戦姫絶唱シンフォギアAB   作:株式会社の平社員

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120GVOLT

「コロス!コロシテヤル!」

 

怪物と化したウェルはそう叫びながら拳を振るい続ける。

 

「殺されてたまるかよ!お前なんかにこの世界を壊させない!」

 

「もう貴方の様な人達にこの世界を荒らされてたまるものですか!」

 

それを二人は受け流しながらも反撃をする。弦十郎は拳で、慎次は銃弾を放ちながら。

 

だが二人が受け流す様にウェルも弦十郎の拳を受け流し、弾丸は亜空孔(ワームホール)を開いて銃弾をあらぬ方向へ飛ばしていく。

 

一進一退の攻防。

 

装者達がセレナを救おうとする様に、ガンヴォルトがアシモフを殺そうとする様に、弦十郎と慎次もウェルを倒すべく奮闘している。

 

「シネッ!」

 

そう叫ぶウェルが再び異形とかした口を開け、今度は黒い粒子を大量に吐き出す。

 

「慎次!」

 

「任せてください!」

 

そう言うとすぐさま手榴弾を取り出すと地面に向けて転がした。

 

「バカデスカ!コノチカラニソンナモノヒトツデドウニカナフトオモッテイルンデスカ!」

 

ウェルが慎次の行動が余りにも無意味であると嘲笑うかの様に叫んだ。

 

「一つじゃないですよ!」

 

慎次がそう叫ぶと同時に何か印のようなものを慎次が手で組むとたちまち転がる手榴弾が分裂する様に増え、辺りへと散らばる。

 

「ナニガオキテイル!?」

 

そのあり得ない光景にウェルもそう叫ばずにはいられなかった。

 

「前の戦闘でも貴方へと言いましたが、言いませんよ。敵に手の内を明かす程僕達はそこまでお人好しじゃないので」

 

そう言うと慎次は銃を構えると素早く転がる手榴弾へと向けて銃弾を放った。

 

いくつかは既に黒い粒子、翅蟲(ザ・フライ)の能力により手榴弾が喰われている。だが、それでも残る手榴弾。その一つが銃弾により起爆した為にその爆発範囲にある手榴弾が連鎖的に爆発を開始する。

 

物理的な攻撃を全て喰らい尽くす翅蟲(ザ・フライ)の能力である黒い粒子。手榴弾が爆発する事で炸裂する破片は喰らい尽くされるが爆発による気圧の上昇により起こる爆風。物理ではなく現象までは喰らうことが出来ず、黒い粒子は吹き飛ばされ消滅されていく。

 

かなりの数の手榴弾が爆発した事により狭いこの場が爆発による爆煙と爆発の衝撃が空間を満たす。

 

「ッ!?」

 

吹き飛ばされた黒い粒子が消えていく光景が目の前に広がる。それと同時にウェルにも襲いくる衝撃。

 

だが、今のウェルにとってその衝撃など痛くも痒くもない。

 

爆発の衝撃など今のウェルにとってはそよ風に等しいものであった。

 

だが、そんな衝撃よりもウェルは視界が限定的に遮られている事に苛々を募らせていた。

 

「タカガコノテイドデチョウシニノルナヨ!ボクニハマダチカラガアル!ネフィリムドウヨウニ!セブンスヲアヤツルチカラガ!」

 

そんな状態でウェルは叫ぶ。

 

「ああ、分かっているさ」

 

その叫びに応える様に爆煙を吹き飛ばしながら巨大な大岩がウェルに向けて飛ばされて来た。

 

「コンナモノ!」

 

ウェルはその大岩を爆炎(エクスプロージョン)の力である火球を生み出してその大岩を爆発で吹き飛ばす。

 

「だが忘れたのか?ネフィリムと同様に第七波動(セブンス)を使えるようになろうとも、カ・ディンギル趾地でお前は何を見たかを?」

 

その言葉と共に弦十郎が破壊された大岩の後ろからウェルへと接近していた。

 

拳を振り上げ、ウェルへと飛び込んでくる弦十郎。

 

その言葉と拳にウェルは恐怖を思い出す。

 

カ・ディンギル趾地で人間でありながらもネフィリムを素手で圧倒した人間。弦十郎が自身へと向けて拳を振り上げている事にウェルは恐怖で身体が震え出す。

 

ウェルと変異した元であるネフィリムの細胞がその恐怖を思い出した様に身体が恐怖を支配する。

 

だが、それでもウェルはその恐怖を無理やりにでも抑え込んだ。

 

確かに目の前の男はネフィリムを素手で圧倒する人智を超えた力を持つ人間。だが、それがどうした?今のウェルは何者だと自分に問い質す。

 

自身は英雄であると。今の自分もその人知を超えた第七波動(セブンス)、そしてネフィリムに近くなった事で莫大な力を得た英雄であると。そんな自分があの男に恐怖するのはおかしいと。自身は英雄であり、この世界をアシモフと共に変える変革者だと。

 

そんな男が何を恐れる。英雄である筈の自分が恐れる訳がないと。

 

狂気にも似た執念。そして自身が英雄であるという強い思い込みでウェルは恐怖に打ち勝つ。

 

「ボクハエイユウダ!ボクハコノセカイノヘンカクシャダ!アノコウケイヲオモイダソウトモノリコエル!エイユウガソノテイドデオビエルカ!エイユウガソノテイドデヒルンデタマルモノカ!」

 

その思いがウェルを震えさせる恐怖に打ち勝ち、ウェルも弦十郎へと向けて拳を構え、弦十郎と拳を拳を振るった。

 

ぶつかり合う拳。その衝撃が辺りに充満している爆煙を吹き飛ばす。

 

強力な一撃のぶつかり合い。

 

「ッ!?負けるか!」

 

「ボクガカツ!キサマタチゴトキガボクニカナウトオモイアガルナヨ!」

 

互いに打ち付けた拳が拮抗する。だが弦十郎とウェルも止まらない。拮抗するのであれば勝つまで攻撃を重ねるだけ。

 

弦十郎はウェルに打ち勝とうと、ウェルは弦十郎に打ち勝とうと拳の応酬を繰り広げる。

 

かつてのウェルと弦十郎であればものの数発で終わっていた応酬。しかし、今のウェルは弦十郎と何発も拳をぶつけ合いながらも応戦している。

 

「ナメルナヨ!コノボクヲ!ナメルナヨ!エイユウトナッタボクヲ!」

 

「何が英雄だ!貴様は英雄などではない!自身の我欲の為にこんな事をしでかした貴様が英雄であるものか!」

 

応酬を繰り広げながらウェルと弦十郎は言葉を交える。

 

「イイヤ!ボクハエイユウダ!アッシュトトモニ!ホロビユクセカイカラジンルイヲスクオウトスルボクハエイユウ!ソレヲジャマスルアナタタチガマチガッテイルンデスヨ!ジブンタチガシデカシタコトノシリヌグイスラデキズセカイノキキヲノウノウトスゴシテイタアナタタチニイワレルドウリナドアリハシナイ!」

 

「確かに俺達はそんな事を知らずに過ごしていた…だが、それを知った今!それをどうするか考える為に動く!世界の危機を救う為に!この星を守る為に動こうとする!それを偏った考えで!選別という形で限られた命だけを救おうとする貴様が!アシモフと言う外道に本当の計画すら知らず協力している貴様が英雄である訳がないだろう!」

 

互いの拳の応酬を止め、互いの手を掴み額を互いに打ち付けた。

 

「チガウネ!アッシュハソンナヒトジャナイ!ソンナモウゲンニボクハダマサレナイ!ボクハアッシュトトモニセカイヲスクウ!」

 

何度も問うが交わらぬ意志。決して相容れぬ故に平行線のまま。だからこそ倒す以外の方法はない。

 

「何を救えますか!そんな考えで!アシモフに従う以上、そんな事は決して起こらない!」

 

そして掴みかかっている弦十郎とウェル。弦十郎によって動きを抑えられたウェルに向けて慎次は容赦なく銃弾を放つ。

 

銃弾がウェルの頭、胸。人間の急所に向けて放たれ、その放たれた銃弾がウェルへと襲う。

 

だが、ウェルは躱す事も狼狽える事もない。今のウェルはネフィリムの細胞により人のそれではない。

 

だからこそ弾丸程度に構う必要などなかった。

 

ウェルの頭と胸に当たっても弾丸はひしゃげるのみでウェルにダメージを与える事は叶わなかった。

 

「メザワリナンデスヨ!」

 

そう叫ぶウェルは亜空孔(ワームホール)開き、弦十郎を無理やり引き剥がすと銃弾を放つ慎次へ残光(ライトスピード)第七波動(セブンス)を使い、光速で慎次の元へと移動する。

 

「ッ!?」

 

光速を捉えることが出来ない為に、慎次は反応に遅れる。

 

「シネ!」

 

そして今度は爆炎(エクスプロージョン)第七波動(セブンス)を腕に纏わせて慎次へと燃え上がる拳を慎次へと叩き込む。

 

それを食らい燃え上がる慎次。

 

「慎次!」

 

「ツギハアナタデスヨ!」

 

そう告げたウェルは亜空孔(ワームホール)の穴を出現させ、自身で離した弦十郎の元へと一瞬で距離を詰めると同様に燃え盛る拳を振るい、弦十郎へと襲い掛かる。

 

弦十郎でも流石にその拳を受ける事は出来ず、ぎりぎりで躱す。だが、それでも纏う拳の炎は、その炎が生み出す熱量は防ぎようがなく、躱した弦十郎の肌に焼け付く様な熱を与える。

 

「ッ!」

 

痛みに顔を顰める弦十郎。

 

「マダマダ!」

 

ウェルは受けようのない拳のラッシュを弦十郎へと向けて繰り出し続ける。

 

その全てを弦十郎は躱し切るが熱気が弦十郎を苦しめる。

 

だが、それでも弦十郎は耐える。何故なら、

 

「この程度で…こんな攻撃で俺達がやれると思うなよ!これ以上の痛みをガンヴォルトは味わっている!装者達もこれ以上の辛さを味わっている!それなのに大人がこれしきで弱音など吐いて溜まるものかよ!」

 

そう叫んだ弦十郎は地面を大きく踏み抜いた。

 

地震を思わせる揺れにウェルの攻撃は中断させられる。

 

そしてそんな隙を見逃さず、弦十郎はウェルへと向けて拳を叩き込んだ。

 

しかし、

 

「ナニガヨワネヲハカナイデスカ!ソンナコトバナンテドウデモイインデスヨ!タダアナタハシネバイイ!ボクノテデコロサレバイイ!サッキノアノオトコノヨウニ!」

 

弦十郎の拳がウェルに届くことは無かった。

 

弦十郎の拳はウェルの身体へと到達する前に、出現した穴により、自身の拳が自身の頬を捉えていたからだ。

 

「ッ!?」

 

自分の本気で振るった拳。それを不意打ちの様にもろに受けた弦十郎は倒れはしなかったものの、よろめいてしまう。

 

弦十郎以外であればその一撃で終わっていただろう。しかし、自身の拳と共に鍛え上げた肉体が功を奏し、その程度で済ませている。

 

「ジブンノコブシノアジハドウデスカ?マアコタエナンテキキマセンケドネ!」

 

だが、そんな無防備となった弦十郎にウェルは勝ちを確信した様にそう言うと炎を纏わせた拳を弦十郎に叩き込もうとする。

 

「ッ!?」

 

背後にてサクッと何かが地面に突き立てられた様な音がした。

 

ウェルはそんな事はどうでもいいとばかりに踏み込もうとした。だが身体は意識とは反して少しも動かすことが出来なかった。

 

「勝手に殺さないで貰えますか?僕はまだ生きています。貴方にここで敗北喫したなんて勘違いするのは止めてもらえないでしょうか?」

 

「キサマァ!マダイキテイタカ!」

 

視線だけで先ほど燃やした筈の慎次の方に目を向けると、スーツのジャケットを脱ぎ、シャツも煤けながらも立っている慎次の姿を目にする。

 

「ナゼ!キサマハモヤシタハズ!ナゼイキテイル!」

 

「だから何回も言わせないでください。貴方に教える必要など無いって」

 

その瞬間にウェルは奥歯を噛み締めて叫ぶ。

 

だが何故死んでいない?手応えはあった。なのにあの業火に焼かれてなお何故その程度の被害で済んでいる?

 

その疑問を解消する為に視線のみを慎次を焼き殺そうとした場所に視線を移す。そこには黒焦げとなった黒い塊。何かは分からないがそれを盾に使ったのか?それでもあの熱量を浴びてあの程度で済むわけがない。

 

ウェルは慎次が何故無事なのか理解不能であった。

 

慎次が使ったのに緒川家に伝わる忍術、変わり身。詳細は伏せている為に弦十郎達にも再現不能な二課で慎次のみが(スキル)

 

だが慎次が言う様にウェルにはその詳細を話す意味など存在しない。敵に教える道理はない。

 

ウェルは分からないのなら再度殺すまでも考え、動かないのであれば無理やりにでも肉体を動かす。死んでいないのならば目の前の弦十郎を殺して次に慎次を殺せばいい。ぎちぎちと肉体が嫌な音を立てる。

 

今のウェルにそんな事は関係ない。無理やりにでも動かしてまずは弦十郎を殺す。

 

だが、その前にウェルの顔面を何かが捉えた。

 

「ブォバ!?」

 

それとともに再び壁へと叩きつけられるウェル。

 

顔面を捉えたのは弦十郎の拳であり、自身の拳を喰らってなお立て直し、再びウェルへと振り抜いたのだ。

 

「司令、大丈夫ですか?」

 

「そっちこそ無事か?」

 

「スーツのジャケットがなくなったのと少し火傷を負いましたが、問題ありません。司令は?」

 

「…俺も奴の攻撃で少し火傷をした。それと自分の拳はやっぱり効いたな。だが、問題ない」

 

近づく二人は互いの無事を確認すると弦十郎は焼けてボロボロになる赤いシャツを脱ぎ捨て、自分の拳により口から流れている血を拭う。

 

「さて、奴をどう攻略するか?」

 

「司令が以前戦ったネフィリムとは違い、獣に近い動きではなく、荒いながらも考え行動する故に手強い…オマケにあの第七波動(セブンス)を纏う攻撃はひとたまりもありませんね」

 

率直な感想を述べる慎次。

 

「ならばどうする?」

 

弦十郎は答えなど決まっている。だが、それでも慎次はどう考えているのか問う。

 

「勝てない訳ではありません。国の為、世界の為、そして戦っている装者達とガンヴォルト君の為、負ける気なんてさらさらありませんよ」

 

「そうだな。勝つぞ。慎次」

 

「勿論です」

 

そう言って弦十郎も慎次も己を鼓舞した。

 

「ナニガカツダ!ボクハハイボクナンテシナイ!ボクハエイユウダカラコソマケナイ!エイユウデアルボクガサイゴハカツンダ!」

 

壁に飛ばされたウェルは瓦礫を吹き飛ばし、そう叫んだ。

 

そして慎次へと近づいたと同様に残光(ライトスピード)の能力を使い、光速で弦十郎と慎次へと距離を詰める。

 

だが、その行動を予測していた弦十郎と慎次は逆に迎え撃つ。そして一気に距離を詰めたウェルが再び爆炎(エクスプロージョン)を纏う拳を二人へと向けて振るう。

 

そしてそのオマケとばかりに口を開いて生命輪廻(アンリミテッドアムニス)の付随する能力である石化の光線を携えて。

 

光線を紙一重で躱し、拳は弦十郎が地面を踏み砕いて盛り上がる地面を使い、勝ち上げる。

 

「クッ!?」

 

ウェルもその攻撃を防がれた事に少し苛つきながらも弦十郎達が接近している為に防御へと切り替える。

 

弦十郎が拳を、慎次が銃弾をウェルに向けて放とうとする。だが、ウェルはそれを亜空孔(ワームホール)の穴を開いて互いの一撃でダメージを負わそうとする。

 

「同じ手を何度も喰らうかよ!」

 

そう叫ぶ弦十郎は拳を引き、フェイントを掛けてウェルへと拳を叩き込もうとする。慎次は一度ウェルに向けた銃口を僅かに逸らし、穴を回避しながら、ウェルの影へと銃弾を放つ。

 

「ッ!マタ!?」

 

再びの動けないウェル。何がどうして動けないか分からないウェル。

 

慎次の使う忍術、影縫いがウェルからしばらくの間自由を奪い、行動を阻害させる。

 

そして再びウェルへと弦十郎は拳を叩き込んだ。

 

だが叩き込まれるだけじゃ終わらない。弦十郎が殴り飛ばす瞬間に再び慎次が銃弾を放ち、ウェルを固定すると更に弦十郎は拳を叩き込んだ。

 

慎次もそれと同時に自身も拳を、そして蹴り合間に挟みながら、動けなくなったウェルに向けて攻撃を開始する。

 

影縫いが切れる程の強力な一撃を放つ弦十郎。そして影縫いが切れても再び影縫いを発動させてウェルを固定しながら攻撃をし続ける慎次。

 

(セブンスヲシヨウスルスキモコウゲキスルスキモナイ!)

 

ウェル為す術なくただ弦十郎と慎次の攻撃を受け続けた。

 

その瞬間にウェルの頭に過ぎるのは敗北の二文字。

 

(アリエナイ!エイユウデアルボクガ!エイユウトナッタボクガマケルナンテアリエナイ!)

 

ボロボロになりながらも自身の敗北はあり得ないと疑わないが今の状況はあまりにもそれを現実に迎えようとする。

 

(アリエナイ!アリエナイ!アリエナイィ!)

 

自分が負けるなどあり得ない。自分は英雄であるが故に負ける事などない。

 

何が足りない?二人とウェルに何の差がある?

 

力だ。

 

今のウェルにはまだ力が足りない。まだ足りないのならどうする?

 

(モット…モットチカラヲ!ボクニメノマエニイルコイツラニカツチカラガホシイ!)

 

力が足りない。だからこそ勝てないとウェルは判断する。だが、急激なパワーアップなど可能なのか?いや、ある。足りない力を手に入れる方法が。

 

そしてウェルは弦十郎と慎次に殴られながら意識を保ち、生まれた隙を見逃しはしなかった。

 

慎次の弾倉の再装填。その際に僅かながらに攻撃が止んだ瞬間、ウェルは足元に亜空孔(ワームホール)を開いた。

 

足元に現れた穴は重力に沿ってウェルを飲み込んだ。

 

ある場所に力を求めに。

 

「逃すか!」

 

「逃がしません!」

 

だが後を追う様に弦十郎も慎次も締まっていく穴へと飛び込む。すぐに浮遊感は終わり、フロンティアの内部から転送されたのはどこか分からない機械が辺りに鎮座する場所。

 

そしてそこにいるのはボロボロになったウェル。そのウェルはその近くにある注射器の様なものを幾つも手に取り、自身の身体へと打ち込んでいた。

 

何かする気なのだろうが、そうはさせない、と弦十郎も慎次も距離を詰める。

 

「モットチカラヲ!ボクガフタリヲコロスタメニモットチカラヲヨコセ!」

 

だが、二人が接近するよりも早くそう叫ぶウェルの身体に異変が起こる。人型を保っていた肉体が膨れ始め、再び変異し始めたのだ。

 

もうこれ以上、何かさせるわけにはいかない。二人は変異が始まるウェルを倒そうと拳を銃弾を放つ。

 

だが、まるでそれを防ぐかの破裂した。

 

「ッ!?」

 

二人はその破裂を受けながらも吹き飛ばされる。あまりの威力故に背後にあった機械を突き抜ける、その威力のままその施設なような場所から外へと投げ出された。

 

「ッ!無事か!」

 

「何とか!」

 

弦十郎も慎次も地面を滑りながら着地して互いの無事を確認する。

 

そして投げ飛ばされた場所はフロンティアの中央から僅かに離れた外。

 

そして投げ出されたのはウェル達が使用していた輸送機であった。

 

「あの男が叫んだ様にもっと力を…そしてさっきウェル博士が刺していたもの、あれは変異する前のウェル博士が胸に差し込んでいたものと同様の物…今度は何をする気だ?」

 

弦十郎と慎次はウェルが何故この場にウェルが来たのを予想して再びの変化が齎した何かを警戒する。

 

その変化をもたらしたものはウェルの腕を変化させたネフィリムの細胞。だが、ウェルの腕を変化させたネフィリムの細胞ではない。第七波動(セブンス)の因子を除去しなかった更に危険なネフィリムの細胞。先程からネフィリム同様に第七波動(セブンス)を使える理由がそれだ。

 

だが、第七波動(セブンス)とは能力因子が適合しなければ使う事が出来ない代物。適合しない者がその身に宿しても暴走と言う形でその身を滅ぼす危険な物。

 

だが、それを可能とする前例がある。それがネフィリム。第七波動(セブンス)を喰らい、使える様に自ら取り込んだ因子を調律(チューニング)し、我が物に変えた完全聖遺物。

 

しかし、弦十郎と慎次はそれを知る由もない。これはウェルとアシモフのみが知る事であるから。

 

そして自分達が投げ出された輸送機からゆっくりと現れる大きな腕。

 

その腕が輸送機の外壁を破壊しながらその正体がゆっくりと姿を現した。

 

現れたのは異形となった怪物。先程応戦していたウェルよりもより異形となった姿の怪物。ネフィリムの面影があるが?更にその肉体にはまるで数々の動物を彷彿させる鎧のような物を纏った姿をした怪物。

 

頭を覆う鎧は蛇の様な物、両肩に浮遊する半球の球体が蠅の羽のような形をした物、背中には孔雀が羽を広げる様に半月状に広がる鋭い刃達、腕は先程までとは違い、熊のように強靭な腕が、そして足は更にもう二足増え、まるで空想上の怪物であるケンタウロスのようになっている。その鎧はかつてガンヴォルトが倒した本来の宝剣所持者である七宝剣の変身(アームドフェノメノン)した際に纏う鎧。だが、それはガンヴォルトのみが見た事のあるものであり弦十郎と慎次はそれを知る由もない。

 

そしてあそこから出てきたのならその存在は一人しか存在しない。

 

「…そこまで堕ちたか、ウェル博士」

 

「ガァァ!」

 

そして先程とは違い、本物の獣の様な叫びを上げた。

 

それと同時に異様な威圧感(プレッシャー)が二人へと襲い掛かる。

 

「…どうやらここが俺達の正念場の様だな…」

 

「ええ、先程のウェル博士よりも危険だと肌で感じます…」

 

だがそれでも、危険だとしても二人はやらねばならない。負ければ世界が終わる。だからこそ、何か解らぬとしても戦わなければならない。

 

「いかに変わろうとも必ず貴様を倒す!」

 

そう叫ぶと共に更に異形となったウェルへと弦十郎と慎次は駆け出すのであった。

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