「ッ!?嘘デス!こんなの嘘デス!」
その光景を見て一番初めに叫んだのは切歌であった。救われたはずのマリアが、ガンヴォルトに助けられたはずのマリアが消えて死んだと思わせる光景を見て戦慄して叫んだ。
対照的に調はただ口を抑え、あり得ないとばかりに戸惑い、だが、その光景を目の前にして涙を流していた。
装者達もまた信じたく無いという風に言葉を失っている。
誰もがそうだろう。この現場を見て最前線で戦おうとする者、サポートする者からすれば絶望そのもの。
だが、完全に死が確定している訳ではない。そうと決まった訳ではない。あの時とは違うのだ。アシモフに敗北し、死に体となったガンヴォルトを見た時とは。アシモフに再び敗北し、通信がガンヴォルトと取れなくなったあの時とは。
弦十郎は耳元に付けた通信機をガンヴォルトの持つ通信端末へと繋げ、安否を確認する為に叫んだ。
「ガンヴォルト!生きているならば応答しろ!ガンヴォルト!無事ならば応答してくれ!」
ノイズが混じる通信。応答がない。だが、それでも叫び続けた。
「ガンヴォルト!声を聞かせろ!ガンヴォルト!」
何度目かの叫び。その声に応える様、急にノイズが消え、何かが地面へと接触する様な音が響くとともに、聴き慣れたガンヴォルトの声が届く。
『ッ…いきなり耳元で大きな声を出さないでくれ…』
「ッ!ガンヴォルト無事なのか!?」
弦十郎が叫ぶと反応するかの様に装者達も弦十郎の通信機へと向けて一斉に詰め寄ってガンヴォルトの安否、そしてマリアの安否を確認をし始める。弦十郎も流石に座席から立ち上がり、舗装されていない道路である為にもし大きな揺れが起きたら大変だと思い、すぐさま通信機の周波数と車に搭載されている通信機の周波数を合わせ、装者達に戻る様伝える。
『大丈夫だよ…少しヘマはしたけどね…でも…何で急に通信何か…』
ガンヴォルトは悔しそうにそう言った後、何故急に通信が入ったのかを理解しておらず、そう聞き返した。
「お前があの場で急に消えるからだろうが!こっちがどれだけ心配になった戻ってやがる!」
「それで!大丈夫なのか!?何度もないのか!?」
「ガンヴォルトさん!本当に何ともないんですか!?」
クリスが初めにそう言って奏がガンヴォルトが本当に無事なのか確認する。響も奏同様に、ガンヴォルトの無事を確認する。
答えは大丈夫だよと短くだが、声のトーンから本当に無事だと言う事が伝わる。そしてそれを聞いた奏、クリス、響が安堵する中、切歌と調がガンヴォルトに対して勢いよく聞く。
「ガンヴォルト!マリアは!マリアは!?」
「マリアは無事なの!?ガンヴォルト!」
『無事だよ。ボクがいうよりも君達二人にはマリアの声の方が信頼出来るから少し待ってて』
そう言うと通信機からくぐもった音が響くと、切歌と調にとって最も無事でいて欲しい人の声が聞こえた。
『切歌、調、私は無事よ。何ともないから安心して』
その声を聞いて二人は先ほどとは違った涙を流した。歓喜の涙。マリアが本当に助かっていた事に対する安堵の涙。
「よかった…本当に良かった…」
「マリアも無事で本当に良かった…」
二人は涙を流す。マリアも心配をかけて申し訳なさそうに通信機越しで二人に対してあやす様に声を掛ける。
「二人が無事で良かった。マリア君。ガンヴォルトにもう一度変わってくれるか?」
二人の無事を確認して弦十郎はマリアに対してそう言った。マリアもその言葉に倣い、再びくぐもった音が聞こえるとともにガンヴォルトへと通信が切り替わる。
「無事で何よりだ。あんな場面を見せられて本当に心配したんだぞ」
『あんな場面…あの映像が出回っているの?』
「ああ、ウェル博士があの光景を世界へと発信している。その映像を見させられたから、俺達はガンヴォルトの安否が心配だったんだ」
『放映されていたのか…あの場面を…』
ガンヴォルトはどこか申し訳なさそうにしている。
『あんな大見え切ったのに何も出来なかった…セレナを救う事も…ウェル博士を倒す事も…』
そして深く後悔しているのか通信機越しから暗くなったガンヴォルトの声が聞こえる。
「そんな事はない!元々は私達がちゃんとウェル博士を気を失わせておけばこんな事にはならなかったんだ!ガンヴォルトのせいじゃない!」
「そうだ!お前は悪くねぇ!」
ウェルの事を任されていた奏とクリスがそう言った。元はと言えばあの場で二人がウェルを取り逃がした事によって起きた事だ。だからこそ、二人の方がガンヴォルトよりも自分達が悪いと言う。
「今は誰が悪いと決めている場合じゃない」
「そうです。今は二人の無事をまずは喜びましょう。でも本当に無事で良かったです。それでガンヴォルト君。君はマリアさんと共にあの場で爆発に巻き込まれたはずです。無事な事は本当に良かったと思っています。ですがどうやってあの場面で助かったのですかる何故あの場からガンヴォルト君とマリアさんは消えたのですか?」
弦十郎が三人が責任を自分が悪いと決めようとするので弦十郎話の流れを切り、慎次がガンヴォルトに向けて無事で良かった事、そして何故あの場でガンヴォルトが助かっており、あの場から消えたかの説明を求めた。
『セレナのお陰だ…ネフィリムの中に未だ存在するセレナの魂が、今までマリアを守り続けていたんだ。それで今回の危機にマリアを守ろうとしたセレナが、ネフィリムの心臓に宿る
ガンヴォルトはそう言った。
「そうか…ナスターシャ博士の言っていたセレナ君…彼女は未だ抗っている…ならばやる事は決まっている」
弦十郎は静かにそう言った。未だネフィリムの中に存在するセレナの魂。アシモフの計画により使われようとする適合者である少女の名前。
『あの子も…セレナも救わなきゃならない…もう彼女が苦しまない様に解放してあげなきゃならない…』
「そうだな…一人で抗い続ける少女を…そしてそんな苦しみから解放させてやらなければならない。本当の意味で戦いに勝つ為にもだ」
救わなければならない対象。解放という救いを与えなければならない人。だが救う為にはやらなければならない事が幾つもある。そしてセレナ以外にも救わなければならない人がまだいる。
ならばやる事は決まっている。役割が決まっている。だからこそ弦十郎は言った。
「ガンヴォルト…お前は翼とシアン君の元へ向かえ。お前はウェル博士という男に構っている場合じゃない。ウェル博士という外道よりも、より強大で、悪意その物を具現させた存在、アシモフを倒さなくてはならない…今もなお足止めしながらも危険な目に遭う翼そしてアシモフの手の内で救いを求めているシアン君を救わなければならない」
『分かっているよ…シアンと翼はボクが救う。シアンを必ず取り戻す…アシモフに翼を奪わせない』
ガンヴォルトはそう言った。
『ボク自身もあの場でウェルをどうにか出来なかったから負い目を感じるけど…でも、マリアは救えた…だけどセレナを救えなかった…だから頼む…みんな…セレナを救ってくれ…ウェルを倒してくれ』
ガンヴォルト自身もその手でやりたかったであろう。だが、今の状況であればそれは難しい。
「任せて下さい!ガンヴォルトさん!もうシンフォギアは纏えないですけど、私だって力になって見せます!セレナちゃんを救って見せます!ウェル博士を倒して見せます!」
誰よりも早く響がガンヴォルトへと言う。
『ありがとう、響…でもシンフォギアを纏えないのなら危険な真似はしないでくれ…誰もかけちゃいけないんだ…この戦いで…』
過去の戦いで大切な人が肉体を失った。だからこそ、その言葉にはかなりの重さを秘めいている。
「安心しろ、ガンヴォルト。響は何があっても守るから。だからお前は翼を頼む。私達が束になった所でアシモフには敵わない。お前だけなんだ。翼を…シアンを救えるのは」
「この馬鹿のストッパーは任せとけ。私達が何とかしてやる。ウェルもだ。あの野郎は私達がこの手で今度こそ止めてやる。だから先輩と…あいつを…シアンを頼んだぞ」
奏とクリスがそう言った。
「私達だっているデス。もうこれ以上セレナをいい様に使わせないデス」
「そんなのマリアも…マムも悲しむ。だからガンヴォルト、貴方は自分の役目を全うして」
切歌と調もそう言った。
『ありがとうみんな…ウェル博士を…セレナを頼む』
ガンヴォルトはそう言い残すと通信機を切った。
「頼まれたのなら必ずやり遂げるぞ。アシモフの計画を。ウェル博士の暴走を俺達の手で」
弦十郎は装者達へとそう告げた。
その言葉には装者達は頷く。
そしてその言葉を聞いた慎次も、アクセルペダルを踏み切ってフロンティア中央へと全速力で車を走らせるのであった。
◇◇◇◇◇◇
通信を終えたボクはマリアを下ろし、先程ウェルから回収したギアペンダントをマリアへと返す。
「ごめん…あの時にマリアにこれを返していればマリアも危険な目に遭わず、セレナを解放できていたかも知れなかったのに…」
「もう過ぎた事よ。それに…あの場はあれで良かったのかも知れない…」
マリアはギアペンダントを受け取るとそう言った。
「セレナを苦しませたのは私自身よ…私が何も理解せず…この危機を誤った形で救おうとした…
マリアはボクに向けて語り始める。
「外道達と手を組んででも成し遂げなければならない…どんなに犠牲を出してでも人類を存続させなければならない…そんな使命を感じて手を組んだ結果がセレナを苦しめた…ネフィリムの中にまだセレナが残っていると知らずに…」
そう言ってマリアはボクの渡したガングニールの入るものとは違う、もう一つのギアペンダントを取り出した。ガングニールが入るギアペンダントとは違い、ボロボロとなり、ギアペンダントとしての機能を失ったもの。
「セレナを苦しめ続けたのは私のせいだ!私が不甲斐ないばっかりに…それなのにセレナは私を守り続けてくれた…だから…だから…セレナは私が解放してあげなきゃいけない!あの子の姉として!血の繋がった家族として!」
マリアはボクに向けてそう告げる。ボク自身もマリアが語った気持ちは痛いほど分かる。
マリアはかつてのボク自身と重なる部分は多くあるからだろう。
互いに大切な人を失い、その人物に守られ続けていた事。自分の我を通すために、
望んだ幸せは同じ人物によって砕かれている。
アシモフと言う男に。
ボクはその目標を糧に戦いに身を投じ、裏切られ、マリアも外道であると知りながらも、人類を可能な限り救おうと
だからこそボクもマリアがそう言った意味を汲み取る事が出来た。
「もうセレナをこれ以上苦しませない。セレナは私自身が救わなきゃならない。こんなになるまで何も出来なかった私だけど…それでも…私はどうしてもセレナを私の手で解放させたい!だからお願い!ガンヴォルト…私に…私にも…手伝わせて…」
マリアはすがる様にボクへと言った。
「…手伝うも何も…こっちも手が足りなかったところだよ…それに、ボクも大切な人を失っていたからマリアの気持ちがわかる…だから任せたい…セレナを…ウェル博士を…みんなと共に止めてくれ…一緒にこの世界をアシモフとウェル博士から守ってくれ」
ボクはマリアへとそう言った。
マリアもその言葉を受けて涙を拭いありがとうと言う。
だがしかし、ボクもマリアもそう言ったもののある問題に直面している。
それはボク達がどこへ飛ばされたかわからないという事。マリアを自動的に守ろうとして出現した
どうしたものかと考える余裕などない。ボクはアシモフの元にいる翼、そして奪われたシアンを一刻も早く救わなければならないからだ。
だが、自分達がどこにいるかも分からない状況であるために答えは出ない。
しかし、
『ありがとう…マリア姉さん…それに…雷撃を纏うお兄さん…私を救おうとしてくれて…』
「ッ!?」
二人に聞き覚えがある声が響く。
「セレナ…セレナなの!?」
その声に初めに反応したのはマリアであった。
姿なき妹の声。何年も聞くことのなかった声にマリアはセレナの姿を探す。
だがセレナの姿は見当たらない。
『そうだよ…マリア姉さん…ごめんなさい…こんな時にしか声を聞かせられなくて…』
マリアへと申し訳なさそうに言うセレナ。
『でも…二人の気持ちは嬉しかった…だから…マリア姉さん…雷撃を纏うお兄さん…私の最後のお願いを聞いて…私自身ももう覚悟は決めてる…だから…私を…ネフィリムを壊して…動力炉となっているネフィリムの心臓を…もうあの人達は止まらない…このままじゃみんなが望んでいない結末になるのは目に見えてる…だから…全部壊して』
セレナがそう言った。
「分かっている…でも…でも」
マリアの中でセレナの声を聞いてしまい、覚悟が揺らいでしまった。
まだセレナの意識があるのならば助けられるんじゃないかと。セレナはマリアの気持ちへと気付いているが、それでも残酷な真実を告げることしか出来なかった。
『マリア姉さんの気持ちは嬉しいよ…勿論…私もそんな結末があれば良かったと思ってる…でも…それは叶わないの…私はもうネフィリムに食べられた時から長い時間眠っていて肉体があるかもわからない…意識しか無い状態…多分どうやったって助からない…』
マリアへと向けてそう言った。
残酷な真実。もうセレナを壊す以外助ける方法がない事を告げた。
「…ごめんなさい…でも分かっていても…セレナの声を聞いたら…そんな可能性が有ればと思ったの…」
『マリア姉さん…ごめんなさい…もうこれしか方法がないの…』
そう言ったセレナは続ける。
『時間がないの…ネフィリムの細胞でフロンティアに出現した怪物…あれは今の私にはどうも出来ない…もう私自身の力でなくとも…こんな悲劇…もう見たくない…だから…お願い…マリア姉さん…ネフィリム心臓を…私を壊して…』
セレナの懇願。マリアはもうその想いに応えるしか出来なかった。
涙を流しながらマリアは言う。
「ごめんなさい…こんな形でしか貴方を救い出せない姉で…」
『ううん…謝らないで、マリア姉さん。もうこの方法しかないんから…それにありがとう…今でも私をこんなにも想っていてくれて…だから…マリア姉さん…私を
そう言うとマリアとボクの前に一つの
その穴は先程の空間へと繋がっており、大量の怪物がウェルを担ぎ、安全圏へと移動させようとしている。
「マリア…行ってくれ…もうセレナを苦しませない為にも…セレナの最後の願いを叶える為にも…」
ボクはマリアへとそう言った。辛い気持ちは理解出来る。だが、ボクだろうとマリアだろうとセレナを救うには壊す以外ない。生存が叶わない以上解放する事でしかセレナを救えない。
マリアも悲しみながらも揺らいだ覚悟を持ち直してセレナに言った。
「セレナ…もう貴方に辛い事はさせない…」
『ありがとう…マリア姉さん…だから最後に私がマリア姉さんに出来る事…あの子と僅かながらに繋がって届ける事のできる少しの贈り物…』
その言葉と共にどこからともなく現れた淡いピンクと蒼い色彩の蝶。
それがマリアの握る壊れたギアペンダントへと近づいて、光を与えた。
その意味はまだボクには分からない。でもマリアは分かっているのか、穴へと駆け出した。
「ガンヴォルト…貴方はアシモフを…私はセレナを必ず救う…だから…貴方もこの世界を救って…あの子が守ろうとしている世界を」
そう言って穴へとマリアが入ると穴が閉じていった。
『そして貴方も…』
そう言ってセレナはもウェルの一度
それは空に繋がっている様で青空が見える。だが、それ以外にも僅かながらに聞こえる歌に、そこが何処なのかが理解出来る。この下に翼がいる。シアンがいる。アシモフがいる。ここで救わなければならない大切な人と奪われた大切な人がいる。
一人では辿り着くことが遅れていたかもしれない。だからこそ、セレナに感謝を伝える。
「ありがとう…それとボクもごめん…あの時…君を救えなくて…」
『いいんです…マリア姉さんなら…やってくれますから…でも…貴方みたいな人に一度でもいいから声だけじゃなくて面と向かって会ってみたかったです…マリア姉さん…マム…暁さん…月読さんを救ってくれた貴方に…』
悲しそうに言うセレナ。
「ボクもだよ…君みたいな優しい子に…一度でもいいから面と向かってお礼を言いたかった…」
ボクはそう言った。
何度も助けてくれたセレナ。叶う事なら面と向かってお礼を言いたかった。だが、それは叶わない。だからボクはもう一度虚空へと向けて言う。
「ありがとうセレナ…助けてくれて…そしてボクを翼の元へ…シアンの元へ連れて行ってくれて…だから…もう少し我慢してくれ…この戦いを終わらせてみせるから…君を苦しませるアシモフを…ウェル博士をここで止めるから」
そう言ってボクはその穴へと飛び込んだ。
『…ずるいですよ…そんなの…私は助からないのに…叶わないのに…貴方と共に歩みたいと思うじゃないですか…』
ボクには聞こえなかったが、最後に何かセレナが言い残したと同時に穴が消えていく。
◇◇◇◇◇◇
「いい位置に僕を運んでくださいよ。壊れたこの国の首都が見える位置まで」
そう言いながら動けない身体を怪物たちに運ばせてモニターが一番見えやすい場所へと移動するウェル。
腕が折れ、足が折れてもそんな痛みを気にする事のない歓喜に満ち溢れていた。
この手でガンヴォルトを始末出来た。もうこれで本当の意味で英雄になれた事にウェルはにやけ顔が止まらなかった。
「もうこれで僕は英雄だ。アッシュと共に歩める程の功績を僕の
嬉々した声でそう笑うウェル。そしてモニターが一番見えやすい場所にまでくると怪物が変化して椅子の様なものに変わる。
その上に座るウェルは更に
だが、視界の端に捉えた何かがその行動を阻害させる。
「ッ!?何故貴方が生きているんです!この裏切り者が!」
そこにいたのは先程殺したと思っていたマリアがいたからだ。
ガンヴォルト共に殺したはずなのに生きているマリアを見て歓喜が激怒へと変貌する。
「黙れ!貴方が英雄になる事はない!もうこんな悲劇しか生まない戦いを終わらせる!セレナを救ってみせる!」
「何も出来ないお前如きがほざくなよ!」
そう叫ぶウェルは全ての怪物達に命令を下した。攻撃を首都ではなくマリアへと向けたのだ。
裏切り者のマリアに対して過剰な攻撃。それほどウェルは激怒していたのだ。全部じゃなくても良かったのだが、殺しても実は生きていたと言う事実が、ウェルの思考を短慮に変えていた。
だが、ウェルが攻撃の宣言をしたと共に、マリアが歌を歌う。
装者がシンフォギアを起動の為に紡ぐ聖詠を。
「Seilen coffin airget-lamh tron」
それは今まで使っていたガングニールの聖詠ではない別の聖詠。
そしてその歌と共にマリアの握るギアペンダントが光り、マリアを包み込んだ。
その光が晴れた先には今までとは真逆のカラーリング、漆黒のガングニールのシンフォギアとは異なる純白のシンフォギアを纏うマリアの姿であった。
アガートラーム。壊れたギアペンダントの中にあった元はセレナの所有していた聖遺物。
壊れて聖詠でも起動しない筈のシンフォギア。
だが、それは今までの事。今はセレナの最後の願いを叶える為、セレナの想いとそれに応える様に僅かながらにセレナにも反応したシアンの
「もうこんな悲劇は終わらせる!」
そしてセレナの想いとシアンの力が僅かながらにあるアガートラームを纏うマリアは怪物達に向けて開戦の狼煙が如く叫ぶのであった。
◇◇◇◇◇◇
「はぁ…はぁ…はぁ…」
ボロボロになり膝をつく翼の前にはダメージがないアシモフが立っていた。
「もう終わりだ。風鳴翼」
そう言いながら翼との距離を詰めてきているアシモフ。
翼は迎撃しようとするもつるき剣を杖にしても立ち上がる事すらままならない。
「まだだ…」
だがそれでも己に化した使命を、誓った約束を反故せぬ様に立ちあがろうとする。
「無駄だ」
だが、それよりも前に雷撃を纏う拳が翼の腹に撃ち込まれた。
「ガァ!?」
そのまま殴り飛ばされた翼。そしてそのまま倒れ、今度こそ立ち上がることすらままならない。
だがそれでも歌うことだけは辞めなかった。
この歌が道標であるからだ。歌わなければガンヴォルトに居場所が伝わらないからと途切れ途切れでも常に歌い続ける。
「無駄だと言っているだろう」
そう言いながら再びアシモフは倒れる翼の元へと歩み寄る。
「これで終わりだ。貴様はもう私のものとなる」
そう言って近付いたアシモフは雷撃を腕に迸らせると倒れる翼の前にしゃがみ掴もうとした。
ここまでなのか…結局自身はガンヴォルトが来るまでの時間すら稼げないのかと翼は歌いながらも自分の不甲斐ないと感じるばかりだ。
そしてその不甲斐なさが自分を終わらせようとする。シアンの力を借りても時間を稼げなかった事。アシモフに自身を奪われない様に奮闘しても結局は結末が最悪な方向に行った事。
(ガンヴォルト…ごめんなさい…私は何も出来なかった…貴方が…来るまでの時間稼ぎすら…)
涙を流し、心で不甲斐ない自分を責める。
だが、そんなアシモフが急に飛び退いた。それと同時に、何かが翼の前へと舞い降りる。
「貴様…本当にタイミングが悪い時ばかりに!」
「ボクとしてと最悪のタイミングだよ」
怒りが孕む言葉と共に翼の目の前に降り立った存在をようやく見ることが出来た翼は涙を浮かべながら頼もしい背中へと向けて言う。
「ガンヴォルト…よく…来てくれた」
「翼、よく頑張った…よく歌い続けてくれた…よく自分を守り抜いてくれた…後はボクがやる…アシモフはボクが終わらせる」
ガンヴォルトは翼をちらりと見ると翼を安心させる様にそう言った。
ついに二つの場所で決戦が開幕すします。
残りはもう少し先で。