次の日の明朝、響は未来に心配を掛けてしまったが、何とか誤魔化す事に出来たがそれでも不安にさせてしまった事は申し訳ないと思っている。しかし、ガンヴォルトがいない今、輸送中にガンヴォルトがいない今響がいなくなった場合、ノイズの襲撃に遭った時の対策が何も出来なくなってしまう。
「一課に対応してもらって輸送ルートを通行止めしてもらった。サクリストD、デュランダルの輸送をこれより開始する!」
「ルートは既に皆の頭には入っていると思うけど今回の護送車のナビに全て入れておいたわ。ルートはもしもの時は逐一変化していくから先導車両は間違えないように。この任務のミスは全員の命がかかっているから心して全うしてね」
了子は先導車両に乗るエージェント達に説明を終えるとエージェント達は車に乗り始める。
「私達も乗りましょう、響ちゃん。今回の作戦の要は貴方なんだからもしもの際は頼りにしてるわよ」
響に向けてウィンクする。響も頑張ります!と表明して了子と同じ車に乗り込んだ。そして後ろの席に置かれたデュランダルの方へと目を向ける。
テロリスト、そして少女が狙っていると思われるデュランダル。これを無事に輸送出来れば何かが変わるかもしれない。
車は先導車両を先頭に了子達の乗る車を守るような陣形を組んで出発し始める。
何も起きないのが一番なのだが、そんな都合の良い事はなく、出発し始めて高速をしばらく走行し、川の上を通ろうとした時、事態が動き始めた。
急に橋の一部が倒壊して崩れ落ち、了子と並走していた車が一台そのまま崩落していた場所から落ちる。
「襲撃!?やっぱり知られていたのね!」
了子は運転しながら叫ぶ。
『了子君!無事か!?』
ラジオから弦十郎の声が響く。
「こっちはね!それより弦十郎君、襲撃犯はノイズ!?それともテロリスト!?」
『倒壊の様子と反応からしてノイズだ!現在位置を二課のオペレーター達が探っている!反応が沢山あるが姿が見えない!』
「新種の見えないノイズとかなんでしょうか!?」
『パターンからして我々の今まで確認したノイズだ!とにかく、了子君や響君、エージェントの全員速度を上げて突き放せ!』
弦十郎の号令と共に速度を上げて走行していく。橋を渡りきり高速を降り、街の中に入り走行していくと今度は響達の通った後のマンホールから大量の水が噴き出す。それに巻き込まれた後ろをカバーしていた車が水圧によって吹き飛ばされる。
『下水道だ!ノイズ共は下水道から攻撃を仕掛けている!』
「流石にそこまで手が回らなかったのね!」
了子はそう言って先導車両に誘導されながら記憶の遺跡へと向かう。その中でまた一台、下水道から吹き出る水により飛ばされ了子の運転する車に向けて落下するが了子がハンドルを切って何とか回避する。
「私の車の修理費は二課が持ってくれるかしら?」
「今車の心配よりも飛ばされた人達の安否とかの方が優先じゃないですか!?」
三半規管を揺らされるドライブ。車に酔い、気持ち悪い状態で響は人の心配をするよりも車を心配する了子にツッコミを入れる。
「エージェントの人達は一瞬で車から脱出してたから大丈夫よ。ガンヴォルトの訓練の賜物ね。多分負傷していても動けない事はないでしょうから弦十郎君が待機させてた一課がエージェントを回収しているはずよ。それよりも、護衛が的確に減らされてるけどこのままだと私達が狙い撃ちされるわよ。どうする、弦十郎君?」
落ち着いた口調で無線で繋がった弦十郎へと了子が問う。
『護衛が減らされるのはノイズが制御されていると思われる!ルートの変更だ!そこから近くの薬品工場地帯に向かってくれ!』
「ちょっと弦十郎君!?そっちだと、もし引火なんかしたら私達も危ないんですけど!勝算はあるの!?」
『敵の狙いは響君、それにデュランダルだ!敢えて危ない道を行く事で敵からの攻撃を躊躇わせる!思いつきを数字で語れるかよ!』
「ちょっと、その台詞今聞きたくなかったんだけど!」
弦十郎の言葉に了子はそう返すが、指示通り薬品工場へと向かう。そして最後の護衛車であった車も突如現れたノイズにより破壊される。もちろんエージェント達は直ぐに飛び出して何とか回避して足早にノイズ達から逃れていた。しかし、薬品工場地帯へと入る事により弦十郎の予想通り、ノイズからの攻撃は躊躇うように止んだ。
「弦十郎さんの予想通り!」
ノイズを避けてさらに加速していく車。しかし、ノイズ達が至る所から現れルートを塞いで行く。そして一体のノイズがなんの躊躇いもなくこちらに向けて弾丸のように攻撃してきた。
まさかの攻撃に了子は反応が遅れギリギリ避ける事は出来たものの、その先にあったパイプによって車が跳ね上がり横転してしまった。
シートベルトのお陰でそこまで大きな怪我は負う事をなかったのだが、車がこれで使い物にならなくなってしまった。素早く車から這い出て、デュランダルを持ち逃走を図るが、既にノイズにより完全に包囲されている。
『了子君達、無事か!?さっきの破壊された車の爆発の煙でこちらからそちらの様子が見えない!』
ラジオから弦十郎の声が入る。響は直ぐに返答しようとしたが、その車にノイズが攻撃して無線を破壊されてこちらからの応答が出来なくなる。
そして、無防備になった二人に向けてノイズは攻撃を開始する。響は歌ってシンフォギアを纏おうとするが、既にノイズは目と鼻の先にいた。
響は避けようとデュランダルを投げ、回避する。何とか避ける事には成功したが、その後ろにいた了子がノイズ達の餌食になろうとしていた。
「了子さん!」
響は了子に向けて叫ぶ。しかし、了子は避ける事もせず、迫りくるノイズに向けて手を翳す。すると、何か紫色のバリアのようなものが出現すると、それが盾となり、ノイズ達を消滅させていた。まるで、ガンヴォルトの雷撃鱗のように。
「了子さん…それは一体…」
「今はそんな事はどうでも良いのよ。それよりも響ちゃんこうなってしまった以上、貴方の力が頼りよ。やりたいようにやっちゃいなさい」
そう言われて、今の状況を再認識する。今、この場にいる響以外戦闘出来る者はいない。なら、やる事は決まっている。
「はい!私の歌で、この状況をなんとかします!」
そう言うと響は聖詠を歌う。
「Balwisyall Nescell gungnir tron」
歌う事により響の胸に宿る聖遺物、ガングニールの破片が呼応してシンフォギアが形成される。
響は弦十郎の特訓、そしてガンヴォルトとの模擬戦を何度も行った事による戦闘経験がいかにノイズを効率よく倒すか、頭ではなく身体で感じ、本能のままにノイズを倒していく。
「ここまで成長してるなんて…」
了子はそう呟いた。そしてしばらくすると辺りに大量にいたノイズは響に猛攻によりあっという間に数が減っていった。
しかし、不意に現れたネフシュタンの鎧を纏う少女が響を腹を蹴飛ばし、猛攻を抑えられる。そしてネフシュタンの少女の持つ杖により再びノイズが大量に溢れ返る。
「少しは出来るようになったからって調子に乗るなよ!」
「うっ…」
飛ばされた響は蹴られた腹を押さえながら少女と対峙する。
「調子になんか乗ってない!私は私に出来る事をしてるだけなの!」
響は少女に向けて叫ぶ。しかし、少女は返答する事なく、響に向けて一気に距離を詰めるとインファイトを仕掛ける。一つ一つが鋭い一撃。だが、それもガンヴォルトや弦十郎と比べれば荒削りであり、今の響にとってはそれを捌く事は容易い。
「ちょこまかと!」
痺れを切らした少女は鎖のような物を使い、少し距離を取って戦う事に切り替える。
「させない!」
響は少女が距離を取ろうとするのに合わせて距離を詰め、逆にインファイトを仕掛ける。
「ッ!?」
対応が以前にも増して早い響に少女は驚きつつも、響の攻撃を何とか捌いていく。
少女と響の戦いはさらに激化していく。
◇◇◇◇◇◇
そんな中、了子はノイズに狙われる事なく、その様子を見続けていた。
「こんな短期間でここまで成長するなんて…これが聖遺物と融合を果たした者なの…それとも響ちゃんの元々のポテンシャル?」
響の成長を驚きつつも、その戦いを見届ける了子。その時、響が投げ飛ばしたデュランダルの入ったケースのロックが解除される。
「何!?」
デュランダルは何か意思を持ったようにケースから飛び出すと、そのまま天に切っ先を向けて浮遊する。
「もしかして覚醒!?そんな、まさか!?」
了子は少女と戦う響の方に目を向ける。今この場にいる装者で歌を歌うのは響ただ一人。たった一人のフォニックゲインにより目覚めたデュランダル。それを見た了子は響を見ながら嬉しそうに笑みを浮かべる。
「まさか、こんな形で覚醒するなんてね…」
しかし、その笑みの真意を気付く者はこの場にはいなかった。
◇◇◇◇◇◇
少女と響は最初に比べると戦いは激しくなりつつある。だが、傍から見れば響優勢の少女の劣勢。少女は響の成長を見誤り、近接戦闘で早急な決着をつけようとしたが、響の急激な成長により攻めあぐねている。距離を取り、態勢を立て直そうとしようなら離さないとばかりに響が距離を詰めて、結局インファイトの応酬。
「いい加減鬱陶しいだよ!」
隙を見て、杖を握る少女はノイズへと命令を下し、響に向けて攻撃を開始し始めた。響は少女の周りから襲い来るノイズを避けるべく、距離を取る。しかし、その瞬間に少女の鎖のような物が響の脚を拘束して、そのまま鎖のような物を操り、響を少し離れたタンクのようなものに叩きつけた。
「ふん!」
少女は響を叩きつけた事で一旦息を整え、起き上がってこない事を確認する。念の為にノイズへと命令を下し、追い討ちを掛けておく。そして、目的であるデュランダルの方を見るとそこには浮遊するデュランダルが見えた。
「あれがデュランダルか。あれさえあれば」
一度、デュランダルを見る了子をチラッと見たが、特に何をする訳でもなくデュランダルに向けて駆け出し、デュランダルを奪おうとした。
しかし、
「それだけは渡すものかぁ!」
デュランダルを取る目前でその叫び声と共に背中に衝撃が走る。吹き飛ばされる中、背後を確認するとそこには響の姿が。先程いた場所にはノイズだったと思われる炭の塊が幾つも残っていた。
「あの数を一気に!?」
そして少女はデュランダルを奪う事に失敗し、デュランダルは響の手に渡った。
響は何とか少女がデュランダルを奪い取る前に奪還する事が出来たが、デュランダルを握った瞬間から胸の奥から抗い難い衝動に支配される。何と呼べばいいか分からないこの衝動。何とか抑えようとするもどうにも抑えが効かない。
そして、その衝動に呼応してか、デュランダルが仄暗い灰色から金色の光を放ち姿を変えた。その姿は神々しくもあり、恐れすら感じる。しかし、そんな感覚さえもどうでもよくなる衝動。響は何とか耐えようと試みる。しかし、その神々しくも恐れすら感じる光を見た少女が響に向けて叫びながら杖を構えている。
「なんなんだよそれ…そんな力を私に見せびらかすな!」
ノイズが大量に召喚され、全てが響に同時に襲い掛かる。響はとにかく何とかしないとと思い、衝動に任せてノイズに向けて握ったデュランダルを振り下ろした。
振り下ろしたデュランダルから放たれる光の奔流。それは周囲を気にせず全てを破壊していく。ノイズも建物も。その光景を見た響は急激な眠気に襲われ、その場に倒れた。
◇◇◇◇◇◇
デュランダル覚醒同時刻-
何処かの研究室。液体の中に満たされたポッドに入る一つの剣。それは天叢雲と了子が呼んでいた物であった。
二年前に少し反応を見せて以来何もなかったその剣が再び光を放ち、瞬く。今度はあの時の輝きとは異なり、もっと大きく、そして目覚めたかのように。
「…ようやくだ…今度こそ僕は…」
光と共に剣から発せられる声。しかし、その声に気付く者はいない。
◇◇◇◇◇◇
ボクは留置されて初めての朝を迎えた。特に留置所ではやる事はないが、とにかく今は弦十郎達が何とかしてくれるのを待つ。
そんな時、全身の細胞が熱を帯びたように熱くなる。そして、ボクの第七波動の力が漲るような感じに襲われた。しかし、それも一瞬の出来事であり、既にその感覚は無くなっていた。
「一体何が…」
「どうしたんだ?独り言か?」
ちょうどボクの様子を確認しに来た弦十郎の同僚がボクが入る勾留所に顔を出す。
「…なんでもない」
「そうか。ならこれからまた取り調べの時間だ」
ボクはそれを聞き狭い留置所の床から立ち上がる。未だボクの無罪は決まらない。なるべく早くここから出ないと何かあった時に困る。
弦十郎達に一刻も早くボクの無罪を証明。そして本当の広木防衛大臣を殺害した犯人達が判明する事を祈った。
◇◇◇◇◇◇
輸送での任務、デュランダルの覚醒による被害は死傷者は出る事はなかったが、ノイズの襲撃により、二課の本部の最深部となるアビスに再び保管される事となった。
デュランダルの覚醒により広範囲に溢れ出たフォニックゲイン。その覚醒が誘うは終焉か、希望なのか。今は誰も知る事はない。
デュランダル輸送任務とりあえず終了