激化する三つの戦場。フロンティア内部とフロンティアの地表。どの戦闘も苛烈を極めている。
そしてどれも激しいが規模が一番大きな戦闘はフロンティア内部の戦闘であった。
全力で怪物の掃討に当たり、フロンティアの動力炉であるネフィリムの心臓。そしてその中に囚われたセレナを解放すべく戦う六人の装者。
アシモフとウェルが起こした世界を破滅へと導く計画を阻止する為。囚われているセレナの魂を救い出す為、戦い続けていた。
だが、苛烈を極める戦闘は膠着と言っていい様な状況であった。
引き続き戦闘で六人の装者は怪物を着実に減らしている。だが、依然として数が減りはしていない。
無尽蔵とも捉えられる戦いに装者達は体力ばかり消耗させられていく。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
その中で最も体力の消耗が激しいのはマリア。大切な妹をすぐにでも救いたい。助け出したいという思いからネフィリムの心臓へ向かい続けた。
そして無尽蔵とも捉えられる怪物達を誰よりも多く倒していたからだ。
「マリア!」
近くにいた調が怪物を倒しながらマリアの名を叫ぶ。
「問題ない…このくらい問題ないわ…セレナがあそこで苦しんでいるのに…私が立ち止まるわけには行かない…目の前にいるのに止まる事なんて出来るものか!」
「だからって無茶をしてでもは違うデス!」
再び駆け出そうとしたマリアを切歌が止める。
「切歌!私はやらなきゃいけないの!セレナから託された願いを!ネフィリムの心臓を破壊して救わなきゃならない!セレナをこんな苦しみから解放しなきゃならないの!セレナがそれしか方法がないって…悲しみの声を震わせてそう言った…だから私が!私がこの手でセレナの最後の願いを叶えなきゃならないの!」
涙を浮かべ止める切歌へとそう叫ぶ。
「だからって無茶するのは違うだろ!想いを叶えなきゃならないってのならもう少し考えろ!叶えられたとしてもお前が無事でなきゃ悲しむ人がいるだろ!助けたいのなら少しでも最善の手を考えろ!闇雲にじゃなく、確実に助けられる方法を!全員が望む方法を!」
奏が辺りに飛来する黒い粒子を吹き飛ばしながら、ただ目の前にあるネフィリムの心臓へと闇雲に向かうマリアへと叫ぶ。
「分かっている!でも!それでも一刻でも早く!一秒でも早く!あの子をこんな争いから私は解放させてあげたい!優しいあの子をこんな苦しい状況から救い出したい!」
「だったらこいつの言う通り!闇雲に突っ込んでんじゃねぇ!そんな事する馬鹿は一人で間に合ってるんだよ!」
「クリスちゃん!今私を引き合いに出すのは違うんじゃない!?」
「今そんな事言っている場合じゃねえだろうが!だったらこの状況を打開する案でも考えろ!」
クリスは奏同様に怪物をガトリングで一掃しながら叫んだ。そしてその言葉に響が反応するが今そんな言葉に反応してる場合ではないと、クリスは響へと叫ぶ。
「ならどうしろって言うのよ!」
「マリア!そんなの決まっている!」
調がそう叫んで怪物達を倒しながらマリアの元へと向かう。そしてその言葉に何かしらの案が調が思い付いたと感じて装者全員が集結する。
「で?案はあるのか?」
奏が調へと言う。
「マリアをネフィリムの心臓の元へ、セレナの元へ向かわせるのならやる事は簡単。でもそれには全員の力が必要」
「全員が力を合わせればいける案か…で、詳細は?」
クリスは調へと聞く。
「複雑な策を考える頭なんてないから策と言えるものは浮かばなかった。それに、連携が必要になる案は私達と貴方達じゃ上手く行かない。連携が取れない可能性がある」
調は案を話し始める。
確かに調の言う通り、連携はかえって支障をきたす可能性が有るからだ。マリア、切歌、調の三人は幾度となく訓練などで連携を取れる様にしている。それ同様に奏、クリス、響の三人もだ。だが、先述の三人ずつなら話は簡単だが、それにかつて敵対しており、現状は互いの目的が一致して共にこの事件を終息に向かう為に組んだ急拵えの六人。それをいきなり連携を取れるかと言うとそうではない。思いは同じであれど思考は違う。それぞれアームドギアの特性を理解した上の連携が必要になれば更に話し合わなければならない。
だから調はそんな難しい事を考えずにやれる案が妥当と判断したのだ。
「でも、調。それならどうやるデスか?」
「切ちゃん、難しく考えなくていいの。やる事はあの怪物達を倒しながらマリアをネフィリムの心臓へ、セレナの元へと辿り着かせる」
「つまりは一点突破!マリアさんをネフィリムの心臓へ辿り着かせるには分散せずにあの怪物達を平面で戦わず全員が一点に集中してマリアさんが辿り着く為の道を作る!そう言う事だね!」
響が納得したと言わんばかりにそう言った。調はその通りと首を縦に振る。
「馬鹿でも分かりやすい策で助かる。あんまり複雑だとこの馬鹿が頭を抱えるからな」
クリスは響が難しいと混乱すると思い、その案が妥当だろうと頷き、響はまたクリスの言葉に若干の心にダメージを負う。
「だけど問題もある…それを乗り越えなきゃマリアをネフィリムの心臓に…セレナの元に辿り着かせる事は出来ない」
だが、調は唯一の問題を話した。
「あの何処か別の場所に繋げる穴…あれをどうにか出来ないと辿り着く事は出来ない。怪物達はまだそういった使い方をしていないけど、それを使って来ない保証なんてない。だからそれを乗り越えないといけない」
その問題こそが
光速の光線、
「
「切り抜けられない訳じゃない…そんな言葉じゃねえだろ。今言う言葉は。あいつが…ガンヴォルトは私達に託したんだよ。あの外道とその子を。だったらやるしかねぇ。やり遂げるしかねぇだろ」
奏の言葉にクリスがそう言った。
その言葉に奏はニカっと笑みを浮かべて、そうだな。やり遂げるしかねぇな。と言った。
「やり遂げよう。マリアさんが救いたい人を…正直…こんな助け方しか無いなんて嫌だ…私もあの子に救われた…胸にガングニールに宿していた時…私がガンヴォルトさんが死んだと言う嘘を聞かされて…黒い衝動に飲まれた時…出来る事ならその子にお礼を言いたかった…でも、その子はもうそれ以外方法がない…そんな結末を知って…最後の願いをマリアさんに託して…その子の想いを…願いを叶える為にも…絶対にやり遂げてみせる」
「貴方達…」
調の案を聞いて既に覚悟を決めた奏、クリス、響の三人。切歌も調も既に覚悟を決めている。勿論マリアもだ。だからマリアは涙を拭う。
「マリア…セレナを助け出そう…私もセレナを助けたい…でもそれをやるべきなのは私でも切ちゃんでもない…セレナがマリアに託したのならマリアがやるべき」
そして調はマリアへとそう言う。自身もセレナを助けたい。だが、セレナはマリアにセレナ自身を救ってくれる事を望んだ。ならばセレナの意志を。マリアの想いに応えたいと言うのが調の思い。
「調…」
「私も調と同じデス。確かに私もセレナを助けたいデス。でも何処で言われたかは分からないデスが、セレナはマリアに想いを託した…セレナはマリアに願いを託した…なら託されたマリアがそれをやるべきデス」
切歌もマリアへとそう言った。いつ託されたのかは切歌は知らない。だが、何となくだが、ここに来る前にマリアがセレナの意識に接触する何かがあったのだろう。そしてマリアへと自身の想い、願いをマリアに託した。ならば託されたマリアがやるべき事とそれをやらなければならないのもマリアであるとそう思った。
「切歌…」
「そうと決まれば、私達で道を切り開く。託されたのなら、やり遂げろよ」
「私達がお前をその子の元に…ネフィリムの心臓まで必ず向かわせてやる」
奏とクリスは既にいつでも行けるようにマリアの前に立ち己がアームドギアを構えている。
「マリアさん…必ずやり遂げましょう。世界も救う事は勿論、その子をマリアさんの手で解放させる為にも」
そして奏とクリス同様にマリアへとそう言ってマリアの前に立つ。
「やり遂げる…世界の為にも…セレナの願いを叶える為にも…必ずやり遂げてみせる!」
その言葉に全員が一斉に駆け出した。
目標は中央に聳えるネフィリムの心臓。その中にいるセレナの元へ。
だが、それを邪魔する様に一斉に怪物達が襲い掛かる。先程まで各個撃破していた怪物達。だが、分散していたおかげで捌けていたが装者達が纏まった事により怪物達が力を集約させて襲い掛かる。
光速で迫り来る光線、当たれば石化をさせられる光線、物質を喰らう黒い粒子、全てを焼き尽くす爆炎の火球が六人へと一斉に襲い掛かる。
「そんな攻撃でもう止まるかぁ!」
それぞれが最小限の動きで幾重にも連なる光速の光線を躱す。その光線は既に何度も見ている。直線にしか進まない光線であるが故に、発射された位置を見抜き、それを躱し続ける。
だが、それは単独であれば。
大量の怪物が一斉に光線を掃射している。最小限の動きで全てを躱し切れる訳ではない。全員がその光線を僅かながらに掠り、その光はギアを徐々に削っていく。
だが、そんな物想定内。辿り着かせるのだ。マリアを。
「しゃらくせぇ!」
そんな中、クリスが吠える。
その身に纏うシンフォギアをボロボロにしながらも先陣を切り、構えたガトリングを掃射して光線を相殺しつつ怪物達の群れをその光線を上回る掃射で少しずつ前に進む道を作る。
そして光線と共に次に襲い来るのは次もまた光線を。
「クリスちゃん!」
その光線が先陣を切るクリスへと襲い掛かろうとするが響が前に出ると体勢を低く駆け出しながら、地面を掴み、勢いのまま持ち上げる。
そして持ち上げた地面は装者達をその光線から身を守るほどの盾となる。
光線はその地面の盾により装者達になんの被害も与えない。
そして先陣を切っていたクリスが下がると今度は響が先頭となり、その盾を持ちながらそのまま突き進む。壁となった盾に身を預けながら、怪物の群れへと突っ込み、盾でその怪物達を蹴散らして行く。
だが、僅かに進んでいくと響はその盾がどんどんと質量をなくして行くことを察知して叫ぶ。
「奏さん!」
その言葉に側面の敵を排除していた奏が響の言葉の意味を理解して槍の穂先を回転させる。
回転させたことで生まれる暴風。その穂先中心とした荒れ狂う竜巻。
「任せろ!」
その奏の叫びと共に、響がその場から飛び退くと同時に盾が一気に消えてその盾を崩した黒い粒子が六人を飲み込もうと襲い掛かる。
だが、その瞬間に奏がその暴風を纏う槍を黒い粒子へと振るう。
荒れ狂う暴風がその黒い粒子とぶつかり、黒い粒子を怪物事吹き飛ばして行く。吹き飛ばされながらあたりの火球にもあたり、数を減らして行く。
しかし、それでも消し切れぬ爆炎が襲いくる。
「セレナへの道を…マリアがその想いを応える為の道を…邪魔するなぁ!」
襲いくる火球は切歌と調が。互いの振るうアームドギアである鎌と丸鋸が、エネルギーの刃を放ち、その火球へとぶつけると大きな爆発を起こす。それと同時にその爆炎と爆風に怪物達も飲まれて行く。
晴れた先に怪物達が生まれようとする光景。そしてもう後少しの距離まで近づいたネフィリムの心臓、セレナの元。
「行け!想いに応える為に!」
奏がその爆風と暴風に飲まれながらも未だ健在する怪物達を相手にしながらそう叫ぶ。
「行ってこい!この戦いを終わらせに!」
クリスはそんな奏を援護しながらマリアへと向かう怪物達を倒しながら叫ぶ。
「行って!マリア!」
切歌と調も、クリスが処理し切れない怪物達をアームドギアを振るい切り裂きながらそう叫んだ。
「ッ!」
マリアは五人のその言葉と共にセレナを救い出そうと飛び出した。
四人が抑え切れない怪物達がマリアへと襲いかかる。マリアは自身の、アガートラームのアームドギアである短剣を振るい、それを斬り落とす。そして消える前の怪物を足場に更にマリアはネフィリムの心臓へと、セレナの元へと近付く。
だが、そうさせないとばかりに怪物達は調が懸念していた
「マリアさん!」
だが、それを予期していたマリアについて行く形で怪物を拳を振るいながら地上を動いていた響が叫んだ。
そしてマリアが穴に飲み込まれるよりも早く地面を強く蹴り上げて跳躍する響はマリアに向けて手を伸ばす。
その行動にマリアも響に手を伸ばした。そして響の手を握るマリア。その瞬間、響はマリアの手を引いて自分の近くに手繰り寄せると自身のアームドギアである拳を巨大化させる。そしてその巨大化したアームドギアに足を掛けるマリア。
「マリアさん!必ず!やり遂げてください!」
そして響は穴から僅かにそれながらもネフィリムの心臓へと向けて拳を振るった。
「やり遂げる!あの子の為にも!世界の為にも!」
振るう拳の一撃と共にマリアも拳を蹴り、穴を僅かに躱して加速しながらネフィリムの心臓へと距離を詰めた。
そしてマリアとネフィリムの心臓、セレナの元まで目の前の距離まで来ると短剣を構える。
「これで解放させる…セレナ…こんなダメな姉を…助けてくれてありがとう…そしてさようなら…」
そして迫りゆくネフィリムの心臓へと短剣を突き刺そうとしたその時、
壁の一部に大きな穴が開くと共にそこから巨大な腕が伸びて来るとネフィリムの心臓へと短剣を突き立てようとしたマリアへと襲いかかった。
「ッ!?」
突然の出来事にマリアは対応出来ず、その巨大な振るわれる腕に抵抗する事も出来ず、まともに受け、四人が怪物達を蹴散らしている場所にまで叩き戻された。
「マリア!」
突然にマリアが飛ばされ戻ってきた事に動揺の隠せない切歌と調がそう叫ぶ。
「おい!気を抜くな!」
そんな二人へと向けてそう叫ぶ奏。
だが、その叫びはなんの意味を持たなかった。
「キャアァ!」
マリアが心配で隙を晒した切歌と調へと向けて火球が襲い掛かり、二人を焼き尽くそうとする。
「ッ!」
奏がそれを穂先を回転させて竜巻を作ると二人を焼き尽くそうとする炎を吹き飛ばす為に振るう。
だがその行動は悪手であった。
二人を救おうと僅かながらに向けた意識の隙を見逃さなかった怪物達が奏へと
二人は炎から助け出す事に成功するがその攻撃を奏はその身に受けてしまう。
「ガァ!」
「奏!」
その姿を視線の端で捉えたクリスへと今度は攻撃が集中してクリスも捌き切れず、火球や光線の的になり、攻撃に晒されてしまった。
「グァ!」
「みんな!」
そんな中、怪物達の空中に未だ浮遊していた響は叫ぶことしか出来なかった。
一気に戦況が傾いた現場。何が起こったのかまるで何もわからない響。
だが、そんな考える暇すら与えない様に今度は響へと向けて怪物達が一斉に
「ッ!?」
空中にいて身動きの取れない響はその攻撃をまともに受けてシンフォギアをボロボロにしながらなんとか堪えるも更なる追撃とばかりに襲い掛かる巨大な腕が響を地面へと叩きつけた。
「ガァ!」
地面へと勢いよく叩きつけられた響。肺から一気に酸素を持っていかれ、意識が飛びそうになる。
だが意識をなんとか保ち、その腕の正体がなんなのかを見る。
しかし、その腕の正体を見て後悔をする。
響の目に映ったのはフロンティアの動力炉の壁を壊し、大きな口をニタリと浮かべる、怪物。いや、ただの怪物であればなんとかなった。
響の目に映ったのは先程まで戦っていた怪物よりも遥かに巨大な怪物が、青空をバックに目のない顔をこちらへと向けていたからだ。