう言った。

 

「絶対デスよ!必ず!」

 

切歌はそう言ってナスターシャを、二課本部を救うべく、ガンヴォルトが見せた雷撃の軌跡を辿り本部へと駆け出す。

 

調もそれに倣うように、駆け出そうとする。

 

だがその前にガンヴォルトへと伝えなければならないことがある。ガンヴォルトへと駆け出す前に伝えようと声を出そうとした時、ガンヴォルトも同時に調へと声を掛けた。

 

「調…フィーネは…」

 

それはフィーネの事。本部にいる者からその情報を得ていたのだろう。ガンヴォルトは調の中にいるフィーネが現れない事に何処か一抹の不安を抱えながらそう言った。

 

「…フィーネは…フィーネは…消滅した…私を守って…切ちゃんを救って…」

 

その言葉にガンヴォルトは表情を歪めた。その理由は調も理解している。ガンヴォルトに託した未来。それを見せると誓った約束。

 

それはフィーネが消滅と共に守れなくなった事を意味する。

 

拳を硬く握り悔しそうにするガンヴォルト。

 

だが、そんなガンヴォルトに調は言った。

 

「だけど…フィーネが貴方に託した意志は残ってる…私が…消えていくフィーネの願いを私が受け継いだ…貴方が…ガンヴォルトが望む理想を私の目で見届けるのが…フィーネとの約束…例え、フィーネが居なくなってしまっても意志を、願いを受け取った。だから…フィーネの代わりに私が見届ける。それがフィーネに…恩人に託された意志だから…約束だから…だから…掴み取って。この戦いの勝利を。そしてガンヴォルトが望んだ理想を私が見届けさせて。フィーネの願いを叶えて」

 

調はガンヴォルトに向けて言った。フィーネに託された意思を受け継いだ事を。そしてそれがフィーネの願いだから。

 

その言葉を受けたガンヴォルトは硬く握った拳が緩んだ。

 

「…分かった…それがフィーネの願いなら叶えなきゃならない。託された未来を掴み取らなきゃならない。フィーネの代わりに…その未来を君に見届けて欲しい…その目で見た物がフィーネに届く様に…」

 

ガンヴォルトは調へとそう言った。

 

それはフィーネ本人から受け継いだ者しか分からないだろう。

 

フィーネに救われた二人。ガンヴォルトは紫電との戦闘での手助けを、そして調はフィーネにより救われた。だからこそそれをやり遂げなければならないと。

 

「…頼んだよ…みんなを」

 

「ガンヴォルトも。マリアを必ず、セレナを必ず助け出して。そしてあの人達を。あの人達の手から必ず。私だけじゃなくみんなが望んでいると思っているから」

 

そう言って調は切歌に追いつく為に走り出した。

 

「みんなそれを望んでいるさ…ありがとう二人とも」

 

そう言ったガンヴォルトは二人を見送って空を見上げる。

 

「フィーネ…自分が託したのに…望んだのに…それを自身の目で見届けられない事は辛いと思う…だけど、貴方はボクに未来を託した…ボクが望み未来を…そして貴方は自身を犠牲にあの子にそれを託した…だからボクはそれをあの子を通して貴方に見せるよ…ボクが望み、貴方が賛同した未来を…」

 

そう言ってガンヴォルトは視線をフロンティア中央へと向き直る。

 

「ありがとう…フィーネ…貴方の託した、ボク自身も望む未来を必ず掴み取るよ…そして調の目を通して見届けられる事を信じるよ…それがあの子達を救ってくれた貴方へボクが出来る事だから…」

 

ガンヴォルトはそう言って更に加速してフロンティア中央へと駆け出した。

 

◇◇◇◇◇◇

 

そしてガンヴォルトが切歌と調を爆発の窮地から救った同じ時、更に中央の近くでは地形が変形する程の激戦が繰り広げられていた。

 

新たなる力を、シアンの歌の力によるシンフォギアの強化を受けた奏、そしてそれに対抗するクリス。

 

「クリス!正気に戻りやがれ!」

 

振るう槍がクリスの打ち出す弾丸を弾き、距離を詰めていく。

 

だがクリスはそれをさせまいと更に弾丸を打ち出して距離を一定に保っていた。

 

何度目か分からない攻防。膠着状態が続いている。だが、それでも奏はクリスを助け出す為に何度でも声を掛け続けてクリスへと接近する。

 

「いつまであの外道にいいように使われてやがる!いい加減目を覚ませ!クリス!」

 

何度目か分からない問い掛け。だが依然として帰ってくるのは弾丸と沈黙。

 

しかし、それでも奏はクリスへと声を掛け続ける。何度でも声が届かない訳がない。歌が心に響かない訳がない。だからこそ声を掛け続ける。

 

かつて届いたガンヴォルトの声が、シアンが届けてくれた声が信じる力となっている。

 

それに呼応するように奏の纏うシンフォギアがどんどんと熱を帯びていく。シアンの歌がシンフォギアを更なる強化を齎す。

 

振るう槍に力が篭る。踏み込む足が力強くなる。クリスの放つ弾丸が奏の目からはどんどんと遅く感じるようになる。

 

シアンの歌が齎した奇跡。奏がクリスを救いたいと思う気持ちに呼応する様に、シンフォギアがそれに応えてくれる。

 

だが、それでも奏は更に歌に熱を込める。

 

今届かないのなら届く様に声を張れ。まだ足りないのなら振り絞れ。クリスを取り戻す為に奏は自身の全てを歌で曝け出す様に力強く歌う。

 

そうした事により、今まで停滞していた戦況が一気に傾き始める。

 

距離を詰められない様に多種多様な銃を出現させていたクリス。だが、奏はそれに構わずただ真っ直ぐにクリスとの距離を詰めて行く。

 

今までと同じ様に。だが、そんな行動をクリスは許すはずも無く、弾幕に優れたガトリングに切り替えて、更には腰から大量のミサイルを出現させる。

 

ケリを付けなければならないと判断したのか。殺せると確信したのかは分からない。

 

だが、奏が歌を歌い続け、アシモフの洗脳による行動がそうせざるを得ないと判断したのだろう。

 

クリスは間髪入れずにそのままガトリングを、ミサイルを奏へと向けて一斉掃射する。

 

奏へと向けて降り注ぐ弾丸の雨。そして一斉掃射され一発一発が確実に奏の命を刈り取ろうとするミサイルの雨。

 

その全てで必殺。奏を殺す為の連撃が降り注ぐ。

 

奏はそれを回避しようとはせず、ただひたすら向かって行く様に駆け出した。

 

死ぬ気とも思える行動。だが、それでも奏の眼は死んでおらず、ただ一つの思いを持って突き進む。

 

クリスを救いたい。

 

その一心が、奏の思いが届いた様にシンフォギアが、アームドギアが応えた。

 

槍から吹き荒れる旋風。それと共に力が解放された様に奏の持つ槍が更なる変化を遂げた。

 

奏の槍が雷撃を帯び、力が解放された様に各部分が開き、そこから旋風が生み出される。

 

それは撃槍ガングニールの新たなる変化。

 

シアンの歌の力、そしてクリスを救いたいと言う思いが齎した結果、新たな力をガングニールが発現させたのだ。

 

槍から吐き出された旋風が地面を抉り、その抉られた地面から巻き上げられた砂塵が砂嵐を発生させ、奏へと向かうミサイルを次々と撃ち落として行く。

 

そして振るう槍が奏へと向けられた弾丸を一撃で全てを吹き飛ばす。

 

「ッ!?」

 

初めて見せた操られたクリスの焦りの表情。その一瞬で更にクリスとの距離を詰める。

 

だが、それでもクリスは反撃をする。その手にはガトリングでは無く、一丁の大きなライフルを奏へと向けられていた。

 

そして奏へと向けて放たれた一撃。その一撃は既にエネルギーを充填させていた様に強力な物。

 

その強力な一撃は地面を抉り、そして奏へ向けて一直線で奏を貫いて大きな爆発を起こした。

 

先程の奏の巻き上げた砂塵と混じり、辺りが見えぬ程の砂埃が舞い散る。

 

全てが終わったかの様に思われたほんの少しの沈黙。

 

だが、先程の一撃を受けた奏がクリスの目の前へ砂埃を吹き飛ばし現れた。

 

その身体は先程の一撃を受けた為にシンフォギアはボロボロとなり、所々が砕けている。

 

だが奏の目は、身体はそんな状態でもダメージを感じさせない様な動きを見せた。

 

それはシンフォギアに感応して起こしたシアンの歌の力。シアンの歌の力が、奏のダメージを動かせるまでに回復させたのだ。

 

「いい加減目を覚ませよ!クリス!帰るぞ!あの場所に!ガンヴォルトと私があの家に!」

 

そう叫び、歌が、思いが込められた拳が、クリスの顔を覆うバイザーに向けて振り抜かれた。

 

そして振り抜かれた拳はクリスのバイザーを完全に破壊して、そのままクリスを吹き飛ばした。

 

勢いよく殴ったためか、そのままクリスは数メートル先の地面へと落ち、滑る様に地面を転がって行く。

 

「悪いな…手加減出来なくて…でもこれで…いい加減…目が覚めたかよ…クリス…」

 

奏はもう一方に持つ地面へと突き刺し、槍を杖代わりにして吹き飛ばしたクリスの方を見て、そう呟くのであった。

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