響は翼と病室へと戻り帰る事を伝えて帰路に着いていた。
翼の可愛い一面などが見れた事やガンヴォルトが復帰出来る事が聞けて良かったと思う。そして、ガンヴォルト自身が翼が退院した後過去についても語ってくれると言ってくれたのでもやもやしていた感情が一つ解消される。
だが、ガンヴォルトのその行いを聞いて響はガンヴォルトの事をどう思ってしまうのかを考えてしまう。
弦十郎や了子、もちろん響も翼もガンヴォルトの事は信用も信頼も出来る。
だが、その過程で人を殺してでもやらなければいけなかったのか?話し合いで解決出来なかったのか?響の中でその事が引っかかっている。だが、いくら考えた所で響はガンヴォルトではない為、答えなど分からない。
本人が話してくれるというのだから、その時にはっきりすればいい。考え事をしていると響の持つ携帯に弦十郎から連絡が入る。
『響君!付近にネフシュタンの鎧の出現パターンを検知した!直ぐに現場に向かってくれ!ガンヴォルトにも応援を要請する!狙いは響君だろう。だが、ガンヴォルトは装備の問題もあって直ぐには動けない。そうなると周囲に被害が出てしまう可能性がある。ガンヴォルトが来るまでなんとか持ち堪えてくれ!』
「分かりました!ガンヴォルトさんが来るまでなんとかしてみせます!」
響は携帯に越しに返事を返し、携帯の通話を切る。それと同時に響の持つ携帯にネフシュタンの鎧の少女の座標が転送されてくる。
どうやら少女は既にこちらを補足しているのかこの場に一直線に向かって来ている。街中で戦うのは危険だと判断した為、人気の無い場所に移動する。
「とにかく、人に被害の出ない場所に急がないと」
響は急ぎ、人気の無い場所に駆ける。しかしその時、
「響!」
響は聞き慣れた親友の声を聞き、足を止めた。
「未来!」
振り返るとそこには未来の姿がある。だが、響から見た未来は何処となく怒っている事が分かる。用事をして未来と別れてしまった事だろうか?それともまた別に何かやってしまったんだろうか。
「響!なんであの人を知っていたのに黙ってたの!翼さんといつの間にか知り合いになってお見舞いしてたのは構わない!でも、なんであの人を知っていたのにどうして隠していたの!」
「ッ!?」
なぜ未来がその事を知っているのか。ガンヴォルトに関しては今朝まで留置所にいたはず。それなのになんでガンヴォルトの事を、翼の事を知っているのか響には分からなかった。
「答えてよ響!なんであの人は翼さんの病室に居て響とも親しいの!?隠し事はしないって約束したのに!」
響はどうするか悩む。本当の事を話すべきなのか。でも、そうする事により未来を危険な目に遭わせる事は響には出来ない。だけど今はこんな所で考えている時間は無い。
既にネフシュタンの少女がこの場に迫っている。とにかく未来の避難を優先しなければ。
「見つけたぞ!」
上空から響く少女の声。そちらに顔を向けると既に少女は鎖のような物を振るい攻撃を仕掛けていた。
その鎖は響と未来の間の地面を抉り砂塵を巻き上げる。
巻き上がる砂塵と砕けたコンクリートの破片。飛び散る破片が目に入らないように腕で顔を覆う。瞬間に腕を襲う幾つもの衝撃。幸い、少女の一撃は威力を押さえていた為か大きな破片が飛んでくる事はなかった。衝撃が収まり、腕を顔から外すと目の前には傷付いて倒れ込んだ親友の姿があった。
「あぁ…」
少女が驚きの声を上げる。響のように戦いを覚え、備える事が出来る人とは違い、目の前にいる親友はその破片を直に受けてしまい、怪我を負ってしまった。
もっと早く説明していれば、もっと早く逃げるように話せば未来が傷付く事もなかったのに。
響の心が前に約束を守れなかった時よりも黒くよりドス黒く浸食されていく。約束を守れなかった時は親友を悲しませ、そして今本当の事を言えず、迷ったせいで大切な親友を、陽だまりを…。
「こいつ以外に人が!?くそっ!?」
少女が何か言っている。しかし、何を言っているか分からない。お前が親友を…、陽だまりを傷付けたのだろう。
お前がいなければ…オマエガイナケレバ…。
「Balwisyall Nescell gungnir tron」
響は胸に宿るガングニールから溢れ出た言葉を呪いのように、重く、そして今のドス黒い感情を込めて歌う。
その歌と共にガングニールの鎧が形成される。だが響の纏うガングニールは黒く浸食されていき、響自身をも黒く染め上げた。
「オマエガァァ!」
響はその衝動に身を任せてネフシュタンの鎧の少女に向けて飛びかかる。弦十郎が教えた歩法や武術とはかけ離れた獣の如き跳躍。一瞬で少女の前まで到達すると殴り飛ばして地面へと激突させる。
「ぐっ!」
少女はなんとか響の一撃をガードする事に成功したが、今まで戦ってきた中で最も重く、そして身体への衝撃が比にならなかった。
響は追撃とばかりに少女に向けて落下して行き、そのまま少女の身体を踏みつけた。
「がはっ!」
少女は鎖の様なものでガードしたが、それを突き抜けてくる勢いと威力に押されて鎧が砕ける程のダメージを受けてしまう。
鎧が砕け、少女の肌が露出する。しかし、露出した肌を侵食するかの様に鎧は新たな鎧を形成して行く。
その際に少女は顔を歪めるが、響はそんな事関係ないとばかりに、馬乗りとなって少女へと拳を振るう。
しかし、少女も黙って受ける訳もなく、鎖の様なものを匠に操り、響の首へ巻きつけるとそのまま響を投げ飛ばして、立ち上がると響から距離を取る。
「その姿は…本当にお前は一体なんなんだよ!」
「ガァァ!」
少女の問いに響は答えず、闇雲に少女に向けて突貫する。少女は鎖へとエネルギーを集約させると光の球の様な物を出現させ、響へと投げ飛ばす。
「おらぁ!」
光の球を響は腕を振るい、吹き飛ばす。光の球は近くの木にぶつかると爆発を起こす。響は爆風にも目もくれず少女へと足を進める。
だが、少女の攻撃もそこで終わっている訳ではなく、もう一方の鎖にも集約させて作っていた光の球を今度は頭上から響に叩き落とす。
響はその攻撃により足を止める。しかし、響は腕にオレンジ色の小さな球を作り始めるとそれを握り、そのまま光の球を殴りつけた。
◇◇◇◇◇◇
爆発が起き、辺りに砂塵が舞い上がり、周囲の木々が爆風に耐え切れず折れて飛散する。
少女、クリスはその爆風を受け止める為に腕を交差させて守りを固める。そしてようやく爆風と砂塵が収まり、視界が開ける。
爆心地であった場所を見てクリスは目を見開く。
「嘘だろ…」
その爆心地にいた響は未だ無傷と言って過言でない状態で、立っており。そして再びオレンジ色の光の球を二つ出現させるとそれを握り、こちらに向けて駆け出した。
「ぐっ!」
クリスは飛んで避けようとするが先程砕けてしまったネフシュタンの鎧の侵食の痛みにより行動が遅れる。
そして響は目の前に既に拳を構えており、クリスに向けて振り下ろそうとしていた。
「くそっ!」
悪態を吐く。
(こんな奴が…、こんな化け物みたいな奴がいるせいで…)
クリスは悔しくて、そして何も出来ない不甲斐なさに涙を流し、目を瞑る。瞬間、目の前に何か風の様なものが通るとバチバチと火花が散る様な音と共に何かが衝突する音と共に男の声が聞こえる。
「響!何をやってるんだ!この子を殺すつもりなのか!」
その言葉を聞き目を開けると、そこには蒼いコートを翻し、響の一撃を雷の膜のようなもので響の攻撃を抑えている男の姿があった。