黒い粒子を周辺へと撒き散らしながら獲物を狙う様に、そして飢えた獣のような目をしながら奏を見続けるストラトス。
他の能力者達のように生気はない。だが、奏を獲物と認識しているのか、その目には傀儡にされてもなお残り続けている本能が目に宿っている。
そんなストラトスを奏は悲しそうに見る。
ストラトスという男に打たれた薬がなんなのかは分からない。だが、薬物投与の辛さを理解しているから。そしてその姿が、奏のあり得たかもしれない姿であったから。
奏自身もかつては力を求め、両親の仇であるノイズを屠る為になんの躊躇いもなくLiNKERと言う劇物を投与していた。廃人になるリスクを厭わず奏は使い続けていた。
故に、もしかすれば、ただノイズと言う敵を屠る為だけに生きる狂人であり廃人になっていたかもしれない。
翼がいたからこそ、奏は狂人に落ちる事はなかった。ガンヴォルトがいたから、奏は狂人まで至る事はなかった。
ストラトスは自分の意思ではなく誰かによって。奏は自分の意思で。違いはかなりあるとしても、薬物の恐ろしさをその身に体感している二人の対峙。
先に動いたのは奏であった。
「辛かったな…だから私が終わらせてやる!その苦しみから!死んでもなお、そんな形でしか生きれないお前を!私が解放してやる!」
槍を構え、ストラトスへと突き刺そうとする奏。
だが、ストラトスは攻撃を自身を黒い粒子となって躱し、そして奏を喰らわんと襲い掛かった。
だが、それを穂先を回転させて黒い粒子を吹き飛ばす奏。
吹き飛ばされて奏から離れた黒い粒子は再び集まり始めて、人の形を成し、ストラトスとなった。
「これが本来の
ストラトスの
黒い粒子を生み出し、物質を喰らい尽くす能力だけではない。
本来の能力者であるストラトスはそれを有用に活用が出来るが、元の崩壊された人格がある為に複雑な形状の物に変化させる事は出来ない。だが、そんな事は関係ない。今のストラトスには
複雑な形状を作る事は出来なくとも、目の前の獲物を喰らうためにより凶悪で、凶暴なイメージが浮かんだストラトスはそれを具現化させる。
再び黒い粒子へと変わるストラトス。だが、その黒い粒子は先程から漂う瓦礫を喰らい、更に数を増やしていく。そしてその黒い粒子が形を変えていく。
今の今まで、真なる雷霆、そして能力者達の
ストラトスの鎧が完全に変わり、黒き装甲は獲物を逃がさない様、返のついた棘を生やし、そして自身に纏う装甲はより攻撃的に鋭さを増した構造へと変わる。
そして何より、それを纏うストラトスはより活発にそのエネルギーを揺らめかせ、その周りには常に黒い粒子を生み出し続けている。
そして傀儡となりながらも本能が表に出てきたのか、言葉を発する。
「クワ…セロ…ハラガ…ヘッタ…ナンデモイイ…オレニ…オレニオマエヲクワセテクレェ!コノクウフクヲミタシテクレ!」
あまりの空腹に傀儡でありながらもそう叫ぶストラトス。
その姿はアシモフとは違う悲しき狂人の姿。自我を、本能を無理矢理変えられた悲しき獣。
そしてストラトスと共に黒い粒子が一斉に奏を喰らおうと襲い掛かる。
奏と言う獲物を喰らう為に。己の空腹を満たさんとする為に。
「ならこいつを喰らってろ!」
奏はそんなストラトスに向けて槍を振り下ろす。
だが、振り下ろした瞬間に、奏の周辺に幾つもの槍が出現し、その全てが回転させて竜巻を起こす。
一つ一つが台風とも思わせる突風を纏う槍。その槍を奏はストラトスへと向けて放つ。
物質を喰らう
その突風が黒い粒子を引き裂き、ストラトスを襲う。
だが、黒い粒子が切り裂かれようが傷付こうがストラトスは止まらない。
「クワセロ!クワセロ!クワセロ!」
肉体が傷付こうがその本能をより一層刺激されていき、より凶暴さがます。肉体が傷付き、その損傷を補う為の捕食をする為に。
突風を突き抜けて奏の元へ到達するストラトスは自身の鎧を更に大きくして口の様に開き、奏を飲み込もうと襲い掛かる。
だが、奏はそんなストラトスに向けて更に槍を振るった。穂先を回転させて発生させた竜巻を纏う槍。
エネルギー体のストラトスはそれを喰らいそうになるが、本能から黒い粒子と変換してそれを躱す。
だが、奏の振るった槍が巻き起こす風に完璧に躱す事など叶わず、一部分は奏の槍が起こした突風に切り刻まれて消える。
そんな状態などストラトスは意に返さない。先程と同様に、その傷がストラトスの本能をより呼び起こし、更に凶暴となって黒い粒子のまま奏へと襲い掛かる。
奏はソングオブディーヴァ・クロスドライブによって強化された機動力を駆使して迫り来る黒い粒子を逃げながら、槍に纏う風で黒い粒子を切り刻みながら躱していく。
だが、強化された
だがそれでも力には限りがある。
その瞬間はすぐに訪れる。
黒い粒子となり襲い掛かるストラトス。だが、奏により、相当数をやられた結果、分裂した黒い粒子の形態を維持できなくなったのか一箇所に集まり、ストラトスが姿を現した。
その瞬間に奏が空を駆けてストラトスへと槍を振るう。
疾風纏う暴風の槍。
ストラトスはその槍をなんとか自身の装甲に辺りにいる黒い粒子を集め、盾を創り出すとそれを受け止める。
だが、奏の一撃に疲弊したストラトスは耐える事など出来ず、その一撃に創り出した盾は砕け、ストラトスに向けて暴風の槍が直撃する。
「ガァ!」
直撃したストラトスに槍の一撃、そして暴風が襲う。
鎧を破壊する一撃。
しかし、その一撃を吹き飛ばされながらもストラトスは耐え切った。
「アァァァ!ゴチソウガアバレルナァ!オレニオマエヲクワセロォ!」
そして本能のまま再び叫ぶストラトス。その本能に刺激された能力因子が力を解放する。
自身の肉体ガ耐えられない程の全力。だが、それでも目の前にご馳走を喰らえば何とでもなる。
ストラトスの本能がそれを理解している。ソングオブディーヴァ・クロスドライブを纏う奏。その内包する途轍もないエネルギーを喰らえばそんな物関係がないと。
そして自身の身体から装甲をパージさせると自身の側に浮遊させる。
その装甲から生み出される夥しい量の黒い粒子。奏を喰らわんとする黒い粒子を自身の命を削りながらもストラトスは放った。
そして浮遊する装甲に向けてストラトスから伸びた黄色いエネルギーが装甲に力を与えていき、どんどんと巨大化していく。
普段であればそんな事はないだろうが、奏によって命を削る程の力を持ったストラトスのスペシャルスキル。
ディスティニーファング。
だが、そんな事、奏が黙って見ているわけがない。
奏はストラトスとの間合いを詰める。
だが、
「ッ!?」
ストラトスの肉体から放たれてくるエネルギーの弾丸。
それはクリスの武器であるガトリングと同等の速さであり、一撃が途轍もない力を秘めていた。
堪らず攻撃を中断して躱す奏。
だが、奏を追従する様にストラトスの肉体から放たれるエネルギー弾は奏へと襲い掛かる。
近付く隙すら作らない攻撃に奏はストラトスへと接近する事は叶わず、一定の距離を取らされ続けた。
その結果、完成された浮遊する装甲。
その大きさは途轍もなく大きく、幾らソングオブディーヴァ・クロスドライブの機動力を持ってしても逃げられない程巨大となっていた。
その装甲が、動き始め、奏とストラトスを囲う様に宙に浮かぶ。
そしてそのまま挟む様に奏とストラトスを飲み込んだ。
完全に装甲に囚われた奏。
装甲の内側、それは触れた物を瞬時に喰らい尽くす
故に囚われれば何であろうと跡形もなく喰らい尽くす。無慈悲で、必殺の一撃。
だった。
囚われた奏。だが、その装甲は急に軋み始め、何か内側に強力な力が解放された様に外へと何かが噴き出し始める。
そしてその瞬間に、装甲が爆発したかの様に内側より破壊された。
理由は簡単だ。
奏がその無慈悲であり、必殺の一撃をそれ以上の力で打ち破ったのだ。
ソングオブディーヴァ・クロスドライブ。その力を最大限に活用した事によるアームドギアの一振り。
たったそれだけの事。だが、その力には莫大なエネルギーの放出が伴う故に、その様な結末を齎したのだ。
「お前に喰われるわけにはいかないんだよ。私はあいつを助けなきゃならない。この戦いをガンヴォルト共に終わらせなきゃならない」
そしてその装甲を吹き飛ばした奏はストラトスに向けてそう言った。
だが、それを言われたストラトスは何も答えない。命を削る一撃。その一撃のせいでストラトスの肉体は既に崩壊を始めており、内側から爆発する様に黒煙と共に弾け飛んだ。
目の当たりにする悲しき結末。
奏はストラトスに向けて悲しそうな表情をする。
「安らかに眠ってくれ…そんな狂気も空腹もない場所で」
そして奏はガンヴォルトと未来の助けに行こうと空を駆けようとする。
だが、
「アァ…ナニカクワナイト…ハラガヘッテクルシイ…」
その言葉に奏は駆け出すのをやめた。
「チッ…あの外道が…こんな事までするかよ!」
憎たらしそうに奏が叫ぶ。
死んだはず。だが、
呪いの様なループの中に囚われたストラトスが再び黒煙の中から現れた。
より飢えて、その飢えで更に凶暴となって。
「クワセロォ!」
そして再び襲い掛かるストラトス。
「だったら腹一杯喰らわせてやる!お前が安らかに眠れるよう!私の槍の一撃をたらふくな!」
そう叫んだ奏は再びストラトスと相見えるのだった。
◇◇◇◇◇◇
三人のエリーゼと対峙するマリア、切歌、調。
その戦いは互いに三位一体。
抜群なコンビネーションを持つ三人の壮絶な戦いであった。
一人の人間に植え付けられた人格によって形成された能力者達。だが、それでも元は一人。故にどんな動きが最適か、邪魔にならないか、より動きやすいか理解して動く。故に三位一体。
だが、マリア、切歌、調もそれに劣らない。幼き頃より、共に育ち、家族の様に息の合ったコンビネーションを見せる三人。
互いの長所を生かし、短所を消していくその動き。こちらの三位一体もエリーゼに負けてなどいない。
石化の光線を放たれればマリアが、切歌が、調が、それを避ける様に声を上げ、死角からの攻撃も三人それぞれがカバーし合う。
「切歌!調を!」
「任せるデス!」
「ありがとう!切ちゃん!ッ!マリア!」
エリーゼ達のクナイ、そして光線を知らせて巧みに避け切る。
能力者と装者達の戦闘。この中で多く撃破しているのも三人の中でマリアと調であった。切歌はタイミングが合わず、倒してはいない。だが長く続くのは理由がある。能力者の中の一人。傀儡となりながらも奇妙な笑い声を上げる少女によって依然として戦いを続けさせられていた。
それはエリーゼの中で最も凶暴で残虐な性格のエリーゼ、エリーゼ2。
そのエリーゼには他のエリーゼ達と違い、
故に、他のエリーゼが倒されようとエリーゼ2が二人を生き返らせる。例え、エリーゼ2を倒そうがエリーゼが一人でも残っているならば他が生き返らせる。そして三人同時にまだ倒していないが、三人同時に倒しても
そんなループに陥っている。
エリーゼ達を斬り伏せたマリア。だが、再び現れたエリーゼがマリアに向けてクナイを投げる。
それを調が防いで、丸鋸でエリーゼを吹き飛ばす。
「ありがとう、調!」
「マリア…どうしよう…不死身の敵…こんなの幾ら倒しても意味がない…」
「調!諦めちゃ駄目です!何か方法がある筈です!」
そんな戦闘を永遠と思えるほど続ける三人。あまりの長い戦闘に疲弊している調がそう弱音を吐く。
だが、それを切歌が諦めちゃいけないと叱責する。
しかし、調の気持ちもよくわかる。その他の装者達も同様にあの後何度も何度もそれぞれが能力者達を倒している。
それでも戦いは依然として続いている。終わりのない戦い。
この戦いを終わらせるのであれば、かつてアシモフが使っていた弾。
だが、もしそれがあったとしてもこの戦いを終わらせるにはかなりの確率で失敗する可能性が高い。
それはかつて元の世界でガンヴォルトが戦っていた状態である場合。能力者達はエリーゼによって蘇って再び現れていた。
しかし、今は違う。エリーゼが居なくともネフィリムもまた
故に
分かっている通り、ネフィリムはアシモフと共にいる。つまり、アシモフを倒さねばそれを為せない。そしてそれを為したとしてもエリーゼを限られた時間でたおさなけれ倒さなければ終わらない。
それが現実なのだ。
「ッ…諦めるな!終わらせる方法は必ずある!今の私達なら!それを為し遂げる事が出来る!」
鼓舞する様に叫ぶマリア。方法が分からないのなら探すまで。諦めなければそれを為し遂げる事が出来ると。
だが、その方法は依然として見当たらない。
どうすれば良い?どうすればこの戦いを終わらせられる?どうすればガンヴォルトと未来の助けに向かう事が出来る?
そんな思考のループを戦いながら繰り返す。
終わらない戦い。その戦いを永遠と続けるのかと思った時、
調がある事を思い出す。
それは切歌によって自身に振るわれたイガリマの凶刃。
その一撃を見に受けた調は魂の消滅を迎えようとした。
だが、その攻撃をフィーネが身代わりとなり、調は生き残る事が出来た。
だが、生命を操る力。その起源にあるものは?
肉体と共にある曖昧だが確実に存在する物。自身にも宿っていたフィーネという存在を知覚できたからこそなんとなく分かった。
魂。
それが基点となっているのではないかと。
突拍子もない事だと思われるだろう。
だが、今だに切歌はエリーゼを倒していない。タイミングが合わず、マリアと調が何度も倒していたのだ。
この仮説が正しければ、この中で切歌の持つイガリマ、そのイガリマの持つ特有の力が切り札となる。
だから調は叫ぶ。
「マリア!切ちゃんをサポートして!この戦いを終わらせられるのは切ちゃんのシンフォギアだけ!」
「ッ!どういう事!調!?」
「わ、私の力がデスか!?」
その言葉にマリアと切歌が戸惑う。
「切ちゃんの持つイガリマ!それがこの永遠を終わらせるかもしれない戦いを終わらせる鍵になるかもしれない!」
調が二人に向けてそう言った。
調の突拍子もない言葉。だが、マリアも切歌も調の言葉を疑わなかった。
大切な家族の言葉。それを信じないという選択肢は二人にはなかったからだ。
「詳しくは後で聞くわ!切歌!貴方の力がそれを為し遂げる力があるならその可能性を切り拓きましょう!」
「よく分からないデスが!信じるデスよ!調!」
そして三人はエリーゼを倒す可能性を信じて空を駆ける。
そしてこの調の言葉がこの戦いの戦局を変える事になる。
◇◇◇◇◇◇
アシモフとネフィリムと対峙するボクと未来。
ボクがアシモフとネフィリムの攻撃を雷撃で防ぎ、弾き、未来はその合間にネフィリムへと向けて出現した鏡から放たれるレーザーを当てようと乱発する。
だが、
「既に結果が見えているのに当てるわけないだろう!」
アシモフとネフィリムはそれを躱し、ボクを無視して未来から倒そうと攻撃をしてくる。
「ああ!貴方ならそう考えると分かっている!だけど!未来に貴方とネフィリムの攻撃は絶対に通さない!」
勿論その逆も然り。アシモフとネフィリムは未来を倒そうと狙うがボクがその攻撃を防ぎ切る。
アシモフはネフィリムを守り、ボクは未来を守る。そしてネフィリムも未来を狙い、未来もシアンとセレナを救う為にネフィリムを狙う。
互いに守り、守られ、攻め、攻められの攻防。
こちらの攻防も長く続く。
アシモフの真なる雷霆、そしてネフィリムの極限まで七宝剣の力を高めた
その力を同等の力を持った
互いの目的を遂行する為の戦い。
訪れるのは破滅と繁栄。
相いれぬ互いの理想を掴み取る為の戦闘。
その長く続く硬直も、この場で行われる戦闘とは別の場所から変わり始めた。