資料を見て過ごした次の日、ボクは弦十郎から呼び出しがかかり、慎次に連れられて了子の研究室に通される。
「よく来てくれたわね、ガンヴォルト 。こんな美女の部屋に招かれる幸運な事、一生に一度あるか分からないわよー」
「ボク以外にも既に弦十郎も慎次もいるじゃないか、それにここは研究室だろ?」
そうツッコむガンヴォルトに最近の子供は連れないわねー、としょんぼりしながら言う。
ここに集まっているのは、ボクと弦十郎、慎次、昨日の尾行少女であった。
「そういえばガンヴォルトに紹介してなかったな、この子は風鳴翼。苗字が同じだからなんとなく察しているかもしれないが俺の姪っ子だ」
少女は風鳴翼と言うらしい。しかし、苗字が同じだからって親族なのは分かるが姪っ子とまでは流石に分からないだろう。
「よろしく」
翼に挨拶すると、彼女は直ぐに弦十郎の後ろに隠れてしまう。
嫌われているのか?
「気にするな、ただの人見知りなだけだ」
弦十郎は翼の頭を撫でながら答える。昨日のあの行動からなんとなく察していたがそういう事だったのだろう。
しかし、姪っ子の翼が何故この場にいるのか、多分、今回の説明に関係あるのだろう。
「さてと、みんな集まったから始めさせてもらうわね。昨日取らせてもらったガンヴォルトの
部屋を暗くしてプロジェクターから映像が壁に投影される。映し出されたのは二つの波形。二つの波形は形が複雑で初めて見るボクには見当もつかない。だが、もう一つの波形を見てボクは固まった。了子は気付いていながらも話を続ける。
「まずはこの波形。昨日取らせてもらったガンヴォルトの
そう言ってボクに説明をしてくれたがボクはほとんど聞いてはいなかった。
「とりあえず、アウフヴァッヘン波の説明はこのぐらいにして、本題の
了子はボク以外の全員の顔を見ながら聞いた。なんとなく理解出来ている反応だったので彼女は話を続ける。
「でも、ガンヴォルトの波形は二つの波形を合成された物だと分かったわ」
そう言って、彼女はスクリーンに映し出された
「一つがこの雷の様な意匠の波形。これが本来の
「どういう事だ?」
弦十郎が分からないと声に出す。
「まず、
そう言って、彼女は一点を見つめ続けるボクに問い掛けた。
「さっきからずっと自分の波形…いえ、この蝶の波形を見ているけど、何か心当たりがあるのかしら?」
「…一緒に過ごした女の子の
かつて、共に過ごしたシアン、そしてボクがこの場所に来る前に彼の凶弾により倒れてしまった少女、
「そうなのね、彼女の力はどんなものなの?」
了子がそう聞いてきた。
「彼女の能力は…」
ボクは口を開き、
「彼女の能力は、
ボクは嘘を付いた。まだ二課の人間を完全に信用した訳でもない、ましてや今現在目の前にいる女性は全く信用出来ない。能力名のみ本当の事を話し、あとはデタラメな事を言う。
「そうなのね、ありがとう。でも、なんでその女の子の力をあなたが持っているのかってところだけど」
「彼女の
「そういう事ね」
彼女はそう言ってさらに説明を続ける。
「話を続けましょう。さっき、ガンヴォルトの言っていた
「という事は、ガンヴォルトの力は二つの
「学者としてそんな簡単にされるのは癪だけど概ねそんな感じよ」
「シンフォギア装者…って?」
ボクは聞き覚えのない単語に反応する。
「よく聞いてくれました!シンフォギア装者と言うのは…」
彼女は得意げに説明してくれるが、弦十郎、慎次は呆れた様に聞いていなかった。
話が長く、要約するとシンフォギア装者と言うのはノイズに対抗する聖遺物と言う物を特殊な鎧に変換させて戦う者の事を指すらしい。と言っても、このシンフォギアという物は誰でも扱えるって訳ではないらしく、適合した者の歌でないと使えない。
「それでね…」
まだ話も終わりそうもなく、全員そろそろ限界な様で、ボク達は辟易し、翼に関しては眠そうに瞼を擦っていた。
「了子君、もうガンヴォルトもシンフォギアの概要は分かったんだし、いいんじゃないか?」
ボクはその言葉に賛同して頷く。
「ちょっとー、これから面白くなってくるのにー」
これ以上は学者の方々にして欲しいものだ。
「まあいいわ。これだけは覚えておいてね。今二課の所有している物もあってそれが彼女、風鳴翼ちゃんが持っている天羽々斬。そしてそれこそが唯一ノイズに対抗できる希望よ。まあ、あなたが加わった今は唯一じゃなくなったけどね」
シンフォギア装者、だから彼女はあの現場にいたのだと合点が行く。
「私の方の話は以上。あとは弦十郎君の方から」
「ああ、ようやくか」
そう言って弦十郎は大きなジュラルミン製のケースを二つ取り出した。
「ガンヴォルトから要請されていた物の試作品ができたから持ってきたぞ」
一つを開くとボクが受注していたダートリーダーの模造品と弾倉が数個、そして髪留め型のプラグが入っていた。
ダートリーダーとはボクが愛用していた銃の名称で、
そして
もう一つ、髪留め型のプラグはテールプラグと言う物で、ボクの後ろで束ねた三つ編みの先端を銃の後部コネクタに接続する事によって、強力な
もう一つのジュラルミン製のケースの中には頼んでいた戦闘服が入っていた。ボクが注文した通りの服装である。フェザーに所属していた頃の戦闘服をそのまま再現してもらった。違うといえば、アンダーウェアが特殊な物らしく、人工筋肉繊維というものを使用していてかなりボクの身体的補助をしてくれるらしい。それとへそ出しじゃなくなっている。
「ガンヴォルトの注文通り作らせてもらった。流石に試作品だから、あとで性能テストをしてもらう。後、これだ」
そう言ってなんだか分からないが機械を渡される。大きさはスマートフォンくらいか。
「お前用の通信端末だ。今まで俺か慎次が食べ物を買っていたからな。不便だから作っておいた。使い過ぎには気を付けろよ」
「気を付けるよ。ありがとう」
「早速だが技術班より性能テストの件があるから直ぐに向かってくれ」
ボクは頷くとジュラルミン製のケースを貰い、テスト場所を弦十郎に確認して部屋を後にした。
◇◇◇◇◇◇
結果から言うと、装備自体の性能は問題なかったが、ダートリーダーの後部コネクタとテールプラグのセッティングだけはまだ調整に時間がかかるようだ。
欲を言えば、
あとは
そんな事を自室に戻る道中に考えていた。ちょうど自販機があったので、支給された端末を自販機に当て、ミネラルウォーターを買う。
一口含み口の中を潤して、飲み込んだ。
先程の了子の説明を思い出す。ボクの
シアンの捜索も未だ手掛かりがない状況である。もしかしたらボクだけこちらに来てしまったのだろうか。そうなるとシアンは…。
「いや、考えを悪い方向に持っていくのはダメだ。とにかく、捜索は二課に任せて、僕は出来る事をしないと…」
手に持っていた水を一気に飲み干して、空となったペットボトルをゴミ箱に捨て、部屋へと向かった。