未来や切歌と同様に暗い空間の中に鎖に繋がれ、身動きの取れなくなったクリス。
だが、クリスはその中に居ながら身動きを取らずただずっと動かずにいた。
傍観に呈しているのか?はたまた、救われない事を悟り、諦めているのか?
違う。動かずにいるクリスは、クリスの目にはそんな色は浮かんでいない。
救いがあると知っているから機を待っている。助けに来る仲間が必ず居ると知っているから希望を失ってない。目はまだ光を失っていない。
ずっと一人ぼっちであったあの時に、こんな事があればその時は何もかも諦めていただろう。
だが、今は違う。もう一人じゃ無い。
自分の初めての友達であり、こんな自分にも寄り添ってくれた大事な友達、未来。
騒がしくあり、すぐに調子に乗るが、自分の決めた正義を貫き、敵であった自分にも手を差し伸べてくれた響。
堅物な所はあり、気難しい事もあるが、それでも仲間と認識してくれ、何かと世話を焼き、助けてくれた翼。
同居人であり、自身と同じ痛みを知っており、だからこそ寂しさを理解して、気を遣ってくれる、年上の同級生である奏。
響同様騒がしく、顔を合わせては歪みあっては居るが、自身を救い、他のメンバー共にある一人の鈍さに辟易しながらも楽しい日常をくれていた、装者にしか見えないシアン。
それにこんな自分を受け入れてくれた機動二課のみんな。
そして、ガンヴォルト。
自身を救い、暖かい場所を、帰る場所をかけがえの無い大切な時間をくれた恩人であり、想い人。何度も危機を救ってくれた、どんな状況に陥っても立ち上がって絶望を切り開いてくれた。つい最近は絶望に苛まれていたが、自分達の声で立ち上がり、また世界の為に、アシモフによって訪れようとする終焉を止める為に再び舞い戻ってきた。
だからクリスは諦めていない。
もう一人では無い。クリスには沢山の信頼出来る仲間が居る。救い出そうとする仲間が居る。だから絶望なんてしない。
「アシモフ…あんたが私を操ろうが、絶対にいい様にはならないんだよ…私はもう一人じゃない…フィーネにいい様に使われていた時の私じゃないんだよ…こんな鎖じゃ私は繋ぎとめれない。こんな強制を促す様なもので私の繋がりは解けないんだよ。こんな檻に閉じ込めたって無駄なんだよ。私にはこんなチンケな檻を壊して出してくれる頼もしい奴等が居るからな」
アシモフには聞こえないであろう。だが、それでもクリスは笑みを零してそう呟いた。
だが、それに反応する様にクリスを縛る鎖に力が宿り、クリスを更にキツく縛り上げる。
呻き声を上げ、苦しそうにする。
だがそれでもクリスは笑みを崩さない。
「絶対にあんたの思い通りの展開にはなりはしないんだよ!」
そう叫ぶと同時に聞こえる、誰かの歌。聞いたことのないフレーズ。知らない歌。だが、その歌の声の主は知っている。歌の内容は知らないが、その歌に込められた力強さが誰が歌っていた曲かを知らせてくれる。
奏の歌声だ。そして歌う歌はシアンの歌。聞く人の心に響く装者達の歌と同じ、聞く人に力を与える暖かい
クリスを縛り苦しめる鎖の力を弱め、クリスの精神へと力を与える歌。閉じ込める檻を外側より壊そうとする力。
暗い空間に雷撃が迸り、蒼く照らし出す。
だが、それを拒む様に蒼黒い雷撃が光り、再びクリスを縛る鎖が再び力が込められる。
「やはり邪魔をするか…
そして聞こえてくるアシモフの声。本物では無い。洗脳によるクリスに施したアシモフの
鎖に迸る雷撃がその歌は掻き消そうと更に鎖を出現させ、クリスを縛り上げていく。
「だが、雪音クリスを渡す訳にはいかない。風鳴翼同様に必要な
その声と共に蒼黒い雷撃が蒼き光をか細くしていき、檻を更に強化する様に完全に光を遮断していく。
救出を無意味にしていくドス黒い悪。全てを無に変える雷撃。
しかし、クリスそんな中でも力の限りアシモフの声に向けて叫んだ。
「何が渡さないだ…何が
歌の奇跡を知っているから、信じているから、アシモフのこのドス黒い感情などと比べものにならない思いがある事を叫んだ。
「そうだな…歌に奇跡があるのは私も知っているさ。だが、紛い者と力だけを持った
アシモフの声はクリスの言葉を嘲笑うかの様にそう言った。
「そう思っているからこそ、あんたは足元を掬われる…言っただろ、舐めんなって…シアンの…私達の信じる歌の奇跡をそう言うお前にはな」
クリスはまるでこの後何が起こるか分かっているとばかりにアシモフに向けて言った。
「ッ!?」
その言葉と共にアシモフの声は驚愕を帯びたのだ。
それは先程完全に押さえ込んだ蒼き光が暗雲を貫いて再び差し込んだからだ。そしてそれと共に檻を砕くほどの強力な衝撃。
その衝撃はクリスを縛る鎖を全て吹き飛ばす。
「何が!?」
あまりの衝撃にアシモフの鎖に込めた力が弱まる。
それを振り払う様にクリスはその鎖を振り解いた。
「ッ!?貴様!」
アシモフの怒声が響く。だがクリスはそれに恐怖など微塵も抱かない。
「言ったろ。歌の力を舐めるなって」
クリスは勝ち誇った笑みを浮かべそう言った。クリスを縛る鎖はもう無い。もう自由だと言うばかりに。
「させん!」
だが、アシモフの声が響く共に、再びクリスを捕らえようと鎖が出現する。
だが、今度は空間ごと揺らす大きな衝撃。
その衝撃で鎖は完全に消え去っていく。そしてそれと共に檻が壊れ、クリスを縛る全てが崩される。
「言っただろ、あんたの思い通りには行かないって」
その言葉と共にアシモフによって施され、存在していたアシモフの残滓が消えていく。
「全く…その通りだ」
消えゆく残滓は憎しみを込めた言葉でそう言った。
「だが、ここでの話だ。結末は変わらない。何があろうと、何が起きようと。私を止める事は出来ない」
アシモフの声はそう言い残すとクリスの精神世界から完全に消え去っていった。
「ああ、結末は変わらない。だが、アシモフ。テメェが思い描く結末じゃ無い。私達が望む未来がだ」
虚空へと向けてクリスはそう言った。
そしてクリスは背後から溢れる光へと向けて歩き出す。
「まだ終わっちゃいないからな…私のやるべき事も。それにいい加減に目を覚まさねぇと私を叩き起こしたあいつがもう一発入れてくるからな」
そして光の中へ入ると共に囚われていた意識が本来の肉体へと戻るなんとも言えない感覚がクリスを包み込んでいくのであった。
◇◇◇◇◇◇
そして浮上した意識がクリスの身体に宿る。
だが同時に襲うは鈍い痛みが顔に走る。
シンフォギアを纏っている為にアザなどにはなっていない。だが、それでも痛みだけは未だ残り続けている。
それと共に聞こえる声。
「悪いな…手加減出来なくて…でもこれで…いい加減…目が覚めたかよ…クリス…」
奏の声だ。
囚われた時から聞こえていたからクリスは知っている。奏の歌が、シアンの曲が操られていたクリスを救い出してくれたのだ。
救ってくれた事に感謝を、そして目を覚させるためとはいえ、派手な一撃を食らわせてくれた事に悪態の一つを吐こうとクリスは立ちあがろうとする。
だが、クリスは自身の首元から走る通信にそれを制止させた。
『いつまで君は手こずっているんだ!雪音クリス!』
首元、そこにあるのは見た事のある切歌と調に付けられていた爆弾の取り付けられていた首輪。そしてそこから流れるはアシモフ同様、この世界を終焉へと導こうとするウェルの声。
その声にイラつきながらもウェルが言った。
『ガンヴォルトも復活して出来損ない達も居なくなった!もうこっちが切れる手札はもう君くらいしか居ない!だから急いで目の前の奴を殺せ!ガンヴォルトの前に奴の屍を晒せ!そして奴はアッシュが殺すと言ったけどもう我慢ならない!ガンヴォルトは僕が殺す!ソロモンの杖で!ノイズを使って!君の命を盾に使えばそれが可能かもしれない!僕がそっちに向かう!』
そう通信が入った。
その一つにはクリスにとって、いや、少し離れている奏や翼にとっての吉報。
ガンヴォルトの復活。クリスは何故かは知らないがガンヴォルトがこちらへと向かってきている事に対して安堵と嬉しさが込み上げる。だが、それを塗りつぶす様な後に続く言葉。
奏を殺す?ガンヴォルトを殺す?ふざけた事を抜かすウェルにクリスは怒りを覚える。
クリスにとって我慢にならない言葉。怒りのあまり首につけられた首輪に向けて怒声を上げそうになる。
だが、それを堪え、千載一遇のチャンスと捉える。
ウェルがこちらへと向かってきている。ソロモンの杖を持って。
クリスにとって止めなければならない、自身が復活させてしまった忌まわしき完全聖遺物を取り戻すチャンスが訪れようとしているからだ。
それにガンヴォルト。こちらへと向かって来ている大きな希望。この戦いに於いて戦況を傾ける大きなチャンス。
いつ此方へと来るか分からないウェルとガンヴォルト。
ウェルに洗脳が解けた事を悟られず、ウェルとガンヴォルトが来るまでの時間を稼ぐ事をクリスは決める。
奏には申し訳ないと思う。だが、このチャンスを物にしなければアシモフの計画を、世界の終焉を防ぐ事が難しくなるかもしれない。
だからクリスはただ操られている振りをしながら戦況を膠着状態に持ち込もうとする。
そうして操られた振りをする事を決め、立ち上がり、再び助けてくれた奏の方を向く。
だが、その覚悟もすぐに揺らいでしまう。
離れたところに立つ奏はボロボロであり、槍を杖代わりにしてやっとの状況であったからだ。
「ッ!」
操られていたとはいえ、自身にとって大切な人を追い込みさらに傷つく様な状況を続けてしまうのが正しいのかと迷いが生まれる。
このまま操られていない事を伝えればいいのだろうが、そうなれば先ほどの考えは水の泡。
だが、クリスにとって奏は大切な友人。だからこそ、戸惑ってしまう。
ウェルが今の状況を見ているかもしれない。このまま膠着状態が続けばそれも怪しまれる。洗脳が解けた事を悟られる可能性がある。
どうすればいいのか。
考えても答えが出ない。
「クリス!戻ったのか!?おい!答えろよ!」
そんなクリスへと向けて奏が声を掛ける。
戻った。助かった。そう伝えたい。だが、そうすればウェルに悟られる。
どうすればいいか分からない。ただ少しの間、風の音のみがこの場を支配する。
このままではいけない。だからクリスは口だけを動かした。銃を再び構えながら。
奏にその意図が伝わる様に。
奏…信じてくれと…。
声に出さずただ何も言わずに伝わると信じて。
「…どうやらまだ少し足りないみたいだな…だったら…もう一発食らわせて目を覚まさせてやるよ!」
奏はクリスが銃を構えるのを見てそう叫んだ。
そしてその後に奏の口が動いた。
信じるさ…クリス。
奏とクリス。ガンヴォルトと翼の様に長い時間を過ごしていない。翼と奏の様に長い時間を過ごしていない。
だが、奏もクリスも同じ境遇。同じ痛みを知る者同士。そして同じ家で濃い時間を過ごしていたからこそ、伝わる事がある。
そして再度、奏とクリスはぶつかり合った。
クリスが何をしようとしているか知らない奏だが、何かそれに意図があり、それが希望の光を更に強める事を信じて。