どれだけ終わるのを引き延ばしさせたか分からないですが、終わります。
あれから数日が経った。
世界の危機は一時的に去ったものの未だアシモフと言う存在がいる可能性がある為、世界各国は対処に追われていた。
その対処に最も苦労しているのは戦地となり、戦いが繰り広げられたこの国であった。
「弦十郎、忙しい中呼び出して悪いな」
「気にしないでください…ですが…斯波田事務次官…大丈夫ですか?顔色が優れない様ですが…」
「テメェ達に言われたくねえよ…俺よりもひでぇ面しやがって」
斯波田事務次官の心配をする弦十郎と慎二。だが、斯波田事務次官は同じ様に二人へ返す。
三人の顔は何日も寝てない為に目の下にクマが出来ており、こ綺麗な服装ではあるが、よく見るとスーツの襟などに汚れが見えている。
「世界の危機が本当に去った訳ではないのに休んでられるかってんだ」
そう言った斯波田事務次官は溜め息を吐く。
「あんなもの世界に流されて、世界中がパニックだ。情報操作出来ればいいがあんなやり方でバラしやがって…そのせいで各国は対応に追われ、各国国民に現状対応可能な事を理解してもらえる様説明やら会議に対策でてんやわんやだ。それ以外にもあのテロの処理もあるってのに…あー、なんて事してくれやがったんだ…あの科学者め」
斯波田事務次官は頭を掻きむしりながらそう言った。
斯波田事務次官が対応しているのはウェルによって世界的に知られてしまった月の落下による人類滅亡の件。
それをなんとかしようとするが、あんな形で世界に公表された以上、情報操作しようにも逆に隠蔽などと言われ、更なるパニックが起きうる為、苦心している様だ。
その為に各国が協力して機動を元に戻す方法をはあり、問題ないとの報道はしているものの、実際には未だ方法はなく模索している最中。
「それよりも…お前達の方はどうなんだ?」
一呼吸おいて斯波田事務次官は弦十郎と慎次へと聞く。
「進展は全くと言ってありません…今や二度と開かれることのないバビロニアの宝物庫への扉…扉を開く事の出来るソロモンの杖も…バビロニアの宝物庫内で破壊した為に…唯一の可能性である聖遺物の欠片すら…」
弦十郎は斯波田事務次官にそう伝えた。
「…そうか…」
その言葉に斯波田事務次官は苦虫を噛み潰したように顔を顰めながらそう言った。
弦十郎と慎次が呼び出された理由。
それはガンヴォルトの生存確認、そして救出の為の情報収集であった。
「櫻井女史…いえ、フィーネがかつて提出していた資料を再び探しておりましたが、何一つそれらに関する記述は見当たりません…そしてガンヴォルトが消えた辺り…その場に何か手掛かりがある可能性があると探しているのですが…何も掴めていません」
ソロモンの杖によって開かれるノイズの棲家であるバビロニアの宝物庫。それを再び開く為に弦十郎と慎次、そしてここには呼ばれていないが一課や二課は奔走していた。
だが弦十郎が言った様に何一つ手掛かりはなく、そして何も見つける事も出来ていない。だがそれでもどんなに矮小な可能性があると信じ探し続けている。
「…あいつの事だ…絶対にアシモフを殺している…」
斯波田事務次官の言葉に弦十郎も慎次も頷く。
ガンヴォルトならばアシモフを確実に殺している。誰もがそう思っている。だが、アシモフの死亡確認どころか、ガンヴォルトの生存確認すら出来ない状況。
故に信じることしか出来ない事を歯痒く思っている。
「それに…あいつが帰って来なかったら…装者の嬢ちゃん達が…シアンの嬢ちゃんが…あいつに救われて来た奴らがあまりにも可哀想じゃねえか…」
斯波田事務次官は辛そうにそう言った。
ガンヴォルトと共に戦った少女達。その全員が悲しみに明け暮れている。最もガンヴォルトと共に過ごした翼、共に住む奏とクリス。ガンヴォルトを慕う響と未来。そして今はセレナと融合しているシアン。
その中で最も傷が深いのは響。目の前でそれを見ていた響。そしてその原因を作ってしまった響はかなり精神を病んでしまっている。
それに、元は敵対していたF.I.S.の面々。今は拘留されているのだが、F.I.S.にとって大切な人を救い出してくれた人がいなくなった事。それが心を曇らせていた。
そして救われた少女、アシモフによってシアンと融合してしまったセレナ。現状は病院にて検査入院という形で様子を見ている。そしてセレナと共にあるシアンがとても心を痛めている。
誰もが心を痛める形となった。
「絶対に帰って来やがれ…ガンヴォルト」
呟く様に斯波田事務次官がそう言った。
誰もがそう思っている思い。
アシモフと言う、世界の脅威を倒したと思われる英雄。まだ確定してないにしろ、世界を救った英雄たる人物。
ガンヴォルトは否定するだろうが、ガンヴォルトはそれほどのことをしているのだ。
アシモフと言う、二つの世界を脅かそうとしたテロリスト。そんな人物と戦い、敗北を何度も喫したが、最終的に野望を打ち砕き、現状の危機の一つを一先ず凌いだのだ。
まだ確定してはいないが、ガンヴォルトが帰ってくればその一つが確定する。勝利と、一つの安寧が。
だから帰ってきて欲しい。生きて無事に戻ってほしい。ガンヴォルトを知る者は誰もが思っている。
だが、現実は残酷。生きているかも死んでいるかも分からない状況。英雄の死を知りも出来ない状況。
その生も死も分からない状況がその他の英雄に翳りを刺し続ける。
「…我々は必ず…ガンヴォルトが帰れる方法を見つけ出します…何としても」
「頼んだぞ…なんとしてでもあいつを連れ戻してくれ」
斯波田事務次官は二人にそう頼むと斯波田事務次官の執務室から出る。
そして二人はただそこから会話もなく永田町からガンヴォルトが消えた海岸へと向けて車を走らせる。
ガンヴォルトを助け出せる手掛かりを見つけ出す為に。
そんな時、弦十郎の通信端末からアラーム音が鳴り響く。
「どうした!?」
『大変です!F.I.S.の一時収容施設にノイズが現れる際に出る反応が検知されました!』
「なんだと!?」
ノイズがまた現れるというのかと弦十郎はこんな大変な時にと間の悪い厄災に悪態を吐きたくなる。
ソロモンの杖という鍵がなくなり、もう現れないと思われていたノイズの出現。
「装者達を向かわせろ!今あの子達は聖遺物を持っていない!大切な参考人であり!殺されてはならない子達だ!」
弦十郎はそう叫び、装者達を向かわせる様指示を出した。そして弦十郎も慎次へとその施設へと向かう様に指示を出す。
了承した慎次も急いで車を向かわせる。
だが、ふと弦十郎はある事を思い出した。
それはバビロニアの宝物庫内の情報を少しでも引き出す為に装者達から聞いた話。
アシモフが
だが、ふと思い出したのはそんな事ではない。
以前の取り調べにてマリアが話したアシモフがそれに至った経緯。
崩壊したネフィリムの消滅の際に放たれたエネルギー。
そしてもう一つ。
そのエネルギーの奔流でノイズは消滅したと。
バビロニアの宝物庫がどのくらいの広さかは見当がつかない。
だが、もし。そのエネルギーがバビロニアの宝物庫内のノイズを全て消滅していると仮定すれば、ノイズが現れる訳がない。
なら何故バビロニアの宝物庫が開かれたのか?
「…まさか!」
弦十郎は慎次へとその事を伝え、急ぐ様に指示する。
希望が現れるか。絶望が現れるか。
弦十郎と慎次は希望であって欲しいと願い、車を走らせるのだった。
◇◇◇◇◇◇
あれから祈る様にガンヴォルトの無事の知らせを待つマリア達。
だが、その願いは未だ叶ってはいない。取り調べなどの際に聞くが、表情や重い空気からそうだと理解してしまう。
だが、それでも必ずガンヴォルトは帰ってくると三人は信じていた。
「…いい加減帰ってくるデス…あの外道を終わらせたと…今度こそ終わったと教えて欲しいデス…」
切歌がマリアに寄り添って泣きそうになりながらそう言った。
敵対していたとはいえ、救ってくれたガンヴォルト。切歌の恐怖の対象であるアシモフを倒して戻って来た事を教えて欲しいと呟いた。
「…うん…早く帰って来て欲しい…無事を…終わった事を知らせて欲しい…」
調も切歌に続く様に呟く。調にとっても大切な人を傷つけ続けていたアシモフを倒したと知りたい。そしてガンヴォルトが無事にそれを終わったと聞かせて欲しいと。
「そうね…どれだけ待たせるのよ…ガンヴォルト」
マリアは二人を撫でながらそう言った。
マリアも二人同様に帰って来て欲しいと願っている。それはアシモフと言う男が本当に死んだがを確認したい為。そしてガンヴォルトに改めて礼を伝える為。
助けてくれてありがとうと。自分を救い出してくれてありがとうと。セレナを救ってくれてありがとうと。
感謝を伝えたい。
だからこそ、帰って来て欲しい。
一刻も早く。一秒でも早く。無事を知らせて欲しい。
そう思っている。
だが、そんな願いを持ったとしても、もう開く事は出来ないとされるバビロニアの宝物庫から帰って来られるのか?
そんな不安が付き纏い続ける。
だが、それでも。
死の淵に立たされても、どんな絶望を味わっても、立ち上がり、目的を達成したガンヴォルトを信じる。
ガンヴォルトはそう言う男であると知らされたから。
だからこそ、囚われの身であろうとガンヴォルトの帰りを待つ。
必ず無事で帰ってくると信じて。
そんな希望と不安が入り混じった感情を持ちながら、ただ自分達がどうなるかを委ねられ、ただ三人で寄り添っている中、けたたましい警報が鳴り響いた。
「なんなの!?」
その警報にマリアが、立ち上がる。
そして館内に流れる放送。
『ノイズの出現パターンが検出されました。各員、速やかに指定のシェルターへと避難下さい。繰り返します。ノイズの出現パターンが検出されました。各員、速やかに指定のシェルターへと避難下さい』
機械音声でそう告げられた瞬間に、マリア達が入る部屋の鍵が自動で開かれ、外へと避難出来るようになる。
そしてそれと同時に、マリア達のいる部屋に、謎の穴が開かれた。
バビロニアの宝物庫。その扉だと思われるもの。
切歌と調が立ち上がり、すぐにマリアに避難するよう呼びかける。今の三人は聖遺物を、そしてLiNKERを持っていない。
今のままでは、何も出来ないが故に、切歌と調はそう判断した。
だが、マリアだけは違った。
切歌と調が出口へと向かう様にマリアを呼びかける中、マリアは開かれた穴の正面へと駆け出していた。
「マリア!?」
その行動の意図が読めない二人がそう叫んだ。
それもそのはず。これを知るのは今この場にいるのはマリアだけ。そのほかに知るものはマリアが取り調べにて話した弦十郎、そしてそれに目を通していた僅かばかりの職員、そしてガンヴォルトとアシモフだけだ。
マリアは知っている。バビロニアの宝物庫。その中にノイズがいない事を。
フロンティアを吸収し、莫大なエネルギーを持ったネフィリム。その状態のネフィリムは心臓を砕かれ、バビロニアの宝物庫内でその莫大なエネルギーを保つ事が出来ず、有り余るエネルギーを放出しながら崩れ去った。
そしてそのエネルギーがバビロニアの宝物庫、その中のノイズを倒していた。
だからこそ、アシモフとの最終決戦でノイズの邪魔が入らなかった。
だから、今頃開いたこの扉が何なのかを理解した。
そしてマリアが、その穴の正面へと立つと同時に、一人の男が倒れながら穴から出て来た。
その人をマリアは抱き止める。
その瞬間に、マリアの中に溜まっていた不安と絶望を安堵と希望へと抱き止めた男の温もりが塗り潰し、涙を溢れさせる。
「…お帰りなさい…本当に…本当に良く無事で帰って来てくれて…」
「…マ…リア…そう…か…成功…したの…か…良かっ…た…今度こそ…ちゃんと…約束を…守れて…」
そう、それはボロボロになり、トレードマークである三つ編みは完全に崩れており、あの後たった一人でアシモフとの決着をつけた為にコートは焼け焦げ、破れている箇所がいくつもある。
だが、それでも五体満足、満身創痍でも生きて無事に帰って来た。
そしてガンヴォルトが出て来たバビロニアの宝物庫が閉じる。それと同時に、切歌と調もガンヴォルトに抱き付いた。
「ガンヴォルト!良かった!良かったデス!」
「お帰りなさい!ガンヴォルト!」
切歌も調も泣きながらそう叫ぶ。
ガンヴォルトはその二人を見てただいまと途切れ途切れに言う。
「心配…かけたね…もう…終わったよ…アシモフは…死んだ…この手で…終わらせたよ…まだ大変な事は…残っているけど…一つ…終わらせた…よ」
ガンヴォルトは三人にそう伝えた。
それと同時にもう限界が来たのか、ガンヴォルトは気を失った。
無理もない。アシモフとの戦闘、そしてここに帰ってくるまでに寝ずに何かを試して漸く成功して帰って来たそうなのだから。
「…本当に…ありがとう…ガンヴォルト…」
そうしてマリア達に抱かれながら、ガンヴォルトは静かに寝息を立てるのであった。
そうしてガンヴォルトを抱きしめて泣く三人。そんな中、その奏、翼、クリス、響が到着して、ガンヴォルトの帰還に喜び泣いた。
そしてその後勢いよく入って来た弦十郎と慎次。
ボロボロになりながらも帰還したガンヴォルトを見て涙するも、直ぐに病院の手配などを行う。
そして二課の医療班が直ぐに到着するとマリア達に抱きつかれたガンヴォルトを運び、移送されていくのであった。
「…ガンヴォルトが…ガンヴォルトが目を覚ましたら…また来るように言って貰える…」
運ばれていくガンヴォルトへと付き添っていく装者や弦十郎に対してマリアはそう言った。
自分もみんなと共に行きたい。だが、それでも自分達は行けない。まだ拘留されている状態だからマリアはそう言ったのだ。
そして切歌と調も付いて行こうとしていたが、マリアの言葉にハッとして悲しそうにする。
「必ず、目を覚ましたらここに来るよう伝える。それに…ガンヴォルトがいれば、君達を自由にする時間が早くなら可能性がある。だから、それまで待っていてくれ」
その言葉をマリア達に伝えると弦十郎はガンヴォルト達の後を追った。
残されたマリア達。寂しさが押し寄せてくるが、それでも、ガンヴォルトが帰ってくるか分からない不安な状況よりも、今の方が何処か明るい気持ちを持てる分気が楽であった。
◇◇◇◇◇◇
目を開けると仄かに明るくなった見慣れた病室の天井が見えた。どうやら日が登り始めた時間に目を覚ましたようだ。
ここ最近色々な病室で目が覚めているために覚えてしまった。
だが、それでも。この光景が漸く終わり、ボクが帰りたいと望んだ世界に戻って来たと感じさせる。
長かった。もうアシモフと言う脅威が無くなった。今度こそ殺せた。もう二度とアシモフの手であの世界も、この世界も脅かされる事はないだろう。
「だけど…あの言葉が気になる…」
ボクは身体を起こして怪我の状況を確認し、完全に回復する為に雷撃で細胞を活性化させ、完治させながらそう呟いた。
それはアシモフが最後の抵抗をする前に言ったまだこの世界にいるある者とある組織。その人物と組織がどう言ったものかは分からない。
だけど、ボクをいていいと言ってくれた装者や二課、そしてフィーネに託された未来の為に、ボクはそれを防いで見せる。
そう誓う。
その誓いを立てたと同時に、病室の扉が開くと共に電気がついた。
「…馬鹿野郎…目を覚ましたら直ぐに連絡を寄越せ!」
「ガンヴォルト君!良かった!」
そこにいたのは、弦十郎と慎次。二人は涙を浮かべながら近付く。
「ごめん、弦十郎、慎次。それよりボクは帰ってどのくらい経った?どのくらい寝てた?」
「ああ、だがその前に」
涙を拭い、ガンヴォルトの質問に答えようとするが、それよりもまずガンヴォルトの口から聞かなければならない事がある。
マリアには伝え、それは全員に周知されているが、あの時は意識ははっきりとしていない。だから改めてガンヴォルトに問わなければならなかった。
「アシモフはどうなった?」
「殺したよ…今度こそ。
ボクは弦十郎と慎次へとそう話した。
それを聞いて、そして漸く終わりが分かったと安堵する。
「ありがとう…これで世界は一つの脅威から救われた」
弦十郎はそう言った。
分かっている。アシモフと言う脅威が終わってもまだこの世界の破滅が完全に防げたわけではないのだから。
「それでお前の質問の答えなんだが、三日。お前がバビロニアの宝物庫にいた時間。そして半日。栄養失調やら脱水症状やらで危険な状態だったからこうなっている訳だ」
「みんなには迷惑をかけたよ…ごめん」
「誰も気にしていないさ。一つの大仕事をしたんだ。お前を責める者は…いや…いるな」
「いますね…それもそれなりの人数が…」
弦十郎と慎次が渇いた笑みを浮かべた。
「ならまずその人達に謝らないと…所でその人達は?」
「お前がよく知っている人達だよ…後で来る…」
何処かご愁傷様と言いたげな表情でそう言った弦十郎と慎次。訳が分からず疑問符を頭に浮かべる。
「まあ…その事は後々自分で処理してくれ…で、あの外界と完全に隔絶されたあの世界…どうやって帰って来た?」
弦十郎が一旦その話を置いて聞いてくる。
「それはソロモンの杖だよ。破壊されたと言っても、まだ欠片は残っている。だからボクは砕かれてなお、未だ力が残っている可能性に賭けて、それを探したんだ」
そう、ボクが帰る為に三日間探続けていたのはソロモンの杖の欠片。装者達が歌でシンフォギアを起動出来る様に、聖遺物の欠片には未だに強い力が眠っている。だからボクはその可能性を賭けたのだ。
「そして幾つかの欠片を見つけ出したボクはそれに
そして雷撃を流し込んだ事を伝える。
「成程。確かに
慎次がそう言う。
「だから賭けなんだ。それで壊れればボクは別の方法を模索するしかない。そしてその結果ボクの雷撃と共に流し込まれたフォニックゲインが奇跡を手繰り寄せた。なんとか人が通れる程の大きさの穴を作ることに成功してボクは脱出出来た」
弦十郎達にボクはそう伝えた。
「何はともあれ、お前が無事に帰って来てホッとした。しばらくはゆっくり休め。
そうして弦十郎はボクに休む様に伝えた。
「分かった。ありがとう。でも、まだ完全に終わった訳じゃない。まだ軌道がそれて今もこの星に向けて落下している月があるんだ」
「まだ猶予はある。それに対策がない今、焦っても仕方ない。だからお前は今はゆっくり休んでいろ」
そう言って弦十郎は時計を見る。
「さて、俺達はそろそろお暇して少し仮眠を取らせてもらうか。お前はもう少しばかり起きていろ。お前に対してお怒りの人が押し寄せてくるからな」
少し含みのある言い方の弦十郎はそう言って慎次と共に出て行った。
ボクもお偉いさんあたりだと思い、斯波田事務次官かな?と考えていたが、その予想は大きく外れた。
暫くぼーっと待つ中、再び扉が開いた。そして何かが複数落ちる音が病室に響いた。
そちらの方を向くと制服姿の奏、翼、クリス、響、そして未来の姿があった。
「ガンヴォルト!」
「ガンヴォルトさん!」
全員が叫び声に近い声をあげてベットの方に駆け出す。
狭い病室内の為、直ぐに駆け出しは終わるが、みんな勢い余ってボクのベットの方に倒れ込んでくる。
その勢いに押されて、今のボクは耐える事が出来ず、ベットへと無理矢理寝かされてしまった。
「心配したんだぞ!帰ってくるなら早く帰ってこいよ!」
「全くだ!どれだけ…どれだけ私達が心配したと思っている!」
「この馬鹿!帰ってくるなりまた眠りこけやがって!すごく心配してたんだからな!」
「本当ですよ!帰って来たら気を失うのを耐えて少しは私達が到着するのを待ってください!」
「本当に!本当に心配したんですよ!」
全員が涙を浮かべながらそう言った。ボクはとにかく何とかして身体を起こし、心配をかけてごめんと謝ることしか出来なかった。
それもそうだ。一番の心配をかけたのはみんななのだから。必ず帰ると公言したのに、結局そのまま延長戦で消えてしまい、待たせてしまったのだから。
ボクはそんな全員を何とか落ち着かせる為に、話をするが全く聞く耳を持たない。
だけど。
こうして心配してくれて、ここまで思われて、ボクの心の中に暖かいものを感じる。
居ていい場所。
無くなったと思い、一人になったと思い込み、ボクには存在しないと思っていた居場所。
だけど、それを認めてくれた皆。
だからボクは立ち上がれた。そして帰っていいといい場所を作ってくれたみんなにとても感謝している。
だから、この苦しくも暖かい思いにボクは甘んじて受け入れる。
そして、
「ハァ…ハァ…」
再び病室の扉の前に誰かの息遣いが聞こえ、その方向を見る。
そこに居たのは、みんなのお陰で助かり、そして不本意な方法でシアンと融合したセレナの姿だった。
「…」
そして他の人達同様に、セレナがボクの寝転ぶベットへと駆け出して抱き付く。
だが、その抱き着きには二度の衝撃。
それは何も言わなくても、何も見なくても分かっている。
「遅れてごめん…帰って来たよ…ただいま…シアン…セレナ」
ボクはその二人の頭を撫でてそう言った。
「心配したんだから!でも信じてた…絶対…絶対…GVは帰ってくるって…」
「私も…信じてました。そして改めて…私を…みんなを救ってくれてありがとうございます…もう一度…マリア姉さんやマム…月詠さんや暁さんに合わせてくれて…本当にありがとうございます…」
涙ぐむ二人にボクは優しく頭を撫で、二人が泣き止むまでボクはただ、今この場に起きている平和を噛み締めるのであった。