スイッチが押された。それは後に判明する起爆スイッチ。
そしてその言葉と共に死を覚悟した。起爆が掛かった瞬間、もうクリスに逃げ場などありはしない。そしてその近くにいる奏にももう逃れる術などありはしない。ラグと呼べる僅かな時間。何も為せないことに悔いる事も、悲しみに浸る事も出来ない。
何も為せぬまま、一瞬で終わる命。
だが、それよりも早く、一筋の蒼き雷が迸ると共に、クリスの首につけられた爆弾が一瞬にも満たぬ時間で外される。そしてその刹那の後には爆発が起きた。
だが、爆発が起きたがクリスと奏には痛みよりも暖かい何かに抱き止められた。
そして爆風から二人を守る様に現れた誰かは雷撃の膜を展開して二人を抱きながら言う。爆風で聞こえづらい筈なのに。二人にとってとても暖かくて、優しい声がはっきりと聞こえた。
「よく頑張った…奏。よくクリスを戻してくれた…。クリスもだ…よくアシモフの呪縛から戻って来てくれた…ありがとう…君達も生きていてくれて…本当に良かった」
爆風にさらされながらも二人にとってとても大切な人の声が聞こえる。耳に響く。心に響く。
どんな時にも必ず駆けつけて救ってくれる二人の英雄の姿。
そしてその言葉に二人は強く抱き返す。
「良かった…起きてくれて…ガンヴォルトが起きている事はあいつが言ってたから知ってたけど…こんなタイミングに来るなんて…」
奏が目に涙を浮かべながら奏は助けに来てくれたガンヴォルトに更に強く抱き付く。絶望から解放される様に、舞い降りた
「ッ…なんでお前はいつも良いタイミングで来すぎだろ…こんな事ばっか起こすから…お前から離れたく無くないって思っちまうだろうが……」
クリスは前と同様に爆発から助けられた事もあり、奏同様にガンヴォルトに強く抱き付いた。
ガンヴォルトは二人をただ優しく抱きしめ、爆風にさらされながらも二人の無事を喜んでいた。
だが、優しく抱き締める腕とは違い、二人のボロボロの姿を見て怒りを露わにする。
「よく頑張った…後は任せてくれ…君達をこんな目に合わせた人を…ウェル博士を止めるから…」
だが、その言葉に二人はダメだと言う。
「ダメだ!これは私達がやらなきゃいけないんだ!」
「ああ。ここは…こいつと…奏と私がやる。ソロモンの杖…あれは私の罪だ…それにあいつは私達がやらなきゃいけないんだ。あいつは…あいつは私達にとって言っちゃいけねぇ事を言った…私達の居場所を…アシモフ同様に私達に向けて奪うと宣言しやがった!」
クリスも奏もウェルは自分達がやると言った。
「…何を言ったか分からないけど…二人にとってそれは自分がやらなきゃならないと思えるほどの事かい?」
ガンヴォルトは少し考えて二人に向けてそう言った。
その言葉に無言で頷く二人。自身がやれば確実、そう考えていたが、二人の思いはウェルを確実に倒せると感じさせる目をしていた。
「分かった…二人に任せる…ボクはそれを見届ける…だけど…すぐに終わらせられるかい?」
ガンヴォルトはそう言った。奏とクリスも分かっている。ガンヴォルトはまだやるべき事がある。そして未だ戦っているアシモフと翼の元へと向かわなければならないから。
だからすぐに終わらせられるかを問うたのだ。
その事を知らなくても、翼の事、アシモフの事だろうと分かっている二人はその言葉に頷く。
「…分かった。二人に任せる…だから君達の手で終わらせてくれ。奏とクリス…君達の手であの人を」
ガンヴォルトは二人に向けてそう言った。そしてガンヴォルトの言葉と共に爆風も収まり、黒煙が舞い、その奥から聞こえる声に応える様に立ち上がった。
そして奏とクリスはガンヴォルトが任せた事を遂行する為にチャンスを伺うのであった。すぐに来るチャンスを。ガンヴォルトにウェルとソロモンの杖の行方を見届けてもらうべく。
◇◇◇◇◇◇
「これで終わりですよ!僕に歯向かうからこんな目に遭うんですよ!英雄になるこの僕に!」
ウェルは爆風に煽られながらもそう叫んだ。二人の装者を殺したことを確信して。
もう邪魔者はこの場には存在しない。だが、向かってきているガンヴォルトに絶望を与える準備は出来た。死体が焼けたとして原型をとどめていないとしても、この場にある死体は装者以外あり得ない為に、必ず信じるだろう。
殺す準備は整っている。ガンヴォルトを殺し、ウェルが英雄になる
かつて誰もが否定した夢が現実になろうとしている。ウェルの望んでいた夢がもうすぐそこまで来ている。
「さぁ!早く来なさい!ガンヴォルト!僕の英雄の礎になる為に!僕の
止まらないにやけた表情で叫ぶ。
そしてその声に応える様に今のウェルにとって最高に会いたかった人物の声が爆発した先から聞こえた。
「もう来ているよ。ウェル博士」
その声にウェルは本当に堪らなく嬉しそうな表情を浮かべた。
「来ましたか!ガンヴォルトォ!僕達の計画を邪魔する大罪人!僕達の英雄となる道を邪魔する極悪人!」
そして未だ黒い煙が舞う爆心地へと向けて叫んだ。
会いたかった。殺したかった。
それがようやくこの場で報われる。この場でようやく完全なる詰みとなる王手をかけられる。その思いがやまないウェルは黒煙の先に存在するガンヴォルトへと再度叫ぶ。
「アッシュがいない今!僕が貴方を殺してあげましょう!」
「ボクを殺す?それは不可能だ。貴方にそれは叶わない。それにボクは急いでいるんだ。翼の元に、アシモフの元に向かわなきゃ行けない」
煙の向こうにいると思われるガンヴォルトがそう言った。
「アッシュの元に向かう!?無理ですね!貴方はまだ見えぬ状況だからそんなことを言えるんですよ!この黒煙が何なのか分からないのですか!?この場に何故僕が居るのか分からないのですか!?何か気付かないんですか!?」
ウェルはガンヴォルトの声のする方向へと叫んだ。
「何が言いたい?」
「殺したんですよ!装者を!天羽奏を!雪音クリスを!この場で!嘘だと思うでしょうが本当なんですよ!アッシュが雪音クリスに付けていた爆弾!Anti_LiNKERを使い!シンフォギアを纏う事さえ出来なくなった二人を!
ウェルはガンヴォルトに向けて叫んだ。だが、ガンヴォルトは二人の死を知ったのに対して焦りも声の震えも感じられなかった。
「二人を殺した?そんな事あり得ない」
「嘘じゃありませんよ!僕がアッシュから預かった起爆装置で!二人まとめて殺してあげました!信じられないのなら黒煙を吹き飛ばせば良い!そうすれば嫌でも直視する事になるでしょう!アッシュが今まで君に与えていた様に!今度は僕が貴方に絶望を与えましょう!二人の装者の死を持って!二人の装者の死体を見せて!」
ウェルはそう叫んだ。
焦りは無いとしても見えてないから信じられないのだろう。ならば黒煙の中を見せて絶望しろ。
その中を見て焦りを絶望に変えよう。
そして黒煙が上から僅かづつ収まっていく。そして視認する事が出来るようになったガンヴォルト。だが、その表情は今まで同様に決意とまだ希望を持っている様な目がウェルの目に映った。
その表情にイラつかされる。だがもう少しの辛抱だ。この黒煙が晴れれば全てがウェルの思い通りになる。希望を持った目を絶望に染められる。
だからこそ、イラつきながらもその歓喜の瞬間までにやけ面が収まらなかった。
だが、ガンヴォルトはそんなウェルに向けて言う。
「黒煙が晴れても何も無いよ。そんな事は絶対に有り得ない」
「そうでしょうか!?ですが絶対という貴方に絶望をあげましょう!あるのは人であった物!貴方が大切にしている装者の二人だった物!信じたいのでしょうが残念!そこにある物が事実!晴れたそこにある物が現実!幾ら否定しようが変わらない現実が今この場にはあるんですよ!」
「そう言う事じゃ無いよ。ウェル博士。だったらボクも貴方同様に言うよ。何故ボクがここに居ると思う?それにボクが立つ場所が何故分からない」
ガンヴォルトはそう言った。そしてウェルもガンヴォルトが立つ場所が、黒煙の奥ではなく、爆心地であると言う事に気付いた。
「まさか…まさか…まさか!そんな都合がいいことあってたまるか!そんな事あってたまるか!外そうとすれば爆発するんだぞ!そうアッシュにプログラムされているんだ!そんな貴方如きが爆発が起きる前にそんな奇跡が怒ったなんてあってたまるか!」
ガンヴォルトの言葉にウェルは嘘であって欲しいとそう願った。だがウェルの言葉を無常にガンヴォルトが切り捨てる。
「アシモフがクリスに付けた爆弾。外そうとすれば爆発するのは知っている。でも覚えてないのかい?今までの事を。海上の戦闘での事を。その時同じ様にアシモフによって切歌と調につけられた爆弾を。あれを外したのを」
その言葉にウェルは苦虫を噛み潰したように表情を歪めた。
「確かに外そうとすれば爆発される様にプログラムされていた。だけど、電子機器のプログラムならばボクの
一度見ているからこそガンヴォルトの言葉に真実味が帯びている。
「ッ!ふざけるなぁ!ガンヴォルト!必ず僕がこの場で殺してやる!僕がこの手で貴方を殺してやる!」
「それは無理だ。貴方の方がここで終わる」
「終わらせないさ!君になんかに!英雄になる僕がこんな所で終わるわけないだろう!」
終わるわけない。英雄になる筈なのにこんな所で終わるわけないんだ。
「そうだね。ボクは貴方を止めない。ボク自身、貴方がやってきた事、そしてここで起きた事にボク自身貴方をアシモフ同様、殺したい程憎いと思っている。だけど、それじゃああの子達の意思に反する。貴方を倒すのはボクじゃない。貴方をここで終わらせるのはボクじゃない」
急に意味の分からないことをガンヴォルトが言った。目の前に居るのに止めない。何がしたいのか?どんな意味を持っているのか分からない。
だが、それならば好都合。止めないのならばただ殺す。その傲慢に傍観する態度を絶望に変えてみせる。
そうしてウェルはソロモンの杖を構えた。さっきの爆風でAnti_LiNKERは吹き飛ばされ霧散している。だからこそ、今が好機。ガンヴォルトをこの手で殺す絶好の機会だ。
雷撃鱗を展開する暇など与えない。目の前に召喚して殺す。正確な位置にノイズを召喚して一瞬で殺す。
そうしてウェルはガンヴォルトの元にノイズを召喚しようとした。
だが、
「
その瞬間、
未だ晴れていない黒煙の先から一発の銃弾がソロモンの杖を正確に捉え、ウェルの腕からソロモンの杖を弾き飛ばした。
「ッ!?」
ガンヴォルトは何もしていない。だが、止められる人物がいると否定したかったウェルにとっては最悪の出来事が起きていた事を認識させた。
ガンヴォルトの言ったあの子達とは殺した筈の奏とクリス。確かに爆弾にて二人を殺した。だが、ガンヴォルトが現れ、それを否定した。その否定こそが正しかったと言う事。
そしてウェルのそうであって欲しくなかった事が現実となる。
黒煙から飛び出してきたのは奏とクリス。シンフォギアを纏わない二人がウェルへと向けて駆け出していた。
ガンヴォルトの言う様に、この場の戦いを終わらせる為に二度目の対峙をする。
だがその対峙は一瞬だった。ソロモンの杖が使えると同様に二人の歌が、聖遺物を歌で呼び起こし、シンフォギアを再び纏った。
そして奏とクリスが踏み込むと同時にウェルとの距離を一気に詰めた。
「ッ!?」
だが吹き飛ばされたソロモンの杖を慎次が吹き飛ばした時の様にワイヤーを使い、ソロモンの杖を再び手中に収めようとした。
だが、
「何度も同じ様にそいつを使わせてたまるかよ!」
そう叫んだ奏が自身の槍を、ガングニールを投擲した。
その槍は寸分違わず、ソロモンの杖へと向かい、ウェルと繋がるワイヤーを切り裂き、ソロモンの杖を弾き飛ばした。
「ヒィ!?」
飛んでくる槍の圧にウェルは情けない悲鳴を上げた。
だがその一瞬にも満たない時間に鳴る銃声。
この中で銃を扱うのは二人。だが、一人はただ傍観を決め込み、手を出さずにいるガンヴォルト。
そしてもう一人、ウェルに向けて駆け出し、銃を構え撃ち抜いたクリス。その弾丸はウェルの太ももを捉えて、ウェルを動けなくした。だが撃たれた足は血は出て居ない。
ウェルに打ち込まれたのは先ほど同様にガンヴォルトがよく使う
防具らしき物をつけて居ないウェルにとっては致命傷にもならないが、打ち出された弾が当たった太ももには激痛が走る。
溜まらずウェルは膝を付いて痛みの余り悲鳴を上げた。
「痛い!痛い!なんで!なんで僕が!英雄になる僕が!こんな目に遭っているんだよ!おかしいだろ!英雄になるはずの僕が!もう英雄に片足を突っ込んだ僕が!」
「お前は英雄じゃねぇんだよ。何が英雄だ。何が英雄になるだ。お前は英雄になれる訳ねぇだろ、この外道が」
「英雄に片足を突っ込んだ?違うね。両脚ともどっぷりと外道に初めから突っ込んでんだよ。お前は初めから外道だ。英雄なんて大それた存在じゃない。それに、お前がいくら望もうと英雄には絶対になれない」
悲鳴を上げるウェルの言葉に続く様にクリスと奏の声が聞こえた。痛みを堪え、その方を向いたウェル。
そこにあったのはウェルの顔面へと既に拳を振りかぶった奏とクリスの姿。
「ヒィ、ブァッ!」
臆病なウェルは更なる悲鳴を上げようとするがそれを阻止する様に、二人の拳がウェルの顔面を捉えた。
そしてそのまま振り抜いてシンフォギアを纏う二人は力の限りウェルを壁へと殴り飛ばした。
壁に激突し、衝撃で肺の中の空気が一気に吐き出されるウェル。そしてそのまま壁からずり落ちる様にその場にへたり込んだ。そして動かなくなったはウェル。
自身の手で終わらせた。自分達の手でウェルを止めた。
一つの勝利を手にした奏とクリス。
「…良くやった…二人とも…ウェルとソロモンの杖を頼んだよ」
そしてそれを見届けたガンヴォルトは二人へとそう言うと颯爽と駆け出していった。
もう一つの戦いを終わらせる為に。翼を助ける為に。アシモフとの決着をつける為に。
「任せろ、お前も、翼を頼んだぞ」
「今度こそ、勝って帰ってこいよ。絶対だ」
そう言ってガンヴォルトを見送る二人。
そしてクリスはソロモンの杖を回収、奏はウェルの回収に動こうとした。
だが、
「痛い…痛い…痛い痛い!ふざけるなよ!ふざけるな!」
壁に叩きつけられたウェルがそう叫んだ。
「ッ!?こいつ!」
それに気付いた奏が再度ウェルを殴り飛ばそうとした。
だが、それよりも早く、ウェルは背後の叩きつけた壁を変異した腕を当てるとその背後に穴が開く。その背後に空いた穴は
倒れる様に入ったウェル。その瞬間にその穴が一瞬で閉じてしまった。
だが流すわけにはいかないとばかりに槍を振りかぶり壁を破壊してウェルを捕まえようとした。
だが奏の振るった槍は壁を破壊したが、その奥に消えたウェルが見つかることはなかった。
「ッ…クソッ!」
奏はまんまと流れられたウェルに怒りを覚えながら短くそう叫んだ。